文部科学省が提唱する「GIGAスクール構想」の取り組みが本格化した2020年以降、全国の学校で高速ネットワーク環境と1人1台の学習用端末を整備が進められてきました。学習用端末は自治体が購入して貸与するケースと保護者負担で購入してもらうケースとがあり、近年では学習用端末を購入するための学校専用ECサイトが増えてきています。
学校専用ECには一般の物販ECとは異なる固有の要件があり、ECサイトの構築では、学校組織ごとの運用体系を考慮した設計が求められます。
◆ 学校専用EC固有の要件が求められる3つの理由
② 学校ごとに会員の管理・運用方法が異なる
③ 学校ごとに商品・価格が異なる
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当する筆者が、学校専用ECの特徴と構築ポイントを解説します。
「GIGAスクール構想」とは?
「GIGAスクール構想」は、学びの質を高めるために、全国の学校で高速ネットワーク環境と児童・生徒1人1台の学習端末を整備・活用できるようにしようという取り組みで、文部科学省が2019年に提唱し、現在も推進中の政策です。
このGIGAスクール構想によって、2019年には0.2台だった国内の学校の児童・生徒1人当たりの学習用端末の台数は、2025年には1.1台となっています。
◆児童・生徒1人当たりの学習者用コンピュータ台数

※ H31.3からR6.3までについて、「学習者用コンピュータ」は「教育用コンピュータ」のうち、児童生徒が使用するために配備されたものをいう。
※ 「学習者用コンピュータ」はタブレット型コンピュータ(平板状の外形を備え、タッチパネル式などの表示/入力部を持ったコンピュータ)のほか、コンピュータ教室等に整備されているコンピュータを含む。
※ 「児童生徒1人当たりの学習者用コンピュータ台数」は、「学習者用コンピュータ」の総数を児童生徒の総数で除して算出した値である。
出典:総務省「令和6年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」(2025年10月報告)
学習用端末の導入が普及したことで、端末の購入、故障・買い替え、年度更新時の申請フローなどの簡便化とオンライン化が求められるようになり、学校組織ごとに最適化された「学校専用EC」の需要が高まっています。
学校専用EC固有の要件が求められる3つの理由
見た目は一般的な物販ECサイトと同じように見える学校専用ECサイトですが、実装されている機能は異なります。なぜなら、学校という組織の性質上、ECで達成すべき目的が一般の物販ECとは根本的に異なるためです。
ここでは、学校専用EC固有の要件が求められる3つの理由を解説します。
理由① 購入者(保護者)と利用者(生徒)が異なる
学校専用ECでは、「誰が購入し、誰が利用するのか」が、一般的な物販ECとは少し異なります。下図のように、学校専用ECでは、「学校」「保護者」「生徒」の3者がユーザーとなります。
◆学校専用ECの利用者
出典:筆者作成
一般ECでは「購入者=利用者」が基本ですが、学校向けECでは、
利用者 => 児童・生徒
となります。
そのため、1つの保護者アカウントに対して複数の子どもの情報をひも付ける仕組みも必要で、子どもの「学校名」「学年」「番号(出席番号や学生番号など)」などの属性情報を登録・管理できる必要があります。兄弟姉妹がいる場合にはさらに情報量が増えるのでひも付けはより複雑になります。
理由② 学校ごとに会員の管理・運用方法が異なる
ユーザーアカウントを誰にして、情報をどのように管理していくかは学校ごとに異なります。
◆学校専用ECの2つの会員情報の登録方式(例)
・児童・生徒の個人情報を事前に登録し、ログイン情報を配布して利用してもらう
上記のように、会員情報の登録方式のニーズも学校ごとに異なります。
また、兄弟姉妹が別々の学校に通っている子どもを持つ保護者の場合には、複数の学校のルールに従って複数のアカウントを管理・運用していかなければならないため、負担が大きくなります。
理由③ 学校ごとに商品・価格が異なる
GIGAスクール対応端末(※)は公共価格(補助基準額)で提供され、調達に関しては以下のような特徴があります。
※文科省が定める最低スペック基準、および各自治体・学校ごとの利用規定を満たす学習用端末のこと。
◆GIGAスクール対応端末の調達の特徴
・学校ごとに端末販売事業者との契約条件が異なる
・自治体(教育委員会)による一般競争入札で調達される
そのため、同じ商品でも学校によって販売価格が異なるという状況が発生するので、学校専用ECでは商品の受発注に加え、学校別に価格、商品情報、在庫情報等を設定・管理するための機能が必須となります。
会員情報の登録方式は2種類ある
学校専用ECで最も重要な仕組みの1つが会員情報の登録と管理です。先ほど説明したとおり、誰を会員として管理し、保護者と児童・生徒をどのようにひも付けるかは、学校の運用方針によって変わってきます。
学校専用ECの会員情報の登録方式には、下記の2種類があります。
◆学校専用ECの2つの会員情報の登録方式
② 学校が児童・生徒アカウントを作成して会員情報を登録し、保護者にアカウント情報を配布する
それぞれの方式について詳しく解説します。
方式① 保護者が学校ごとのURLにアクセスし、保護者アカウントを作成して会員情報を登録する
学校から配布されたURLにアクセスし、保護者が自分でアカウントを作成して会員情報を登録する方式で、最もよく利用されています。基本的なEC利用の流れは下図のようになります。
◆保護者が自分でアカウントと会員情報を登録し、ECを利用する流れ
出典:筆者作成
この方式は、子どもが複数の学校に通う家庭でも使いやすいという利点があります。
方式② 学校が児童・生徒アカウントを作成して会員情報を登録し、保護者にログイン情報を配布する
学校側が児童・生徒のアカウントを用意し、保護者にログイン情報を配布する方式です。基本的なEC利用の流れは下図のようになります。
◆学校が配布した児童・生徒アカウントでログインし、ECを利用する流れ
出典:筆者作成
児童・生徒ごとに割り振られた番号(出席番号や生徒番号など)で管理したい学校や、進級データの正確性を重視する学校に適した方式です。兄弟姉妹がいる保護者は、複数アカウントを使い分けなければならないため運用が煩雑になります。
学校専用ECならではの4つの運用ルール
学校専用ECには通常の物販ECとは異なる運用上の制約がいくつか存在します。ここでは、学校専用ECで押さえておくべき主要な4つの運用ルールを紹介します。
① 配送先の違い
学校専用ECの購入商品の配送先の選択(学校/自宅)は、学校の指定により変わってきます。一般には主に下記の理由から、「学校への配送」が指定されることが多いです。
◆「学校への配送」が指定される理由(例)
・家庭での紛失リスクを軽減したい
・全員分を指定日に確実に受け取れる
一方で、下記の理由で「自宅への配送」が指定されるケースもあります。
◆「自宅への配送」が指定される理由(例)
・入学前に自宅で端末の設定を行ってほしい
「自宅への配送」であれば学校側の対応が不要となり、児童・生徒は自分のペースで事前準備ができるというメリットがあります。
そのため、ECシステムでは学校の指定やスケジュールに応じて、柔軟に配送先を指定/変更できるようにしておく必要があります。
② 時期によってECサイトをオープン/クローズする
学校専用ECサイトは通常の物販サイトのように年中無休でオープンしている必要はありません。下記のように、必要に応じてオープン/クローズする時期が発生します。
◆学校専用ECサイトの1年の稼働スケジュール(例)
・5〜7月:需要がなくなるため、一旦クローズ
・8〜9月:新学期に合わせて、再オープン
・10〜2月:必要に応じて、断続的にオープン
このように、「期間限定EC」である点も学校専用ECの特徴の1つのため、ECシステムには販売期間設定や表示画面の切り替えなどの機能が必要になります。
③ 購入時の制限と児童・生徒の進級/卒業情報の管理
公共価格(補助基準額)が適用されているGIGAスクール対応端末の販売では、転売を防止するために下記のような制限を設定する必要があります。
◆購入時の制限(例)
・卒業後は購入できないようにする
・進級時に購入できる商品を変更する
これらは、ECシステムで児童・生徒の属性情報とひも付けて制御する必要があります。
④ 学校ごとに異なる価格と在庫管理
学校専用ECでは、同じ商品でも学校ごとに価格が異なります。また、商品ラインナップや在庫の管理方法も学校ごとに違うため、ECシステムでは下記のような、学校別設定/管理機能が必要です。
◆学校別に設定/管理する項目
・商品価格
・在庫管理
BtoC-ECでは「同一商品=単一価格」や「在庫の一元管理」を前提とした設計が採用されますが、学校専用ECではあくまで「学校」ごとの個別要件に適応していく必要があります。
その他にも、学校専用ECの特徴の1つに、一般の物販ECのようにキャンペーン、ポイント、クーポンなどのマーケティング施策は実施しないという点があります。
学校専用ECの商品価格はあくまで自治体や学校の調達ルールに基づいて決まり、あらかじめ「販売数が予測できる」「販売時期が決まっている」ことから、値引きや特典などで販売を促進することはありません。
そのため学校専用ECシステムでは、学校別に情報を柔軟に制御しながら設定できるよう設計されていることが重要になります。
学校専用ECシステムの3つの構築方法
ECシステムの構築方法には次の3つの方法があり、構築方法によって実現できるEC機能やシステムの構築/運用コストが変わってきます。
◆ECシステムの3つの構築方法
② カスタマイズが可能なクラウドECを利用する
③ フルスクラッチ開発で構築する
①のパッケージECは基本機能がそろっていますが、学校別の管理・運用を実現するためには、追加カスタマイズが多く発生します。特に、価格、在庫管理、公開期間などの設定関連のカスタマイズではコストが膨らみやすい傾向があります。
②のカスタマイズが可能なクラウドECは、拡張性の高いクラウド基盤を利用して柔軟なカスタマイズで希望する要件を実現できます。柔軟なAPI連携やセキュリティ更新や機能アップデート、障害対応などはサービス側に委ねられるといったクラウドサービスならではの利点により、保守/運用コストを抑えることができます。
③のフルスクラッチ開発は、希望する要件が実現可能ですが、開発費用と開発期間に加え、仕様変更や保守/運用コストが大きくなります。
上記それぞれ特徴がありますが、特殊要件を持つ学校専用ECの構築/運用の現実的なコストを考慮すると、特別な理由がない限りは、拡張性と運用性の高い②の「カスタマイズが可能なクラウドECを利用する」方法で構築するのが、最もバランスの良い方法です。
まとめ
学校専用ECは一般の物販ECとは異なり、学校、保護者、児童・生徒という3者の情報を適切にひも付けて管理しなければならず、また、学期や年度、児童・生徒の進級/卒業に連動した制御運用など、学校専用EC固有の要件を実装する必要があります。そのため、ECシステムの構築では、学校組織の体制と運用をシステム機能に変換するための高い運用理解と専門性が求められます。
文部科学省が推進するGIGAスクール構想によって、学校の高速ネットワーク環境と1人1台の学習用端末の整備が一気に進み、今後も学校関連の商材やコンテンツのEC化は拡大していくことが予想されます。
学校専用ECサイトを構築する場合は、機能が限定されたテンプレート型のECシステムでは、学校関連商材販売における特殊要件への対応は難しく、またセキュリティの面から考えても、特別な要件がない限りは、柔軟なカスタマイズが可能なクラウドECで構築することが最適解となるでしょう。
インターファクトリーでは、高い拡張性と運用適応力を備えた、カスタマイズ可能なクラウドECプラットフォーム「EBISUMART(エビスマート)」を提供しています。学校ごとに異なる情報管理や機能を柔軟に実現できるため、学校と保護者にとって利便性の高いECシステムを構築できます。
学校専用ECへの新規参入や既存ECサイトの改善を検討している場合には、ぜひ下記の公式サイトでサービスの詳細をご確認ください。

























