ECサイトのリピート顧客を増やすための取り組みとして、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)という方法があります。
CRMとは、広い意味では「顧客情報とコミュニケーション記録を管理・活用し、自社と顧客の関係を高めるための取り組み」を指します。狭義では、そのために顧客データを管理・活用するためのシステムやツールのことをCRMと呼ぶこともあります。
いずれにしても、顧客一人一人にパーソナライズしたオファリング(サービスの提案や提供)を展開することで、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化を図るために、CRMを用いることになります。
例えば、CRM戦略の一環として、メルマガ施策を行う場合、すべての顧客に同じメールを送るよりも、ある条件で顧客を分類(顧客セグメントテーション)し、各セグメントに属する顧客群の関心・興味により近い内容のメールを送るほうが顧客の反応が良くなり、目的とする効果を得られやすくなるでしょう。
この記事では、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、CRMの実践に必要な5つの機能とCRMの一環としてのメルマガ施策の具体的な実施手順について解説します。
CRMで成果を出す秘訣は「成功パターン」の発見にあり
EC(オンサイト)ビジネスではありませんが、筆者も過去にオフサイトでのCRMの取り組みによって、期待する成果と売上アップを実現した経験があります。
筆者がかつて勤務していた大手英会話スクールでは、既存顧客のリピート率向上と休眠顧客の掘り起こしを目的として、定期的なメルマガ配信を行っていましたが、なかなか期待する効果を得られずにいました。
そこで、ターゲット全体に一律でメール配信するのではなく、「顧客セグメントを細かく設定して、セグメントごとに異なる内容のメールを送信して、その効果を測定する」という試行錯誤を繰り返した結果、特に効果が高いセグメントとオファーの組み合わせのパターンを見つけ出すことができました。
◆筆者が発見したメルマガ配信の成功パターン(英会話スクール)
・対象セグメント:中上級者向け英会話コースの受講生及び卒業生
・オファー:新しく開設した実践型ビジネス英語コースの無料体験レッスンへの招待
上記の成功パターンを発見してからは、都度の無料体験レッスンで期待どおりの参加者数を集めることができるようになりました。その結果、全体の売上も増えて、まさにCRMの取り組みにおける成功体験となりました。
CRMは顧客一人一人と向き合うため地道で手間がかかる取り組みという印象があるかもしれませんが、施策における成功パターンを発見することができれば、その後の運用の効率が劇的に高まり、売上向上につなげることができるのです。
CRMの施策を支える5つの主要な機能
CRMの施策で使用する主要機能は次の5つです。
◆CRMの施策を支える5つの主要な機能
②会員登録
③ポイントまたはクーポン
④メール配信
⑤会員ランク管理
それぞれの機能はCRM専門のシステムやツールがなくても他の方法で実現することもできますが、システムやツールを使うことで、効率的かつ高度な運用が可能になります。⑤の会員ランク管理は必須の機能ではありませんが、会員ランクをセグメントとして使うことで、CRMの施策の幅が広がります。
例えば、EC会員の購入履歴(購入回数や購入金額)をもとにランク付けし、下記のような会員ランクを設定することにします。
◆会員ランク(例)
・シルバー会員
・ブロンズ会員
それぞれの会員ランクに特典を付与したり、もう少しで会員ランクがアップする顧客に案内メールを送ったりすることで、購買意欲を促進できます。
それでは、CRMの具体的な施策を解説します。
CRMでメルマガ配信施策を行うための3つの手順
CRMの施策の一環でメルマガ配信を行う場合の手順は大きく次の3つです。
◆メルマガ配信の3つの手順
②顧客(会員)セグメンテーション
③顧客(会員)セグメントごとのメルマガ作成と配信
各手順を見ていきましょう。
手順①顧客(会員)情報の収集
顧客情報の収集と管理はCRMにおける基本となりますが、対象となる顧客情報では、どのような項目(要素)を取得すべきでしょうか?
顧客に関する情報が多ければ多いほど、細かいセグメンテーションが可能になるため、よりパーソナライズしたサービスを提供できるようになります。
とはいえ、新規会員登録で取得する項目をむやみに増やしてしまうと、新規会員登録の離脱率が高まります。
例えば、「生年月日」を任意の入力項目として設定した場合、ユーザーは「なぜ買い物するだけで生年月日を教えなければいけないのだろう」と不安を感じ、「そうまでして買いたくない」と判断される可能性があります。CRM施策の一環として会員の誕生月の初日に「誕生日(バースデー)メール」を送りたいと考えているのであれば、誕生月を登録してもらうだけでも間に合います。またその際には、「誕生月をご入力いただくと、お誕生月特典をご利用いただけます」などといった文章を併記し、ユーザーが安心して入力できるように工夫するとよいでしょう。
顧客情報として何の項目を取得するか検討する場合に気を付けたいのが、使う予定もないのに、欲張って取得しようとしない、という点です。
収集した顧客情報は安全に保管・管理しなければなりません。保管や管理のコストだけでなく、万一、漏えいするような事態が起きた場合にも、必要最小限の情報を管理しているほうがリスクを小さくできます。
手順②顧客(会員)セグメンテーション
顧客セグメントには以下のような切り口が考えられます。
◆顧客セグメントの例
・購入履歴:購入日、購入商品、購入頻度、一回あたりの購入金額 など
これらを組み合わせて顧客をセグメンテーションし、各セグメントの関心が高そうなサービスを顧客に提供(オファリング)します。
上記の「購入履歴」の切り口は、いわゆる「RFM分析」です。RFM分析では次の3つの指標を用いて顧客をランク付けします。
◆RFM分析の3つの指標
・Frequency(購入頻度)
・Monetary(購入金額)
CRMでは、RFM分析で抽出した優良顧客の特典オファーや休眠顧客を掘り起こしのためのアプローチなどにより、リピート率の向上やファンの育成に取り組んでいきます。
参考:ECのミカタ「RFM分析とは? やり方から指標の見方を解説」(2022年1月20日)
手順③顧客(会員)セグメントごとのメルマガ作成と配信
手順②で抽出した各セグメントに対し、それぞれのセグメントで最も反応が良いと思われるオファー(商品情報や特典など)を掲載したメルマガを配信しましょう。
例えば、「優良顧客」に対するオファリングでは、日頃のご愛顧への感謝を伝えるクーポンやポイントキャンペーンでリピート購入や購入金額のアップを促進するのもよいでしょう。
またメルマガでは、メールの開封率を高めるためにも、顧客が一目でメールの内容を理解できるようなタイトルを付けることも大切です。
CRM戦略の定石!優良顧客と休眠顧客に向けたメルマガ施策
小売事業では「売上の80%は、全顧客の中の20%が生み出している」というパレートの法則(いわゆる「2:8の法則」)がよく知られており、実際にその状態に近いECサイトも多く存在しています。
売上を安定させるためにはリピート率の向上が不可欠で、リピーターを増やすためには、優良顧客化のための施策が重要になります。
誰を「優良顧客」とするかはECサイトごとに異なりますが、一般にはRFM分析の指標に次の条件を設定して抽出することが多いです。
◆優良顧客セグメントの抽出条件(例)
・現在までの購入回数の合計がしきい値より多い
・現在までの購入金額の合計がしきい値より高い
また、以下の条件を設定することで休眠顧客も抽出できます。
◆休眠顧客のセグメントの抽出条件(例)
・過去の購入回数の合計がしきい値より多い
・過去の購入金額の合計がしきい値より高い
RFM分析以外にも、購入単価、特定商品の購入履歴、趣味や好み、コミュニケーション履歴から洗い出したさまざまな傾向など、顧客セグメントの切り口になる項目とアイデアは無限です。
CRMツールを使えば、高度な分析や、SNS・アプリからもメッセージ配信も可能に!
CRM専門ツールを導入することで、より高度なアプローチが可能になります。サービスごとに特徴・機能が異なるため、やりたいことを検討しながら、CRMツール(またはシステム)の導入もぜひ検討してみるとよいでしょう。
下記は、クラウドECプラットフォーム「ebisumart」のパートナー企業が提供しているCRMツールのサービスです。
◆CRMツールのサービス例(「ebisumart」との連携も可能)
分析・レポーティング機能、Web連携、アプリ連携、SNS連携、広告連携など、サービスごとに特徴があるので、さまざまなツールの機能を比較検討したうえで、必要な機能を備えたCRMツールを選定しましょう。
ポイントとクーポンの違いとは?ポイントはお金に近く、クーポンは割引券
CRMの特典施策としてよく使用される「ポイント」と「クーポン」の違いについて、整理しておきましょう。
ポイントは「お金」と似ていて、任意のタイミングで使ったり、貯めたりすることができます。一方のクーポンは「割引券」に近いイメージで、使用期間(有効期限)が設定されており、またクーポンの満額に満たない商品を購入した場合などに生じる残額を次回使うといったことができません。また、発行されるクーポンには利用条件(1回あたりの最低購入金額など)が設定されていることがほとんどです。
ユーザーにとってはポイントのほうが使い勝手の良いサービスですが、企業にとってはクーポンのほうが予算の管理がしやすくなります。
ポイント、クーポンのいずれの場合でも、訴求方法やタイミングによってユーザーのお得感や反応は変わってきます。CRMの施策としてどちらが優れているということはないため、顧客セグメントごとにオファリングを変えたりしながら効果測定を行い、最も反応が良いタイミングで使い分けるとよいでしょう。
まとめ:今すぐCRMを始めよう!
以下の3つはECのWebマーケティングにおいて最も重要な要素です。
◆ECのWebマーケティングにおける主要な要素
・初回購入
・リピート施策
労力と予算を費やして集客し、ポイントやクーポンなどの特典などによって初回購入を促進することはもちろん大切ですが、その後のリピート率を増やすための施策(リピート施策)を継続していかなければ、延々と新規顧客を開拓し続けるようなもので、いつかは頭打ちとなるでしょう。
リピート施策を効率的に回せるようになるためにも、全員向けの単一アプローチばかりではなく、顧客セグメンテーションによる効果的なアプローチを実施して自社の成功パターンを見つけ出しましょう。
まだCRMを実践していない場合には、使用しているECシステムにCRM機能を実装できるかどうか、確認してみるとよいでしょう。