急激な成長を遂げる中国のEC市場ですが、2023年8月に経済産業省から発表されたレポートを見ると、2022年の中国のEC市場規模は約377兆円(資料では2兆8,790億USドル※1USドルを2022年の平均レート131円で計算)と推計されております。
その巨大な市場でどのようなECサイトが中国でシェアを獲得しているのでしょうか?
ネット小売り市場において中国で1番シェアを獲得しているECサイトはアリババグループで、2022年において、B2Cネット通販の市場シェアの42.7%と4割ほどを占めており、2位の「京東(JD.com)」の19.1%を大きく離しております。さらに3位の「拼多多(Pinduoduo)」が15.5%とシェアを高めており、この3社で中国のECサイト市場において激しいシェア争いを行っております。
しかも、世界一のAmazonも2019年に中国市場からの撤退を表明し、他の中国ECサイトもこの3社には及ばず、3社によるシェア争いはしばらく続きそうです。
本日は巨大な中国ECサイトのランキングや市場規模について、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が解説します。
中国EC市場の3強!1位は「天猫(Tmall)」擁するアリババグループ
2023年8月に経済産業省から発表されたレポートにおいて、中国の3大EC事業者のシェアの推移データがありましたので、下記に紹介します。
中国EC市場における3大事業者「アリババグループ」「京東」「拼多多」
◆中国における3大EC事業者のシェア(2017年〜2023年)
※2023年は予想値
2022年のシェア | ||
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1位 | アリババグループ(Alibaba) | 42.7% |
2位 | 京東(JD.com) | 19.1% |
3位 | 拼多多(pinduoduo.com) | 15.5% |
当記事においてデータや図は指定がない場合、経済産業省の最新の調査結果より引用:「令和4年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(経済産業省)
アリババグループが42.7%と大きなシェアを持つも下降傾向
上の図を見ると、中国のECサイトは、天猫(Tmall)などに代表されるアリババグループが市場で大きなシェアを占めています。2019年度には同国で越境ECサイト「網易考拉海購(Kaola.com)」を買収したこともあり、シェアを高めてきました。
参考記事:ネットショップ担当者フォーラム「アリババが中国越境ECの「Kaola」を20億ドルで買収、越境ECマーケットで5割超のシェア」(2019年9月19日)
しかし、経年推移ではシェアは下がってきており、逆に京東(JD.com)や拼多多(pinduoduo.com)がシェアを高めております。
2位の京東(JD.com)のシェアは16%前後の横ばい状態が続いておりましたが、2021年以降は少しずつシェアを伸ばし、2022年は19.1%、2023年には20%と予測されております。
そして、2015年に設立された3位の「拼多多(pinduoduo.com)」は15.5%と短期間でシェアを高めております。
成功の要因は、拼多多ではSNSの要素をEC運営に取り入れたことで、多くの消費者がお得な情報をシェアできたり、共同購入の実現、買い物かごをなくした直観的なUIなど、新しい買い物体験を提供したことで多くのユーザーから支持を受けたことにあります。
拼多多については下記の記事で詳しく取り上げられているので、この記事と合わせてご覧ください。
参考記事:ネットショップ担当者フォーラム「「大手との真っ向勝負は避ける」――アリババとJDを追う中国EC3位の新鋭「Pinduoduo」のビジネスモデルとは」(2019年4月18日)
アリババに独占禁止法が適用される!
中国ECのシェアNo.1のアリババですが、出店者に対して競合他社への出店を禁止する「二者択一」の強要行為を行ったとして、中国の国家市場監督管理総局は2021年4月10日に、罰金182億2,800万元(2,916億4,800万円※1元=約16円)の行政処罰を課すと発表しました。
また、アリババだけではなく、テンセントなど中国ではプラットフォーム企業が次々と処罰や行政指導を受けており、プラットフォーム事業者による、市場支配的地位の乱用など公正な市場競争を阻害する独占行為を厳しくする動きが、中国当局によって強化されております。
参考記事:ジェトロ(日本貿易振興機構)「プラットフォーム企業のアリババに約182億元の罰金、独禁法違反」(2021年4月22日)
Amazonは中国市場から撤退!
世界中でシェアを独占しているAmazonも中国市場では苦戦しています。2017年の中国のECサイトでの取引額は7位でしたが、下記ニュースの通り、2019年にAmazonは中国市場からの撤退を表明しました。
参考記事:BBCニュース「米アマゾン、中国でのネット通販から撤退 競争で苦戦続き」(2019年4月19日)
この背景には中国政府が規制により、中国企業を保護してきたことがあげられますが、中国でのネットビジネスが文化的背景からも難しく、他国での成功モデルが通用しないことが原因にあります。
CtoCがメインだった中国でBtoCのECサイトが伸びている理由とは?
元々中国でのネット取引はCtoCがメインでした。しかし、2015年にはBtoCの取引額がCtoCを上回り52.1%となり、2016年には55.3%となりました。
◆中国ネット通販市場の取引モデル構成
出典:BTMU(China)経済週報 2017年6月21日 第353期
この背景には、中国ネット通販市場の成熟化及び、偽造品が多く出回っている市場において「天猫(Tmaill)」や「京東(JD.com)」のようなECサイトがユーザーから信頼されていることがあります。
そして中国人ユーザーが商品を検索するときは、検索エンジンではなくモール内で検索することから、2大モールのシェアがますます伸び、BtoC市場を牽引しているのです。
さらに、中国で急激にスマートフォンが普及し、スマートフォンでカンタンに決済できる支付宝(Alipay)や微信支付(WeChat Pay)によるキャッシュレス化がBtoCのECサイトを成長を押し上げており、中国人ユーザーにECサイトでの買い物を一層身近にさせています。
急激に成長する中国EC市場規模
以下は2022年の国別EC市場規模の上位10カ国を表したグラフです。中国が全世界の50.4%を占めており、いかに中国のEC市場が他国と比べて巨大かが分かります。
◆2022年の国別EC市場シェア
また、以下は中国EC市場規模の推移予想ですが、冒頭に述べた通り2022年の市場規模は2兆8,790億USドルで、前年比9.1%増と推計されております。今後も市場規模は拡大傾向にあると予想されており、2026年には3兆9,850億USドルを超える規模が想定されております。
◆中国におけるEC市場規模推計値(単位:億USドル)
数年前まで中国のインターネット業界には、ECサイトに偽造品があったり、シャドーバンキングなどの詐欺行為が社会問題となっていました。
しかし、急激に成長した背景には2015年3月に中国国務院(中国における内閣)が打ち出した「インターネット+」という計画があります。この政府の計画によって、中国におけるインターネット取引が健全になりつつあります。こういった政府主導の動きの速さも中国の特徴です。
中国政府が打ち出した「インターネット+」とは?
インターネット+とは、政府工作報告では下記のように定義されています。
「モバイルインターネット、クラウド、ビックデータ、Iotと近代製造業とを連携させ、ECや業界向けインターネット、インターネット金融などの健全な発展を促進する」
この計画により、中国は世界で最もオンライン取引が進んだ国になり、以下の分野において世界でも例を見ないキャッシュレス化が進んでいます。
② 振込
③ 貸付
④ 保険購入
これらを背景に中国はあらゆる分野において力強く発展しており、これらの新技術がEC市場の急激な成長を後押ししているのです。
現に、中国のデジタル決済市場は2017年時点で米国の約50倍(※)に達しています。
※参考:「インターネット+」、中国のデジタル経済が「世界の先駆者」に(2017年5月24日)
今ではこういったキャッシュレス技術は、世界の見本になっております。
昨今の中国EC業界のトレンド
中国EC業界におけるトレンドを2つ紹介いたします。
① チャット問い合わせのAIの利用が増加する
日本ではあまり浸透しておりませんが、中国のECサイトではチャットによる問い合わせが広く浸透しております。
その背景には、中国では偽造品が多く、ユーザーもチャットでしっかり商品を確認してから購入したり、あるいはチャットはログが残りますので、そのログを何かあった時のためのエビデンスにできたりするため、中国のECサイトでは、必須の問い合わせ方法になっています。
中国ECサイト最大手のアリババでは、「シャオアイス」というマイクロソフトが開発したAIを活用し、購入したい商品の評判を調べ、チャットでサポートしてくれます。本格的な問い合わせに対応しているわけではなく、一部機能に限っていますが、チャット問い合わせが多い中国では、AIの進化に伴いAIによるチャット対応が普及していくのは間違いありません。
参考記事:36Kr Japan「マイクロソフトの中国向けAIチャットボット「シャオアイス」、感情認識機能を武器に収益化へ」(2019年9月9日)
② アリババのスマートスピーカー「Tmall Genie」はECサイトに対応!
AmazonやGoogleから発売されたスマートスピーカーですが、中国のECサイト最大手を要するアリババからも「Tmall Genie」が発表されました。
・ニュースの読み上げ機能
・スマートフォームの制御
・ECサイト「Tmall」での買い物
スマートスピーカーには、声を聞き違えるという課題がありますが、Tmall Genieは声紋認識機能により利用者を特定することができます。
越境ECで中国からの日本製品の購入額は約1.5兆円!日本企業にとって大きなチャンス!
以前のブログ記事でも触れましたが、中国国内から日本製品を購入する越境ECによって、2018年は約1.5兆円も購入されました。2022年は2.5兆円の市場規模と推計されています。
◆各国越境EC市場規模推計(2018年~2022年)
しかし、この巨大な市場に対して、越境ECを構築するのはカンタンではありません。以前のブログでも触れましたが、特に集客面です。すでに中国で認知されている商品の場合は苦労しませんが、認知されていない場合は一筋縄ではいきません。※中国向け越境ECを検討されている方は、下記の記事をご覧ください。
もし、越境ECを成功させることができれば、莫大な利益を生むことができます。
まずは本日紹介した中国の2大ECサイト、アリババグループの「天猫(Tmall)」と「京東(JD.com)」には日本企業向けモールが用意されておりますから、出店を検討してみてはいかがでしょうか?
ただし、両サイトとも審査基準があり、日本での実績や知名度が必要になり、どんな企業でも出店できるというわけではありません。もし自社ECサイトで行うという場合は、越境EC対応サービスを使えば、日本人向けのECサイトでも、すぐに越境ECが可能です。
なぜなら、越境EC対応サービスを導入すると、自社ECサイトに訪れた海外ユーザーにだけ、中国語のポップアップ画面を表示し、代理購入を勧めることができるのです。
これにより外国人ユーザーは、カンタンに商品を購入でき、ECサイト事業者は越境EC対応サービスの日本国内の倉庫に商品を発送するだけで、通常のECサイトのスキームが同じなので、今まで通り商品を売ることができるのです。
海外転送サービスの利用を検討している方へ
海外転送サービスを利用して越境ECを始めたいとお考えの場合は、インターファクトリーが提供するECプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」も他社とあわせてご検討ください。ebisumartでは、標準機能として実装されている海外転送サービス「WorldShopping BIZ for ebisumart」や、その他の提携サービスを利用して越境ECサイトを運営できます。
参考: 「ebisumart(エビスマート) - 提携サービス - 越境EC」、「WorldShopping BIZ(株式会社ジグザグ)」
ebisumartの海外転送サービスや、国内・海外向けECサイトの開設について相談したい方は、以下の公式ホームページからお問い合わせください。