経済産業省が2024年9月に公開したデータによると、BtoCにおける食品・飲料酒類業界の市場規模は2兆9,299億円で、この分野のEC化率はたった4.29%となります。
日本の全産業(物販)のEC化率である9.38%と比べると食品業界はEC化が進んでいない業界と言えます。とはいえ、食品業界のEC化が進んでいないのは実は日本だけでなく、アメリカ・欧州・中国などの経済大国でもあまり進んでおりません。
食品業界のEC化が進まない理由は3つあると筆者は考えますが、その中でも大きな課題は、食品の鮮度を保ったまま、全国のエリアに配送するためには、食品に特化した大きな物流拠点が必要なことがあげられます。
この点は、Amazonや楽天などのインターネット大手企業が食品ECに進出し、独自の物流拠点を構築するといった戦略を打ち出しており、食品ECのサービスの裾野は広がりつつあります。
本日はインターファクトリーで、マーケティングを担当している筆者が、食品ECについて詳しく解説いたします。
日本の食品EC市場規模とEC化率の推移(2014~2023年)
それでは、食品ECの市場規模とEC化率の推移を見てみましょう。下記のグラフと表をご覧ください。
EC市場規模 | EC化率 | |
2014年 | 1兆1,915億円 | 1.89% |
2015年 | 1兆3,162億円 | 2.03% |
2016年 | 1兆4,503億円 | 2.25% |
2017年 | 1兆5,579億円 | 2.41% |
2018年 | 1兆6,919億円 | 2.64% |
2019年 | 1兆8,233億円 | 2.89% |
2020年 | 2兆2,086億円 | 3.31% |
2021年 | 2兆5,199億円 | 3.77% |
2022年 | 2兆7,505億円 | 4.16% |
2023年 | 2兆9,299億円 | 4.29% |
当記事においてデータや図は指定がない場合、経済産業省の最新の調査結果より引用:「令和5年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(経済産業省)
食品産業の市場規模は91兆円(2021年実績)と推定されている巨大産業ですが、日本国内のEC化が進んでおらず、EC化率は2023年においてもたった4.29%しかありません。EC化が進んでいない理由は3つあります。
◆食品業界でEC化が進まない理由
理由① 手に取って鮮度が良いものを選びたい需要があり、ECサイトと相性が悪い
理由② スーパーやコンビニの利便性に、食品ECサイトが勝てない
理由③ ネット事業者の配送料負担
それでは、それぞれについて詳しく解説いたします。
理由① 手に取って鮮度が良いものを選びたい需要があり、ECサイトと相性が悪い
例えば、家電ECサイトであれば「型番が同じであれば、どこで買ってもクオリティーが変わらない」という傾向があるため、家電業界とECサイトは相性の良いジャンルと言えます。その証拠に家電ECのEC化率は42.88%(2023年)とかなり高い数字です。
それに比べると、野菜や魚・肉といった生鮮食品は、手に取って鮮度や産地を確かめる方が多く、ECサイトでは鮮度を確認しづらいため、ECサイトよりもスーパーなどのリアル店舗で買い物をするユーザーが多いのです。
それを裏付ける調査結果があります。下記は、消費者が食品ECに期待することをまとめたアンケート結果です。とても良いアンケート結果なので、本記事とあわせてご一読ください。
赤い枠を見ると、約3割の方が「生産者や商品の情報をもっと提供して欲しい」と答えており、消費者は食品に鮮度や産地の情報を強く求めていることがわかります。
また生鮮食品は、鮮度を保つため、できるだけ早くユーザーのもとに配達する必要があります。鮮度の良い状態で、より大きなエリアにおいて配送を行うためには、食品に特化した独自の物流拠点を持つことが必要です。こういった物流拠点の構築は大手企業しか着手することができないのも、EC化を妨げる大きな原因の一つです。
一方で、嗜好品である地方の名産食品に関しては
「すでに食べたことがあっておいしい!」
「良い素材だから、食べたい!」
「口コミで評判だから!」
といった理由で、ECサイトで購入するユーザーも多いですが、あくまで嗜好品であり、生産地域も販売期間も限定的な部分が多いため、食品業界のEC化率に大きな影響を及ぼしておりません。
こういったことから、食品EC化率をあげるには、生鮮食品のECサイトの利用率を高める仕組みや物流拠点の構築が必要なのです。
理由② スーパーやコンビニの利便性に、食品ECサイトが勝てない
そもそも、ユーザーはECサイトの利便性が高いから活用するものです。例えば、Amazonユーザーが多く、圧倒的シェアを獲得しているのは、住所もクレジットカードも登録されており、「ポチッ」とボタンを押すだけで、買い物ができて利便性が良いからです。
しかし、食品に関してはと言うと、ほとんどのユーザーは家から歩いて数分の場所や通勤路の途中にスーパーやコンビニがあるため、リアル店舗の利便性が高く、すぐに生鮮食品を手に入れることができます。
もちろんECサイトでもカンタンに食品を買うことはできますが、配送に時間がかかることや、鮮度を確かめられない点を考えると、すぐ購入することのできるリアル店舗の利便性にはかないません。
その日の献立の食材はその日に買うという家庭も多いと思いますが、特にそういった層にとっては、どうしても配送時間がかかるECサイトは論外となってしまいます。
理由③ ネット事業者の配送料負担
Amazon Primeや楽天市場の「Rakuten最強配送」などは、条件を満たせば配送料が無料になりますが、実際にはネット事業者が配送料を負担しており、無料ではありません。しかも、過去2017年に佐川急便、ヤマト運輸、2018年には日本郵便各社が値上げに踏み切った際は、EC事業者への影響は大きく、今まで配送料無料としていたサービスも、次々に廃止になりました。
参考記事:EC業界に訪れた送料値上げの“春闘”の現状――「もう持って行かないぞ」との圧力も(ネットショップ担当者フォーラム)
こういった背景からも、ユーザーはまとまった量の食材を買わないかぎりは、スーパーやコンビニなどで買った方が配送料がかからないため、リアル店舗に価格競争力でも劣ってしまい、食品ECを使うユーザーが増えづらい状況なのです。
しかし、そのような状況もコロナ禍を契機に、変化が見られました。2020年に流行した「新型コロナウイルス」により、実店舗からネット販売への需要が全産業で高まり、ECと相性が悪い食品分野であっても、感染リスクがないネット注文の需要が高まりました。このような背景から、各社とも生鮮食品のECにも力を入れ始めております。
それでは、各社の取り組みを紹介いたします。
ネットスーパー事業の各社の取り組み
それでは、食品ECの状況を踏まえた上でネットスーパーとしての各社の取り組みを解説いたします。
① Amazonフレッシュ
2017年4月にAmazonは「Amazon フレッシュ」という、生鮮食品や牛乳、卵、豆腐から日用品まで、毎日の食事に欠かせない食品を中心に17万点以上の商品を取り扱う配送サービスをスタートしました。
その物流の中心となるのが、サービスの物流拠点である「Amazon川崎フルフィルメントセンター」と「Amazonフレッシュ葛西フルフィルメントセンター」です。これらの拠点の特徴は、6つの温度帯で食品を管理しており、食品によって最適な温度で管理できるのが特徴です。このサービスを普及させるためには、食品に最適な物流拠点が全国に必要になるため、普及には時間がかかります。
Amazonフレッシュでは「鮮度や賞味期限保証サービス」を設けており、ユーザーの不安を解消するよう努力しておます。その結果、Amazonフレッシュの会員数は、下記記事によると、サービス開始後9か月間で2倍以上に増えるなど、ユーザーの信頼を獲得しました。
また、この記事にある通り、人気ランキングの1位と2位が「牛乳」と「水2L」であることを考えると、リアル店舗から自分で家に持って帰るには「重量が重い」商品がECサイトで好まれており、こういった点は食品ECならではの利便性と言えます。
Amazonフレッシュは、対象エリア内のすべてのAmazon会員が利用可能であり、最低注文金額は4,000円となっています。プライム会員の場合、通常配送料は490円で、1回の注文金額が10,000円以上であれば配送料が無料となります。プライム会員でない方は通常配送料が690円で、10,000円以上の注文時には配送料が200円に割引されます。
参考記事:Amazonフレッシュについて(Amazon)
このようにAmazonがサービスを拡充した背景には、コロナ禍による需要の拡大が考えられます。
② 楽天マート(旧楽天西友ネットスーパー)
楽天西友ネットスーパーは、これまで楽天と西友の共同運営でサービスを展開してきましたが、2023年12月に両社は合弁を解消することを決定しました。それに伴い、楽天は倉庫型ネットスーパー事業を単独で運営し、一方、西友は実店舗を拠点とした店舗出荷型ネットスーパー事業を独自に展開する方針を示しました。
これにより「楽天西友ネットスーパー」は、2024年9月より新しく「楽天マート」としてネットスーパーサービスを展開することになりました。
旧楽天西友ネットスーパーの顧客情報や購入履歴はそのまま引き継がれ、ウェブサイトやアプリのUI/UX、その他取扱品目や配送時間などのサービス内容に大きな変更はありません。しかし、楽天マートの配送エリアは関東・関西の7都府県にとどまり、かつては西友の店舗網を物流の拠点としたことで全国17都道府県に対応していた大きな強みが失われた印象です。
◆赤いエリアが楽天マートの対応エリア
画像引用:配送可能エリアについて(楽天マート)
楽天マートの倉庫では、「冷凍」「冷蔵」「常温」の3つの温度帯で食品の鮮度を徹底管理しています。さらに、高度に自動化された設備を導入することで、1日約7万件の注文に対する出荷能力を持つ対象エリアのスーパー実店舗と比較して、より少ない陳列と在庫管理の工数で、より多くの消費者にサービスを提供することを可能にしています。
また、「楽天エコシステム(楽天経済圏)」の強みを活かし、「楽天市場」や「楽天ふるさと納税」などのグループサービスと連携することで、お取り寄せグルメや地域の特産品といった楽天ならではの商品開発や品揃えの充実にも力を入れています。
楽天マートがサービス開始したのと同時に、西友は楽天全国スーパー内で「西友ネットスーパー」のサービスを開始しました。同じ楽天のプラットフォーム内のサービスですが、今後どのような違いが出てくるのかが注目されます。
③ オイシックス・ラ・大地
業績絶好調のオイシックス。2017年、2018年に「大地を守る会」と「らでぃっしゅぼーや」と統合したことで「オイシックス・ラ・大地株式会社」となりました。(以後、オイシックスと表記します)
オイシックスのビジネスモデルは、近所では手に入れにくい有機野菜や無農薬野菜をネットで買える宅配サービスとして購入できる点、また配達日時を選べ、野菜を自由に選べるなど利便性の高いサービスを展開し、最終的にはミールキットとよばれる野菜セットの定期購入を促し、リピーターを獲得することで大きな収益をあげています。
また、オイシックスの大きな特徴は、配送物にあります。下記、主婦の方のブログに詳しく書かれておりますが、配送の段ボールや説明書に、野菜をおいしく食べるための説明がびっしり書いており、ユーザーに役に立つ工夫がされております。
参考ブログ記事:オイシックスお試しセットの体験ブログ~お得で充実の内容でした!(食材宅配のトリセツ)
このような取り組みが、リピーターを獲得する施策につながっているのです。
そして、オイシックスはコロナ禍の折には、事態の長期化と巣ごもり需要に素早く対応し、会員数を大幅に伸ばし、売上高を4割増としました。
まとめ:食品ECこそが、日本のEC化率を高めるキッカケになる!
日本のインターネット大手各社が食品ECに力を入れ始めていますが、食品ECを日本全国に浸透させるにはまだまだ時間がかかります。
一番大きな壁は、生鮮食品を取り扱う物流拠点の構築ですが、旧楽天西友ネットスーパーにおいて、楽天は西友のような大手小売業と連携することで、既存の食品物流網を使い、一気に広げることができることを証明しました。
衣食住の中心である食品分野のEC化率を高めることは、全ての産業でEC化率を高めるキッカケになります。日本の全産業(物販)のEC化率は9.38%と低く、ECサイトの利用率が伸びないと、革新的なサービスやイノベーションが生まれにくくなり、あらゆる産業の国際競争力低下を招くことになるのです。
また、先進国では世界で最初に日本が少子高齢化社会に突入するため、多くの地域・産業で深刻な人手不足が発生します。そのため一刻も早くEC化率を高め、イノベーションにより多くの人の生活の利便性を維持・向上させなくてはなりません。それができれば、日本の後に続いて高齢化社会を迎える諸外国にも大きな手本となるでしょう。
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資料では食品企業向けECサイト(BtoB)の“勝ち筋”も紹介しています。ぜひご覧ください。