経済産業省が主導する「商品情報プラットフォーム構想」は、流通業やサプライチェーン全体が共通規格で商品情報を共有・活用できるデジタル基盤の構築と、その活用を推進するための取り組みです。
業界標準の商品情報プラットフォームを構築して商品の基本情報を一元管理し、流通業界全体が1つの商品情報プラットフォームで商品情報を共通利用していく運用を目指しています。
この構想の背景には、個別運用で低下しているデータ精度の向上と、業界が直面している人材不足問題の解決策が求められていることがあります。
現在の小売取引における商品情報の授受は、メーカー・卸・小売の各企業がそれぞれの方法で管理している商品データを都度加工して個別にやりとりしており、流通業界全体で見ると非効率な作業が積み重なり、貴重な時間を奪っている状況です。
また手作業によるデータのばらつきや誤入力などが、企業のチャネル間での情報の不整合を生じさせたり、物流に混乱をきたしたりしています。
そのため「商品情報の共通化」は個社の改善課題ではなく、流通業界全体で取り組むべき課題であると考えられています。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、経済産業省の「商品情報プラットフォーム構想」や各企業が実現すべき商品情報運用について解説します。
経済産業省の「商品情報プラットフォーム構想」とは?
経済産業省が推進する「商品情報プラットフォーム構想」は、メーカー・卸・小売などの各企業が垣根を越えて共通規格で商品情報を共有・利活用していくための、流通業界標準の商品情報連携基盤を構築・運用しようという取り組みです。
この構想のポイントは、個社の取り組みを促すものではなく、流通業界全体で共通の商品情報を授受するためのデジタル基盤を構築するという点です。
◆経産省の「商品情報プラットフォーム構想」
出典:経済産業省「商品情報の連携に向けて」(2025年3月14日発表)
上図のように、メーカーが登録した商品の基本情報を卸・小売企業が利用できるようにすることで、企業が個別にメーカーに問い合わせをしたり、取引ごとに異なるデータを作成したりする必要がなくなり、皆が同じ商品基本情報を使用して取引が行えるようになります。
「商品情報プラットフォーム構想」では、次の3つのステップでの運用が想定されています。
ステップ① メーカーが商品基本情報を登録する
まず、メーカーが商品基本情報(商品名、サイズ、規格など)を作成し、産業横断レジストリー(または業界別DB)に登録します。
産業横断レジストリーに登録されたデータが、業界全体で使用する商品データの正本となります。
ステップ② 登録したデータを共通仕様に整える
次に、産業横断レジストリーのデータを共通仕様に整形・加工します。
現在は、メーカーや取引先ごとに求められるデータの項目やフォーマットが異なるため、卸や小売では取引ごとにデータを整形・加工して対応していますが、産業横断レジストリー上でデータ仕様を標準化することで、個社でのデータの整形・加工の工程をなくし、業界全体で共通仕様の商品データを使用できる状態にします。
ステップ③ 卸・小売はGTINでコード検索して商品データを取得する
卸・小売は、検索キーにGTIN(Global Trade Item Number:ジーティン)を指定して必要な商品基本情報を取得します。
GTINは商品識別コードの国際規格の総称で、日本では「JANコード」と呼ばれています。
業界標準の商品情報プラットフォーム運営の3つの主体
「商品情報プラットフォーム構想」では、業界共通の商品基本情報を検索・参照できる基盤(前項の図の「産業横断レジストリー」)の構築が軸となります。
この商品情報プラットフォームは国営ではなく、民間企業がガイドラインに沿って運用していくことが前提となっています。
◆業界標準の商品情報プラットフォーム運営の3つの主体
利用者:卸・小売(商品基本情報を取得・活用する)
サービス提供者:産業横断レジストリー、業界別DBと関連するクラウドサービスを運営する民間事業者(レジストリーサービス事業者、DB事業者など)
登録者は商品基本情報の正本を登録・更新し、利用者はそのデータを取得して自社のビジネスで使用します。サービス提供者は、商品情報プラットフォームの仕組みを構築・運営し、ガイドラインに沿ってデータ連携運用などを行います。
このように、ガイドラインと商品データの管理、使用、運用のそれぞれの主体を明確にすることで、業界標準プラットフォームの持続的な運営が可能になります。
業界標準の商品情報プラットフォームが求められる4つの背景
「商品情報プラットフォーム構想」が生まれた背景の1つに、個社での商品データの管理負荷が増大し、流通DXの足かせとなっていることがあります。
ここでは、経済産業省の資料をもとに、「商品情報プラットフォーム構想」が生まれた背景を解説します。
参考:経済産業省「商品情報の連携に向けて」(2025年3月14日発表)
背景① サプライチェーンにおける手作業の限界
「メーカー ⇔ 卸企業 ⇔ 小売企業」という取引の流れの中で、現在の商品情報の受け渡しは、企業ごとにデータの管理と授受が発生し、手作業によるヒューマンエラーが生じやすい、極めて非効率な方法で行われています。
2024年7月~2025年1月に実施された実態調査結果によると、商品情報授受に年間約30万人月(棚割やECなどの実務を加味すると年間82万人月)もの工数を要しており、商品データの管理コストが人手不足を増幅し、現状の運用を続けていくことが困難になっています。
背景② EC市場の拡大に伴う商品情報の増加
EC市場の拡大、多品種少量生産のニーズの高まり、厳格化する法規制への対応などにより商品情報の種類と量が急増しており、従来の手作業でのデータ管理方法では処理しきれなくなっています。
背景③ AI・ロボティクスなどの導入に必要な精度のデータがそろっていない
AIやロボティクスなど、より高度なデジタル技術を導入・活用するためには、標準化された正確なデータが必要になります。
現在のように取引先ごとにフォーマットや仕様が異なり粒度も洗いふぞろいのデータでは、先端技術を導入しても十分な効果を得ることができません。
背景④ 物流を効率化するフィジカルインターネットの実現への期待
フィジカルインターネットは、インターネットのパケット交換の考え方を物流(フィジカル)に適用し、デジタル技術を使って複数企業でトラックや倉庫などの物流リソースを共有して輸送を最適化する共同輸配送の仕組みです。
物流業界全体に大きな影響を及ぼしている「2024年問題」(2024年4月以降、ドライバーの時間外労働の上限規制が適用されたことにより生じる輸送能力低下や収入減少に人材不足といったさまざまな課題)に対し、フィジカルインターネットの実現への期待が高まっています。
物流の効率化を実現するためには荷物をデータで正確に捉えられる状態にする必要があり、商品情報(外装サイズを含む)の標準化と共有は、共同輸配送と積載率向上を実現するために不可欠な前提条件となります。
これらはいずれも個社の努力だけでは解決できない課題です。そのため、業界全体で商品情報を管理・運用するための基盤の構築が求められているのです。
業界標準の商品情報プラットフォームがもたらすメリット
業界標準の商品情報プラットフォームを介して、サプライチェーン全体の商品情報授受の運用が標準化されることで、各企業は企業間の情報授受の効率化だけでなく、手作業の削減、データ品質の向上、生産性の改善などのメリットを享受できます。
ここでは商品情報プラットフォームがサプライチェーン全体と、前述の3つの運用主体にもたらすメリットについて解説します。
①サプライチェーン全体のメリット
サプライチェーン全体にとってのメリットとしては以下が挙げられます。
◆サプライチェーン全体のメリット
・データのばらつきが解消される
・データの更新漏れを抑制できる
・商品情報をスムーズに配信できる
現在のメーカーと卸・小売企業間での商品情報授受の運用では、取引ごとにデータの項目やフォーマットが異なっており、また手作業で行っているケースも多いためデータのばらつきや誤入力が発生しやすい状況です。
これを業界標準の商品情報プラットフォームでの運用に切り替えることで、手作業が減り、データのばらつきや更新漏れなどが発生しづらくなります。また、新商品情報や規格や表示内容の変更などの情報もサプライチェーン全体で迅速に共有できるようになります。
②メーカー(登録者)のメリット
メーカーにとってのメリットとしては以下が挙げられます。
◆メーカーのメリット
・商品データを効率良く管理できるようになる
・商品情報の授受や問い合わせへの対応が削減できる
メーカーの負担となるのが、取引先(卸・小売企業)ごとに異なる形式での商品情報の提供やデータ更新や問い合わせなどで都度発生する個別のやりとりで、これらが積み重なると担当者の業務負荷は上昇します。
業界標準の商品情報プラットフォームを介して商品情報を配信できるようにすることで、情報提供の運用を標準化し、データ更新も1回で完了できるようになります。個別対応をなくすことで、商品情報提供にかかる工数を大幅に削減できます。
③卸・小売企業(利用者)のメリット
卸・小売企業にとってのメリットとしては以下が挙げられます。
◆卸・小売企業のメリット
・下流業務(発注や棚割など)の精度が向上する
卸・小売企業では、メーカーから提供された商品情報を、自社独自の情報に加工したり追加情報を付与したりして使用するため、データの作成・確認・修正などの作業が発生します。
業界標準の商品情報プラットフォームに登録された共通情報の使用を徹底することで、データ更新時や加工後データの確認・修正作業の負担を抑えることができます。また、すべてのチャネルで正確な情報を一次情報として使用することで、発注や棚割といった下流業務の精度の向上も期待できます。
各企業の業務効率化は、「商品情報プラットフォーム構想」の範囲外
ここまで「商品情報プラットフォーム構想」のさまざまなメリットについて説明してきましたが、あくまでも業界標準の商品情報プラットフォームは企業間の情報授受を効率化するための仕組みであり、各企業の商品情報管理の効率化は範囲外である点には注意しましょう。
小売企業は、商品の魅力を消費者に届けて自社で購入してもらうために、ブランドや販売チャネルごと差別化した情報を配信する必要があります。
例えば同じ商品でも、自社EC、ECモール、店舗、カタログなどの販売チャネルによって必要とされる情報の粒度・形式、画像の種類やサイズ、商品説明文、注意事項の伝え方、表示ルールなどは異なります。また、こうしたチャネル独自の商品情報は一度作成したら終わりではなく、基本情報の変更に合わせて更新していかなければなりませんが、各部門や担当者が個別に変更する運用を続けていると、いつの間にか似たようなデータが増殖し、正しい情報管理ができなくなる可能性が高まります。
つまり、業界標準の商品情報プラットフォームから正しい商品基本情報を取得していても、社内の商品情報の管理・運用を最適化するための仕組みがなければ、業務の効率化を実現することはできません。
「商品情報プラットフォーム構想」が実現することと、各企業が実現することを整理すると、下表のようになります。
◆「『商品情報プラットフォーム構想』が実現すること」と「各企業が実現すること」
| 「商品情報プラットフォーム構想」が実現すること | 各企業が実現すること | |
|---|---|---|
| 目的 | 業界共通のガイドラインに沿って、商品基本情報データを管理・運用し、活用できるようにする | 自社のビジネスに適した商品情報データを作成・管理し、各チャネルで活用できるようにする |
| 管理対象となる情報 | 品名、サイズ、規格、型番、原材料など商品の基本情報(非競争領域の情報) | 商品に関する画像、説明文、キャンペーン情報、チャネル別のデータファイルなど |
| 運用範囲 | 商品基本情報の登録・更新 | 商品基本情報の取得、自社の商品情報の作成・更新、各チャネルへの情報の自動配信 |
| 焦点 | 業界の商品情報管理の標準化 | 自社の商品情報管理の標準化 |
「商品情報プラットフォーム構想」は産業全体で商品情報授受を標準化し、生産性を高めることを目的としているため、企業が自社の業務を効率化するためには、各企業で独自の商品情報管理の仕組みを構築する必要があるのです。
自社の商品情報管理の標準化には、「PIM(ピム)」が必要になる
業界標準の商品情報プラットフォームで、商品の基本情報(品名・サイズ・規格・型番・原材料など)は取得できますが、商品を販売するために必要な情報は各企業が作成・管理・運用していく必要があります。
企業が運営するすべての販売チャネルで商品の正しい情報と魅力を発信していくためには、企業内にも商品情報管理の仕組みが必要になります。
企業の商品情報を一元管理するためには、「PIM(Product Information Management:商品情報管理)」の導入が有効です。
◆業界標準の商品情報プラットフォームと企業の商品情報管理の全体像
出典:筆者作成
特に重要になるのが、商品情報の正本(マスタとなるデータ)の管理場所です。
PIMを商品情報のハブとして導入し、業界標準の商品情報プラットフォームから取得した商品基本情報と自社独自の付加情報をひも付けて管理することで、チャネルごとに最適化した情報を自動配信できるようになります。
また、データ更新はPIMだけで行い、変更情報は各チャネルに自動反映されるようにしておくことで、すべてのチャネル間の情報の整合性を維持できるようになります。
PIMについては下記の関連記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
経済産業省の「商品情報プラットフォーム構想」は、流通業界全体でガイドラインに沿って商品基本情報を授受するためのデジタル基盤を構築し、活用していくための取り組みです。
業界標準の商品情報プラットフォームを各企業が最大限活用するためには、商品基本情報にひも付く商品の画像や説明文、販売情報などの自社固有の情報を最適に管理し、販売チャネルで一貫した情報を配信するための仕組みの構築が不可欠です。
「PIM(商品情報管理)」を導入して、自社の商品情報管理も効率化しましょう。
インターファクトリーの商品データ統合プラットフォーム「EBISU PIM(エビス ピム)」も、企業の商品情報管理基盤の構築と業務の最適化を実現するためのソリューションの1つです。
◆EBISU PIMの主な特長
・販売情報、ブランドロゴ、仕様書などのメディアデータも商品にひも付けて管理できる
・品番やSKU単位の柔軟な構造により、大規模SKUの管理も容易
・ノーコードでマッピング設定ができ、ファイル連携にも対応可能
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