WMSとは「Warehouse Management System(倉庫管理システム)」の略称で、物流や在庫管理を効率的に行うためのシステムです。例えば、ECシステムとWMS間でデータ連携すると商品の入荷から出荷までの流れを正確に管理できるようになり、リアルタイム(あるいはリアルタイムに近い)在庫管理が可能になるため、「過剰在庫」や「在庫切れ」のリスクを低減できます。
WMSでは商品管理にバーコードとハンディスキャナーを用いるため、操作さえ覚えれば誰でも素早く正確に商品管理業務を行うことができ、サービス品質の標準化と向上が期待できます。また、全ての工程をデジタルで管理できるので、物流の最適化を促進するなど、2024年問題を始めとする社会問題解消への寄与にも期待できます。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、WMS(倉庫管理システム)について解説します。
WMS導入で期待される3つの効果
WMSを導入することで、以下の3つの効果が期待できます。
効果① 顧客満足度の向上
WMSを使用することで在庫数を正確に管理できるため、ネット販売でよくある「在庫切れ」や「過剰在庫」を防ぐことができます。在庫の正確な管理は顧客満足度の向上につながりますから、WMSは業務を効率化するだけでなく、ブランドやECサイトの信頼度の向上にも極めて効果的です。
効果② 作業の平準化
WMSでは商品をバーコードとハンディスキャナーを使って管理します。操作さえ覚えれば誰でも簡単に商品管理業務を行えるため、物流作業を平準化するとともに、作業量に応じて担当者を増減するなどの要員の最適化も可能になります。
効果③ 物流作業の最適化
バーコードとハンディスキャナーを使って、物流に関するあらゆるデータをWMSで管理できるようになります。例えば、ピッキング時間なども可視化されるので、さまざまな課題が明確になり、物流の効率化と正確性の向上を図ることができます。
WMSを活用して、データに基づいた具体的な目標や施策を設定し、物流のデジタル化を推進することで、2024年問題などの社会的課題解消への寄与にも期待できます。
WMSで行える5つの作業
それでは、WMSの基本的な機能について解説します。
業務① 入荷/検品/入庫
業務② 出荷:ピッキング
業務③ 出荷:梱包/発送
業務④ 棚卸
業務⑤ データ分析
業務① 入荷/検品/入庫
商品の入荷時に検品作業を行います。WMSで作成(出力)した入荷予定リストと実際に入荷した商品を照合するのですが、ここでは次の2つの方法で作業します。
方法① ハンディスキャナーでバーコードを読み取る
入荷した商品のバーコードをハンディスキャナーでスキャンして登録し、自動照合で確認します。
方法② 目視で同一商品の数を数えて、ハンディスキャナーで数量を入力する
商品数が多い場合には、商品のバーコードを一つずつハンディスキャナーで読み取るのは手間と時間がかかるので、目視で同一商品の数を数えて、数量をハンディスキャナーで入力します。
検品作業の目的は大きく以下の2つです。
◆検品作業の2つの目的
・不良品/不具合品の排除
入荷時にきちんと検品しておくことで、不良品や不具合品を販売前に排除できるため、不用意にネガティブな顧客体験を与えてしまうリスクを低減できます。
検品が終了した商品は、倉庫や商品棚に移動します(入庫作業)。
業務② 出荷:ピッキング
倉庫や商品棚から指示された商品を集める(ピックアップ)作業は、「ピッキング」と呼ばれます。
WMSで作成(出力)したピッキングリストに従って、商品を集めていきます。ピッキング作業は、倉庫の広さ、在庫の数量、ピッキングする商品の数量などによっては相当の労力と時間を要する作業となります。
ピッキングで重要になるのが、「ロケーション」です。ロケーションは商品を保管する場所のことで、言ってみれば倉庫内の商品の住所情報のようなものです。このロケーションデータと在庫情報をひも付けて管理することで、ピッキング時に商品を探し回るという状況をなくしています。
ロケーション管理には、「固定ロケーション管理」と「フリーロケーション管理」の2種類があります。
① 固定ロケーション管理
固定ロケーション管理は、商品ごとに決められた場所に保管する管理方法で、商品マスタとロケーションコードをひも付けて管理します。固定ロケーションのメリットは、作業者が商品の場所を覚えやすい(ピッキング時間が早くなる)点です。
② フリーロケーション管理
フリーロケーション管理は、保管場所を固定せずに入庫時に空いている場所で商品を保管する管理方法で、入庫の都度、WMSで商品とロケーションコードをひも付けて管理します。フリーロケーションのメリットは、商品の保管スペースを有効に活用できる点です。
ピッキングの際に、商品と棚のバーコードをハンディスキャナーで読み取っていきます。ピッキングリストの全ての商品を集め終わると、WMSで出荷明細書が作成(出力)されます。集めた商品を出荷棚(または出荷ボックス)に移動させます。
WMSのサービスによってはハンディスキャナーに商品画像が表示される機能を実装している場合もあります。作業者が画像でピッキング対象の商品を目視でも確認できるため、誤出荷を防ぐために有効な機能の一つです。
業務③ 出荷:梱包/発送
出荷棚(または出荷ボックス)の商品を梱包して発送します。
梱包作業では、適切なサイズの箱に商品が壊れないように緩衝材を使って梱包し、納品書やリーフレットも同梱します。最後に発送伝票や必要に応じて「ワレモノ注意」などのケアラベルを貼付します。
梱包した商品を、配送会社別や送付先エリア別などのルールで分けられた指定の場所に運び、配送業者に渡したら出荷作業は完了です。
業務④ 棚卸
棚卸は、在庫の適正管理のために定期的に実際の在庫の数量や状態を調査する作業です。現場では毎日大量の入庫と出庫が発生していることも多いため、WMS上の在庫数と実在庫数に差分が生じてしまう可能性があります。その差分を是正して、商品の品質と正確な在庫管理を維持していくために、定期的な棚卸は欠かせない作業です。
棚卸には「一斉棚卸」と「部分棚卸(循環棚卸)」の2つの方法があります。
① 一斉棚卸
一斉棚卸は、一回の棚卸で全ての在庫を確認する方法で、全ての入出庫作業を停止する必要があります。
② 部分棚卸(循環棚卸)
部分棚卸は、特定の商品やロケーションごとに在庫を確認する方法です。対象となる入出庫作業だけを停止するので、全体を停止する必要はありません。
棚卸の作業は検品と同様に商品のバーコードをハンディスキャナーで読み取る方法と、目視で数を数えて数量をハンディスキャナーで入力する方法があり、商品の数量が多い場合は目視で行います。
業務⑤ データ分析
WMSでは、ハンディスキャナーを使って入荷/検品/入庫、ピッキング、出荷の全ての作業のデータを取得できるため、例えば、ピッキングにかかる作業時間を分析してロケーション管理方法を決定するなど、WMSのデータを活用した物流業務の最適化が可能になります。
WMSを使うことで業務の効率化が実現するだけでなく、さらにWMSのデータを活用することで、データに基づいた具体的な目標を設定することが可能になり、効果的にPDCAサイクルを回しながら物流現場の改善に取り組めるようになります。
WMSデータの分析結果は個人ではなく、部門内で共有して活用していける文化を醸成していきましょう。物流部門では、成果を数字で捉えやすいため、部門が一丸となって目標を達成していく姿勢が大切になります。物流の環境やトレンドは変化し続けますから、最新データを用いた分析によって最適化を継続していくことが重要です。
WMSの導入におけるコスト
WMS導入における最大のデメリットは導入コストです。
導入費用を抑えるにはクラウドサービスがおすすめ
WMSの導入費用は利用するサービスごとに変わります。以下はパッケージでWMSを構築した場合と、クラウドサービスを利用した場合を比較した表です。
◆パッケージとクラウドサービスとを比較
導入費用感 | メリット | デメリット | |
パッケージ | 数百万円~ | 個別カスタマイズが可能 | 修正や機能追加などのアップデートでは、都度メンテナンス対応が必要になる |
クラウドサービス | 無料~数十万円 | 修正や機能追加などのアップデートはサービス側で自動的に対応される | 個別カスタマイズは不可 |
出典:筆者の経験に基づき独自に作成
物流の規模が中・大規模の場合は、個別カスタマイズのニーズが高いためパッケージでWMSを構築する企業が多いです。また、WMSの導入にあたり現行オペレーションの調査や最適化検討を行うケースも少なくなく、導入費用が高額になりがちです。
そのため、中・小規模の場合にはクラウドサービスの利用を検討すべきです。クラウドサービスを選定する際は、自社のオペレーションにこだわりすぎず、サービスに合わせてオペレーションを再構築することも大切です。
初期トレーニングは必須
WMSの導入には、従業員のトレーニングが必要になります。これには、ある程度の時間と労力を要しますが、運用が定着すればWMSの導入効果は非常に大きくなります。WMSベンダーによっては本番稼働をスムーズにするための支援サービスや専門の講師を派遣してくれる教育サービスを提供している場合もあります。
WMSの導入におけるコストは大きいですが、長期的には業務の効率化をはじめとする恩恵を享受できるでしょう。
WMSとEC間のデータ連携の2つの方法
WMSとECシステム間の連携は、以下の2つの方法で実装できます。
◆WMSとECシステム間の2つの連携方法
・API連携
CSV連携は、CSVファイル(各項目をカンマ等で区切ったテキストデータファイル)をエクスポート/インポートして受け渡しする方法です。CSV連携の最大のメリットは、開発費を抑えて比較的容易に実装できる点です。しかし、リアルタイム処理ではないという点がデメリットとなります。
一方のAPI連携ではリアルタイム連携が可能なため、常に正確な情報で業務を行うことができますが、WMS側がAPI連携に対応していなかったり、実装が困難だったりするため導入時のハードルが高い点がデメリットとなります。
データ連携の実装方法は、自社の業務フローやECシステムの仕様と利用するWMSの仕様とを十分に調査しながら検討する必要がありますが、筆者の印象ではCSV連携で実装している事例が多い印象です。
ECシステムとWMSとの3つのデータ連携で業務を効率化
実際に多くのECシステムで実装されているWMSとのデータ連携は以下の3つです。
◆ECシステムとWMS間における主要な3つのデータ連携(データの流れ)
② 出荷データ(WMS⇒ECサイト)
③ 在庫管理データ(WMS⇒ECサイト)
また、ピッキングで固定ロケーションを利用している場合には、ECサイトの商品マスタとロケーションコードをひも付けておくと良いでしょう。
インターファクトリーのECプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」では、これらのデータ連携を実装したECサイトを構築できます。WMS連携の豊富な実績を備え、機能追加やカスタマイズにも柔軟に対応できるクラウドサービスです。
ECとWMSとのデータ連携には、ぜひebisumartのご利用をおすすめします。ebisumartの詳細については、下記の公式サイトをご覧ください。
公式サイト:「ebisumart(エビスマート)」