2019年までは年間2,000億円超え規模であった国内の楽器店市場も、コロナ禍には大きな打撃を受けました。しかし、その後は2年連続で伸長し、2022年には1,939億円にまで回復しています。
他の業界と同様に楽器店市場でもまた、人口の減少や少子高齢化に伴う可処分所得の減少などによる長期的な市場縮小という課題に対し、リピート需要の促進、海外取引の拡大、EC販売の強化などの戦略を速やかに実行していくことが重要になります。
出典:帝国データバンク「『楽器店市場』動向調査2023」
楽器店ECサイトを開設/構築する目的としては以下の4つがあり、目的ごとに適した開設/構築方法があります。
◆楽器店ECサイトを開設/構築する4つの用途
② 小規模のオンラインショップ
③ 中・大規模のオンラインショップ
④ 集客力を期待できるECモール店舗
新たにEC事業を始める場合は、まずは④のECモール店舗からスタートしてみることをおすすめします。ECサイトにおける重要かつ困難な課題の一つとして「集客」があるのですが、ECモール店舗では、ECモールがすでに持っている集客力を利用することができるため、EC運営の経験を積みやすいからです。
この記事では、株式会社インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、楽器店ECサイトの4つの目的ごとの開設/構築方法を紹介します。
楽器店ECサイトの4つの目的ごとの開設/構築方法
下表では、筆者の経験に基づいて、ECサイトの4つの目的別に開設/構築方法と特徴をまとめた上で、各ECサイトの実現難易度を設定しています。
◆ECサイトの4つの目的別の開設/構築方法と特徴および実現難易度
目的 | ① 店舗の補助機能としての役割を担うECサイト | ② 小規模のオンラインショップ | ③ 中・大規模のオンラインショップ | ④ 集客力を期待できるECモール店舗 |
実現難易度 | ★ | ★★★ |
★★★★★ |
★★ |
ターゲット | リピーターや遠隔地の常連顧客が中心 | 自社の努力で商圏を全国に広げる | 自社の知名度を活用しながら、シェアを拡大する | ECモールの力で商圏を全国に広げる |
構築方法 | BASEやSTORESなどのASPサービスの無料プランを利用する | Shopify、makeshop、カラーミーなどのASPサービスの有料プランを利用する | EBISUMARTをはじめとするカスタマイズや外部連携が可能なECプラットフォームや専用パッケージを利用して個別に開発する | 楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングなどのECモールに出店/出品する |
費用感 | ・初期費用:無料 ※無料プランの場合 ・月額費用:決済手数料(5%程度) |
・初期費用:数万~数十万円
・月額費用:数千~数万円程度 |
・初期費用:数百万~数千万円
・月額費用:10万円~ |
・初期費用:無料
・月額費用:利用手数料(やや高め) |
メリット | 店舗取引の補完機能として、顧客にオンラインのカタログや問い合わせ窓口を最小コストで提供できる | 制限はあるものの自社の世界観やブランドイメージを表現したECサイトを構築できる | 自社の世界観やブランドイメージを自由に表現したECサイトを構築でき、CRMやマーケティングなどの機能を活用できる | ECモールの強力な集客力を利用して新規顧客を開拓できる |
デメリット | 店舗のサービスを補完することが主目的なので、EC顧客の新規開拓や育成には不向き | Web広告やSNS、ブログなどによる集客やSEO対策などを自社で行う必要がある | ・開発コストが大きく、運用後も保守費用がかかる
・Web広告やSNS、ブログなどによる集客やSEO対策などを自社で行う必要がある |
ECモール内での価格競争に巻き込まれやすい |
出典:筆者が独自に作成
個人~小規模企業が初めてECサイトを開設する場合には、「売上ゼロ」のリスクを鑑みて、①か④の方法を選択すべきです。「集客」はECサイトにおける最も困難な課題の一つであり、ECの運営経験がない場合には実現難易度が高いため、最初は店舗顧客向けのコンパクトなECサイトを開設する、あるいは集客力を持つECモールに出店することで、経験を積むのがよいでしょう。
自社ECサイトを開設/構築する場合には、ECサイトや取引の規模、実現したい機能により、②か③いずれかの方法を選択しましょう。ECサイトを他の既存システムと連携させる必要がある場合には、③を選択する必要があります。
それでは、①~④の構築方法を一つずつ解説します。
① 店舗の補助機能としての役割を担うECサイト
実店舗を訪れた新規顧客や遠方の既存顧客のために実店舗の販売活動と顧客の購入検討を補助・支援することを目的としたECサイトです。
BASEやSTORESなどの無料あるいは低コストで始められるASPのネットショップサービスを利用することで、SNSアカウントを開設するのと似たような手順・要領で、WebやECサイトに関する専門知識がなくても簡単にECサイトを開設できます。
実店舗に足を運んでくれるお客様に店舗外でもサービスを提供できるため、利便性の向上と購入意思やリピート購入の促進効果が期待できます。
一方でECサイトとしては最小限の機能しか備えていないので、あくまで「店舗を利用するお客様の補助機能」としての位置付けにすぎないことを忘れないようにしましょう。もしECサイトの利用者が増えてきたり、本格的にEC事業を行いたくなったりした場合は、②③のECサイトへの移行を検討しましょう。その際、①で利用しているドメイン(ECサイトのURL)を引き継げない点に注意が必要です。
② 小規模のオンラインショップ
自社のブランドイメージや世界観を表現した自社ECサイトで、Web施策を展開しながら顧客を獲得・育成していきます。
Shopify、makeshop、カラーミーショップなどのASPのECプラットフォームを利用してECサイトを開設し、集客施策(SEO、SNS運用、Web広告など)を自社で行います。これらのECプラットフォームは、制限はあるものの任意のデザインを実現でき、基本的なEC機能も備えています。また自社ECサイトなので、ECモールでは展開しづらい「ブランディング」や「価格のコントロール」も可能なため、独自性を持ったECサイトを運営することができます。
ただし、ECサイトの集客施策は時間とコストがかかる中長期的な取り組みであるため、費用と体力を確保し維持していく必要があります。
初めてECを運営する場合には、EC運営に関するWebコンテンツやオンラインサロンを利用するなどし、ECサイトの運営ノウハウを身につけるための努力も必要になります。
健康食品のオンラインショップ「ミウラタクヤ商店」を運営している三浦卓也氏は、X(旧Twitter)やYouTubeで自社ECサイトやShopifyに関するノウハウを投稿したり、オンラインサロンを開催したりしています。興味のある方は、ぜひ下記のアカウントをフォローして投稿を確認してみてください。
参考:三浦卓也氏のXアカウント「三浦卓也@ひとりEC著者」
③ 中・大規模のオンラインショップ
自社のブランドイメージや世界観を完全に表現した自社ECサイトで、既存の知名度や販売網を生かしながら全国規模のオンラインショップを運用していきます。
例えば「EBISUMART(エビスマート)」のように、柔軟なカスタマイズや外部システムとの連携が可能なクラウドサービスのECプラットフォームやパッケージを利用し、独自の機能や高度な仕組みを備えたECサイトを構築します。
柔軟なカスタマイズが可能なクラウドECプラットフォーム「EBISUMART」について興味のある方は、ぜひ以下の公式サイトで詳細をご確認ください。
ECサイトと実店舗を連動させることで、①のような実店舗の補助機能としての役割も担うことができます。また、マーケティングやCMSなどの専用ツールと組み合わせて利用することで、効果的なEC運用が可能になります。
初期費用は数百万〜数千万円の大規模開発となるため、体力と費用の面からも中・大規模企業で採用されるケースがほとんどです。
SaaSのECプラットフォームを利用することで、例えば将来ECサイトをリニューアルする際も、追加機能やカスタマイズだけで最新のEC機能を備えたECサイトを構築できるなどのメリットがあります。
④ 集客力を期待できるECモール店舗
楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングなどの大手ECモールに出店します。大手ECモールの圧倒的な集客力を利用して、新規顧客を開拓することができます。
◆モールの一覧表
楽天市場 | Amazon(大口出品プランの場合) | Yahoo!ショッピング | メルカリShops | |
---|---|---|---|---|
初期費用 | 0円(※契約時に年額出店料あり) | 0円 | 0円 | 0円 |
月額固定費 | 約19,500〜100,000円(プランによる) | 4,900円(税込) | 0円 | 0円 |
販売手数料 | 2〜7%(ジャンルにより異なる)+楽天ポイント原資1% | 商品価格の15%(楽器カテゴリ) | 0%(キャンペーン中) | 一律10% |
決済手数料 | 約3.5〜4.0% | 手数料に含まれる | 3.0%(PayPay等) | 販売手数料に含む(追加なし) |
集客力 | 非常に高い | 非常に高い | 高い | やや高い |
主なターゲット層 | 30〜50代のリピーター、主婦層が多い | 幅広い年齢層。比較的男性が多い印象 | 30~50代の男女 | 10~60代以上の幅広い年齢層 |
特徴・メリット | 楽天ポイント施策や販促ツールが豊富。ブランディングがしやすい | スピード出品やFBA(物流代行)サービスを利用できるため運用がしやすい | 無料で出店できる。PayPayユーザーの流入が増える | スマホで操作しやすい。中古や一点物の商品の販売との相性が良い |
出典:筆者が独自に作成
ECモールのツートップは楽天市場とAmazonで、いずれも手数料が少し高めに設定されています。しかし、自社ECサイトでも常に集客コストが発生することを考えると、ECモールの手数料が高すぎるというわけではありません。
Yahoo!ショッピングは月額費用が無料のように見えますが、アフィリエイトやキャンペーン原資の支払いが発生するため注意しましょう(それでも、楽天市場やAmazonの月額コストよりは費用を抑えることができます)。
メルカリShopsは手数料が一律10%と分かりやすく、また、楽器等の商品はリユースにも適しているので、新規顧客を開拓したい楽器店ECにとって魅力的なチャネルとなるでしょう。スマートフォン向けのサービスなので、簡単な操作で運用できるという点もメリットの一つです。
ECモール店舗では、集客をECモールに任せながらEC運営の経験を積めるため、初めてECを運営する場合にはおすすめの方法です。ただし、ECモールでは競合他社と比較されることが多く、価格競争に巻き込まれやすい点に注意する必要があります。
ECモール店舗で一定の利益が得られるようになり、EC運営に慣れてきたら、②の自社ECサイトにチャレンジしてみても良いでしょう。
楽器店ECサイトの売上を増やす2つのサービス
楽器は高額商品も多く、ECサイトでの販売は難しい商品です。そこで、楽器店ECサイトで導入したほうが良い2つのサービスを紹介します。
サービス① 延長保証サービス「proteger(プロテジャー)」
店頭で家電やスマートフォンなどを購入する際に、店員からお勧めされたことがある方もいるかもしれませんが、「proteger(プロテジャー)」というサービスを使うことで、延長保証サービスをECサイトの商品ページで簡単に提供できるようになります。
◆山善ビズコムのECサイト

引用(画像):山善ビズコムの商品ページの画像に筆者が加工
保険会社との面倒な手続きはサービス側ですべて代行してくれます。
企業は顧客に選択肢を提供できる、顧客は購入時の不安が軽減される、延長保証サービスも収益を得られるという、三方よしのサービスですね。
サービスの詳細については下記の公式サイトで確認してみてください。
サービス② 後払い決済「ペイディ」の分割払い
後払い決済「ペイディ」を導入すると分割払いをオプションとして提供できるようになります。しかも、ペイディは金利手数料がかかりません。
◆ペイディのウィジェット

引用(画像):BRUNO onlineの商品ページの画像に筆者が加工
ペイディを利用すると商品ページ内に商品を分割払いにした場合の「月々の支払額」が表示されるため、「一括払いは厳しいけれど、分割払いならたいして負担にならないかも」というような検討のきっかけをユーザーに与えて購入を後押しします。
ペイディは既存ECサイトに手軽に実装できます。サービスの詳細について下記の公式サイトをご覧の上、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
参考:「ペイディ」公式サイト
延長保証サービスや分割払いオプションなどのように、顧客が高額商品を購入しやすいサービスは積極的に導入していきましょう。
ECサイトは目的に応じた商品を掲載すべき!
楽器店ECでは、楽器のパーツ、楽譜、関連書籍などを含めると商品点数がかなり多くなります。商品登録数が増えると、商品画像や説明文などのコンテンツの準備や、商品情報の登録や管理の負荷も増えます。
そのため、①の店舗の補助機能としての役割を担うECサイトでは、店舗顧客向けに商品を絞って掲載し、必要に応じて追加・変更するのがよいでしょう。
一般にECサイトでは多くの商品を掲載することで多くの人に見つけてもらいやすくなり、集客効果が高まるため、②③のように独立した販売チャネルとしてECサイトを運営する場合はすべての商品を掲載しておくべきでしょう。
問い合わせのための「チャット」や「フォーム」は目立つ位置に設置する
こだわりの楽器や特殊な部品などを探しに訪れる顧客が多いことも、楽器店業界の特徴の一つです。そのため、ECサイトでも、チャットや問い合わせフォームを用意して、声を掛けてもらいやすい環境を提供することが重要です。
特に、ECサイトの利用やチャットやフォームからの問い合わせに慣れていないユーザーにとって、目につく場所に適切なバナーやリンクがあれば、問い合わせに対する手間と心理的なハードルを下げることができるはずです。
既存/新規を問わず、分かりやすく使いやすいECサイトは好感を持たれるため、新規購入やリピート購入にもつながりやすくなりますし、ユーザーの好意的な口コミが新たなターゲットに伝播する可能性にも期待できます。
まとめ
楽器店に関わらず、自社ECサイトの運営を軌道に乗せるためにはかなりの労力がかかります。そのため、これから新たにECを始める場合には、まずは集客力の高いECモールへの出店を検討すべきでしょう。
また、中大規模のECサイトの構築や、現行のECサイトのリプレイスを検討している場合には、インターファクトリーのSaaS型ECプラットフォーム「EBISUMART(エビスマート)」の利用をおすすめします。
カスタマイズや外部システムにも柔軟に対応できるEBISUMARTは、楽器店ECサイト特有のEC機能も実現可能です。
サービスの詳細や資料のご請求については、下記の公式サイトをご覧の上、お気軽にお問い合わせください。