新しくECの担当者になった方の中には、
「ECモール」あるいは「ECショッピングモール」という言葉を初めて聞いたという方もいるのではないでしょうか?
ECモールとは「楽天市場」や「Amazon」のような、ECサイト上に多くの事業者が出品・出店しているインターネット上のショッピングモールのことです。一方でECモールとよく比較されるのは「自社ECサイト」です。自社ECサイトは、基本的に自社の商品のみを扱う点でECモールとは異なります。
ECモールのメリットは、自社ECサイトと比べて「集客力がある」点や「初心者でも始めやすい」という点です。それに対して、ECモールのデメリットは「独自デザインやマーケティング施策が困難」という点が挙げられます。
本日はインターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ECモールについて詳しく解説いたします。
国内ECモールの流通総額ベスト3
まずは、国内ECモールの流通総額ベスト3の「楽天市場」「Amazon」「Yahoo!ショッピング」を紹介します。流通総額とは、ECモールで販売した商品・サービスの合計額のことで、合計金額の大きさによりECモールの規模が把握できる指標となります。
◆国内ECモール流通総額ベスト3(2021年度決算)
※流通総額表記は、出典元の資料にあわせました。
ECモール | 流通総額 | 備考 |
楽天市場 | 5兆118億円 | 2021年度決算情報より |
Amazon ジャパン | 2兆5,378億1,000万円 | 2021年売上高(1USD=110円) |
Yahoo!ショッピング | 1.69兆円 | 2021年度決算情報より |
出典:楽天の国内EC流通総額は5兆円で伸び率は約10%増【2021年度の実績まとめ】、アマゾン日本事業の売上高は約2.5兆円、ドルベースで230億ドル【Amazonの2021年実績まとめ】、決算説明会 | IR情報 | Zホールディングス株式会社 より、筆者作成
上記表を見ると、楽天市場が圧倒的1位に見えますが、この数字には「楽天トラベル」や「ラクマ」などの他事業の数字も含まれており、純粋に楽天市場だけの数字ではありません。それを考慮すると、楽天市場とAmazonの差は数字ほど開いておらず、国内のECモール市場のトップ争いをしており、分析結果によってはAmazonの方が流通総額が上である記事や資料も多数あります。
そして、楽天市場とAmazonの後を、Yahoo!ショッピングが猛追しており、初期費用や月額システム利用料を無料にしたり、経営統合を進めたりするなどして、流通総額を伸ばしています。
それでは、各ECモールの特徴について解説します。
3大ECモールの特徴は?
それでは、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、それぞれの特徴を利用者数や流通総額を交えて解説します。
以下、月間利用者数(MAU)や利用者層データの出典:コロナ禍で最も利用されているECモールは楽天市場。アマゾン、楽天、ヤフーの利用者属性はどうなった?【ニールセン調査】(ニールセン デジタル株式会社)
①楽天市場の特徴
月間利用者数(MAU):5,370万人
流通総額:5兆118億円
楽天市場の最大の特徴は、楽天ポイントを貯めたり、使ったりすることができることです。楽天はインターネットを軸に置きながらも、経営の多角化を図っており、楽天市場以外にも、以下のようなサービスがあります。
・楽天トラベル(旅行予約サービス)
・楽天銀行(金融サービス)
・楽天証券(金融サービス)
・楽天カード(クレジットカード)
・楽天モバイル(携帯キャリアサービス)
・楽天ペイ(決済サービス)
他多数
これらのほとんどのサービスで「楽天ポイント」を貯めたり、使ったりすることができるため、ユーザーは、楽天市場以外でも楽天ポイントが使えるサービスを選ぶようになります。例えば、楽天市場においても「楽天カード」を使うことで、ポイントをより多く貯められるなど、ユーザーに大きなメリットがあります。
また、インターネット上だけでなく「くすりの福太郎」など、楽天と提携しているサービス店舗でも楽天ポイントが貯められるなど、あらゆるサービスや店舗で楽天ポイントを貯めたり、使ったりすることができるのです。これを「楽天経済圏」と呼びます。
そのため、楽天ユーザーの性年代別GRP(延べ視聴率)を見ると、ポイントを貯めることに敏感な35歳~49歳の女性が最も高くなっています。これからECモールに出店する事業者で、ターゲット層が主婦の場合は、楽天市場と非常に相性が良いはずです。
楽天市場は出店形式をとっており、事業者は楽天市場(ECモール)内に店舗を出す形をとっているため、Amazonのように商品だけを出品する形式ではありません。
そのため、ECモール内でもある程度は独自のデザインや文言で訴求することが可能なので、Amazonよりも自社の特徴やブランドを訴求しやすいというメリットもあります。
楽天市場は月間利用者数が5,370万人もおり、日本を代表するECモールですから、ECモールとしての集客力はかなりのものです。
②Amazonの特徴
月間利用者数(MAU):5,120万人
流通総額:2兆5,378億1,000万円
世界最大のECモールで、日本事業だけでも国内2位の規模があります。楽天市場は正確な流通総額を公開していませんが、Amazonの流通総額は楽天市場に匹敵すると筆者は推測します。
Amazonの特徴は、楽天市場と比較すると「出品」という形をとっており、Amazonで出品する事業者は、商品を訴求することはできますが、自社の特徴やブランドを訴求することはあまりできません。また、Amazonで買い物をするユーザーも「Amazonで買った」という意識が強いため、お店ではなく商品での訴求が基本となります。
そのためAmazonに出品する事業者は、楽天市場に比べると、自社の特徴やブランドの訴求があまりできない、ということを事前に把握しておく必要があります。
なお、Amazonへの出品する際は、楽天やYahoo!ショッピングのように厳しい審査もなく、比較的誰でもすぐに出品ができることがメリットですが、そのような仕組みもあってか、偽物・模造品の出品がかなり増えてきており、国内外で問題視されております。
また昨今では、不正レビューも目立ってきており、こういった問題はECサイトとしては致命傷にもなりかねないので、Amazonとしても早急に解決すべき問題でしょう。
参考:アマゾン、300万点以上の模倣品を差し押さえ。悪質業者対策を強化(Impress Watch)、アマゾン、偽レビュー業者ExtremeRebateを提訴(CNET Japnan)
Amazonの性年代別GRP(延べ視聴率)はどの年代も男性の方が高く、その中でも35歳~49歳の男性が最も高くなっておりますので、自社の商品との相性を考えて出品してみましょう。
Amazonの出店で気を付ける点は、「カートを取る」という意識を強く持つ点です。実はAmazonでは1商品1カートとなっており、Amazonで同じ商品を複数の会社が出店することは可能ですが、同じ商品が複数の出店者がいる場合は、Amazonから見て一番売れそうな出店者のページのみが表示される仕様です。
残りの出店者は、端っこにわずかな掲載面にしか表示されていないので、他の出店者もいるような商品の場合は、カートを取らないと売れ行きが伸びにくくなります。カートを取るための戦略としては、大口出品プランを選択したり、AmazonFBAに加入するなど専門のノウハウがあるので、それを調べる必要があります。詳しくは、下記の株式会社いつも.の記事に詳しく書かれております。
③Yahoo!ショッピングの特徴
月間利用者数(MAU):2,557万人
流通総額:1.69兆円
Yahoo!ショッピングは楽天市場やAmazonと比べると、流通総額に差がありますが、事業者にとっては初期費用や月額システム利用料などが無料(※1)であるという大きなメリットがあります。また、日本最大級のポータルサイトであるYahoo! JAPANからの流入もあるため、出店する事業者のお店への集客力は非常に高くなります。
月額費用をかけずにYahoo!ユーザーに露出することができれば、利益を大きく得られる可能性があります。しかし、完全に手数料が無料というわけではなく、キャンペーンやアフィリエイトにかかる費用などがありますので、下記のYahoo!ショッピングの公式ページを事前にチェックしておきましょう。
Yahoo!ショッピングの運営会社であるZホールディングスは「ZOZOTOWN」を運営するZOZOを連結子会社化したほか、「LINE」との経営統合を行うなど、EC業界での存在感を高めております。
筆者の経験ですと、Yahoo!ショッピングにだけ出店しているという事業者は少なく、どちらかといえば、月額費用がかからないため、楽天市場やAmazonとともに、Yahoo!ショッピングにも併せて出店するという事業者が多い印象を受けます。
そのため、Yahoo!ショッピングに出店している事業者は楽天市場をはるかに上回ります。そのためYahoo!オークションは出店料が無料とはいえ、事業者による露出面の奪い合いとなるため、出店料無料なのですが、コスト(Yahoo!ショッピング内の広告)をかけないと商品が売れるのは難しい状態となっております。Yahoo!ショッピングについては、下記の記事も合わせてご覧ください。
「ECモール」を「自社ECサイト」と比較して考える
ECモールを深く理解するためには、自社で構築する「自社ECサイト」と比較して考えると良いでしょう。以下をご覧ください。
◆ECモールと自社ECサイトの比較表
ECモールは集客力が強いが、独自デザインや独自のマーケティング施策が困難
自社ECサイトと比べるとECモールは、運営側のルールや仕組みに従う必要がありますので、独自デザインでのサイト作成や、独自のマーケティング施策を行うことが難しくなります。
しかし、一方でECモールには、強力な集客力があるため、商品に独自性があればすぐに売り上げを上げることができます。筆者のWEBマーケティングの経験上、ブランド力が弱く、ノウハウも少ない企業や個人が、ECサイトを構築して自力で売上を上げることはかなり困難です。
例えば、ECサイトでの主な決済方法はクレジットカード決済となるのですが、楽天市場やAmazonでしたら、誰もが知る大手ECモールであるため、安心してクレジットカード番号を入力できるはずです。しかし、同じ商品を扱っていても、あまり見覚えのない自社ECサイトの場合は、
ユーザー「本当にこのサイトにクレジットカード番号を入力して大丈夫なのか?」
と、クレジットカード番号の入力をためらう場合も多いのです。
筆者自身も最近、ある特別な商品を自社ECサイトから注文しようと検討しましたが、運営元に不安を覚えて購入をやめたことがあります。このように、自社ECサイトはブランド力がなければ、ECモールに比べて大きなデメリットがあるのです。
そして何より、自社ECサイトを露出させるには、SEOやリスティング広告、あるいはSNSを利用するなど、WEBマーケティングのノウハウが重要です。このノウハウがなければ、自社ECサイトで売上を上げることは非常に困難なのです。
自社ECサイトも月額費用は発生します!
楽天市場やAmazonに出店している方の中には、「手数料や月額費用が高い!」と思われている方も多いと思います。しかし、自社ECサイトを構築する場合にも、ECシステムの規模によって金額は異なりますが、以下のような費用がかかります。
・初期費用(開発費用)
・システム利用料(サーバー費用)
・オプション費用
なので、ECモールだけが費用負担が大きい、というわけではありません。ただしECモールには月額費用以外にも、売上高に応じた手数料があるため、売上が上がっても思ったほど利益が上がらない場合もあります。
楽天市場やAmazon、自社ECサイトを同時に展開するマルチチャネル戦略
売上の最大化を考えるのなら、楽天市場など一つのECモールだけでなく、AmazonやYahoo!ショッピング、あるいは自社ECサイトなどを同時に運営する手法があります。それをマルチチャネルと呼びます。
楽天市場とAmazon、Yahoo!ショッピングなどは、もちろんある程度の重複はありますが、利用層が異なるため、それぞれを流通チャネルと考えることで、ECモールや自社ECサイトで多店舗展開を行い、売上を上げることができます。
しかし、良いことばかりではなく、マルチチャネルを展開すると、在庫管理や商品登録など、EC担当者の負担が大きくなります。そのため、マルチチャネルを実施する際は、バックエンド作業はツールを導入して効率化を図るなど、運営上の工夫が必要となります。
自社で「ECモール」を作る方法もあるが、難易度は高い!
例えば、自社のビジネスにおいて多くのパートナーの商品を扱っている事業者が、自ら出店者を募り、ECモールを構築するケースもあります。このようなケースは、扱っている商品や出店者に
・ここでしか買えない商品が多い!
・商品の質が高い!
・ものすごく安い!
といった明らかな競合優位性がない限り、やめておいた方が無難でしょう。
なぜなら、ユーザーがインターネット上で買い物をする場合に利用するECモールは、楽天市場やAmazon、アパレルであればZOZOTOWN、BtoBであればモノタロウなど有名サイトがほとんどです。さらに、ユーザーが集まるところに出店者も集まるため、残念ながら筆者の知る限り独自のECモールが成功した事例はありません。
筆者の聞いた話ですが、パートナーの有名な大手企業が作ったECモールに参加するも、全く売上を得られなかったというケースもありました。このように、大手企業でも独自にECモールを立ち上げ、利益を得ることは、非常に難易度が高いのです。
「ECモール」か「自社ECサイト」で悩む場合は、WEBマーケティングスキルで決めるべき!
WEBマーケティング初心者はECモールからスタートしても良い!
ECモールであれば担当が付くので、出店する事業者にECやネットビジネスの経験がなくても、担当営業やカスタマーサービスによって、出店方法のサポートを受けることができます。また、楽天市場やAmazonのような有名ECモールであれば、情報が多く公開されているので、専属のコンサルサービスも多く存在します。
これからEC事業を考えている初心者の方は、まずは楽天市場やAmazonで出店・出品し、黒字経営を行うことを目指すべきです。楽天市場やAmazonである程度の経験やノウハウを積み上げたのちに、自社ECサイトを検討するのが良いでしょう。
ただし、ECモールでは売上高に応じた手数料があるため、ECモールの売上規模を拡大して、利益を大きく得ることは、非常に困難になります。
ECモール(楽天市場やYahoo!ショッピング)で自社の特徴やブランドを訴求できたのなら、ECモールで売上を上げるよりも、自社ECサイトを併設し、自社ECサイトにユーザーを誘導して、自社ECサイトの売上を伸ばしていく戦略をとるべきです。
実際に、ECモールで知名度を高めた事業者がステップアップとして、ECモールよりも利幅の大きい自社ECサイトに力を入れるケースも多いのです。
WEBマーケティング経験者は、安価なASP-ECを利用して、自社ECサイトを作る
もし、企業や個人でSNSやSEOといった、WEBマーケティングの経験があるのなら、売上高に応じた手数料がなく、利幅が大きい自社ECサイトに最初からチャレンジしてみましょう。ECモールのメリットは「集客力」ですから、その点をSNS等のWEBマーケティングスキルを駆使してカバーできる場合に向いております。
ECシステムを選ぶ場合は、ASP-ECにも月額費用が無料のものから、数万円の本格的なものまで様々ありますが、最初は月額費用をなるべく抑えた安価なASP-ECでも、問題はありません。
ただし、自社ECサイトの規模が大きくなったときに、無料や安価のASP-ECの中には、新しいECシステムを今までのドメイン(URL)では利用できないこともあり、乗り換え後の自社ECサイトでWEBマーケティングをゼロからやり直さなければいけないケースもあるので、ASP-ECを導入する際は、将来ECサイトの乗り換えをすることも考慮して、ECシステムの機能要件を念入りに確認してください。