商品マスタは、商品販売事業におけるさまざまな業務で使用される、商品名・SKU・価格・在庫・画像・説明文といった商品の基礎データです。
本来は一元管理されるべきデータですが、現状は自社EC、ECモール、POS、WMS(倉庫管理)、在庫管理、基幹などの各システムや複数の部門で個別に管理・運用されており、商品マスタの品質や精度のばらつきによる非効率が生じている企業は少なくありません。また近年は、多品種少量生産に伴う取り扱い商品点数の増加や販売チャネルの拡大などによって商品情報の種類と件数が急増し、管理と運用は複雑化するばかりです。
管理すべき情報が増えるほど正確なデータを安全に保有するための負荷は増大しますが、煩雑なデータ運用を放置しておくことで、機会損失や信用低下のリスクは高くなるため、商品マスタの適切な管理と商品情報の運用を最適化するためには、適切な手法で「商品マスタ管理」を行う必要があります。
一般的な商品マスタ管理の手法として、以下の6つがあります。
◆商品マスタ管理の6つの手法
手法② ECカート・CMSの商品情報管理機能
手法③ 在庫管理システム
手法④ マスタデータ管理(MDM)システム
手法⑤ 商品情報管理(PIM)システム
手法⑥ 自社システム(自社構築した商品DB)
特に、手法⑤の「商品情報管理システム(PIM)」を使用した商品マスタ管理は、多チャネル展開やSKU数の増加に柔軟に対応するために最適な手法です。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当する筆者が、商品マスタ管理の6つの手法と、EC運営に最適な「商品マスタ管理」について解説します。
商品マスタは販売・物流・チャネルなどの統合的なデータ基盤
商品マスタは商品販売事業におけるさまざまな業務の基盤となるデータです。まずは、商品マスタ管理ではどのようなデータ項目を管理しているのかを見ていきましょう。
◆商品マスタ管理画面の例
出典(図):筆者が独自に作成した商品マスタ管理のサンプル画面
上図のように、商品マスタ管理では、商品の基本情報だけではなく、販売情報、物流情報、販売チャネルごとで利用する各種データなども管理対象となります。
◆商品マスタ管理で管理するデータの区分と項目の例
| 区分 | データ項目 |
| 基本情報 | 商品名、JAN、商品コード、型番、SKU、カテゴリー、ブランド、シーズン、原価、公開状態(公開/非公開/廃番)など |
| 販売情報 | 価格、セール価格、販売期間(開始/終了)、販売チャネル別価格、表示状態(ON/OFF)など |
| バリエーション情報 | 色、サイズ、素材、親子SKU、バリエーション画像など |
| 説明文 | 長文説明、短文説明、販売チャネル別の説明文、SEOタイトル、SEOディスクリプション、URLスラッグなど |
| 画像・動画 | メイン画像、サブ画像、動画URLなど |
| 在庫情報 | 在庫数など |
| 物流情報 | 重量、梱包サイズ、リードタイム(L/T)、倉庫ロケーション、原価、仕入先コードなど |
| 属性/タグ | 商品タグ(例:撥水加工、軽量、秋冬コレクション)、属性グループ(例:スペック、ユースケース)など |
出典(表):筆者が独自に作成
商品情報は複数のシステムで使用されます。自社EC、ECモール、POS、在庫管理、物流、広告などの各業務は商品マスタ管理の情報に基づいて進行するため、データの不整合や抜け漏れは、誤った受注や出荷、販売の機会損失に直結します。
商品の色やサイズなどのバリエーションごとに販売情報や説明文、画像・動画などの多種多様な関連データがあり、それらすべての商品情報を、複数の販売チャネルで最適に使えるように管理していくためには、「商品マスタ管理」の導入が不可欠です。
商品マスタ管理の主な6つの手法
商品マスタをどのように管理するかは、事業規模、販売チャネル数、商品点数によって変わります。一般的な商品マスタ管理の手法として、次の6つが挙げられます。
◆商品マスタ管理の6つの手法
手法② ECカート・CMSの商品情報管理機能
手法③ 在庫管理システム
手法④ マスタデータ管理(MDM)システム
手法⑤ 商品情報管理(PIM)システム
手法⑥ 自社システム(自社構築した商品DB)
それぞれの手法について、詳しく解説します。
手法① Excel・Googleスプレッドシート
ExcelやGoogleスプレッドシートでの商品情報管理は、自由度が高く、担当者が手軽に設計・作成できるため、商品点数が少ない小規模事業では十分役立つ手法です。
しかしデータの種類や件数が増えると、データの定義や粒度にばらつきが生じたりファイルが乱立したりするなどしてデータ不整合の温床となりやすく、運用負荷やトラブルのリスクが急激に高まるため、手作業による長期運用には限界があります。
◆適している事業規模/企業
・SKU数が100未満
・管理/運用担当者が2名以下
手法② ECカート・CMSの商品情報管理機能
ECプラットフォームに標準搭載されている「商品情報管理機能」では、操作性の高い管理画面を使ってECに必要な商品情報を一元管理できます。
ただし、あくまでもECプラットフォーム内の商品情報管理を想定した標準機能なので、管理できるデータ項目には限りがあり、また、自社EC以外の販売チャネルを展開する場合は、チャネルごとに異なる商品情報を最適に管理することができません。
◆適している事業規模/企業
・SKU数が500未満
手法③ 在庫管理システム
在庫管理システムは、商品の入出庫や在庫状況の情報をリアルタイムで一元管理して、在庫の過不足をなくすためのシステムです。
特に受注直後の引当や店舗引き取り、予約販売、返品などへの対応が必要になるECでは商品の動きが複雑化しやすいため、変動する在庫情報を一元管理する在庫管理システムが重要になります。
在庫情報は商品マスタ管理の管理対象データの一部ですが、在庫管理システムではチャネル管理や販売活動に関する情報の管理はできないため、商品マスタ管理としての機能は限定的です。
◆適している事業/企業
・SKU数が多く、在庫変動が激しい業種(アパレル・雑貨など)
・入出庫、引当、返品、店舗間移動などが日常的に発生する業種
手法④ マスタデータ管理(MDM)システム
マスタデータ管理(MDM:Master Data Management)は、商品コード、原価、型番、税区分、仕入先といった基幹データを正確に管理するためのシステムで、全社共通で使われる「マスタデータ」を一元管理し、全部門が同一情報を参照・使用できる状態を維持することを目的としています。
商品の販売では、仕入れ価格や税区分を間違えると、会計/在庫評価に重大な影響を与えるため、正確な商品マスタの運用が可能になるMDMは、基幹システムの商品マスタとしても極めて有効なツールです。
しかし、チャネルごとの最適化やメディアデータや販売活動に関する情報は管理しづらく、ガバナンスの観点からも管理項目の追加が難しいため、統合的な商品マスタ管理を行うためには、他の手法との併用が前提となります。
◆適している事業/企業
・マスタデータの社内統合を重視している企業
・購買、会計、在庫評価が密接に連動する業態
MDM(マスタデータ管理)については関連記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
手法⑤ 商品情報管理(PIM)システム
商品情報管理(PIM:Product Information Management)は、商品の基本情報と、説明文、画像、メディアデータ、チャネル別の情報、属性といった販売活動などの情報をひも付けて統合管理するためのシステムで、複数のチャネルごとに情報を最適化して自動配信することも可能です。
PIMは拡張性が高く、SKUの属性情報の構造整理、チャネル別の情報管理、画像や動画データのひも付け管理、他システムとのAPI連携などにも柔軟に対応できるため、統合的な商品マスタ管理の中核システムとして役立つでしょう。
◆適している事業規模/企業
・SKU数が500以上
・関連部門(商品企画、営業、マーケティング、EC、実店舗など)の連携が必要な事業
手法⑥ 自社システム(自社構築した商品DB)
自社固有のシステムを完全に実現したい場合や、大規模なシステムが求められる場合に採用される手法で、事業、業務、データに最適化した商品DBを自社で構築し、運用します。
完全に自由に設計できるので独自のデータ項目やワークフロー、業界固有の仕様などを実装できますが、開発、保守運用、改修に莫大なコストがかかるうえ、エンジニアの退職などに伴うナレッジの流失リスクなどもあるため、安定した長期運用のための予算と体制を確保・維持できる場合には有効な手法です。
◆適している事業規模/企業
・自社でシステム開発が可能な企業
・独自システムを資産化したい企業
PIMを活用して商品マスタ管理を最適化する!
商品マスタは複数のシステムで使用されており、各システムでは商品マスタのデータにひも付くさまざまな情報を管理しています。中でも、商品の販売活動に関わる情報は、データ形式が多種多様で更新頻度も高いため、柔軟な管理・運用が求められます。
手法⑤で紹介した「PIM(商品情報管理)」を導入すると、商品情報を一元管理できるだけでなく、それらの情報を使用してチャネルごとに最適化された商品情報を生成・自動配信も可能になります。
◆PIMの主な特徴
・ECで使用する説明文、SEO、画像、タグなど変更の多いデータを柔軟に管理できる
・複数のECモールごとに異なるデータ仕様に応じたテンプレートを生成できる
・ワークフローや変更履歴も管理・運用できる
商品マスタ管理におけるPIMの主な役割は次の3つです。
役割① 商品に関する情報の統合と項目定義の標準化
データ項目を定義し、唯一かつ正確な商品マスタを使用できる環境を維持します。
役割② 販売チャネルごとに利用する商品情報の最適化
例えば、自社EC、ECモールなどの各販売チャネルで使用する商品情報のデータ形式に合わせて、チャネルごとのテンプレートを定義できるため、データの変換や更新などの作業を自動化します。
役割③ 画像・動画データの統合管理
商品情報にひも付く画像や動画などのデータとバージョンを統合管理できるので、最新データが明確になり、誤掲載や差し替え漏れを防ぎます。
PIMで商品マスタ管理を行うことによるメリットとしては以下があり、複数の販売チャネルを運営している企業ほど、PIMの導入効果も大きくなります。
◆PIMで商品マスタ管理を行うメリット
・データ管理業務の負荷削減
・販売チャネルごとのデータ更新業務の自動化
・承認フローの標準化
・データの統合管理とバージョン管理による運用の効率化とミスの削減
・他システムとの柔軟な連携
今回は、PIMを商品マスタ管理の観点から紹介しましたが、PIM(商品情報管理)については関連記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
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商品マスタ管理における5つの課題と解決策
ここでは、ECの商品マスタ管理で発生しがちな5つの課題とそれぞれの解決策を紹介します。
課題① 同じ役割を持つデータが、部門ごとに異なる項目名や形式で運用されている
複数の部門で使用されている商品マスタですが、部門ごとにデータの名称や書式が異なっているケースがあります。こうした差異は、部門や担当者が個別管理しているExcel・Googleスプレッドシートで定義を変更したり、ECモールの仕様変更などを個別対応したりしているうちに生じます。
項目定義の不一致やデータの表記ゆれは、データ精度の低下に直結し、情報発信時の不整合や販売チャネルで利用する際の審査落ちなどの問題に発展します。
課題の解決策
商品マスタ管理で管理するデータの項目定義書を作成し、書式、命名規則、必須項目を明確にすることで、抑止できます。
PIMやMDMの仕組みを導入し、単一の商品マスタのデータを、チャネルごとの仕様に最適化した情報に変換して使用することで、商品マスタそのものの変更を阻止します。データの定義や書式のバラつきは商品マスタの精度に関わるため、初期段階で対策を講じておくべき重要課題です。
課題② 更新ルールが決まっていない
複数のシステムや部門が商品にひも付くさまざまな情報を作成・運用しているため、データの更新責任が不明瞭になりやすく、またバージョン管理もおろそかになりがちです。
課題の解決策
商品マスタ管理で管理するデータの項目ごとに更新責任部門を明確にし、データ更新時の承認フローを設定することが大切です。
PIMを使用するとデータ更新業務内に承認フローを必ず組み込むことができ、また、すべての更新履歴は自動で記録されるため、承認漏れや誤更新を防ぐことができます。商品マスタ管理では、データに対する管理責任が明確な状態での運用が不可欠となります。
課題③ 複数のECモールに参入したことで、「商品マスタ」が乱立してしまう
複数のECモールに出品/出店する場合、ECモールごとの仕様に合わせたデータファイルを用意する必要があります。そのため、データファイルごとに個別に商品情報を管理していると、それぞれの同じデータ項目を異なるタイミングで異なる担当者が更新している状態が発生し、データの不整合や先祖帰りが起こりやすくなります。
課題の解決策
共通使用するデータは商品マスタ管理で一元管理し、必ず一元管理しているデータを各ECモールの仕様に変換してデータファイルを作成するデータフローを確立しましょう。
PIMでECモール別にテンプレートを設定することで、データファイルの自動生成も可能になります。ECモール運用におけるデータ運用の失敗は「商品マスタ」の乱立によるものが多いため、単一の商品マスタに基づくデータ運用を徹底することが大切です。
課題④ 商品関連の画像・動画データが複数システムに散在している
画像や動画などのデータは、担当者のPCで作成したデータを、外部のストレージサービス、社内のファイルサーバ、メールなどでやり取りすることも多く、厳格なバージョン管理を行っていないことで最新バージョン管理が分からなくなり、古い情報を使用してしまうなどのトラブルが起こりやすくなります。
課題の解決策
PIMやDAMを導入して画像・動画データも商品情報とひも付けて体系化し、バージョンを判別できるように管理することで、意図しないデータの使用を防ぐことができます。
また、データ更新時には各チャネルに自動反映させることもできるため、差し替え漏れなどによる機会損失や信用低下のリスクも低減できます。
課題⑤ 情報公開後の間違いが頻発し、対応に時間を取られる
最新情報や変更前後の差がすぐに分からない環境や、情報更新フローが確立されていない状況では、誤ったデータを使用したことによる誤字や価格の間違い、商品の説明文の齟齬などに気付かず、公開後に問題が発覚するという事態が生じやすくなります。商品情報は公開した瞬間に購買に影響するため、単純なミスが機会損失や売上減少に直結する場合もあります。
課題の解決策
情報公開前に確認するためのステージング環境(非公開の本番と同様の環境)を用意し、情報公開時の承認フローを確立しましょう。また、ツールを使用して更新前後の差分比較を行えるようにすることで、確認作業を効率化できます。
これらはすべて商品マスタ管理を行っていないことに起因した課題であり、担当部門や担当者の努力だけで解決できるものではありません。運用ルールを整備するだけでは限界があるため、自社に最適なシステムを導入して商品マスタ管理を実現し、自動でデータ運用を最適化できるようにすることが重要です。
まとめ
事業全体の業務の核となる商品マスタは、SKU数や販売チャネルの増加とともに管理が難しくなり、属人的な管理・運用をしているとトラブル発生のリスクが高まります。
リスクを抑えるためには、商品に関連するあらゆる情報を一元管理して常に正確なデータを使用できるようにし、使用目的に合わせて最適化したデータを自動で生成・配信できる仕組みを確立することが大切です。
PIM(商品情報管理)を導入することで、安定した商品マスタ管理が可能になります。インターファクトリーの「EBISU PIM(エビス ピム)」は、ECの商品マスタ管理に最適な柔軟性と拡張性を備えた商品データ統合プラットフォームです。
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