ダークストアとは、営業や販売などは行わず、ECサイトで販売した商品の配送拠点として機能する店舗、流通センター、倉庫などの総称で、例えばクイックコマースや食料品などの配送拠点として設置されます。
ダークストアを開設する場合、以下の要件を考慮する必要があります。
◆ダークストアを開設する場合の要件
・駐輪・駐車スペースを確保できること
・騒音を出さないように対策すること
クイックコマースサービスを成功させる鍵として期待されている「ダークストア」ですが、すでにクイックコマースサービスが普及している海外では、スクーターの配達による騒音などのダークストアの設置方法における課題も表面化しているため、新たにダークストアを開設する場合には十分な対策も必要です。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ダークストアについて解説します。
「ダークストア」はクイックコマースを成功させるための鍵
以下はダークストアの仕組みの概要図です。
◆ダークストアの仕組み

出典(図):筆者作成
「ダークストア」は、ECサイトで販売した商品を配送するための配送拠点であり、商品を保管する倉庫でもあります。そのため、通常の店舗のように商品を店頭購入することはできず、外からは店内の様子や実体が見えづらいことから、英語で「隠された」などの意味を持つ「ダーク」が使われるようになったと言われています。
クイックコマースサービスでは「ラストワンマイル(※)の効率化」は重要な課題となりますので、サービス利用者が多い地域に配送の拠点となるダークストアを設置することで即日配送を実現しようとしているのです。
(※)ラストワンマイルは、直訳すると「最後の1マイル(約1.6キロメートル)」で、ユーザーに商品やサービスを届ける際の最後の配送区間を指します。特に物流では、ラストワンマイルの効率化がコストとサービス満足度に大きな影響を与えると言われています。
ダークストアの特徴としては、通常の物流拠点や倉庫に比べて小型であるという点が挙げられます。
◆ダークストアは通常の物流拠点(倉庫)より小型

出典(図):筆者作成
ダークストアはサービスを利用する人が多いオフィス街や住宅街に設置されるため、通常の物流センターや倉庫のように大規模な物件や場所を確保することは困難です。そのため、対象エリアで空き店舗などを探して開設することになります。
コロナ禍を機に、世界中でダークストアが普及した
ダークストアの台頭のきっかけとなったのが、新型コロナウイルスのパンデミックでした。外出自粛により人々が直接店舗に行って買い物することができなくなったことで、ECやデリバリーサービスの需要が急増しました。
それに伴って、ダークストアが一気に増えた結果、現在はダークストアやフードデリバリーサービスにおける配達用スクーターの騒音や配達員の危険運転などが問題となっており、海外では規制強化の動きも出ています。
参考:DCSオンライン「バルセロナでは営業禁止!ヨーロッパでダークキッチン、ダークスストア規制強化の事情」(2023年3月17日掲載)
日本でもコロナ禍にリモートワークが普及したり、オンラインショッピングの利用機会が増えたりしたことで、デジタルデバイスやオンラインサービスへの受容感が醸成されてきているので、今後は海外に追随する形でクイックコマースとダークストアが普及していくのではないかと筆者は予想しています。
配送先まで半径2キロメートル圏内が理想
ダークストアを開設しているクイックコマースやフードデリバリーのサービスでは、ダークストアから半径2キロメートル圏内を配送対象エリアとしているケースが多いようです。
◆主なクイックコマースサービスの配送距離
OniGo(オニゴー):半径2キロメートル圏内
Wolt(ウォルト):半径4キロメートル圏内
出典:
・流通ニュース「セブンイレブン/ネットコンビニ『7NOW』2023年度・1万2000店に導入」(2023年3月3日掲載)
・AERA dot.「10分で届くスーパー『OniGO』が登場 1年後に100店舗を目指す」(2021年9月16日掲載)
・ITmedia ビジネスオンライン「イケア・ジャパン、スウェーデンフードのデリバリーサービスを開始 Woltと提携」(2021年6月23日掲載)
2キロメートル以上も対象エリアとしているサービスもありますが、例えばWoltでは配達距離に応じた配達料金を設定することで、長時間移動のコストをカバーしています。
十分な駐輪・駐車スペースの確保と騒音対策が必要
配送拠点となるダークストアでは、配達用車両の駐輪・駐車スペースが必要になります。業務効率の面からも、建物の高層階になるほど運搬効率が下がるため、配達拠点は、商品をすぐに運び出せる1階であることが理想です。
また、住宅地の中にダークストアを開設する場合には、特に深夜や早朝の時間帯に騒音を出さないようにするための運用とルールの徹底と近隣への配慮が求められます。実際に海外ではダークストアの騒音等が問題になっており、ダークストアに対する規制強化の動きも見られます。
◆フランス政府がクイックコマースのダークストア規制に着手
新型コロナウイルス関連の外出制限により、パリやリヨンなどの大都市を中心に、15分以内をめどに日用品や食品を宅配するダークストアや、客席がない宅配・テークアウト専門のレストラン「ダークキッチン」など新たな商業形態が台頭。空き店舗や空き事務所を改造し増大していったダークストアは、スクーターの配達による騒音問題や、実店舗に対する不正競争防止の観点から批判の対象となっていた。
引用:日本貿易振興機構(ジェトロ)「政府がクイックコマースのダークストア規制に着手(フランス)」(2022年9月14日掲載)
たばこ・酒類などの嗜好品を取り扱うことで販売機会を広げよう
クイックコマースの利用率を高めるためには、嗜好品である「たばこ」や「酒類」の取り扱いを検討してみるのも良いのではないかと筆者は考えます。ただし、これらの商品を取り扱うためには届出が必要になります。
特にたばこの販売申請の手続きは複雑ですので、届出の前に以下のサイトを確認してみてください。
ダークストアではなく店舗を配送拠点とする「7NOW」
セブン-イレブンの「7NOW(セブンナウ)」のように、ダークストアではなく、実店舗を配送拠点として使用するクイックコマースサービスもあります。
◆7NOWの特徴
・最短30分で商品が届く
・セブン‐イレブンの店舗で販売している商品の購入が可能(一部の商品を除く)
・配送料金はダイナミックプライシングを採用しており、深夜などは高額
(※)対応店舗は北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、広島エリアの一部店舗(配送エリアは順次拡大)
セブン-イレブンは既存の店舗を配送拠点として利用することで、コストを抑えて幅広いエリアでクイックコマースを展開しています。
◆セブン-イレブンのラストワンマイル施策

引用:株式会社セブン&アイ・ホールディングス2022年2月期IR資料「世界トップクラスのグローバル流通グループへの進化を目指して(2022年4月19日改訂)」
筆者は、7NOWでは今後、クイックコマースサービスの拡大で生じるリスクに対する備えと覚悟が課題となっていくであろうと考えています。
7NOWでは店頭スタッフが注文受付から商品のピッキングまでを担っているため、注文が増えると店舗側の負担も増大します。7NOWのユーザー層と実店舗のユーザー層は異なるため、7NOWの売上が増えて店舗の負担が増え、そのために店頭接客のクオリティが下がり実店舗の来店客が減ってしまう可能性も考えられます。
参考:流通ニュース「セブンイレブン/ネットコンビニ『7NOW』2023年度・1万2000店に導入」(2023年3月3日掲載)
また、7NOWを普及させるためには、例えばPayPayが実施したような大規模なキャンペーンなどを展開する必要がありますが、そうしたプロモーションでも店舗の協力が不可欠になります。そのため、事業部をまたがる売上についての見直しや一部の業務に負担を強いてでも覚悟を決めて臨む必要がありますが、日本の企業でシビアな決定を迅速にできるかというと、なかなか難しいようにも思えます。
まとめ
クイックコマースサービスを普及させるためには、即日配達を実現するための配送拠点であるダークストアが不可欠です。
ダークストアの開設に必要な要件は以下となります。
◆ダークストアを開設する場合の要件
・駐輪・駐車スペースを確保できること
・騒音を出さないように対策すること
クイックコマースに必要なマーケティング施策やアプリ要件などは後からでも変更できますが、拠点変更には多額のコストと労力がかかるので、地図上に半径2キロメートルの円を描くなどして、自社のサービスの商圏を検討してみることをおすすめします。
資料では食品企業向けECサイト(BtoB)の“勝ち筋”も紹介しています。ぜひご覧ください。