大企業がフルスクラッチでECサイトを構築する3つの理由


大手企業のEC担当者なら、これからECサイトを立ち上げたり、リニューアルを検討する場合はゼロから作るフルスクラッチのECサイトが最初に思い浮かぶでしょう。ひと昔前は商品登録数が10万点を超えるような大規模ECサイトを構築する方法は、フルスクラッチしか方法がありませんでした。

しかし、中・大規模のECシステムのトレンドは”ECパッケージ”や”クラウドEC”をカスタマイズして、ECサイトを作る方式であり、ECパッケージを提供しているベンダーは機能と拡張性を大幅に向上させて導入する企業が多くなっており、年々フルスクラッチでECサイトを作る意味が無くなってきました。

とはいえ、国内ECシステムのフラッグシップとされるユニクロやZOZOTOWNのECシステムはフルスクラッチを採用しております。その理由は”内製化”したいという背景もありますが、売上を最大化する手法の一つをフルスクラッチで取りやすく、今でも大企業が採用する方式なのです。

本日はebisumartでWEBマーケティングを担当している筆者が、ECサイトをフルスクラッチで作る3つの理由について詳しく解説いたします。

フルスクラッチとECパッケージの違いは?

まず、フルスクラッチを解説する前に、フルスクラッチとECパッケージには、どのような違いがあるのでしょうか?下記の表をご覧ください。

フルスクラッチ、ECパッケージ双方ともに、カスタマイズやシステム連携などほぼ実現可能です。しかし、ECパッケージはコストや開発期間において、最初からECの機能が実装されている”パッケージ”をもとに開発しているため、ECパッケージの方が安く、早く開発することができます。

もちろん、ECパッケージの開発においても、この表を上回る費用や開発期間のプロジェクトはありますが、そういったケースはフルスクラッチ並みの要件の場合に限られます。

フルスクラッチでECシステムを作る3つの理由とは?

ECパッケージが機能を拡大し、ほとんどの実装をフルスクラッチより安く実現できる中、あえてフルスクラッチでECシステムを構築する意味はどこにあるのでしょうか?

それではフルスクラッチでECシステムを作る3つの理由を解説します

理由①ECサイトの機能範囲外の開発が多い要件はフルスクラッチ

例えば、ECサイトの要件ではない”予約システム”など、通常のECサイトと大幅に異なる要件は、既成のECパッケージをカスタマイズしても、費用を安くすることはできません。

なぜならECパッケージとは”ECに必要な機能がパッケージ化”されているものをカスタマイズする開発手法であり、それらの機能範囲外で開発になるために、費用と開発期間がフルスクラッチ並みにかかるからです。

また、ECパッケージベンダーも、自社のパッケージプログラムを流用できないシステムの受注は”やんわり”と断ることが多いため、ECサイト以外の要件が多い時は、フルスクラッチで作らざるを得ません。

EC担当者ができるだけ開発費用を抑えて、質の高いECシステムを作るためには、まずECシステムベンダーの過去の開発事例を聞いてみることです。過去に自社と似たような業種の開発実績があれば、過去のノウハウを生かして開発できるため開発費用を抑えることができます。

理由②システムは全て自社で内製化したい

ECシステムに限らず、なるべくシステムを内製化したい企業があります。クラウドサービスが全盛の時代ですが、「ブラックボックス化せず、全て保守管理できるようにしたい」というのが理由です。これを実現できるのは、自社で技術者を抱え、開発力のある企業が対象となります。

しかし、ITエンジニア不足が常態化しているIT業界で、有力な開発者を相当数抱え込めるのは、有名企業に限られるため、自社でECシステムをフルスクラッチで作るのは容易ではありません。また開発ベンダーにフルスクラッチをお願いするとしても、ソースコードの開示が前提となります。

こういった文化の企業には、ソースコードを開示しないECパッケージベンダーやクラウドECは要件から外れるため、フルスクラッチの手法が一番です。

理由③常に改善を続け売上を最大化するためのECサイトを作る

CVR(コンバージョンレート)を高め、ECサイトによる売上を最大化するための開発を自社主体で行います。この体制を作るには内製でフルスクラッチのECサイトを作るしかありません。なぜなら外注やECパッケージベンダーでは、効果測定のスピードに対応できないからです。

優秀な社内マーケティング部門がECサイトの効果測定を行い課題を発見。そして課題に対する改善のテストを迅速に行い、CVRを高めるための改善を行います。

具体的には、下記のような例になります。

<マーケティング担当の仮説から実証まで>
ユーザー行動データーの分析の結果、ECサイトで注文途中の画面で在庫情報を見せた方が、CVRが高まる仮説を立て、社内ITに開発依頼して期間限定でテストを行った。その結果、CVRが0.2%改善したため、この改善を適用し、売上を拡大した。

このような状況は、IT部門が内製のフルスクラッチだからこそできる改善です。

ECシステムが外注であれば、その機能を実装するには数百万円という高い費用と開発期間がかかります。稟議を通すために多くのMTGとコンセンサスが必要になってくるため、その仮説を証明するためのドキュメント作成と費用対効果を証明する必要があり、多大な労力が発生します。

しかも、やっと稟議が通り、開発をスタートするころには、その仮説自体が陳腐化(別プロジェクトの重要度が高まったり、もっと良い仮説が生まれる、あるいはECサイトへの投資がストップする)することが多く、そもそも売上を向上させるための開発が立ち行かないことが多いのです。

しかし、それが社内で作ったフルスクラッチのECシステムであれば、上長の承認が得られれば、すぐに社内のIT部門が改善に着手し、ローンチ後にデータ検証を行い仮説を検証することができます。

これを実現するためには、マーケティング部門とIT部門の上長が同じ人物が担当するなど、部門間でコミュニケーションが密にとれている必要がありますが、密接な連携がとることができれば、最も売上を高められる開発手法がフルスクラッチによるECサイトなのです。

このような高速PDCAはZOZOTOWNなどの有名ECサイトでは必ず採用されている手法なのです。

フルスクラッチでECシステムを作るなら内製化しないと意味がない

フルスクラッチを請け負うECベンダーも数多くいますが、先に説明したとおり、ECパッケージの拡張性はフルスクラッチに迫っており、費用と開発期間が大幅に圧縮できるために外注先としてフルスクラッチを選ぶメリットがないのです。

ですから、フルスクラッチでECシステムを作る場合は、”常に改善を続け、売上を最大化させる”ことが目的となるため、社内に多くの開発リソースのある企業に限られます。また開発力だけでなく、優れたマーケーティング部門が必要となります。

◆社内でフルスクラッチでECシステムを作る条件
・社内に開発力があるIT部門があること
・優れたマーケーティング部門があること

この条件を満たす企業は、必然的に超大手企業に限られてくるのが現状です。なぜならIT部門もマーケーティング部門も優れた人材は、有名企業に集まるため、この両方のリソースを抱えるのは、非常に困難だからです。

しかし、社内でECシステムを内製化するにもリスクはあります。それがブラックボックス化とシステムの陳腐化です。

社内システムはドキュメントが整備されないことが多く、退職者とともにブラックボックス化する

社内で作ったシステムはドキュメントが整備されていないことが多いのが特徴であり、それは有名企業であっても例外ではありません。私の知り合いは超大手ECサイトを担当しておりますが、システムは継ぎはぎを重ねたフルスクラッチであり、仕様の多くがドキュメント化されておらず、担当者の頭に入っているという話を聞いたことがあります。

社内で開発を行うと、スピードや効率が重視されるため、どうしてもドキュメント整備が二の次になる傾向があります。また大きな問題は、開発者が離職してしまうことです。引き継ぎもドキュメントベースではなく、口頭ベースの引継ぎが多くなり、システムがブラックボックスと化していくのです。

この点は、外注でシステム開発を行えばドキュメントが整備されているため問題ありませんが、外注だとスピード感が失われてしまいます。

フルスクラッチの場合も、ヘッドレスコマースを採用する

フルスクラッチの最大の魅力の一つは、自分達に最適なシステム構成にできる点です。そのために最適なシステム構成としてヘッドレスコマースがあります。ヘッドレスコマースとは、ECシステムのフロントとバックエンド処理を分けてしまうこです。

フロントとバックエンドを分割することで、例えば、ECの売上をあげるためのフロントの改修をする場合は、バックエンドに影響を及ぼさなくなるため、保守性が向上します。

そのためZOZOTOWNのように、常に売上を向上させるためのシステム改修を実施する企業においては、ヘッドレスコマースは最高のシステム構成と言えます。ヘッドレスコマースについては、下記の記事をご覧ください。

参考記事:「ヘッドレスコマース」とはECのUXを追求する最新の仕組み

フルスクラッチのECシステムは3~5年後には、システムが古くなりリニューアルが必要になる

フルスクラッチだけではなく、ECパッケージも該当しますが、3~5年も経つとECシステムが古くなり対応できなくなってきます。具体的には下記の3つの要素です。

◆ECシステムが古くなる3つの要素
①セキュリティー対策が不十分になると共に、対応するごとに対応工数が増大する
②新しく出てきたサービスや法令への対応が遅れがちになる
③プログラム言語のバージョンやソフトウェアの保守切れが発生し、継続利用が難しくなる

継ぎはぎを重ねていくだけでは、時代に対応できなくなってきます。特にセキュリティーの問題は深刻であり、もし顧客情報やクレジットカード情報が漏えいすることがあれば、経営を揺るがすダメージを受けます。

ECサイトの大手事業者でも、個人情報やカード情報が流出する事件が後を絶ちません。ECサイトはコロナ禍において右肩上がりの業態ではありますが、その反面、セキュリティーの意識を高く持たないと、ユーザーに多大な迷惑をかけ、経営にも大きな影響を与えかねません。

古くならないECパッケージ「クラウドEC」

システムというのは、更新を続けていくと不要な処理が増えてパフォーマンスが落ちるのは必然であり、必ずどこかで棚卸しを行い、システムの入れ替えが発生します。

中・大規模の企業がECシステムを作る時に数千万~数億の投資となります。莫大な金額をかけて開発したにも関わらず、3~5年でシステムが陳腐化しリニューアルを行う必要がありますが、カスタマイズできるEC開発手法の中で、唯一、クラウドECのカスタマイズだけは、システムが陳腐化しません。

なぜなら、クラウドの共通プログラムの上に個社のカスタマイズ領域を設けているため、ASPのような最新性と、ECパッケージのカスタマイズ性の両方を備えているシステムなのです。

このような理由からECパッケージからクラウドECに時代は変わりつつあり、弊社のクラウドECのebisumartも500社以上の開発実績があります。中・大規模のECサイトを検討している方は、カスタマイズできるクラウドECというキーワードを覚えておいてください。

もし、興味がある方は、下記の公式サイトをご覧ください。多くの事業者に対応したカスタマイズ実績があります。

公式サイト:ebisumart(エビスマート)


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。