チャネル管理とは、商品やサービスを顧客に届けるまでの販売経路(販売チャネル)を整理し、多店舗を最適に管理・運営する取り組みのことです。実店舗、ECサイト、代理店、ECモール、カタログ通販など多チャネル経営では、販売チャネルごとに提供する商品やサービスの情報、顧客体験の質、在庫情報の管理方法などにばらつきが生じやすく、ブランド価値の棄損リスクが高まる危険性があります。
チャネル管理の目的は、各販売チャネルの活動を戦略的に設計し、全チャネルで一貫性のあるサービス・製品の販売を行うことです。それによって、多チャネル経営における業務の効率化とブランド価値の向上が期待できます。
商品情報管理(PIM)を導入すると、すべてのチャネルで商品に関するあらゆる情報を管理・運用することができるため、チャネルによって差が生じやすい顧客体験の質や販売機会ロスなどの課題解決に役立ちます。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、チャネル管理について解説します。
多様化する販売チャネル
現在、物販における販売チャネルは、自社ECサイト、ECモール、SNS、カタログ通販、実店舗、訪問販売、代理店販売などがあります。老舗や大手の企業では昔から複数の販売チャネルを運営している場合が多いですが、近年はそこにオンラインチャネルが加わり、企業が管理しなければならない販売チャネルは多様化かつ複雑化しています。
◆代表的な販売チャネル
販売チャネル | 概要 |
実店舗 | 実店舗での対面販売 |
代理店販売 | 代理店経由の販売。業界特化型や地域密着型など、代理店ごとの専門性を生かした販売活動が展開される |
OEM | 相手先ブランドの商品製造を請け負い、相手先ブランドの販売網で商品を販売する |
自社ECサイト | 自社が運営するオンラインショップ。ブランドマネジメントがしやすく、顧客情報や分析用データを収集・活用しやすい |
ECモール(Amazon、楽天市場など) | 集客力のある大手ECモールに出店・出品して商品を販売する。新規顧客の獲得には有効だが、競合が多いため価格競争になりやすい |
社内販売/ファミリーセール | 従業員や関係者向けに特別価格で商品を販売する。在庫処分や関係者の満足度向上を目的として定期開催されることが多い |
カタログ販売 | 商品カタログを配布し、電話やFAX、Webサイトで注文受付を行う。特に高齢者層や法人の利用者が多い |
各販売チャネルには複数の選択肢があり、例えば「ECモール」の運用ではAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWN、Qoo10など、さまざまなECモールの中から出店先を選択することができます。
販売チャネルを増やすことで売上の拡大や市場シェアの向上が期待できる一方で、複数ある販売チャネルがそれぞれの方法で在庫管理や情報発信を行ってしまうと、情報の一貫性を維持することが難しくなります。その結果、販売チャネル間でサービスや顧客体験の質に差が生まれやすく、ブランドの信頼が損なわれる可能性が高まるなど、運営における課題とリスクは販売チャネル数に比例して増加します。
多チャネル販売で生じる4つのリスク
ここでは、多チャネル販売を行うにあたり特に考慮すべき4つのリスクについて、それぞれ具体的な状況を示して解説します。
リスク① 顧客体験の一貫性の欠如
販売チャネルごとに、商品の価格や説明、キャンペーンの内容、配送スピードなどが異なると、顧客の混乱を招く原因となります。例えば、ECモールで割引販売されているのに自社ECでは定価販売されていたとしたら、顧客に「ECモールで買ったほうがお得!」「公式サイトは高い」といった印象を植え付け、ブランドに対して不信感を持たれる可能性があります。
また、「ECモールで商品を購入したがサポート対応が悪かったので、このブランドの商品はもう買わない!」といったレビューを目にすることもあります。実際はECモールのサポート窓口の対応が悪かったという場合でも、顧客には「ブランドの商品を購入したときに嫌な思いをした」という印象が強く残ることで、ブランドイメージがネガティブな体験と共に記憶されやすくなります。
顧客に一貫したブランド体験を提供できなくなると、ブランドに対する顧客の信頼とロイヤリティは低下します。
リスク② 在庫管理の複雑化
多チャネル販売で同じ商品を販売する場合には、すべての販売チャネルの在庫情報をリアルタイムで連携していないと、在庫引当ができず受注後の欠品トラブルや過剰在庫のリスクが発生しやすくなります。
例えば、実店舗とECサイトで同じ倉庫の在庫を共有しているものの、在庫情報は統合していないといったケースでは、ある商品を実店舗で売り切ってしまったのに、ECサイトでは在庫ありと認識されており、そのまま販売し続けた結果、「商品がなくて出荷できない」という深刻なトラブルを招いてしまう可能性があります。また、仕入れ直後で商品在庫は十分あるのに、在庫管理システムに反映されていなかったため、販売機会を逃してしまうといったことも生じやすくなります。
特に、複数のECモールに出店している場合では、ECモールごとに在庫引当ルールが異なることで、在庫状況に差が発生しやすくなります。同一商品なのにECモールによって商品に関する情報が違っていると、ブランドへの不信感が生まれて顧客満足度が低下するだけでなく、サポート窓口への問い合わせや返品・返金の対応の増加にもつながります。
また、ブランドのセールやキャンペーンを複数の販売チャネルで同時展開する場合は、期間中に注文が集中して在庫数がめまぐるしく変動する可能性があることを考慮しておく必要があります。すべてのチャネルで、リアルタイムの正確な在庫情報を取得できるようにしておかなければ大量の注文に対応できず、販売機会の損失どころか、物販ブランドとしての信頼を失墜させる結果を招くことにもなりかねません。
こうした問題を回避するためには、在庫状況をリアルタイムで一元管理し、すべての販売チャネルで正確な在庫情報に基づいた販売が行える仕組みが必要になります。倉庫管理システム(Warehouse Management System:WMS)を導入するとともに、販売チャネルごとの在庫配分ルールや緊急時の対応フローを整備し、システム面と運用面の両方の体制を構築しておくことが重要です。
在庫管理はブランドの信頼と利益を守るための基盤となります。多チャネル販売では、在庫管理の精度が企業競争力に直結します。
リスク③ 商品情報の一貫性の欠如
販売チャネルごとに商品の名前、価格、説明文、画像、タグなどの情報を更新・管理する必要がありますが、これらの情報を複数の販売チャネルが個別で管理していると、最新の商品情報に差が生じて、販売チャネルごとに異なる情報を掲載・発信しやすく、顧客に誤った情報を植え付けたり、混乱させたりする要因となります。
例えば、新商品やリニューアル商品を展開する場合、全チャネルに、同じ情報を同じタイミングで反映できる仕組みがなければ、情報更新作業に手間がかかるだけでなく、販売チャネル間で情報の不整合が発生して販売機会ロスやクレームにつながる場合もあります。
代理店販売を行っている場合にはより一層注意が必要です。代理店に十分な商品情報を渡していない場合、代理店独自の解釈で思いがけず誤った情報を発信し、ブランドイメージを毀損する可能性があります。
筆者がかつて業務支援を担当していた代理店企業では、代理店がブランド企業の意に反した誇張表現を勝手にWebの商品訴求に使用したことで、ブランド企業からの厳しいクレームに発展しました。独自の判断で勝手にリリースしてしまった代理店にも改善すべき点がありますが、ブランド企業も代理店への正確で分かりやすい情報提供や方針共有の働きかけが不足しており、両者が正確な情報の取り扱いやプロモーションにおける認識をすり合わせてこなかったことが大きな要因でした。
どのチャネルでも同じ情報を提供するための情報の一元管理は、顧客および関係者との信頼関係の土台であり、良好な関係性を構築・維持するために不可欠な取り組みです。
リスク④ 価格競争によるブランド価値の低下
Amazonや楽天市場などの大手ECモールの販売チャネルでは特に、同業他社との比較が容易なため価格競争に巻き込まれやすくなります。手軽に比較検討ができるオンラインショッピングでは、最終的に“価格の安さ”を基準に購入を決定する顧客もいるでしょう。だからといって安易に価格競争に参戦してしまうと顧客に「割引前提のブランド」という印象を与え、ブランドの世界観が失われてブランド価値が低下するリスクがあります。
他社だけでなく、自社の販売チャネルの中でも同じ商品の価格が違っていると、顧客は「店舗によってどうして価格が違うのだろう?」と不審に思い、ブランドに対する信頼が低下しやすくなります。ブランド価値を向上・維持するためには、あらゆる顧客接点での一貫性のある情報提供はもちろんのこと、本当に必要な顧客接点に注力するために、販売チャネルを適切に取捨選択することが重要です。
肌着や靴下などのインナーウェアの製造・販売事業を行っている創業70年を超える老舗企業のワシオ株式会社は2024年に、売上の約20%を占めていた楽天市場から撤退するという大胆な決断を行いました。同社はその理由を3つ挙げています。
◆ワシオ株式会社が楽天市場から撤退した3つの理由
・楽天市場を通じた販売は、顧客との直接的な関係構築が難しい
・短期的な売上より、長期的な顧客との関係性の構築とブランド価値の向上を重視
参考:ワシオ株式会社プレスリリース(PR TIMES)「【前年比売上220%以上達成!】年商20%の1億円ある楽天市場から撤退後初めての大感謝祭!」(2025年2月20日発表)
短期的な売上を犠牲にしてでも、ブランド価値や顧客との信頼関係を守ることを優先するという覚悟を決めた結果、同社は成功をつかむことができました。
この事例を通じ、「販売チャネルが多ければ多いほど良い」という多チャネル偏重の考え方から脱却し、ブランド価値と販売チャネルごとの相性を見極めて戦略的に取捨選択するチャネル管理の重要性と企業の覚悟の大切さが分かります。
チャネル管理に不可欠な2つのシステム
チャネル管理を行うためには、サポートツールが不可欠です。今回は、「在庫管理」と「PIM(商品情報管理)」の2つの主要システムについて解説します。
システム① 在庫管理
在庫管理システムは、複数の販売チャネルにまたがる在庫情報をリアルタイムで把握・制御するための仕組みです。自社ECサイト、ECモール、実店舗など、複数チャネルの在庫情報を連携して各チャネルの販売状況をリアルタイムに管理することで、売り越しや在庫不足による機会損失を防ぎます。
在庫管理システムを導入すると、すべての販売チャネルの在庫情報を一元管理できるため、業務負荷を大幅に軽減できます。在庫管理システムにはさまざまな製品・サービスがありますので、自社に最適なサービスを選択すると良いでしょう。以下は、インターファクトリーのECプラットフォーム「EBISUMART」で連携できるASPサービスの例です。
◆「EBISUMART」と連携可能な在庫管理システムのASPサービス
サービス名 | 特徴 |
---|---|
①zaiko Robot(ザイコロボット) | 複数のネットショップの在庫数を、24時間365日自動で連携でき、在庫管理業務の負担とミスを低減して商品の売り越しリスクを抑えることが可能。簡単な操作で使用できるシンプルな在庫管理システム |
②ネクストエンジン | 商品情報の一括登録/更新、在庫管理、受発注管理、受発注プロセスにおける各種メールの自動送信などの機能を備えており、煩雑なネットショップ運営の自動化と効率化を支援。充実したサポート体制と豊富な導入実績が強み |
③eシェルパモール2.0 | 複数のネットショップの、顧客・受発注・在庫・商品情報を統合管理できる。外部システム連携機能も備えており、運用に合わせたカスタマイズにも対応可能 |
④キャムマックス | 受注から商品の発送、財務会計までバックオフィスのあらゆるデータを一元管理してシームレスに運用できる。業務や販売チャネルごとに発生するデータ入力業務を省力化し、コスト削減と在庫管理の最適化を支援。オムニチャネルに対応した中小企業向けのERPシステム |
⑤TEMPOSTAR(テンポスター) | 複数のネットショップの受発注、在庫管理、商品管理に必要な機能をオールインワンで備えたサービス。楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングなどの大手ECモールと自社ECの一元管理も可能で、業務の大幅な効率化を支援。運用に合わせたカスタマイズにも対応可能 |
⑥GoQSystem(ごくーシステム) | 複数のネットショップの受発注・商品・在庫・売上・収支情報を1つの画面で管理できる。受注件数にかかわらず定額料金(月額)で利用でき、サポートサービスも充実 |
参考:zaiko Robot、ネクストエンジン、eシェルパモール2.0、キャムマックス、TEMPOSTAR、GoQSystem
これらの在庫管理システムを導入することで、複数チャネルの在庫情報を一元管理できるようになります。
ただし、在庫管理システムでは商品マスタ以外の商品情報の管理はできません。そこで次に紹介する商品情報管理(PIM)を行うためのシステムが必要になります。
システム② PIM(商品情報管理)
PIM(Product Information Management、商品情報管理)は、商品の名前、価格、スペック、画像、説明文やタグ情報などの情報を統合管理するためのプロセスまたはシステムのことです。多くのPIMサービスがチャネルごとに異なるデータフォーマットや表現ルールにも対応しているため、PIMを導入することで、情報の整合性を保ちつつ、すべてのチャネルにスピーディーに情報を展開できます。
また、商品の追加や仕様変更が必要な場合もすべてのチャネルの情報を一括で更新できるため、販売チャネルによって更新漏れが発生したり、異なる情報を掲載したりといったトラブルを防ぐことができます。また、PIMの更新情報は、すべての販売チャネルに自動配信する設定も可能です。
多チャネル販売で一貫したブランド体験を提供できるPIMについては、関連記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
チャネル管理の面でも、優れた商品の追求は重要!
前述の在庫管理システムと商品情報管理システムは、チャネル管理の最適化を最大限に支援してくれる強力な道具ですが、ツールを導入すればあらゆる問題が解決するわけではありません。チャネル管理の面でも「取り扱う商品の品質の追求が重要である」と筆者は考えています。販売チャネルに関わらず、商品価値が市場で突出したものであれば、価格競争に巻き込まれることなく、ブランド力で売上を維持することができるからです。
優れた商品の事例として、電動工具の製造・販売で有名な株式会社マキタが挙げられます。同社は特別なマーケティングや広告宣伝を行っていないにもかかわらず、国内外で高い評価を受け、顧客に愛され続けています。その理由は、商品そのものの完成度と信頼性にあります。
耐久性・操作性・安全性を極限まで追求した製品を開発・製造している同社は、発売後も顧客のフィードバックを取り入れて製品改良を繰り返し行っています。「現場が求めるプロ品質」を提供し続けることで、価格ではなく“性能と信頼”によって顧客から選ばれる優良ブランドとして地位を維持し続けているのです。
同社に対する高い評価と注目度は、多くのTikTokユーザーがUGC(ユーザー生成コンテンツ)を配信していることからもうかがえます。
最適なチャネル管理を行うとともに、商品品質を追求してブランド価値を高めることで、価格競争に巻き込まれるリスクを避けることができます。「売る場所と方法」と「売れる商品」の両方を戦略的に追求していくことが重要なのです。
まとめ
短期的な売上だけでなく、自社が目指している顧客との関係構築やブランドイメージを明確に定義し、それらを実現するためにチャネル管理を行うことが大切です。その上で、在庫管理とPIM(商品情報管理)の2つのシステムを導入し、多チャネル販売を最適化していきましょう。
インターファクトリーは、さまざまなチャネルに信頼性の高い商品コンテンツをシームレスに配信できる、クラウド型商品データ統合プラットフォーム「EBISU PIM(エビス ピム)」を提供しています。
PIMに興味のある方は、以下の公式サイトをご覧のうえ、お気軽にお問い合わせください。
公式サイト:EBISU PIM(エビス ピム)