テレビ通販とECの連動は、限られた放映時間という枠を越えて継続的に売上を伸ばす仕組みとして、多くの企業に取り入れられています。
近年はオンラインとオフラインをシームレスにつなぐオムニチャネル化が加速し、テレビ放送と連携したWeb限定の特別価格や、アプリを通じたリピーター獲得を図るケースが増加しています。しかし、いざ新たな仕組みを立ち上げるとなると、どこから手をつけるべきか迷う方も多いのではないでしょうか。
今回は、顧客接点が多様化する市場の背景とテレビ通販のEC化について、最新のトレンドや実践的な成功事例を交えて解説します。
1. テレビ通販×ECの現状
従来のテレビ通販市場が縮小傾向にあるなか、ECへの移行や統合が今後の展開を大きく左右する分岐点となっています。
業界全体が今どのような転換期を迎えているのか、まずは市場の現在地を確認しておきましょう。
テレビ通販市場の最新動向
テレビ通販の市場環境は今、大きな曲がり角を迎えています。物価高による買い控えやテレビ離れの影響もあり、市場全体としては緩やかな縮小傾向にあります。AI予測などでも今後の市場規模は4,000億円台からさらに減少すると見込まれており、従来通りの番組放送と電話受付だけでは反響を得にくくなっているのが実情です。
この変化は、これまでのやり方が通用しなくなるという焦りを感じやすい部分かもしれません。実際に手を打たずにいると、顧客層の高齢化とともに行き詰まる恐れがあります。
そのため、業界の最前線ではすでに「テレビとEC」の融合へと大きく舵が切られています。放送実績のデータを分析して機動的に商品を入れ替え、スマートフォンやオンラインショップへ誘導して購入を完結させる仕組みです。まずは、この流れを前提に置くことが次のステップへ進む基準となります。
BtoC-EC市場全体に占めるテレビ通販の位置付け
BtoC-EC市場が拡大を続ける中、通販市場全体に占めるテレビ通販単体の割合は縮小傾向にあります。経済産業省の調査でも2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円(※)に達し、通販利用の中心はネットへ移行しました。
※出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2025年8月発表)
数字だけを見ると、テレビでの展開は優先度を下げても良いように思える部分です。しかし、完全に役割を終えたわけではなく、立ち位置が変化しているのが実態です。現在は単なる販売窓口ではなく、ECサイトへ人を呼び込むための広告媒体や、認知の入り口として機能しています。
とくにシニア層を中心に、テレビを起点に商品を知り、最終的にスマートフォンのECサイトで購入するという流れが定着しつつあります。だからこそ、テレビの放送枠だけで売上を完結させようとするのではなく、放送と同時に独自のECサイトへスムーズに誘導する仕組みづくりが重要となるでしょう。
2. テレビ通販企業が取り入れている新たなEC施策
テレビ番組と連動した単なるWeb受注から一歩踏み出し、より深く購入者とつながるための動きが加速しています。従来の枠にとらわれない新たな販売手法を知ることで、次に打つべき手が見えてくるはずです。
ソーシャルコマース型ECへの移行
テレビ通販とECを単につなぐだけでなく、SNSの拡散力を直接販売に結び付ける手法が広がっています。ジュピターショップチャンネルは2025年9月、新たに2つのソーシャルコマース型ECサイトを立ち上げました。テレビを見ないスマホ世代を取り込むための、大きな転換点と言えます。
「うちのね、」はホームグッズを中心とし、購入者同士が使用感を共有するコミュニティ型ECです。一方の「CanauBi(カナウビ)」はエイジングケアに特化し、美容のプロが解説記事を発信するメディア型ECとして展開されています。看板番組名を出さず、特定の興味を持つ層へ届ける戦略です。ここを曖昧にしたまま見切り発車すると、誰にも響かないサイトになりかねません。
まずは扱う商品が、口コミで広がりやすいのか、専門家の解説が必要なのかを分類してみてください。商品の特性に合わせた見せ方を選ぶことで、テレビでは接点を持てなかった新しい層を開拓する道筋が見えてきます。
ライブコマース・越境EC・メタバースなど多チャネル戦略
既存の放送枠だけではリーチしきれない層へアプローチするため、新たな接点作りが進んでいます。ここが手薄になると、将来的な顧客層の先細りを招く要因となります。
特に力を入れているのが、双方向型のライブコマースと海外市場を見据えた越境ECです。たとえばジュピターショップチャンネルでは、中国向けの越境ECと連動したライブコマースを展開し、過去最高売上の更新につなげました。まずはSNSでの手軽なライブ配信から始め、視聴者の反応を探るのも有効な手段です。
また、3D仮想空間を活用したメタバースへの参入も目立ちます。QVCジャパンは「メタバースQVCお買い物PLAZA」を開設し、ファンイベントや先行販売を実施しました。こうした仮想空間でのイベントは、従来のテレビ視聴とは異なる没入感を生み出します。新しい体験を提供することで、今まで接点のなかった層を獲得するきっかけになるはずです。
3. テレビ通販×EC成功事例に見る運営強化ポイント
次に、事例を紹介します。成功している企業は、テレビの圧倒的な発信力とECの利便性を単に並べるのではなく、両者を巧みに融合させています。
「ABCファンライフ」でのテレビ通販とECの統合事例
朝日放送グループのABCファンライフは、テレビ放送直後の瞬間的なアクセス急増に耐えうるインフラ整備で成果を上げています。
もともと独自のシステムを運用していましたが、少しのデザイン変更でも数百万円の費用がかかるなど、柔軟性と負荷耐性に大きな課題を抱えていました。ここを放置したままでは、放送直後のせっかくの販売機会を逃し続けることになります。
同社はクラウド型のECプラットフォームへ移行し、電話受注を担う基幹システムとのリアルタイム連携を実現させました。放送直後のアクセス集中に自動で対応しつつ、電話とECの在庫を正確に一元管理する仕組みを作り上げたのです。
結果として販売機会のロスが減り、同社のEC売上比率は移行前の17%から27%へと大きく伸長しました。まずは現在のシステムがピーク時にどこまで耐えられるか、処理能力を一度確認しておくと安心です。
参考:EC売上比率10ポイント増!ABCファンライフのTV通販用ECサイトと、より幅広いユーザーを獲得するために立ち上げた新規事業とは
「札幌テレビ」でのテレビ通販とECの統合事例
もう1つ、システムの刷新で販売効率を引き上げた事例を見てみましょう。札幌テレビ放送が運営する「STVショッピング」では、長年抱えていた在庫管理の課題をECの統合で解決しています。ここを放置したままでは、現場の負担が増え続けるばかりでなかなか身動きが取れません。
同社は従来、テレビ通販とECの販売管理システムが連携しておらず、手動による在庫調整のタイムラグが課題でした。そこでクラウド型の新システムへ移行し、電話受注とECの在庫をリアルタイムで連動させる体制を構築。販売機会の損失や欠品を未然に防げるようになりました。
手作業が減れば、空いた時間を本来注力すべき販促活動に回せます。実際、同社はシステム連携で業務を効率化した結果、リニューアル後のEC経由の売上が前年比112%に向上しました。まずは現在のシステムに連携のボトルネックがないか、業務フローを一度洗い出してみてください。
4. EC化に伴う課題と技術的な対応策
販路を広げる中で、運用面の壁にぶつかることは少なくありません。急なアクセス増や問い合わせの増加で現場が回らなくなっては本末転倒です。
ここからは、インフラ整備やAIを活用した業務効率化など、技術面での対応策を見ていきます。
アクセス集中への耐性が求められる通販インフラの整備
テレビ放送とWebを連動させる際、避けて通れないのが放映直後の数分間に起こる急激なアクセス増加です。番組で商品が紹介された瞬間にアクセスが跳ね上がるため、ここでサイトの表示が遅れたりダウンしたりすると、せっかくの注文の機会を逃しかねません。
対策として、突発的な負荷に合わせてサーバ容量を自動で拡張するオートスケール機能や、大規模トラフィックに強い専用カートシステムへの移行が有効です。
とはいえ、インフラの刷新にはまとまった期間と費用がかかるため、どこまでのスペックが必要か迷いやすい部分です。現在利用しているシステムの同時アクセス数や、1分間に処理できる注文件数の上限を正確に把握する作業から着手します。
その限界値と、過去の放映時における最大アクセス規模を照らし合わせて、足りない部分を補強する計画を立ててみてください。サイトへのつながりやすさをあらかじめ担保しておくことが、テレビ放映による大きな反響を確実な売上へと結び付ける運用体制につながります。
AI活用によるコールセンター・物流の効率化
テレビ通販のEC化を進める中で、裏側の運用体制が追いつかずに頭を悩ませるケースは少なくありません。いざ番組の放送直後に注文が殺到しても、電話がつながらなければせっかくの販売機会を逃してしまいます。
そこで現在、コールセンターのパンクを防ぐためにAI技術の導入が進んでいます。オペレーターが取り切れなかった電話をAIが24時間体制で代わりに聞き取り、内容は自動でテキスト化され、そのまま受注データとして処理される仕組みです。これなら人手不足を補うだけでなく、深夜や早朝の取りこぼしも防げて安心です。
また物流の分野でも、AIを活用した需要予測が一般化してきました。過去のデータを元に在庫配置を最適化し、急激な注文増加時でも出荷の遅延を防ぎます。まずは現場で一番人手をとられている業務を洗い出し、一部からでもAIによる自動化を検討してみるのが得策です。
5. テレビ通販ECの今後の展望
課題への対策が見えてくると、次に気になるのは市場がどう変化していくかという点ではないでしょうか。
テクノロジーの進化や消費者行動の変化を踏まえ、中長期的な視点で業界が向かう先を確認しておきましょう。
今後のトレンド:スマホ世代へのリーチ拡大と高付加価値商品の比率増
今後を見据えたEC化の軸になるのが、スマートフォンの活用です。テレビの視聴を中心とした中高年層だけでなく、動画配信やSNSを通じた接点が増えるにつれ、スマホ世代へのリーチを広げる動きが加速しています。この波に乗り遅れると、将来的な事業の広がりにブレーキがかかる恐れがあります。
一方で、取扱商品の見直しも進んでいます。特に目立つのが、独自の機能や希少性を持たせた高付加価値商品の比率を引き上げる手法です。安さだけを売りにせず、商品の背景や魅力をデジタル上で丁寧に伝えることで、納得感を持って選んでもらう狙いがあります。
この2つの方向性は独立したものではなく、密接に連動しています。ここで初めて、新しい層に響く見せ方と利益率の改善を両立させる道筋が見えてきます。大掛かりな改修が難しければ、まずは手元にある短い動画コンテンツの活用から見直すのも良い方法です。
業界に残る課題と注目すべき解決策
テレビ通販とECの連携を進める中で、今なお壁となっているのが「在庫管理の分断」と「シニア層の離脱」です。放送直後の注文ラッシュ時に、電話とECの在庫がズレて欠品や売り逃しが起きるケースは少なくありません。
また、せっかくWebサイトへ誘導できても、操作が複雑だと注文を諦めてしまう方が多いのが現状です。ここは後回しにすると、後で手間が増えやすい部分と言えます。
こうした事態に対し、近年は電話とECの在庫を自動でリアルタイム同期するシステム統合が進んでいます。さらに、テレビ画面のQRコードからスマートフォンで購入できる仕組みや、高齢層でも迷わないシンプルな画面設計も広がってきました。まずは現在の注文経路で、どこに一番の目詰まりがあるのかを洗い出してみましょう。
まとめ
テレビ通販のEC化は、単なる販売チャネルの追加にとどまらず、スマホ世代などの新たな顧客層を開拓するための大きな転換点です。高付加価値商品の展開や多チャネル戦略が、今後の事業展開を左右します。
ただし、番組放送時の急激なアクセス集中に耐えうるインフラ整備や、AIを活用した物流の効率化といった裏側の仕組み作りを見落としてはいけません。ここが脆弱だと、せっかくの販売機会を逃してしまいます。
何から始めるべきか迷う場合は、まず現在の番組視聴者層と、ECで新しく獲得したい層とのギャップを洗い出してみてください。ここで目的を明確にすることが、具体的なシステム選定の確かな基準になります。
これまで紹介した成功事例の施策も参考にしつつ、無理のない範囲で現在の事業規模に適したEC基盤の導入を検討し、テレビとデジタルの相乗効果を生み出す第一歩を踏み出していきましょう。



























