実店舗と異なり、実際に利用者と接する機会がないECサイトでは、ユーザーの声を聞くためのカスタマーサポートが重要なタッチポイントとなります。
カスタマーサポートの対応が良かった場合、カスタマーサポートを利用した人のうち約30%が、その後のサービス利用頻度が高くなったという調査結果が示すように、ECにおいて、カスタマーサポートはECの売上を高めるためにも重要な役割を担います。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ECにおけるカスタマーサポートの重要性について解説します。
カスタマーサポートの対応で変わる「その後」の利用率
下図は、株式会社PR TIMESが実施したカスタマーサポートに関する調査で、「サポート品質」が、その後のサービス利用の「継続」にどのように影響しているかについての回答をまとめたものです。
◆サポート品質による継続傾向調査
出典(図):PR TIMES「カスタマーサポート調査をTayoriが公開|問い合わせの51%以上が1時間以内の回答を期待 顧客の声(VoC)、経営層まで報告実施は13%」(2023年1月26日掲載)
この調査結果では、「満足度の高い対応」を受けたことのある回答者の約30%が、その後サービスの利用頻度が上がったと答えています。
筆者も同じような経験をしたことがあります。昨年、あるECサイトで購入した加湿器が故障したためメーカーのカスタマーサポートに問い合わせたところ、すぐに修理の手続きを進めてもらうことができました。そして、新たに別室用の加湿器の購入に際しては、迷わず同じメーカーの商品を購入しました。
このように、少々面倒なことが起きても、その時に満足するサポートを受けることで、企業への信頼が高まり、利用を継続しているという経験は、皆さんにもあるのではないでしょうか。
特にお客様の顔が見えないECでは、カスタマーサポートは問い合わせ窓口としての役割だけでなく、企業の信頼を高めて継続利用を促進するための貴重なタッチポイントとしての役割も担っているのです。
カスタマーサポートの運用形態別のメリットとデメリット
カスタマーサポートの運用には、内製と外部委託の2つの運用形態があります。まずは、それぞれのメリットとデメリットを比較してみましょう。
◆カスタマーサポートの運用形態別のメリット/デメリット(電話応対の場合)
費用感 | メリット | デメリット | |
内製 |
人件費:30~50万円 | 商品やサービスに関する知識が豊富。社内のEC運営チームとの連携が取りやすい | 情報共有や標準化を行わない場合、スキルが属人化しやすく、チームや個人の業務負荷が大きくなりやすい |
外部委託 | 業務委託費:10~50万円 | 自社の業務負荷を軽減できる | 複雑な問い合わせやクレームへの対応が難しく、スピーディーに対処できない |
※費用感は、スタッフ数や使用するツールによって変動する場合があります
出典:筆者の経験に基づき作成
内製の場合は社員を中心とした体制になり、問い合わせを受けた時点で、商品やサービスに関する正確な情報に基づき対応できるため、顧客満足度を上げやすくなります。また、自社のEC運営チームとの連携も取りやすいため、問題が生じた場合にも迅速に対処できます。
一方で、チーム内で情報共有や対応の標準化などのルールを確立していない場合、スキルが属人化し、担当者の退職などでスキルと知識が流失してしまう可能性があります。また、設備やスタッフの拡張性が低いため、繁忙期や大規模トラブルが発生した場合には対応しきれなくなる可能性があります。
外部委託の場合は、スタッフの人数や対応件数に応じて料金を支払うことで、一時的な問い合わせ数の増加への対応が可能です。しかし、商品やサービスに関する知識を求めることは難しく、複雑な問い合わせは自社にエスカレーションされるため、内製よりも解決策の提示までに時間がかかります。
外部委託先の企業はサポートセンターの専門家ですから、簡単な問い合わせに対する基本的な応対やサポートセンターの運営については秀でていますが、顧客は「専門知識と迅速な課題解決」を求めている場合が多いため、一概には言えませんが、内製と比べると外部委託では顧客満足度が上がりづらくなります。
3つのサポート受付方法(電話/チャット/メール)
カスタマーサポートには以下の3つの方法があります。
◆3つのカスタマーサポート方法
受付方法 | コスト | 即時性 | 特徴 |
方法① 電話 | 大 | 高 | 直接会話ができるため信頼を得やすく、複雑な問題に適している |
方法② チャット | 中 | 高 | 即時性と効率性を両立した方法で、同時に複数の問い合わせへの対応が可能。特に電話に慣れていない若い世代に好まれやすい |
方法③ メール | 小 | 低 | 定型文を用意することで、対応を効率化できる。即時性が低いため、解決までに時間がかかる場合がある |
出典:筆者の経験に基づき作成
ひと昔前はコールセンター(電話)が主流でしたが、現在は方法①~③、または方法①と③など複数の方法を採用している場合が多く、方法ごとの特徴・利用者の状況・商材によって、使い分けがされている印象です。
方法①の電話は音声による直接的なコミュニケーションが可能ですが、1件の問い合わせに多くの労力がかかります。方法②のチャットは、即時性を維持しつつ、1人のオペレーターが同時に複数の問い合わせに対応できるため効率的ですが、複雑な問い合わせの場合には文字だけのやり取りでは対応の難易度が高くなります。方法③のメール対応は、情報を整理して対応することができますが、お互いのやり取りにタイムラグが生じるため、すぐに解決できる問い合わせに対しては非効率になります。
こうした各方法の特徴と問い合わせの内容や状況に応じて、複数の方法を使い分けることで、顧客のニーズに柔軟に対応できます。
例えば、最初の問い合わせは電話でスムーズに対応し、その後のフォローアップはメールで行うという方法や、最初はチャットで受け付けて簡単な質問はその場で解決し、難しい場合には電話に切り換えるといった方法も考えられます。
カスタマーサポートの目的は、顧客が問題を快適かつ迅速に解決できる体験を提供することです。そのためには、どの手法が自社のサービスや顧客層に最も適しているかを理解することが重要です。企業規模やサポート体制によっても選択肢は異なりますが、顧客の視点に立った対応ができる体制を構築することが大切です。
ECで求められる顧客対応
ECで求められる顧客対応として、以下のようなものがあります。
◆ECで求められる顧客対応の例
✓購入検討者からの問い合わせ
✓商品やサービス、ブランドに対するクレーム
✓解約相談(サブスクリプションサービスの場合)
✓メンテナンスなどの技術的な相談
ECでは、実店舗のように実際に商品に触れたり、商品を試したりして購入することができないため、多くの企業がECサイトのサービスの一環として「返品可能」を訴求して購入時のハードルを下げるなど、購入率を高める工夫をしています。
そのため、EC運営では、最初から返品されることを意識してサービスを設計する必要があります。例えば、シンプルな返品手続きのプロセスを設計した上で、ECサイトに返品方法を明記するとともに、返品用の問い合わせフォームを用意するなどして、顧客とカスタマーサポート両方の負担が少なくなるようにしましょう。
カスタマーサポートを通じた「顧客体験」がファンを作る
問い合わせを通じて優れた顧客体験を提供し、次回購入につなげるために、カスタマーサポートには以下の対応が期待されています。
◆カスタマーサポートに対する期待
② 適切な解決策を明確かつ自信を持って伝えることができる
③ 問い合わせから問題解決まで一貫して顧客に寄り添って対応できる
顧客の信頼を獲得するためには、迅速かつ丁寧な対応が大切です。問題が起こった際に速やかに解決策を提示することで、企業に対する信頼度は高まります。また、顧客に寄り添って問題の解決に導くことで、顧客満足度が高まり、「また利用したい」という気持ちを引き出すことができます。
カスタマーサポートは、顧客を「ファン」に変えるという役割も担っているのです。
顧客の声を商品開発に生かす
カスタマーサポートに寄せられる顧客の声は、商品の開発や改善のためのアイデアの種でもあります。
以前、筆者が勤めていた大手英会話スクールでは、カスタマーサポートに届くお客様の声として「ずっと受講しているのに恩恵がない」という意見が多くありました。これを受けて、マーケティング部は3年以上受講しているロイヤリティの高い顧客に向けて、スペシャルディスカウントの限定チケットを配布したところ、翌年の顧客満足度が飛躍的に向上しました。
カスタマーサポートに集まった顧客の声を活用する際に大切なことは、どのようにデータを収集するかということだけでなく、どのデータにフォーカスして何を達成するのかという「適切な判断」です。データを見て「こんな要望もあるのだな!」といった感想で終わらせるのではなく、データから顧客の真意をくみ取り、悩みや不安を改善するための適切な判断と行動が重要です。
まとめ
ECは顧客と直に接することのないビジネスモデルなので、カスタマーサポートの対応が極めて重要になります。例えば、国内の大手家電企業などではECのカスタマーサポートを拡充している企業が多い印象です。ECでよりスムーズなカスタマーサポートを提供する場合、顧客管理システムとECシステムの連携が不可欠です。
インターファクトリーのクラウドECプラットフォーム「EBISUMART(エビスマート)」は、複雑なカスタマイズにも柔軟に対応でき、顧客管理システムとの連携も容易です。サービスの詳細は下記の公式ホームページをご覧ください。