ECサイトで「多店舗展開」する前に担当者が知るべきこと


「現在運営しているECショップが好調なので規模を拡大したい」、あるいは「事業拡大のために別のブランドを立ち上げたい」などの理由から、自社ECサイトとは別に、新たにECモールに出店するなどして「多店舗展開」を検討している方もいるのではないでしょうか。

既存のECショップに加え、新しいECショップを開設して販売チャネルを増やすことで売上拡大を図ったり、新規事業に挑戦したりできるようになります。

しかし多店舗展開を行う場合には、ECモールやサービスごとに異なるシステムを利用するため、一元管理のための仕組みが必要になり運用も複雑になるため、運営コストは増大します。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ECの多店舗展開におけるメリットとデメリットを解説します。

ECの運営は店舗数によっても異なる

下表は、いくつかのEC運営の要素について、多店舗運営と単独(1店舗)運営それぞれの特徴をまとめて比較したものです。

多店舗展開と単独店舗のEC運営の主な特徴の比較

多店舗運営 単独(1店舗)運営
販売チャネル 複数 1つ
露出範囲 幅広い範囲を狙える 限定的になりやすい
総売上規模 店舗ごとに売上が立つため全体でも増える可能性が高まる 1店舗の売上に依存するため拡大できる規模に限界がある
運営コスト 店舗が増えるほど大きくなる 多店舗運営よりは小さい
在庫管理 複数店舗のデータを管理する必要があるため複雑になりやすい 多店舗運営よりはシンプル
ブランディング 複数店舗で異なるブランドを運営する場合には、店舗ごとのブランディングが必要 1つのブランドを集中して展開できる
リスク 複数の売上があるので、コストを分散でき、店舗間で売上や在庫の不足を補い合えるため、単独運営よりは小さい 多店舗運営よりは大きい

出典:筆者の経験に基づき独自に作成

多店舗展開を行うことで、販売ターゲットや売上を拡大できる可能性が高まりますが、運用が複雑化しやすく運営コストも増大します

このようにECの多店舗展開にはメリットとデメリットがありますが、EC事業のさらなる成長を目指したいのであれば、多店舗展開を視野に入れるべきでしょう。

多店舗展開で使える代表的なECモール/サービス

今回は、多店舗展開で利用される代表的なECモールやサービスを9つ紹介します。

◆多店舗展開で使える代表的なECモール/サービス

サービス名 概要
①Amazon 「出品」によるマーケットプレイス型の総合ECモール。テナント型ECモールと比べると出品者(ショップ)独自のブランディングはできないが、日本では露出力は強い。特に30代以上の男性に支持されている。
②楽天市場 消費者が日常的に楽天ポイントを効率的に貯めたり使ったりできる「楽天経済圏」と呼ばれるシステムが強みの総合ECモール。テナント型なのである程度の店舗ブランディングが可能。主婦を中心に利用者が多い。
③Yahoo!ショッピング 出店料が無料のテナント型の総合ECモール。多くの店舗が出店しているものの楽天市場などと比べると販売ノウハウが確立されておらず、また競合店も多くなるため売上増は容易ではない。
④ZOZOTOWN テナント型のファッション専門ECモールで受託販売を行っている。出店料は高いがファッションに関しては日本一の訴求力がある。特に20~30代の女性に強い。
⑤Qoo10 低価格コスメなどを販売するテナント型の総合ECモール。会員登録数は2,300万人以上で全体の約80%が女性。他のECモールと比べると10~30代とZ世代にアプローチしやすい。
⑥価格.com 商品価格の比較サイト。特に家電に強く、日本最大級の口コミ数を誇る。カートシステムなどのEC機能はなく、企業のECサイトに誘導するための情報掲載に特化し、「広告の場」としての役割を担う。集客力が高い。
⑦メルカリShops 日本最大のフリマプラットフォーム「メルカリ」内にショップを出店できるサービス。集客力が高い。
⑧ANA Mall ANAのマイルを使って買い物をしたり、マイルを貯めたりできる総合ECモールで、日用品や食品、ファッションなどの商品を販売している。
⑨Pay ID ECショップ作成サービス「BASE」で作られたショップ専用のECモール。ECモールを利用するためには専用のショッピングアプリが必要。

参考:Amazon楽天市場Yahoo!ショッピングZOZOTOWNQoo10価格.comメルカリShopsANA MallPay ID
※概要は筆者の経験に基づく内容も含む

Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングをはじめ、さまざまなECモールやサービスを利用することで、販売チャネルを増やすことができます。

出品方式/受託販売のECモールは手軽に始められるが、ショップの特色が出しづらい

ECモールの販売形態には、Amazonのような出品方式やZOZOTOWNのような受託販売と、楽天市場のような直接販売があります。

◆出品方式/受託販売と直接販売のメリットとデメリット

出品方式/受託販売 直接販売
メリット ECモールが商品を一元管理するため商品の管理が簡単 ショップ独自のブランディングやマーケティングが可能
デメリット ショップ独自のブランディングやマーケティングがしづらい 自社でWebページやコンテンツを作成する必要があり、ショップページの精度が売上に直結しやすい

出典:筆者の経験に基づき独自に作成

AmazonやZOZOTOWNのようにECモールに商品を納めて、在庫管理から配送までを任せることができる出品方式/受託販売形態のECモールは、手軽に販売チャネルを確保できる一方で、ショップ独自のブランディングがしづらいというデメリットもあります。

ECの多店舗展開では売上重視の戦略を取る場合も多いと思いますが、自社のブランディングを重視する場合には、直接販売形態のECモールを検討すべきでしょう。

多店舗展開で「露出力」が高まる!

当然ながら、運営する店舗数が多くなるほどEC市場での露出力は高くなります。

また、有力な市場であるAmazonや楽天市場などのECモールに出店することで、商品の認知度を急激に高めることが可能です。実際に、「新商品の認知度を高めるために楽天市場に出店する」などというケースも少なくありません。

しかし、有力なECモールにはすでに多くの企業が参入しており、同じ商品や類似商品を販売しているショップも多いため、自社商品が注目されづらく、価格競争に陥りやすくなります。そうしたリスクを避けるためには、ECモールごとの販売ノウハウを理解しておく必要があります。

多店舗展開で売上増加を目指す!

多店舗展開を行うことで、売上増加の可能性が広がります。

Amazonや楽天市場などの大規模なECモールであれば、新たに出店/出品することで売上につながる可能性が高いのですが、必ずしもすべてのECモールですぐに売上を拡大できるというわけではありません。特に、出店料無料の店舗数が多いECモールの場合は売上があがるまでに時間を要する可能性があります。

筆者が以前コンサルティングを担当していたサプリメント会社も出店料無料の「Qoo10」に出店したのですが、取り扱い商品とECモールとの相性もあまり良くなかったこともあり、残念ながら売上拡大につなげることができませんでした。

多店舗展開を検討している場合にも、まずはAmazonや楽天市場などの有力なECモールで販売やマーケティングのノウハウを習得しながら、確実に売上を増やしていくことをおすすめします。

同時に、ECモールごとの特色を十分に調査した上で、それぞれのECモールに適したマーケティング活動を展開しながら徐々に販売チャネルを増やしていくべきでしょう。

例えば、ECモールが開催する大規模なセールやキャンペーンなどのイベントを上手に利用することで、一気に売上を増やしたり、集客したりすることができる場合もあります。

多店舗展開では、サービス利用コストが増える

開設するECショップの数に比例して出店費用や固定費、手数料などのサービスを利用するためのコストが増大します。

以下は、主要なECモールの運用コストをまとめてみました。

◆主要なECサービスの利用料金

ECモール 利用料など(金額はすべて税抜価格)
①Amazon ・利用料:小口出品サービスが商品ごとに100円、大口出品コースが月額4,900円
・販売手数料:6~15%(最低販売手数料は0円または30円)
楽天市場 ・プランごとの利用料:月額25,000円/65,000円/130,000円
・手数料:2~7%
③Yahoo!ショッピング ・初期費用、月額利用料、売上ロイヤリティ:無料
・ポイントやキャンペーン原資・アフィリエイトパートナー報酬の支払いとして1~50%
・アフィリエイト手数料としてアフィリエイトパートナー報酬の30%
④ZOZOTOWN 手数料は商品販売価格の20〜40%と言われているが、執筆時点では非公開
⑤Qoo10 ・初期費用、月額利用料:無料
・販売手数料:6~10%
価格.com ・月額利用料:10,000円 クリック課金(1クリック10円~)
メルカリShops ・初期費用、月額利用料:無料
・販売手数料:10%
⑧ANA Mall ・初期費用:150,000円
・月額利用料:10,000円~
・販売手数料:最大13.9%
⑨Pay ID ・初期費用:無料
・月額費用:プランによって無料/16,580円
・決済手数料:無料プランが1注文ごとに3.6%+40円/有料プランが1注文ごとに2.9%(いずれの場合も、Amazon Pay、PayPalではシステム手数料相当額が1%加算)
・サービス手数料:無料プランのみ1注文ごとに3%

出典:Amazon出品サービスの料金出店プランと費用│楽天市場料金・費用│Yahoo!ショッピング【2024年最新】5分でわかる Qoo10出店方法 完全ガイド店舗情報掲載のご案内│価格.comメルカリShopsはどこまで無料で使える?手数料や利用料をわかりやすく解説│メルカリ ColumnANA Mall 出店のご案内BASEの料金プラン・手数料(2024年5月現在)より筆者作成

上表のとおり、ECモールやサービスごとに料金体系も価格も異なりますので、ECモールを利用する際は、事前に見積依頼やコストシミュレーションを行いましょう。

多店舗展開では、在庫管理が複雑になる

在庫管理が複雑になることも、多店舗展開におけるデメリットの一つです。

多店舗展開では、複数のECモールやECサービスそれぞれで受発注および在庫を管理するため、全体での在庫管理が非常に難しくなります。

ECの多店舗展開で在庫の一元管理を行う方法としては次の3つが考えられます。

◆ECの多店舗展開における在庫の一元管理の3つの方法

方法① 在庫の一元管理ツールを導入する
方法② 在庫の一元管理機能を開発して自社のECシステムに実装する
方法③ Amazonの「フルフィルメント by Amazon(FBA)」など、ECモールが提供している在庫管理ツールを利用する

手軽に実現できるのは、方法①の在庫の一元管理ツールを導入する方法です。

在庫の一元管理ツールにはさまざまなサービスが存在しており、例えばよく利用されているツールとして「ネクストエンジン」などがあります。

参考:ネクストエンジン

こうした専用ツールを導入することで、ツールの管理画面ですべてのECショップの在庫情報を一元管理できるようになります。利用料金は利用するサービスやECショップ数などによって異なりますが、比較的コストを抑えて利用できるので、ECの多店舗展開を行う場合には検討してみましょう。

方法②の在庫の一元管理機能を開発して自社のECシステムに実装する方法は、パッケージやスクラッチで構築したECシステムに機能を組み込むという方法ですが、機能を新たに開発するコストとリスクに加え、将来的に連携が必要なECモールやサービスが増えた場合には追加開発が必要となる可能性を考えるとコストメリットが低いため、特別の理由がない限りはおすすめしません。

方法③のAmazonの「フルフィルメント by Amazon(FBA)」など、ECモールが提供している在庫管理ツールを利用する方法の場合、自社のECサイトだけであれば問題ないのですが、他のECモールや外部サービスとの連携ができない可能性があります。そのため、利用予定の在庫管理ツールで、希望しているECモールや外部サービスとの連携が可能かどうかを事前に調査しておく必要があります

多店舗展開では、ブランディングが難しい

自社のECサイトでは独自のブランディングや訴求を自由に行うことができますが、例えばAmazonなどの「出品方式(マーケットプレイス型)」や、ZOZOTOWNのような受託販売形態のECモールでは、自社の特色を強調することがほとんどできません

また、テナント型の楽天市場のようなECモールでも、ショップページのデザインには制限があるため、自社独自の世界観を自由に表現できるわけではありません。

ブランディング戦略では、Webページのデザインだけでなく、UIや機能を含むすべての顧客接点におけるUXが重要になるため、ECサイトとしての機能に制限があるECモールでは、完全に独自のブランディングやマーケティングを行うことが難しくなります。そのため、独自の世界観を打ち出すことを重視する場合などは、ECモールの出店は避けたほうが良いでしょう。

ECモールでは定期的に大規模なセールやキャンペーンなどのイベントが開催されますが、場合によっては自社のブランドイメージを損ねてしまったり、競合との比較で負けてしまったりというネガティブな影響を受ける場合もあります。逆に、イベントを介してECモールの露出力を最大限に活用できれば、ブランドや商品の認知度を高めることもできます。

多店舗展開でリスクを分散できる!

ECモールを利用することで、ECにおける事業リスクを分散することができます。

EC大手のニトリでは、2015年に行ったECサイトのリニューアル時にシステム障害が発生し、数日間自社ECサイトが休止するという事態となりました。

参考:ECのミカタ「不具合が続いたニトリ公式通販、ようやくサイトリニューアル復旧」(2015年6月24日掲載)

しかし、ニトリは楽天市場にも出店していたことで、この間の売上がゼロになることを回避できました。

このようにECショップを複数運営することで、あるショップでシステム障害などが発生しても他店舗に誘導することができるため、事業を継続することができますし、複数の売上があることで特定店舗の赤字を相殺できる可能性が高まるため、新規事業などにも積極的に挑戦できるようになります。

まとめ

すでにEC事業が好調な企業がさらなる売上増加を図るためには、ECの多店舗展開は効果的です。しかし、ECモール店舗を増やすごとに固定費や手数料が必要になりますし、ECモールごとに成功ノウハウも異なるなど運用コストも増大します。

そのため多店舗展開は一気に行わず、例えばECモールに出店する場合には、最初に主力かつ販売ノウハウが豊富なAmazonや楽天市場への参入をおすすめします

もし大規模ECの多店舗展開を行うのであれば、複数のECショップの受発注や在庫情報を一元管理するための機能を実装できるECプラットフォームが不可欠です。

インターファクトリーのクラウド型ECプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」では、在庫管理をはじめさまざまなシステムと連携可能で、カスタマイズにも柔軟に対応することができます。

ECの他店舗展開を検討されている方は、ぜひ下記の公式ホームページをご覧いただき、お気軽にご相談ください。

公式ホームページ:「ebisumart(エビスマート)」


セミナー情報

ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。