ECサイト構築・運用セキュリティガイドラインに沿ったECサイト構築


現代のビジネス環境において、Eコマース(EC)サイトは企業にとって不可欠な販売チャネルとなっています。しかし、その利便性と裏腹に、サイバー攻撃の脅威は日々高度化・巧妙化しており、ECサイト運営者は常にセキュリティリスクと隣り合わせの状態にあります。

「自社のECサイトは大丈夫だろうか」「情報漏えいが起きたらどうしよう」といった不安は、多くの運営者が抱える共通の悩みと言えるでしょう。

このような背景の中、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、経済産業省と連携し、特に中小企業のECサイト構築・運営担当者を対象とした「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」(以下、IPAガイドライン)を策定・公開しました。

参考:IPA「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン

このガイドラインは、ECサイトにおけるセキュリティ対策の重要性を啓発し、具体的な対策の実施を促すことを目的としています。

この記事では、このIPAガイドラインを基盤としつつ、日本国内における最新のセキュリティインシデント事例や攻撃手法の動向、そしてECサイト運営において最も重要な課題の一つである「個人情報保護」に焦点を当て、ECサイト事業者および開発エンジニアが取るべき具体的なセキュリティ対策を詳細に解説します。

目次

1. なぜECサイトのセキュリティ対策が不可欠なのか
2. IPAガイドラインに基づくECサイト構築・運用の要点
3. 個人情報保護のための徹底対策
4. 最新の脅威と具体的な防御策
5. ECプラットフォームにおけるセキュリティ機能の活用
6. インシデント発生に備える

1. なぜECサイトのセキュリティ対策が不可欠なのか

ECサイトにおけるセキュリティ対策の重要性は、単なる努力目標ではなく、事業継続における必須要件となっています。対策を怠った場合の影響は甚大であり、その理由は多岐にわたります。

1-1. 甚大な被害をもたらすセキュリティインシデント

ひとたびセキュリティインシデントが発生すると、企業は深刻な経済的損失を被る可能性があります。IPAの調査によれば、ECサイトが不正アクセス等により閉鎖した場合の売上高の平均損失額は1社あたり約5,700万円、インシデント対応に要した費用の平均額は約2,400万円にものぼると報告されています。

さらに、個人情報保護委員会(PPC)の調査では、不正アクセスを受けたECサイト運営事業者の40%以上で1,000万円以上の損失が発生しており、中には数億円規模の損失に至ったケースも存在します。

参考:個人情報保護委員会「EC サイトへの不正アクセスに関する実態調査」(2022年3月16日発表)

経済的な損失だけではありません。事業運営そのものへの影響も深刻です。ECサイトの閉鎖期間中の売上損失は、特に中小企業にとっては死活問題となり得ます。実際、不正アクセスを受けたECサイト運営事業者の14%がサイトの再開を断念し、閉鎖に追い込まれています。

復旧できたとしても、風評被害による顧客離れが進み、インシデント前の売上水準に回復するまでに数年以上の期間を要する場合もあります。被害から1年半以上経過しても、売上高が被害前の50%以下に留まっている事業者も存在するのです。このような事態は、顧客からの信頼を失墜させ、長期的なブランドイメージの低下にもつながります。

1-2. 狙われるECサイト:進化する脅威と背景

ECサイトがサイバー攻撃者の主要な標的となるのには明確な理由があります。ECサイトは、顧客の氏名、住所、連絡先といった個人情報や、クレジットカード情報などの決済情報、さらには購買履歴といった機密性の高い情報を大量に扱っています。これらの情報は、不正利用や転売目的の攻撃者にとって非常に価値が高いのです。攻撃者は、セキュリティ対策が不十分なECサイトを執拗に探し出し、脆弱性を突いて侵入を試みます。

近年、ECサイトへのサイバー被害が増加している背景には、ECサイト構築パッケージやSaaS型サービスの普及が挙げられます。これにより、専門知識がなくても比較的容易にECサイトを構築できるようになった一方で、セキュリティ対策が不十分なまま運営されているサイトが増加する要因ともなっています。PPCの調査によると、サイバー被害を受けたECサイトの実に97%が、ECサイト構築パッケージ利用またはスクラッチ開発による「自社構築サイト」であったことが判明しています。

この事実は、ECサイトの構築・運用においてセキュリティ対策が適切に実施されていないケースが多いことを示唆しています。IPAが実施した診断では、自社構築サイトの実に52%が、いつサイバー被害に遭ってもおかしくない危険な状態にあると評価されています。つまり、ECサイト構築の容易さが、皮肉にも攻撃対象となりうる脆弱なサイトの増加を招いている側面があるのです。

専門的な知識やリソースが不足している場合、セキュリティ対策が見落とされがちになり、結果として攻撃者の格好の標的となってしまうリスクが高まります。この状況は、堅牢なセキュリティ基盤を持つプラットフォームの選定や、セキュリティに精通した専門家の関与がいかに重要であるかを物語っています。

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日本国内においても、ECサイトを狙った脅威は常に進化しています。近年では、クレジットカード情報を窃取するWebスキミング(Magecart型攻撃)、サイトの運営停止やデータ暴露を伴うランサムウェア攻撃、他のサービスから漏えいした認証情報を悪用するクレデンシャルスタッフィング攻撃などが顕著です。また、ECプラットフォームやプラグインの脆弱性を悪用する攻撃、サイトに組み込まれた第三者提供のサービス(決済モジュール、アクセス解析ツールなど)を経由するサプライチェーン攻撃のリスクも増大しています。

1-3. IPAガイドラインの役割

このような厳しい状況を踏まえ、IPAガイドラインは、特にセキュリティ対策に十分なリソースを割くことが難しい中小企業を支援するために策定されました。このガイドラインは、ECサイトの構築から運用に至るまで、実施すべき具体的なセキュリティ対策を体系的に示しており、事業者が自社の状況に合わせて対策を進めるための羅針盤となるものです。

2. IPAガイドラインに基づくECサイト構築・運用の要点

IPAガイドラインは、ECサイトのセキュリティ対策を経営層の視点と実務担当者の視点の両面から捉え、具体的な取り組みを示しています。

2-1. ガイドラインの構成概要

ガイドラインは大きく分けて、経営者が主導すべき事項と、実務担当者が実践すべき事項で構成されています。

経営層には、セキュリティ対策の重要性を認識し、必要な方針決定、予算・人材確保、実施指示、見直し指示、インシデント対応体制の整備、外部委託先の管理、最新動向の把握といった役割が求められます。

一方、実務担当者向けには、「新規構築時」と「運用時」のそれぞれで実践すべき具体的な対策要件や確認・検討事項が詳細に記述されています。

2-2. 経営者編:経営者が主導すべき取り組み

ECサイトのセキュリティ対策は、技術的な側面に留まらず、組織全体での取り組みが不可欠です。IPAガイドラインでは、経営者がリーダーシップを発揮し、以下の点を指示することの重要性を強調しています。

① 組織全体の方針決定 セキュリティを経営課題と位置付け、組織としての方針を明確にする
② 予算と人員の確保 対策に必要な予算を確保し、担当部署や担当者を明確にする
③ 対策の検討と実施指示 ECサイトの構築・運用に必要なセキュリティ対策を具体的に検討させ、その実施を指示する
④ 対策の見直し指示 定期的にセキュリティ対策の状況を確認し、必要に応じて見直しを行うよう指示する
⑤ インシデント発生時の体制整備 万が一、事故や被害が発生した場合の対応計画(インシデントレスポンスプラン)を策定し、復旧体制を整備する
⑥ 外部委託時の責任明確化 外部に開発や運用を委託する場合、セキュリティ要件や責任範囲を契約で明確にする
⑦ 最新動向の収集指示 最新のセキュリティリスクや対策に関する情報を継続的に収集し、対策に反映させるよう指示する

これらの経営層によるコミットメントがあって初めて、現場レベルでの具体的なセキュリティ対策が効果的に機能します。WAFの導入や定期的な脆弱性診断、従業員教育といった対策には、相応の予算と人員が必要です。現場担当者がリスクを認識していても、経営層の承認とリソース配分がなければ対策を実行に移すことは困難です。

また、インシデント発生時の対応も、経営層の指示のもと、部門横断的な連携が不可欠となります。ガイドラインが経営者の役割を明記しているのは、セキュリティ対策の成否が組織的な意思決定と支援に大きく依存していることを示しています。その背景には、対策を怠った場合の甚大な損失リスクが存在します。

2-3. 実践編:新規構築時の重要対策

ECサイトを新たに構築する際には、初期段階からセキュリティを考慮した設計・実装を行うことが極めて重要です。売上や集客を優先するあまり、セキュリティ対策を後回しにすると、将来的に大きなリスクを抱え込むことになります。

IPAガイドラインでは、新規構築時に実施すべき対策要件を「必須」「必要」「推奨」の3段階で示しており、チェックリストとしても活用できます。特に重要な「必須」要件として、以下の点が挙げられます。

① 安全な基盤の構築 IPAが別途公開している「安全なウェブサイトの作り方」および関連する「セキュリティ実装チェックリスト」に準拠してECサイトを構築することが求められます。これは、設計・開発段階からSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)といった既知の脆弱性を排除するための具体的な指針です。開発者はこれらの脆弱性の原理と対策を理解し、セキュアコーディングを実践する必要があります
② ソフトウェアの最新化 ECサイトを構成するOS、ミドルウェア、Webサーバ、アプリケーション、プラグイン等のソフトウェアは、常に最新の状態に保つ必要があります。具体的には、提供元からリリースされるセキュリティパッチを速やかに適用し、サポートが終了したソフトウェアは使用しないことが必須です。既知の脆弱性を放置することは、攻撃者に侵入の機会を与えることに他なりません

この他にも、ガイドラインではサーバの適切な設定(ハードニング)、データの最小化原則の適用、初期設定における厳格なアクセス制御などが求められます。

2-4. 実践編:運用時の重要対策

ECサイトは構築して終わりではなく、運用段階においても継続的なセキュリティ対策が不可欠です。サイバー攻撃は日々進化しており、新たな脆弱性が発見される可能性も常に存在します。

① 継続的な脆弱性管理 ソフトウェアのセキュリティパッチ適用やアップデートを継続的に実施することが基本です。加えて、定期的な脆弱性診断(Webアプリケーション診断、プラットフォーム診断)を実施し、潜在的な問題を早期に発見・修正することが重要です。IPAの調査で自社構築サイトの半数以上が高いリスクを抱えている ことからも、継続的なチェックの必要性が分かります
② 管理画面のセキュリティ強化 商品情報や顧客情報といった重要データを扱う管理画面へのアクセスは厳格に管理する必要があります。特定のIPアドレスからのみアクセスを許可する(IPアドレス制限)、ID/パスワードに加えてワンタイムパスワードなどを利用する多要素認証(MFA/2FA)を導入する、といった対策が有効です。また、管理画面での操作履歴を記録・監視し、不正操作や設定ミスがあった場合に追跡できるようにすることも重要です
③ 監視と検知 不正アクセスやWebサイトの改ざん(悪意のあるスクリプトの埋め込みなど)、その他不審な挙動を検知するための監視体制を構築します。侵入検知システム(IDS/IPS)やWAFのログ監視などが有効です
④ 定期的なバックアップ 万が一のシステム障害やランサムウェア攻撃などに備え、重要なデータ(顧客情報、取引データ、サイトコンテンツ等)は定期的にバックアップを取得し、安全な場所に保管します。また、バックアップからの復旧手順を確立し、定期的にテストすることも重要です

3. 個人情報保護のための徹底対策

ECサイト運営において、顧客の個人情報を適切に保護することは、法的義務であると同時に、事業の信頼性を維持するための根幹です。個人情報の漏えいは、顧客からの信頼失墜、ブランドイメージの毀損、そして多額の損害賠償請求や行政からの処分につながる可能性があります。

ここでは、個人情報保護法(APPI)の要求事項も踏まえ、ECサイトが講じるべき具体的な安全管理措置について詳述します。

3-1. 個人情報保護の重要性と法的背景

個人情報保護法では、個人情報取扱事業者(多くのECサイト事業者が該当)に対し、取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置(安全管理措置)を講じることを義務付けています。

この安全管理措置は、技術的な対策だけでなく、組織的、人的、物理的な対策を含む包括的なものである必要があります。

3-2. データライフサイクル全体を通じた安全管理措置

個人情報は、取得、保管、利用、送信、廃棄といったライフサイクル全体を通じて、適切に管理されなければなりません。

◆取得段階

・データ最小化の原則:ECサイト運営に必要な最小限の個人情報のみを取得します。不要な情報の収集は避けるべきです。
・利用目的の明確化と同意:個人情報を取得する際は、利用目的を具体的に特定し、プライバシーポリシー等で明示し、原則として本人の同意を得る必要があります。

◆保管段階

・情報の暗号化:氏名、住所、メールアドレス、電話番号などの個人情報は、データベース等に保管する際に必ず暗号化します。万が一、不正アクセスによりデータが窃取された場合でも、情報の内容が解読されるリスクを低減できます。特に、パスワードはハッシュ化(元に戻せない形式への変換)して保存することが不可欠です。
・セキュアなデータベース管理:データベースサーバ自体のセキュリティ設定(不要なポートの閉鎖、アクセス制御、OSやミドルウェアの最新化)を適切に行い、不正アクセスを防止します。

◆利用段階

・厳格なアクセス制御:個人情報へのアクセス権限は、業務上必要な担当者のみに限定し、権限も必要最小限に留めます。例えば、顧客対応担当者、受注処理担当者など、役割に応じてアクセスできる情報の範囲や操作権限(閲覧、編集、削除など)を細かく設定します。アクセス権限は定期的に見直し、不要になった権限は速やかに削除します。
・安全な処理環境:個人情報を取り扱う端末やシステム環境(例:管理画面にアクセスするPC)も、ウイルス対策ソフトの導入やOS・ソフトウェアの最新化など、セキュリティ対策を徹底します。

◆送信段階

・通信の暗号化(TLS/SSL):顧客が個人情報(ログイン情報、会員登録情報、注文情報、クレジットカード情報など)を入力・送信する全てのページにおいて、TLS(Transport Layer Security)による通信の暗号化(HTTPS化)を必須とします。これにより、通信経路上でのデータの盗聴や改ざんを防ぎます。サイト全体をHTTPS化することが理想的です。使用するTLS証明書は、信頼できる認証局から発行された有効なものを利用し、有効期限の管理も重要です。全ページHTTPS化に対応するプラットフォームもあります。

◆廃棄段階

・確実な削除・廃棄:利用目的を達成し、保管期間が終了した個人情報は、復元不可能な方法で速やかに削除または匿名化します。紙媒体などに記録されている場合は、シュレッダー処理や溶解処理など、物理的に復元できない方法で廃棄します。

3-3. 組織的な安全管理措置

技術的な対策に加え、組織全体での取り組みも不可欠です。

3-3-1. 従業員教育

個人情報を取り扱う全ての従業員に対し、個人情報保護の重要性、関連法規、社内規程、具体的な取り扱い手順、そしてフィッシング詐欺や標的型攻撃メールといった脅威に関するセキュリティ意識向上のための研修を定期的に実施します。

3-3-2. 内部規程の整備

個人情報の取り扱いに関する規程(プライバシーポリシー、情報セキュリティポリシー、個人情報管理規程など)を策定し、従業員に周知徹底します。アクセス管理手順、インシデント発生時の報告体制なども明確に定めます

3-3-3. 委託先の監督

ECサイトの開発・運用、データ分析、マーケティング施策などを外部業者に委託する場合、委託先が適切な安全管理措置を講じているかを確認し、契約においてセキュリティ要件や責任範囲を明確に定める必要があります。定期的な監査なども有効です。

個人情報保護は、単なるコンプライアンス要件ではなく、顧客との信頼関係の基盤です。これらの対策を徹底することが、EC事業の持続的な成長につながります。

4. 最新の脅威と具体的な防御策

ECサイトを取り巻く脅威は常に変化しており、運営者は最新の攻撃手法を理解し、それに対応する防御策を講じ続ける必要があります。ここでは、近年日本国内のECサイトで特に注意すべき脅威と、それらに対する具体的な防御策を解説します。

4-1. 日本国内におけるECサイトへの最新脅威動向

日本国内のECサイトで注意すべき脅威について、6つ解説します。

4-1-1. Webスキミング(フォームジャッキング)

攻撃者がECサイトの決済ページなどに不正なスクリプトを埋め込み、顧客が入力したクレジットカード情報を窃取する攻撃です。Magecart(マジェカート)と呼ばれる攻撃グループが有名で、正規のサイトに巧妙に紛れ込ませるため、発見が遅れるケースがあります。

4-1-2. ランサムウェア攻撃

サーバやシステムを暗号化し、復旧と引き換えに身代金を要求する攻撃です。近年では、データを暗号化するだけでなく、事前に窃取した情報を公開すると脅迫する二重恐喝(ダブルエクストーション)の手法も増えています。ECサイトが停止することによる売上損失に加え、情報漏えいのリスクも伴います

4-1-3. クレデンシャルスタッフィング

他のサービスから漏えいしたIDとパスワードのリスト(リスト型攻撃)を用いて、ECサイトへの不正ログインを試みる攻撃です。多くのユーザーが複数のサービスで同じパスワードを使い回している傾向を悪用します。成功すると、アカウントの乗っ取りや登録情報の不正利用につながります。

4-1-4. プラットフォーム・プラグインの脆弱性悪用

ECサイト構築に使用されているCMS(コンテンツ管理システム)、ECプラットフォーム、あるいは拡張機能(プラグイン)に存在する脆弱性を突く攻撃です。特に広く利用されているソフトウェアの脆弱性は、発見されると多数のサイトが一斉に攻撃対象となる可能性があります。

4-1-5. サプライチェーン攻撃

ECサイトに組み込まれている第三者提供のJavaScriptライブラリ、決済モジュール、Web接客ツール、広告配信タグなどが改ざんされ、それを経由して攻撃が行われるケースです。自社のセキュリティ対策が強固であっても、連携している外部サービスのセキュリティレベルが低い場合、そこが侵入口となるリスクがあります

4-1-6. フィッシング詐欺

ECサイトの運営者や従業員、あるいは顧客をだまして、認証情報や個人情報を詐取しようとするメールやSMSを用いた攻撃です。巧妙な偽装メールにより、不正サイトへ誘導されるケースが後を絶ちません。

これらの脅威に対抗するためには、多層的な防御アプローチが必要です。

4-2. 堅牢な防御策の実装

続いて、防御策について具体的に解説します。

4-2-1. WAF(Web Application Firewall)の導入

WAFは、Webアプリケーションに対する不正な通信を検知・遮断する重要なセキュリティ対策です。SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング(XSS)、OSコマンドインジェクションといった、Webアプリケーションの脆弱性を悪用する一般的な攻撃の多くを防御できます。

セキュアコーディングと組み合わせることで、より強固な防御層を形成します。WAF機能を提供するプラットフォームもあります。

4-2-2. 高度なログインセキュリティ(不正ログイン対策)

不正ログイン対策には、以下が有効です。

多要素認証 (MFA/2FA) 顧客アカウントおよび管理者アカウントの両方に、パスワード以外の認証要素(SMS認証、認証アプリ、生体認証など)を組み合わせるMFA/2FAを導入します。これにより、パスワードが漏えいした場合でも不正ログインのリスクを大幅に低減できます。管理ツールに標準で2段階認証が搭載されていたり、ユーザー向けにもオプションで2段階ログイン機能を提供したりするプラットフォームがあります
ログイン試行回数制限とアカウントロック 一定回数以上ログインに失敗した場合、アカウントを一時的にロックする機能を実装します。これにより、総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)やパスワードリスト攻撃を緩和できます
CAPTCHA認証 ログイン画面、会員登録、パスワード再設定などの操作時に、人間による操作であることを確認するためのCAPTCHAを導入します。これにより、ボットによる自動化された不正アクセス試行を効果的に防ぐことができます。さまざまな箇所にreCAPTCHA認証を導入可能なプラットフォームもあります
パスワードポリシーの強化 推測されにくい複雑なパスワードの設定をユーザーに要求し、定期的なパスワード変更を推奨します。パスワードの使い回し禁止の啓発も重要です
不正ログイン検知 ログイン時のIPアドレス、地域、時間帯、デバイス情報などを分析し、通常とは異なるパターンを検知した場合にアラートを発したり、アクセスをブロックしたりする仕組みを導入します。このような検知に対応する機能を持つプラットフォームもあります

4-2-3. APIセキュリティ

モバイルアプリ連携や外部サービス連携などでAPIを利用している場合、APIに対するセキュリティ対策も不可欠です。適切な認証・認可制御、リクエスト回数制限(レートリミット)、不正な入力値の検証などを実装する必要があります。

4-2-4.サードパーティリスク管理

ECサイトに組み込む外部のスクリプト、プラグイン、サービスは、その提供元のセキュリティ対策状況を十分に確認し、信頼できるもののみを利用します。Content Security Policy (CSP) を導入し、意図しない外部スクリプトの実行を制限することも有効な技術的対策です。意図しない変更を検知する機能を持つプラットフォームもあります。

4-2-5.定期的なセキュリティ診断とペネトレーションテスト

自動化された脆弱性スキャンツールでは発見できない脆弱性や設定ミスを洗い出すために、専門家による定期的なセキュリティ診断やペネトレーションテスト(侵入テスト)を実施することが強く推奨されます。

5. ECプラットフォームにおけるセキュリティ機能の活用

ECサイトのセキュリティ対策を自社で網羅的に実装・維持管理するには、高度な専門知識と継続的なリソース投入が求められます。特に、IPAの調査で被害の多くが報告されている自社構築サイト では、セキュリティ対策が不十分になるリスクも指摘されています。

このような背景から、セキュリティに配慮したSaaS/PaaS型ECプラットフォームの利用は、多くのセキュリティ要件を満たすための一つのアプローチとなり得ます。

5-1. プラットフォーム利用によるセキュリティ管理の効率化

一般的に、セキュリティに注力したECプラットフォームでは、インフラストラクチャの管理、OSやミドルウェアのパッチ適用、基本的なセキュリティ機能の提供などがサービス提供者側の責任範囲に含まれることがあります

これにより、ECサイト運営者はアプリケーションレベルのセキュリティや運用にリソースを集中させやすくなり、IPAガイドラインや一般的なベストプラクティスで推奨されるセキュリティ管理策の実装・運用負荷を軽減できる可能性があります

5-2. ECプラットフォームに見られる標準的なセキュリティ機能例

多くのECプラットフォームでは、標準機能として以下のようなセキュリティ対策が組み込まれている場合があります。これらは、ECサイト運営の基本的なセキュリティレベルを確保する上で役立ちます。

5-2-1. 管理画面への不正アクセス対策

管理画面への不正アクセス対策には、以下のような機能があります。

IPアドレス制限 あらかじめ登録された特定のIPアドレスからのみ管理画面へのアクセスを許可することで、不正アクセスを防止します。これは、IPAガイドライン等で推奨される管理画面のアクセス制御を実現する基本的な機能です
2段階認証 ID/パスワードによる認証に加え、別の認証要素を要求することで、認証を強化します

5-2-2. ECサイトへの不正アクセス対策

プラットフォーム全体で不正と判断されるアクセスパターンを検知し、自動的にブロックする仕組みが備わっていることがあります。サイトごとの個別設定が可能な場合もあります。

5-2-3. クリックジャッキング対策

悪意のある第三者が用意した偽のWebページ上に透明化した正規のECサイト画面を重ねて表示し、ユーザーに意図しない操作をさせるクリックジャッキング攻撃を防ぐため、外部サイトからの<iframe>による画面埋め込みを制限する設定が可能な場合があります。

5-3. ECプラットフォームに見られる追加機能例

より高度なセキュリティ要件に対応するため、多くのECプラットフォームでは、さまざまな追加機能が提供されています。これらを活用することで、より多層的で堅牢な防御体制の構築を目指すことができます。

WAF(Web Application Firewall) Webアプリケーションへの攻撃を検知・遮断する重要な機能です
2段階ログイン 顧客アカウントのセキュリティを強化し、不正ログインやアカウント乗っ取りのリスクを低減します
reCAPTCHA認証 ログイン、会員登録、注文、問い合わせなど、ボットによる不正行為が懸念される箇所に導入し、自動化された攻撃を防ぎます
全ページHTTPS サイト全体の通信を暗号化し、盗聴や改ざんのリスクから保護します
会員パスワード暗号化(ハッシュ化) データベースに保存されるパスワードを不可逆的な形式に変換し、万が一漏えいした場合のリスクを最小限に抑えます
PCI DSS準拠オプション クレジットカード情報を安全に取り扱うための国際基準であるPCI DSSに準拠した決済連携を実現します。クレジットカード情報を扱うECサイトにとっては極めて重要です
不正注文検知サービス連携 外部の不正検知サービスと連携し、不正な注文や決済のリスクを低減します
テンプレート改ざん検知 サイトのデザインテンプレートファイルに加えられた変更を検知し、不正な改ざんの可能性を早期に警告します

参考:EBISUMARTサポートサイト「ケース別で紹介!セキュリティ対策完全マニュアル【全35ケース】

5-4. プラットフォーム機能によるガイドライン遵守の支援

ECプラットフォームが提供する標準機能や追加機能を活用することで、IPAガイドラインや一般的なセキュリティベストプラクティスで求められる多くの要件に対応できる可能性があります。

自社でこれらの対策をゼロから構築・維持管理する場合と比較して、適切な機能を持つプラットフォームを活用することで、ECサイト運営者は労力やコストを削減しつつ、一定レベルのセキュリティを確保できるようになるでしょう。これは、特にリソースが限られる場合に有効なアプローチとなり得ます。

6. インシデント発生に備える

どれほど強固なセキュリティ対策を講じていても、サイバー攻撃のリスクを完全にゼロにすることは困難です。したがって、万が一セキュリティインシデント(事故や被害)が発生した場合に備え、迅速かつ適切に対応するための準備をしておくことが極めて重要です。

6-1. インシデントレスポンス(IR)プランの必要性

インシデント発生時に慌てず、被害を最小限に抑え、迅速に復旧するためには、事前に文書化されたインシデントレスポンス(IR)プランを用意しておくことが不可欠です。IRプランは、インシデント発生時の行動計画であり、誰が、何を、いつ、どのように行うかを明確に定めたものです。

6-2. IRプランの主要な構成要素

効果的なIRプランには、一般的に以下の要素が含まれます。

準備 ・インシデント対応チームの編成と役割・責任の明確化
・緊急連絡網(社内関係者、経営層、法務、広報、外部専門家、関係省庁など)の整備
・対応に必要なツール(ログ分析ツール、フォレンジックツール、コミュニケーションツール等)の準備
・外部のセキュリティ専門家(インシデント対応支援、フォレンジック調査、法律顧問など)との事前連携
・対応チームメンバーに対する定期的な訓練・演習の実施
検知と分析 ・インシデントの兆候をどのように検知するか(監視システムからのアラート、ユーザーからの報告、外部からの指摘など)
・検知された事象が実際にインシデントであるかどうかの初期評価(トリアージ)
・インシデントの影響範囲、深刻度、原因の特定に向けた分析
封じ込め ・被害の拡大を防ぐための応急措置(感染したサーバのネットワークからの隔離、不正アクセス経路の遮断)
・証拠保全(ログ、ディスクイメージなど)
根絶 ・インシデントの根本原因(マルウェア、脆弱性、不正アカウントなど)を特定し、完全に排除する
復旧 ・安全が確認されたシステムやデータを、バックアップ等から復旧し、通常のサービス提供状態に戻す
・復旧後、システムが正常に動作しているか、再発がないかを監視する
インシデント後の活動 ・インシデント対応プロセス全体をレビューし、問題点や改善点を洗い出す
・分析結果に基づき、再発防止策を策定・実施する
・IRプラン自体を見直し、改善する

6-3. 法令等に基づく報告義務

特に個人情報の漏えいやそのおそれがある場合、個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会(PPC)への報告および本人への通知が義務付けられる場合があります。IRプランには、これらの報告・通知に関する手順や判断基準も盛り込んでおく必要があります。

6-4. コミュニケーション戦略

インシデント発生時、特に顧客情報漏えいなどが疑われる場合には、顧客、関係省庁、メディア、その他ステークホルダーに対して、迅速、正確、かつ透明性の高い情報開示を行うことが、信頼回復の鍵となります。IRプランには、広報対応の方針や手順、担当部署なども定めておくべきです。

セキュリティ対策は、「予防(プロアクティブな対策)」と「対応(リアクティブな備え)」の両輪で考える必要があります。IPAガイドラインに沿った構築・運用によりインシデントの発生確率を下げる努力を継続するとともに、万が一インシデントが発生してしまった場合に被害を最小化し、迅速に復旧するためのIRプランを整備しておくことが、成熟したセキュリティ体制には不可欠です。統計が示すようにインシデントは起こりうるという前提に立ち、事前の備えを怠らないことが重要です。

7. まとめ

本記事では、IPAの「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」を基軸に、ECサイト運営におけるセキュリティ対策の重要性、個人情報保護の徹底、最新のサイバー脅威と具体的な防御策、そしてインシデント発生への備えについて解説しました。

ECサイトにとって、セキュリティ対策はもはやオプションではなく、事業継続と顧客からの信頼を守るための生命線です。また、ECサイトを狙う脅威は常に進化しています。これらに対抗するためには、WAF、多要素認証、定期的な脆弱性診断といった多層的な防御策を講じるとともに、最新の脅威情報を常に収集し、対策をアップデートし続ける必要があります。

セキュリティは一度対策を施せば完了するものではなく、継続的な評価、改善、そして変化する脅威への適応が求められるプロセスです。ECサイト運営者およびエンジニアの皆様には、本記事で解説した内容やIPAガイドラインを参考に、自社のセキュリティ対策状況を改めて点検し、必要な改善を計画・実行することを推奨します。

積極的かつ継続的なセキュリティへの取り組みは、サイバー攻撃のリスクからビジネスを守るだけでなく、顧客からの信頼を高め、競争の激しいEコマース市場における持続的な成功の基盤となるでしょう。

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高山 穣
2013年、株式会社インターファクトリーに入社。ソフトウェアエンジニアとしてECプラットフォーム「EBISUMART」の開発に従事した後、エンジニアリングマネージャーとして生産性向上のための環境整備とピープルマネジメントを担当。2020年より「EBISUMART Enterprise」のプロジェクト立ち上げと、プロダクト責任者として開発を統括。