コンポーザブルコマース(Composable Commerce)とは、複数の最新技術やサービスを選んで、それらをコンポーネントとして柔軟に組み合わせることで統合システムを構築する、最新のECシステム開発アプローチです。
従来のモノリシック(monolithic、「一枚岩の」という意)なECシステムとは異なり、コンポーザブルコマースでは交換可能なモジュール式のビジネス機能単位の複数のコンポーネントをAPIで連携させることで、シームレスなECシステムを実現します。
柔軟性、拡張性、俊敏性に富んだコンポーザブルコマースのECプラットフォームでは、変化する顧客ニーズに素早く対応しながら優れた顧客エクスペリエンスを提供できるようになります。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が「コンポーザブルコマース」について解説します。
従来のモノリシックなECシステムとコンポーザブルコマースの違い
以下は、従来のモノリシックなECシステムとコンポーザブルコマースのECシステムの違いをまとめた表です。
◆モノリシックなECシステムとコンポーザブルコマースのECシステムの違い
モノリシックなECシステム (単一ベンダーが提供するオールインワンのECシステム) |
コンポーザブルコマースの ECシステム |
|
システム構成 | システム全体が1つのブロックとして構成されているため、導入後も特定ベンダーに依存する体制に陥りやすい。 | ビジネス機能ごとに独立したコンポーネントで構成されているため、特定ベンダーに依存せずに運用できる。 |
柔軟性・拡張性 | フロントエンドとバックエンドの機能が密接に関連しているため、一部の機能を修正/変更する場合に他の機能やシステム全体に影響を与える可能性がある。 | フロントエンドとバックエンドの各ビジネス機能が完全に切り離されているため、一部の機能を修正/変更する場合に他の機能やシステム全体に影響を与えることがない。 |
安定性・保守性 | アップデートや機能追加のたびに機能の継ぎ足しが必要となりシステムが肥大化しやすく、軽微な変更の場合にもシステム全体への影響を考慮する必要があるため保守運用の難易度が高い。 またシステムの最新化には、リプレースが必要になる場合が多い。 |
必要な機能だけをアップデートしたり追加したりできるため、保守運用の難易度が低い。 またコンポーネント単位で最新化できるため、常に最適なシステム環境を維持することができる。 |
開発・適用の速さ(俊敏性) | 遅い | 早い |
各機能がコンポーネント(部品)として構成されるため、柔軟性、拡張性、俊敏性に非常に優れている点がコンポーザブルコマースの大きな特徴です。
それでは、次にコンポーザブルコマースがなぜ必要なのかを解説します。
コンポーザブルコマースは変化するビジネス環境にスピーディーに対応できる
コンポーザブルコマースは、変化するビジネス環境と顧客ニーズに適応していくために編み出された最先端のECシステム開発アプローチです。
従来のモノリシックな大規模ECのシステム開発では、多くの機能や外部連携システム、マルチチャネル対応などを実装するために多くの時間が必要になります。
例えば、既存のモノリシックなECシステムにオムニチャネルに対応した機能を追加したいと思っても、すでにさまざまなEC機能を継ぎ足している肥大化した複雑なシステムへの実装は簡単ではありません。また外部連携でも独自の仕様を採用しているケースも少なくないため、機能追加を安全に行うには、より多くの時間とコストがかかります。
このようなモノリシックなECサイトでは、フロントエンドの機能に変更を加えるだけでもバックエンドへの影響を考慮しなければならず、軽微な変更にも時間がかかり現代のビジネス環境の変化の速さに対応することは困難と言えます。
拡張性と柔軟性を備えたコンポーザブルコマースのECシステムであれば、フロントエンドとバックエンドだけでなく各ビジネス機能も完全に独立しているので、機能ごとのアップデートや機能追加、最適化などにも素早く対応することができます。
商品中心から顧客中心のデジタルマーケティングへ
2023年現在はあらゆる業界がEC市場に参入し始めており、市場競争は激化しています。
例えば国内の化粧品EC市場には老舗の資生堂や花王、通販大手のDHC、外資系のロレアルやP&G、異業種の富士フイルムなどが参入しており、すでにレッドオーシャンの状態です。こうした市場ではシェアの大幅な拡大は難しいでしょう。
そのため、今後の企業成長のカギとなるのは既存顧客や会員向けのリピート購入施策となります。これはすなわち、デジタルマーケティングの主軸を従来の「商品中心」から「顧客中心」へとシフトしていく必要があるということです。
顧客中心のデジタルマーケティングを行うには、最新のトレンドや新しいチャネルを迅速に取り込んでいく必要があり、それを実現するコンポーザブルコマースがECシステムとして求められているのです。
それでは、次にコンポーザブルコマースに求められるシステム構成の例を解説します。
コンポーザブルコマースの最先端アーキテクチャ
コンポーザブルコマースは、例えばフロントエンドに「JAMstack」アーキテクチャ、バックエンドに「MACH」アーキテクチャなど、最先端のアーキテクチャを採用することが考えられます。
フロンドエンドシステムで用いられるJAMstackアーキテクチャ
「JAMstack」はクライアントサイドの最先端のWeb開発アーキテクチャで、以下の3つのWeb技術の頭文字を取って「JAM」と名付けられています。
◆JAMstackアーキテクチャを構成するWeb技術
② API
③ Markup
従来のWeb開発アーキテクチャでは、クライアントのリクエスト(要求)をWebサーバが受け付けて、サーバサイドのプログラムでデータベースにアクセスしてWebページを生成し、それをクライアントに返すという仕組みでブラウザにWebページが表示されます。有名なCMS(コンテンツマネジメントシステム)の「WordPress」も、このアーキテクチャが採用されています。
◆従来のWeb開発アーキテクチャにおけるWebページの生成イメージ
出典(図):筆者作成
上図のように、従来のアーキテクチャではブラウザからのWebサイトへのアクセス要求を受け付けたWebサーバは、Webページを生成するために毎回データベースと多くのやり取りを行う必要があるため、ブラウザにWebページが表示されるまでにある程度の時間を要します。
一方、JAMstackアーキテクチャでは、Webサーバにアクセスせずに、クライアントにコンテンツを提供するため、ブラウザへの高速表示が可能になります(下図を参照)。
◆JAMstackアーキテクチャにおけるWebページの生成イメージ
出典(図):筆者作成
つまり、JAMstackアーキテクチャでは、CDNなどのストレージに登録されている再利用可能な静的コンテンツを利用してブラウザにWebページを表示するため、Webサーバが毎回Webページを生成する必要がなく、非常に高速にWebページを表示することができるのです。
JAMstackアーキテクチャのメリットとしては主に以下が挙げられます。
◆JAMstackアーキテクチャのメリット
・高いスケーラビリティ
・強固なセキュリティ
これらのメリットが、フロントエンドシステムのアーキテクチャとしてJAMstackが採用されている理由です。
バックエンドシステムで用いられるMACHアーキテクチャ
「MACH」は、コンポーザブルソリューションのバックエンドシステムを設計、構築するための新しい手法で、 以下の4つのWeb開発技法の頭文字を取って「MACH」と名付けられています。
◆MACHアーキテクチャを構成する開発技法
② APIファースト
③ Cloud(クラウド)ネイティブ
④ Headless(ヘッドレス)
MACHアーキテクチャを採用することで柔軟性、拡張性、俊敏性に優れたシステムを構築できるので、顧客のニーズに最適な新しいサービスやソリューションを迅速に提供できるようになります。
それでは、MACHを構成するWeb開発技法①~④について詳しく見ていきましょう。
① マイクロサービス
「マイクロサービス」は、小規模なビジネス機能単位の独立した複数のサービスを組み合わせて、1つの大規模なアプリケーションを構築するソフトウェア開発技法です。複数のサービスが相互連携してシステム全体が機能します。
マイクロサービスでは各サービスが疎結合に設計されるため、新しいサービスの新規追加や既存サービスの修正を行う際に、他のサービスに影響を与えることなく、完全に独立したデプロイが可能になります。
② APIファースト
「APIファースト」は、アプリケーションの機能やコンポーネントを最初に再生可能なAPIとして定義・実装し、APIを基盤として統合されたアプリケーションやシステムを設計・構築するシステム開発技法です。
APIファーストでは、API間の接続性のシンプルさを重視した一貫性のあるインタフェースに基づいてアプリケーション開発を行うため、複数のサービスを並行開発することができます。異なるベンダーや開発チームのサービスであっても、APIに基づいて開発されていれば最適な組み合わせで利用することができるため、機能拡張や仕様変更も、市場のニーズに合わせて柔軟かつ俊敏に対応することが可能です。
③ クラウドネイティブ
「クラウドネイティブ」は、クラウドの機能と特性を最大限に活用できるようにアプリケーションやシステムを設計・構築するシステム開発技法です。
クラウドネイティブでは、クラウドの利点がアプリケーションやシステムの利点となります。最先端のセキュリティが適用されたインフラ上で、トラフィックに応じたスケールアップ/スケールダウンできるため、変化に強く、高いレジリエンスを備えたアプリケーションやシステムの構築・運用が可能です。
④ ヘッドレス
「ヘッドレス」は、フロントエンドとバックエンドを切り離し、APIを介して相互接続させるアプリケーション開発技法です。「ヘッド(頭)」はフロントエンドのプレゼンテーション層(ビュー)を意味します。
ヘッドレスアーキテクチャでは、フロントエンドとバックエンドが完全に切り離されるので、バックエンドに影響を与えずにフロントエンドの機能追加や仕様変更が可能になります。そのため、Webアプリケーションのフロントエンドの変更ニーズにもスピーディーに対応でき、保守運用の負荷を大幅に軽減させることにもつながります。
ヘッドレスアーキテクチャに基づいて構築したECシステムを「ヘッドレスコマース」と呼びます。ヘッドレスコマースについては以下の関連記事で詳しく解説していますので、興味のある方はあわせてご覧ください。
コンポーザブルコマースの最初の一歩!クラウド型のECプラットフォームを活用しよう
現在、オンプレミス環境でモノリシックなECシステムを運用している場合には、コンポーザブルコマースへの移行の最初の一歩として、クラウド型のECプラットフォームを利用してみることをおすすめします。
インターファクトリーの「ebisumart(エビスマート)」は、高い柔軟性と拡張性、最新のセキュリティを備えた、フルカスタマイズが可能なクラウド型のECプラットフォームサービスです。さまざまな外部サービスとのAPI連携にも対応可能なので、小・中規模だけでなく大規模なECプラットフォームとしてもご利用いただけます。詳しくは下記の公式サイトでご確認ください。