※本記事の主題である「オムニ7」は2023年1月をもってサービス終了となりました。
2015年11月に運用を開始したセブン&アイホールディングスが進めるオムニチャネル戦略「オムニ7」は、大幅な転換期を迎えています。
当初目標としていた2018年度の「EC売上」と「Webルーミング売上」の合算で1兆円を計画していましたが、2017年2月期におけるオムニ7の売上高は前年比10.8増の976億6000万円にとどまり、目標と乖離した状況になっています。
筆者はセブン&アイがオムニチャネルを成功させ、ネット市場でもAmazonに対抗しうる勢力になるためにはオンライン市場における生鮮食品市場を制する必要があると考えます。なぜなら生鮮食品は日常生活で最も購入頻度が高いため、この分野でシェアを取れば、日用品や他の商品のオンライン購入のシェアにも大きく影響します。
そして、セブン&アイがオムニチャネルを成功させるには、オンライン市場でAmazonに対抗できるようなシェアの獲得が絶対に重要で、シェアが小さければ実店舗中心のビジネスモデルから脱却できず、リアルとネットの垣根を取り、シームレスな顧客体験を提供するオムニチャネルの提供は不可能だからです。
本日は、インターファクトリー(ebisumart)でWEBマーケティングを担当している筆者がセブン&アイのオムニチャネルについての最新状況を解説いたします。
【2023年2月追記】オムニ7閉鎖へ
まずはじめに、本記事の主題である「オムニ7」は2023年1月をもって閉鎖となりました。これまでの統合型の通販サイトから、グループ各社が運営する通販サイトへと変更となり、運用体制を全面的に変え、リニューアルオープンしました。
オムニ7は2015年に鈴木敏文前会長の肝いりで立ち上げられましたが、業績の低迷に加え、鈴木氏の退任により、オムニチャネル戦略の推進役が不在となってしまいました。
その中でグループのイトーヨーカドーや、セブンイレブンが各々のDX戦略を進めていき、オムニ7自体の形骸化が進んでいったことで、戦略の見直し、閉鎖へとつながっていきました。
参考:【スクープ】セブン&アイがECサイト「オムニ7」23年にも閉鎖へ、“負の遺産”撤退が遅れた理由(DIAMOND online)
以下は、2017年の本記事執筆時の内容になりますので、上記を踏まえた上で、オムニチャネル施策の一例としてご覧ください。
セブン&アイグループの商品をネットで注文できる「オムニ7」がオムニチャネルの起点となる
セブン&アイのオムニチャネルの起点となるのは「オムニ7」です。
画像引用:オムニ7公式ホームページ
セブン&アイは、2015年11月に「オムニ7」を開設。セブンイレブンやグループのスーパー、百貨店、アカチャンホンポ各社の商品をグループの垣根を越えてオンラインで商品を提供しております。
配達先を全国に19000店舗以上のセブンイレブン実店舗で受け取ることができるため、特に仕事で昼間に自宅を空けることの多い都市部の顧客には、仕事帰りにコンビニで商品を受け取ることができなど利便性の高いサービスを提供することができるのです。
そしてセブンイレブンには、タブレット端末が設置されており、店舗から商品を注文することができます。店舗にない商品をコンビニのその場で注文し、商品をコンビニで受け取ることができます。まさにオムニチャネルです。それが1日に2200万人が利用するセブン&アイの店舗網であれば圧倒的な顧客接点を生み出します。
セブン&アイのIR資料には面白いデータが記載されています。
セブンイレブンに商品受け取りに訪れたユーザーの4割は受取商品以外にも、商品を購入する。
このデータからも、セブン&アイがオムニチャネルを成功させれば、グループとして大きな相乗効果を受けることができます。
2017年2月期のセブン&アイのEC売上は976億円
下記表をご覧ください。2016年度と2017年度のセブン&アイグループのEC売上をまとめたものです。
全体で対前年14%増と決して悪くない売上推移と感じますが、セブン&アイグループは当初、2018年度のEC売上の目標と1兆円としており、当初掲げたの目標達成にはかなり厳しい状況になりました。
しかし、現実にはネットショップ「オムニ7」の売上は伸びておりません。では、なぜ厳しい売上推移になったのでしょうか?そこにはいくつかの課題があります。それでは一つひとつ解説します。
アマゾン・楽天と比べて商品点数が圧倒的に負けている
ショッピングモールやネットショップで売上を左右する大きな要因の1つは取り扱い商品数です。
取り扱い商品数が多ければ、それだけ利便性が高くなり、知名度や集客力が自然と集まります。そういった面ではAmazonと楽天は、両社ともに圧倒的な商品数があり、日本のインターネットショッピングはこの2社で大きな割合を占めています。では、オムニ7はいかがでしょうか?下記の表をご覧ください。
◆Amazon・楽天・オムニ7の取り扱い商品数比較
データ引用先
Amazon https://toyokeizai.net/articles/-/107279?page=2
楽天 https://www.slideshare.net/ShurinYokota/yahoo-58980085
オムニ7 https://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/ir/library/ar/pdf/2016_all.pdf
現状は、Amazon・楽天とは商品数には大きな差があります。
セブン&アイは、下記図によると2019年2月末までに取り扱い商品数を600万点以上に拡大し売上の拡大を狙っていますが、それが実現できたとしても、インターネット黎明期からビジネスを展開している両社に追いつくのは、世界有数の巨大グループのセブン&アイであっても容易ではありません。
◆オムニ7の売上計画
セブン&アイ「IR資料室」よりデータ引用: https://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/ir/library/ar/pdf/2016_all.pdf
取り扱い商品数では、大きく後れをとっているセブン&アイは、魅力溢れるオリジナル製品の開発こそが、Amazonや楽天などの競合と差別化する要素ととらえ、金のビーフカレーや金の食パンなどで有名なセブンプレミアムなどのPBの商品開発を行っていくと発表しておりますが、今後はグループ外のパートナーとの提携も必要になるでしょう。
Amazonに配達スピードが劣る
シームレスな顧客体験を提供するオムニチャネルには、ユーザーの利便性を高めるために商品の配達スピードが求められます。そして、スピードにおいては、Amazonの「Amazon Prime」が業界で突出しており、取り扱い製品や配送料無料など、「Amazon Prime」は高い利便性を提供しています。それでは、各社の取り組みを解説します。
驚異のスピード配達のAmazon Prime Now
Amazonでは、注文して最短商品が1時間で届く「Prime Now」という会員向けのサービスを展開しています。首都圏と大阪や兵庫の一部の地域に限定したサービスですが、ビデオや本の読みたい放題の特典をつけるなどして、急速に会員数を伸ばしております。こういったAmazonの利便性の拡大は、今後はコンビニなどのリアルの小売市場にも多大な影響を及ぼすのは間違いありません。
提携レストランを中心に展開楽天の「楽びん!」
楽天も、即時配達サービス「楽びん!」を展開。ユーザーは専用アプリから注文すると、食料品や日用品を最短20分で届けるサービスです。展開エリアは東京の渋谷区、目黒区、世田谷区、港区、新宿区、品川区とAmazonに比べて、サービスエリアは限定的で、どちらかというと提携しているレストランのデリバリーがメインになっています。
オムニ7はセブンイレブンを利用した「お急ぎ店舗受取サービス」を展開
オムニ7が展開する「お急ぎ店舗受取サービス」は、午前7時までに注文すれば、注文当日の午後7時以降に、店舗で受け取ることができるスピード配達サービスです。対応エリアは首都圏の1部に限られています。やはり、取り扱い商品や配送時間においては、Amazonに軍配が上がります。
余談ですが、Amazonのスピード配達サービスが、ヤマト運輸等の現場配達員の大きな負担になり社会的問題になっており、コンビニ受取はAmazonと楽天も行っており、店舗受取の需要も拡大していくと考えられます。
また、Amazonと楽天の店舗受取先はファミリーマートやローソンなどのコンビニが対応しており、セブンイレブンは対応しておりません。おそらく「オムニ7」の競合であることが配慮にあると考えます。
顧客データの一元管理によるマーケティングが難航
オムニチャネルの実現による「シームレスな顧客体験」には、データベースの一元管理は欠かすことはできません。セブン&アイのグループ各社はポイントシステムの「nanaco」を運用しており、それを利用した顧客データの一元管理のシステム開発を行っております。
2016年10月の決算会見で、井坂隆一社長は以下のように述べました。
「アマゾンや楽天などの専業各社が林立する中、不特定多数の顧客にアプローチしてきたことや、(顧客よりも)システム起点で進めてきたことが失敗の要因」
こういった課題を受け、セブン&アイグループで共通のIDのシステム導入を行い、顧客の購買データを元に、グループ各社が、お客様一人ひとりにあったマーケティング活動を行うための、スマホ専用アプリの開発に着手しました。
具体的には、専用アプリを開発し顧客の買い物履歴データを収集し、収集したデータからグループ各社が商品のリコメンドを行いなど、顧客セグメント毎に最適化が可能になります。これを実現するには、顧客の購入データの統合が必要になるのです。
しかし、当初はグループ共通ポイントカードの「nanaco」のデータのみを活用する予定でしたが、それでは「nanaco」を使わない、最も多い現金決済の顧客データが対応しておらず、入手できる顧客行動データは限定的になってしまいます。そのため当初2017年リリース予定でしたが、現金決済の顧客データも取り込むために2018年のまでリリースが伸びており、開発が遅れています。
従来の方向性「ECを中心に不特定多数の顧客へのアプローチ」
新しい方向性「顧客毎のグループ各社の利用状況をつなげ、全チャネルを通じてサービスの質を追求していくこと」
セブン&アイがオムニチャネルの成功させるための3つの重要な動きとは?
①オープンプラットフォームとしての「オムニ7」
今まではセブン&アイグループの商品を中心に扱っていました。2018年度には600万点の商品数を取り扱うことを目標にしております約2億点もあるAmazon・楽天の取り扱い商品数には、全く歯が立ちません。今後はグループ商品以外にも、魅力ある商品をもつ企業と積極的に提携を進め、オープンプラットフォームとしての「オムニ7」を目指しています。井坂社長も2017年2月期第2四半期決算説明会では、下記のような発言を述べました。
井坂社長決算説明会にて
「CVS、百貨店、スーパーマーケットでカバー仕切れないジャンルの商品についてどう考えるかですが、これにつきましてはやはりオープンプラットフォームという考え方をとって、外部の企業さんとの提携もこれから視野に入れて、可能性を追求していきたいと思っております。」
※CVSとは コンビニエンスストア (Convenience Store) の和製略語。引用先ログミーファイナス:https://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/ir/library/ar/pdf/2016_all.pdf
セブン&アイのオムニチャネルの成功には、ネット販売の売上を増加させることが絶対に必要です。それには取り扱い商品を飛躍的に伸ばし、ユーザーが「オムニ7」で食品・日用品からロングテール商品も幅広く商品ラインナップに入れ、ユーザーの多くが自然にAmazonや楽天で買い物するような場に「オムニ7」を成長させなくてはなりません。
それには、オープンプラットフォームとして多くの企業と業務提携を行っていくことが不可欠です。
②アスクルとの業務提携による、ECのノウハウと物流の強化
2017年7月にセブン&アイ・ホールディングスとアスクルの業務提携が発表しました。「リアルに強いセブン&アイ」と「ECと物流のノウハウに強いアスクル」が業務提携を行うことで、高いシナジー効果が得られるとの発表がありました。
図はセブン&アイのIR資料から抜粋したものですが、お互いの得意分野が異なり、この提携によりセブン&アイは、アスクルの持つ高度の「ロハコ」のECサイトノウハウと、質の高い物流網を利用することができます。
③セブン&アイのオムニチャネルの成功の可否は、ネット販売での生鮮食品市場にあり!
②に関連しますが、セブン&アイとアスクルの提携は「IYフレッシュ」というネットでの生鮮食品の提供を2017年の11月より順次展開します。
生鮮製品は15兆円の巨大市場であるにも関わらず、EC化率が低い分野の一つです。なぜなら生鮮食品にはユーザーが直接触って鮮度を確認したいという欲求が強く、EC化率も10%程度に留まっています。しかし、この分野でもユーザーはネットで買うことをためらわなくなっており、ネット販売において急成長する分野であることは間違いありません。
Amazonもこの分野において「Amazonフレッシュ」というサービスをリリースし、注文から4時間で野菜を届けるサービスをすでに開始しました。
アスクルは「物流を制する者が、eコマースを制する」という方針をとっており、アスクルはオフィス分野においては翌日配送から、当日配送の転換を行い、全国7か所に物流拠点をかまえ、地域限定で1時間単位の指定、30分単位のお届け予定、10分前の直前予定のお知らせを行うことができるほど、優れた配送システムを持っています。
図はIR資料より抜粋:https://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/ir/library/ks/pdf/2017_0706ks_02.pdf
この配送システム(ロハコの物流システム)の上に、セブン&アイの生鮮食品を提供する「IYフレッシュ」はAmazonに対しても見劣りしません。
生鮮食品は日常生活の中で、最も購入頻度の高いものです。ですから、ネット販売での生鮮食品市場でAmazonよりもシェアをとることができれば、ネット販売全体のシェアにおいてもセブン&アイがAmazonに対抗する勢力になれる可能性が出てきます。
このアスクルとの提携はオムニ7の起死回生となるのか?今後の動向に注目しましょう。
全国あらゆる場所に実店舗を持つのがオムニ7の最大の強み
書籍「セブン&アイHLDGS.9兆円企業の秘密―世界最強オムニチャネルへの挑戦(日本経済新聞出版社)」に掲載されている事例によると、自社オンラインの消費シェアは直営店舗商圏内では5%、商圏外では2%というデータがあり、オンラインとオフラインに相互補完関係にあり、全国にスーパーやコンビニの実店舗を持つセブン&アイはネット販売の生鮮食品市場において有利に働くはずです。
また、アメリカでは2017年6月には米Amazonは160億ドルで、米高級スーパー「ホールフーズ」を買収したことからも、特に生鮮食品のEC市場においては実店舗の重要性が高いことがわかります。
筆者はセブン&アイがネット販売での生鮮食品市場でAmazonに対抗することができれば、オムニチャネル戦略においても必ず成功すると考えております。今後のAmazonやセブン&アイの動向に注目しましょう。
イオンなどのオムニチャネルでの大手各社の事例は過去の記事でまとめましたので、ご興味ある方はあわせてご覧ください。