成功事例と手順で知る「製造業のDX推進」成功の要点を解説

製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業が顧客価値を高めることを目的に、製造装置や製造プロセスのリアルタイム監視・制御などをデジタル化し、IT・基幹システムと連携させることで、製品・サービスやビジネスモデルそのものの根本的な変革を実現することと、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によって定義されています。

昨今の日本の製造業においてもDXへ向けた取り組みは着実に広がっており、IPAが公表した「DX動向2025」のデータによると、2024年度において何らかの形でDXに取り組んでいる「製造業等」の企業の割合は80.6%に達しています。

その一方で、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」と回答した企業は全体の36.9%にとどまっており、特定の部門単位での局所的な取り組みから、企業全体の変革へと規模を拡大させていくことが今後の大きな課題となっています。

◆DXの取組状況(業種別)

DXの取組状況

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「社会・産業のデジタル変革」
画像出典:「DX動向2025(データ集)」※一部筆者加工

実際に多くの製造企業がDXへ着手しているものの、試行錯誤の段階であるPoC(概念実証)の繰り返しで止まってしまったり、特定現場の個別業務の効率化止まりで、企業全体の利益や構造改革に結実しないケースが散見されます。

その失敗に陥る背景の一つとして、「AIやIoT、センサー、基幹システムなどのデジタルツールを導入すること自体」が手段から目的にすり替わってしまう点が挙げられます。

DXとは、デジタルツールを導入して目の前の既存業務を効率化することそのものが最終ゴールではありません。現場の業務改善や作業の省力化はDXを推進する上での重要なプロセスに過ぎず、真のゴールは「局所改善」ではなく企業構造の「変革」にあります。

蓄積されたデータと先端デジタル技術を活用することで、現場の業務プロセス、組織文化、製品・サービスの質、さらにはビジネスモデルそのものを刷新し、新たな顧客価値や事業価値を継続的に創出し続けることこそがDXの本質です。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、日本の製造現場においてDXを具体的にどのような手順と手段で進めるべきなのかについて、先進企業の事例、経済産業省やIPA等の公的資料、そして製造現場から届く生の声を踏まえながら、失敗しない製造業DXの推進アプローチを詳しく解説します。

製造業におけるDXの3つの成功事例

製造業におけるDXの推進アプローチは一様ではなく、自社の事業特性や現場の課題に応じて目指すべき方向性は多岐にわたります。

まずは、それぞれ異なるDX戦略で成果を上げている先進企業3社の事例を紹介します。

事例① 旭鉄工株式会社:設備データを現場の改善に活用

自動車部品の製造を手掛ける旭鉄工株式会社では、既存の生産設備にIoTセンサーを取り付けて稼働状況をリアルタイムでデータ収集し、現場の業務改善活動に活用しています。

本事例の特徴は、単にデータを収集・グラフ可視化して満足するのではなく、前日の稼働データを基に、作業者や現場の管理監督者、生産技術担当者らが製造ラインの「現地現物」で問題点を共有し、改善効果を確認するオペレーションを確立した点にあります。IPAの事例紹介記事においては、この取り組みを「データに基づいた現地現物」として評価しています。

同社はIoTデータの活用を起点として企業風土そのものの改革にも取り組み、2013年当時との比較において労務費を年間4億円削減、さらに工場全体の電力使用量を22%削減するという成果を達成しています(2022年6月時点)。

本事例からは、製造業におけるDXの本質は単に工場設備をデジタル化すること自体にあるのではなく、得られたデータを日々の現場改善へつなげる組織的な仕組みづくりが重要であることが分かります。

出典:旭鉄工株式会社「会社概要」、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「まずは『デジタルで楽をする』旭鉄工の事例から見る製造業のDX」

事例② 株式会社IBUKI:現場の業務と熟練者の技能をデータ化

プラスチック射出成形用の精密金型を製造する株式会社IBUKIでは、自社で社内システムを開発し、工場全体の高度なデジタル化を推進しています。

受注管理、金型設計、工程管理、不良解析、資材購買、勤怠管理といった多岐にわたる基幹業務をデジタルシステムで一元管理する一方、熟練職人の「製造技術そのもののデータ化」にも果敢に取り組んでいます。

例えば、複雑な射出成形工程においては、ベテランの熟練技術者が成形品の状態から金型内部における溶融樹脂の流れや挙動を推測し、微細な成形条件を調整していましたが、こうした高度な技能は従来の言葉や図面マニュアルだけでは伝承しにくいという課題を抱えていました。

そこでIBUKIでは、金型内部に温度、圧力、樹脂の変位などを計測するセンサーを組み込み、従来は熟練技術者が感覚的に捉えていた金型内部の状態をデータとして可視化することに成功しました。取得されたデータは、成形不良の早期検知・発生予測や、若手技術者に対するスキル伝承・教育プログラムとして活用されています。

本事例は、製造業におけるDXが単なるペーパーレス化や事務作業の省力化にとどまらず、熟練者が持つ貴重な知識や経験を組織全体で共有・活用できる仕組みへ昇華させる手段となることを示しています。

出典:株式会社IBUKI「工場デジタル化」

事例③ 碌々産業株式会社:加工機のデータから新たなサービスを提供

超精密な微細加工機を製造する碌々産業株式会社では、自社が製造する加工機本体に高精度センサーを取り付け、機械の動作状態や環境データをリアルタイムで取得・可視化する取り組みを進めています。

同社は、顧客企業へ納入した微細加工機をクラウドネットワーク経由で遠隔監視するIoTサービス「AI Machine Dr.」を開発し、世界各地で稼働する自社製品の状態をメーカー側からリモート監視することで、予防保全や障害時の早期原因究明、最適な加工条件のアドバイス支援などを提供する体制を構築しました。

さらに、顧客の実際の使用環境データや機械の稼働データを、自社の次世代機能や新製品の開発フィードバックにも活用しています。デジタル技術を駆使することで、従来の「モノ売り」ビジネスから、稼働後の維持・運用・改善までを支援する高付加価値な「コト売り」モデルへと事業を進化させています。

本事例からは、製造業におけるDXの対象範囲は自社工場内の生産性向上やコスト削減だけにとどまらず、自社製品から得られるデータを活用することで、顧客に対する新たな体験価値の提供やビジネスモデル自体の変革にもつなげられることが理解できます。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小規模製造業の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)のための事例調査 報告書」(2020年7月20日)

製造業DXは5段階で進める

それでは、製造業におけるDXを成功へと導くための具体的なアプローチ手順について解説します。

製造業のDXは、単にAIやIoT機器、最新のシステムを現場に導入すれば実現するような容易なものではありません。まずは現場の紙帳票や口頭で管理されているアナログ情報を正確にデータ化し、そのデータを日々の業務改善に活用した上で、工程や部門を越えて全社でデータ連携させ、最終的には製品・サービスやビジネスモデル自体の抜本的な変革へつなげていくという段階的なステップが必須となります。

日本の製造業におけるDXは、大きく以下の「5つの段階」に沿って推進していきます。

◆製造業DXの5つの段階

製造業DXの5つのステップ

出典(画像):筆者作成

各段階について、1つずつ解説します。

段階① デジタイゼーションでデータを使える状態にする

製造業DXの最初のステップは、紙の現場帳票、口頭連絡、あるいはベテラン担当者の記憶や感覚だけで扱われているアナログ情報を、デジタルデータとして変換する「デジタイゼーション」のフェーズです。

製造現場においては、日々の生産実績、品質検査結果、設備稼働状況などが紙のチェックシートに記録されているケースが今なお存在します。こうした現場情報をタブレット端末やハンディターミナルから直接デジタル入力させたり、生産設備にセンサーを取り付けて稼働データを自動取得させたりすることで、後から検索・集計・データ分析に利用できる「デジタル蓄積」の環境を整えます。

この段階において重要なポイントは、「その後のシステム処理や分析業務で活用できるデータ形式」で保存することです。例えば、紙の作業日報を単にスキャナーで読み取って画像データやPDFファイルとしてサーバへ保存するだけでも「ペーパーレス化」自体は達成できますが、そこに記載された「正確な生産数」や「設備停止時間」を集計・データ分析するためには、結局手作業でExcelへ再入力する二次作業が発生してしまいます。

そのため、あらかじめ入力項目ごとにデータベース上の数値として構造化して記録しておくことで、後の工程における自動集計、統計分析、他システムとの自動連携がスムーズになります。

なお、導入から年数が経過した老朽化設備のためにデータを直接取得できない場合であっても、外付けのカメラや光センサーで読み取って状態を自動デジタル化する手法などが存在します。これについてはIPAの公開資料でも具体的な導入手法が紹介されていますので、ぜひ参考にしてみてください。

出典:IPA「社会・産業のデジタル変革」

このフェーズで重要なのは、いきなり最新設備へ全面買い替えすることではなく、DXの推進に必要な「生データ」を継続的に収集できる土台を現場に整えることです。

段階② デジタル化で個別業務を効率化する

デジタイゼーションによって現場のデータをデジタルで扱える状態が整ったら、次の段階では、そのデータやデジタルツールを活用して、特定の現場や個別業務の効率化を図るデジタライゼーションを推進します。

具体的な取り組み例としては、工場内の資材・完成品在庫情報をクラウド上で管理する、バーコードを用いて入出庫検品を記録する、あるいは各種検査機器の測定結果を自動で品質管理システムへ直接転記登録する、といった施策が挙げられます。

これまで手書き入力や手作業の転記で行われていたアナログ作業をデジタルツールへ置き換えることで、データ入力作業の工数やヒューマンエラーを削減し、現場業務の省人化と処理スピードの高速化を実現できます。

製造現場においては、設備センサーから取得したリアルタイムデータを用いて稼働状況を監視したり、一日の作業実績を自動集計してラインごとの生産進捗を可視化したりすることも、この段階の成果に含まれます。

ただし、この段階においてはそれぞれの現場・業務が「個別最適」でデジタル化されているに過ぎず、企業全体としてはデータが相互に接続されていないケースが多く見られます。

例えば、工場内の生産管理だけはシステム化されていても、倉庫の在庫管理、営業の受注管理、設計部門のCAD/BOMデータなどが相互連携せず独立して存在していると、部門間をまたぐたびに結局手作業でのデータ照合や二重入力が発生してしまいます。

そのため、次の段階へ進んで部門間に分散したデータを一元的に連携・統合していく必要があります。

段階③ データを連携・統合して情報の分断をなくす

個別業務のデジタル化が進んだとしても、各部門や個別システムの間でデータが独立したまま放置されていると、企業全体の最適化や迅速な意思決定には活用できません。

このような部門間で情報が隔離した状態を「データサイロ化」と呼びます。

◆データサイロ化のイメージ

データサイロ化のイメージ

関連記事:データサイロ化とは部門間の情報が分断され共有できない状態

多くの製造企業においては、受注情報、設計データ、資材在庫、生産計画、品質管理、出荷データなどが、それぞれ異なるシステムや担当者個人のExcelファイル等でバラバラに管理されているのが実情です。

この状態では、個々の作業がいくらデジタル化されていても、他部門の最新情報を確認するたびに電話・メールでの問い合わせやデータの再入力作業が発生し、情報伝達の遅延、転記ミス、データの更新漏れが日常化してしまいます。

そこで、各部門・各システムで管理されているデータをAPI連携やデータ統合プラットフォームを介して接続し、全社で「常に最新の正しい共通データ」をリアルタイムで参照できる環境を構築する必要があります。

このデータ連携基盤を整えることで、部門間の無駄な照合を削ぎ落とし、経営陣や現場管理者が正確な最新情報に基づいて意思決定を下せるようになります。

この段階で最も重要なポイントは、単にシステム同士を接続することではなく、「全社でどのデータをマスタとして共通利用するのか」「どの形式をマスタデータとして扱うのか」というデータ定義を徹底整理することです。データの形式、単位、品番コード、更新ルールが部門ごとにバラバラなままでは、どれだけシステムを連携させてもデータを正しく集計できないためです。

段階④ スマート化で工場・企業全体を最適化する

部門や工程の枠を越えてデータをシームレスに相互連携できるようになれば、次はその統合データを活用して、工場全体、さらにはサプライチェーン全体の最適化を図る「スマート化」の段階へ移行します。

◆全体のスマート化の例

・受注・内示状況、原料在庫、設備の稼働状態、工程の進捗をリアルタイムで可視化
=> 急な特注割り込みや設備の突発停止が発生した場合でも、生産計画の再計算、人員配置の変更、他ラインへの負荷分散を自動かつ最適に行えるようになる

・全設備の振動・温度・電流データをセンサーで継続取得し、異常の予兆を自動検知
=> 実際に設備が故障してから修理対応するのではなく、故障する前に未然にパーツ交換やメンテナンスを行う予知保全を実現できる

この段階で意識すべきポイントは、特定のラインや1つの工程だけを効率化させる「部分最適」に終始するのではなく、前後工程の負荷や他部門への波及効果までをトータルで計算に入れた「全体最適」を目指すことです。

例えば、特定の加工設備の生産能力だけをデジタル化で高めたとしても、後工程の組み立て作業や検査工程の処理能力が追いつかなければ、工場全体のリードタイム短縮や出荷効率の向上には寄与しないからです。

スマート化のフェーズでは、縦横につながった統合データをベースに工場全体の全体像をリアルタイムで把握し、ベテランの勘や経験だけに依存することなく、データに基づいた精度が高くスピーディな意思決定ができる組織状態を目指します。

段階⑤ DXで新たな事業価値を生み出す

製造業DXの最終段階では、これまでの段階で蓄積されたデータとデジタル技術を活用し、製品・サービスそのものの価値を高めるだけでなく、企業の「ビジネスモデル自体の変革」をしていきます。

DXを推進する上で根幹となる考え方は、DXの最終ゴールは現場の「業務改善」ではなく、企業価値そのものの「構造変革」であるという点です。

作業時間の短縮、ペーパーレス化、現場の省人化、生産性の向上といったコスト削減はDXを推進する上で重要ですが、そこで終わるのではなく、創出された余力や蓄積されたビッグデータを活用して「これまでにない新たな顧客価値・事業価値」を生み出すことこそがDXの真意です。

◆製造業における価値創出の例

・出荷製品にIoT機器を搭載し、遠隔監視と遠隔保守サービスを月額サブスクリプションで提供する
・全工程のリアルタイムデータ化を強みとし、「注文から即日出荷」という短納期対応そのものを他社に対する差別化価値として提示する
・自社工場で培った生産技術や品質管理ノウハウ、独自システムそのものをパッケージ化し、同業者向けにクラウドサービスやライセンスとして外販する

例えば、本記事のDX成功事例として紹介した碌々産業株式会社のように、製品を売り切って終了する従来の製造業スタイルから、納入後の稼働データをクラウド経由でリアルタイム分析し、継続的な遠隔保守や加工コンサルティングという高付加価値なサービス提供へつなげる取り組みは、まさにこの段階に該当します。

◆碌々産業株式会社の取り組み

(前略)
同社の機械には、あらゆる部位にセンサを設置し、温度や電力、
流量、圧力、負荷、時間、指令等の 36 項目のデータを最小 10 ミリ秒の間隔で取得・可視化し、製品に付属するメモリに記録するとともに専用のクラウドにアップロードする。それを同社の専門技術者が遠隔で確認し、動作が不良となった場合の原因究明や製品の使い方の指導などを行っている。

AI Machine Dr.(図 3.3.3)により、ユーザの情報に基づいた保守・点検に加え、使い方の指導といったコンサルティングサービスも提供できるようになった。また、ユーザによる同社製品の使用方法や使用環境をもとに、より使いやすい製品の設計・開発にいかすことが可能となった。

引用:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小規模製造業の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)のための事例調査 報告書」P39より(2020年7月20日)

要約すれば、アナログ情報のデータ化や個別業務の省力化はDXのゴールそのものではなく、企業変革を実現するための土台に過ぎません。

既存業務の効率化を徹底して進めると同時に、「蓄積されたデータを使って、顧客へ提供する体験価値や自社のビジネス構造そのものをどう進化させられるか」までを構想し実行に移すことこそが、製造業DXを成功に導く本質的な思考法です。

DXの取り組みは、必ずしもすべての企業が同じスピードや順序で進むわけではありませんが、単なる個別業務のデジタル化で終わらせることなく、データの活用範囲を広げながら「全体最適」および「新たな価値創出」へとつなげていくロードマップを意識することが重要となります。

製造業DXにおいて直面しやすい5つの課題と対策

製造業におけるDX推進においては、老朽化した既存設備からのデータ抽出の難しさ、熟練技能者の技術の属人化、ITツールに対する現場からの拒絶反応など、製造現場ならではの壁が存在します。

ここでは、製造業のDXを実際に推進する際、多くの企業が直面しやすい代表的な「5つの課題」と、その実効的な解決策について解説します。

課題① 既存設備やレガシーシステムからデータを取得・連携しにくい

製造業DXの第一の壁となりやすいのが、長年工場で稼働し続けている既存の設備やレガシーシステムから、DXに必要なデータを取得・連携できないことです。多くの製造現場においては、ネットワーク接続や外部システムへのデータ出力を想定していない古い設備が現在も稼働しています。

また、現場の機械やラインを直接制御・運用するOT(制御・運用技術)と、ERPや生産管理システムなど経営・業務を支援するITが別々に構築されており、現場で発生したデータを経営判断や全社的な生産最適化に十分活用できていない実態があります。

経済産業省も、日本の製造業界に共通する構造的課題として「OTとITの連携不足」を指摘しており、需要変動への即応やリアルタイム性の高い生産管理を実現するためには、OTとITのシームレスな連携が不可欠であると提言しています。

参考・出典:経済産業省「製造業のDXについて」

ただし、DXを推進するために既存の生産設備をすべて最新設備へ総入れ替えする必要があるかというと、必ずしもそうではありません。前項の「段階①」で解説した通り、設備PLCから直接デジタルデータを取り出せない場合であっても、設備のパトライトの点灯状態を外付けカメラや光センサーで自動読み取りし、稼働データとして可視化するといった手法が存在します。

参考・出典:IPA「社会・産業のデジタル変革」

大切なのは高額な設備投資で機械を刷新すること自体ではなく、既存の設備資産を生かしながら必要な生データを取得するために、OT領域とIT領域をどのように安全かつ効率的につなぎ合わせるかを全体設計することです。

課題② ベテランの技能やノウハウが属人化している

製造現場においては、長年の実務経験によって培われた熟練職人の判断や微調整の技能が、特定のベテラン社員個人へ依存しているケースが顕著です。加工時の微細な調整や異常の早期察知など、言葉やマニュアルテキストだけでは表現しにくいベテランの「勘」や「コツ」は、熟練者の定年退職や高齢化に伴い、貴重な技術ノウハウそのものが会社から喪失してしまうというリスクを抱えています。

経済産業省は、日本企業が高い技術力によって、新規の設備投資をしなくても一定の生産水準を維持できてしまったことが、結果として技術の属人化を助長し、最新デジタル設備の導入や標準化を遅らせる要因になったと分析しています。

また、複数の製造拠点を展開する企業において、高度な生産技術やノウハウを蓄積し他工場へ横展開するための中核拠点となる「マザー工場(※)」を国内に維持することが困難になりつつある点も、日本の製造業に共通する課題として挙げられています。

※マザー工場:生産技術や施工ノウハウを蓄積し、国内外の他工場へ技術指導・展開する中核となる工場のこと

出典:経済産業省「製造業のDXについて」

この課題に対する根本対策は、ベテラン技術者が作業時に「どこを観察し、どのような数値や状態に基づいて判断を下しているのか」という思考ロジックを徹底的に整理し、センサーデータや画像データなどを駆使して「形式知化」・「データ化」することです。

ベテランの職人技のすべてをデジタルツールで代替しようとするのではなく、個人の中に閉じていた技能を組織共有の資産として蓄積し、若手技術者への早期技能伝承や他拠点へのスムーズな技術展開ができる環境を整えることが重要となります。

課題③ 新しい仕組みに対して現場から抵抗が生まれる

製造業のDX推進においては、経営陣やDX推進部署がどれほど最新のシステムや先進的なデジタルツールを導入しても、製造現場の作業者や管理者に敬遠され、日常業務へ定着しないという課題に直面することが多々あります。

筆者の知人で、製造業のDX推進部門においてAIツールの現場導入を担当している人物によると、製造現場の作業者は一日中生産ラインに立ち続けており、新たなAIツールが導入されても「そもそも業務中にツールを使う余裕がない」と現場から敬遠されてしまったといいます。導入説明会やアンケート調査を実施しても、現場での利用率はなかなか上がりませんでした。

このような現場からの抵抗の背景には、単なる作業時間の制約だけでなく、新しい操作方法を覚える負担や、「このツールを使うことで、自分たちの現場作業がどう具体的に楽になるのかが見えない」という不透明感があります。そのため、経営層やDXプロジェクトチームが決定した方針を現場へ一方的に押し付けるだけでは、現場の定着化は成功しません。

そこでその担当者が取った打開策は、現場全員を一度に動かそうとするのをやめ、新しいテクノロジーに比較的抵抗感がない1〜2名の現場作業者にAIツールを実際に使ってもらうアプローチでした。寄り添って使い方を丁寧にレクチャーしながら、実際の担当業務の中で明確な成功体験を出してもらったのです。

すると、成果を見た周囲の作業者から「その作業、どうやってそんなに早く終わらせたの?」という自然な興味や質問が生まれ、現場内での口コミをきっかけにAIツールの利用が徐々に拡大していったといいます。

DXを現場へ定着させるためには、最初から全員を一斉に教育しようとするのではなく、製造現場の中に「小さな最初の成功事例」を作り出し、その実質的な成果を周囲のメンバーへ波及させていくアプローチが有効です。

課題④ DXを推進できる人材が不足している

製造業のDXをけん引するためには、単にITやデジタル技術の知識に詳しいだけでなく、自社の製造現場の業務フローや生産工程を理解した上で、「現場のどこにデータやデジタルシステムを適合させるべきか」を正しく判断できる人材が必要とされます。

製造分野のDXを推進する人材には、ビジネスモデルを描くビジネスデザイン力、IT・デジタル技術の専門知識、さらには現場を巻き込むプロジェクトマネジメント力など多角的なスキルセットが求められます。

しかし、特に中小規模の製造企業においては、こうした人材を自社内だけで確保することは困難であり、DX人材の不足が推進上のネックとなっています。

◆社内のDX推進人材不足を解消するための現実的アプローチ

・現場を熟知した社内人材の抜てきとデジタル教育・育成
・DX実務経験者のキャリア採用
・専門知識を持つ外部支援会社との協業

この課題への現実的な対策としては、「製造現場の業務を熟知した社内人材」と「デジタル技術に精通した人材」を組み合わせ、相互補完できる推進チーム体制を構築することです。

また、自社内で不足する専門スキルについては、経験豊富なITベンダーや外部コンサルタントをパートナーとして積極的に活用するアプローチも有効です。

DXの成否は「ITに詳しい人材を1人採用すれば解決する」といった単純なものではなく、自社の「製造現場の知識」と「デジタル技術」の双方を融合してプロジェクトを動かせる推進体制をいかに組織構築できるかが重要となります。

出典:IPA「中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのガイド 製造分野のDX事例集」

課題⑤ 短期的な費用対効果を求めすぎて推進が止まってしまう

製造業のDX投資において、投資対効果として「このシステムで年間何時間の作業を削減できるのか」「何人分の人件費を浮かせられるのか」といった短期的な効果ばかりを要求しすぎると、既存業務の改善だけで取り組み全体が停滞してしまいます。

もちろん、生産性の向上やコスト削減効果を客観的なKPI数値で確認すること自体は重要ですが、DXの本来の目的は「目の前の作業を少し効率化すること」に止まるものではありません。デジタル技術とデータを駆使してビジネスモデルや経営のあり方そのものを変革し、中長期的な企業の新たな稼ぐ力や競争優位性を構築することこそがDXの本質だからです。

事実、経済産業省が発行した「2024年版ものづくり白書」においても、日本の製造企業におけるDXの取り組みが特定工程の業務改善にとどまっており、企業全体の「稼ぐ力」の向上にまで結び付いていない点が課題として明記されています。

出典:経済産業省「2024年版ものづくり白書」

したがって、DX投資の判断においては目先の直接的な費用対効果だけにとらわれることなく、自社製品・サービスの高度化、新たな顧客体験価値の創出、ビジネスモデルの変革など、中長期的に自社が目指すべき姿や「稼ぐ力」をどう高めるのかというビジョンを明確に定めた上で評価することが重要となります。

製造業でDXを進められる6つの分野

製造業におけるDXの推進対象は、工場内の生産ラインにとどまらず多岐にわたります。

自社が抱える現場の課題やDXによって実現したいゴール像に応じて、主に以下のような「6つの主要分野」が対象となります。

◆製造業DXの主な6つの分野

分野 主なDXの例 期待できる効果
① 生産管理 生産計画、工程進捗、作業実績などのリアルタイム共有 生産状況を把握しやすくなり、計画変更や意思決定を迅速化できる
② 設備保全 IoTによる設備監視、異常検知、予知保全 設備停止の予防や保全業務の効率化につながる
③ 品質管理 検査データの蓄積、AIによる画像検査、品質予測 不良原因の分析や検査業務の省人化につながる
④ 在庫・物流管理 バーコードやRFIDによる入出庫管理、在庫情報のリアルタイム共有 在庫不足や過剰在庫を防ぎ、入出庫や物流業務を効率化できる
⑤ 技能継承 作業動画、設備データ、加工条件などの蓄積・活用 熟練者の技能や判断を若手の教育や作業支援に活用できる
⑥ 製品・サービス 製品の稼働データを活用した遠隔保守、新サービスの提供 製品販売後の顧客接点を増やし、新たな価値や収益につなげられる

これらの施策は、単一の分野で個別に推進するだけでなく、各種データを相互に連携させることで活用範囲を広げることができます。例えば、生産計画データ、資材在庫情報、および設備のリアルタイム稼働状況を一つに統合接続できれば、工場全体の負荷を計算に入れた生産量調整や設備稼働の最適コントロールが可能となります。

進め方のポイントは、すべての工場業務やシステムを一度にデジタル化しようとするのではなく、自社が現在直面している深刻な課題や、将来的に提供したい製品・サービスを見据えた上で優先順位を設定し、スモールスタートで推進していくことです。

さらに製造業においては、工場内の生産データや設備ログだけでなく、設計、技術、営業、マーケティング、販促など社内の複数部門で利用される製品情報の管理もDXの対象領域となります。

製品情報管理のDXにはPIM(ピム)を活用できる

製造業におけるDX推進では、生産設備や製造工程のデジタル化だけでなく、社内で取り扱う製品情報の管理体制そのものを見直すことが不可欠です。

特に、顧客ニーズの多様化に対応して「多品種少量生産」を推進する企業では、製品のバリエーションや型番、詳細スペックが増大し、それに伴って管理すべき製品データ構造も複雑化します。

製品の基本スペック、図面データ、販売価格、製品画像、取扱説明書・仕様書(PDF)といったデータは、設計、生産技術、営業、マーケティング、カスタマーサポートなど多くの部署で日常的に参照されます。

しかし、これらのデータが部門ごとのExcelファイルや個人のローカルフォルダでバラバラに管理されていると、「どのファイルが最新版マスタなのか分からない」「部署をまたぐたびに同じスペック情報を手動で何度も二重入力する」といった無駄が発生し、情報管理の非効率やミスを誘発します。

このような社内に分散した製品情報を一つのデータベースに統合し、一元管理する仕組みが「PIM(Product Information Management:商品情報管理)」です。

PIMを導入することで、製品スペック、多言語情報、画像・仕様書メディアなどを中央データベースに集約し、社内の全部門が「常に同一の最新・正データ」をリアルタイムで参照できる全社共有環境を確立できます。

◆製造業におけるPIMの役割・データ連携イメージ

製造業におけるPIMの役割

またPIMシステムでは、膨大な製品データの一括編集、他システムに合わせたデータ形式の自動変換、ならびに製品画像や仕様書ファイルの製品コードへの自動ひも付けといった管理機能を備えており、これまで手作業で行われていたデータ更新・管理作業の工数を削減します。

PIMは製造業DXの全領域を網羅するシステムではありませんが、製品情報のサイロ化・属人化を解決し、関係部門が正確なデータを共有・活用するためのプラットフォームとして高い成果を発揮します。

製造業におけるPIMの具体的な利活用や導入メリットについては、下記の解説記事にて詳しくまとめておりますので、ぜひあわせてご覧ください。

関連記事:製造業で「PIM」が必要とされる理由と5つの導入メリット

まとめ

製造業におけるDXで重要なのは、単にAIやIoT、各種システムなどのITツールを工場へ導入することではありません。現場の日常から生み出されるデータや、長年社内に蓄積されてきた職人のノウハウを「企業資産」として再構築してデジタル活用し、既存業務の効率化に留まらず、製品・サービスの高度化、顧客への新たな体験価値提供、そして事業構造そのものの抜本的変革へつなげていくことこそがDXの本質です。

そのためには、まず現場のアナログ情報を検索・活用可能な「デジタルデータ」として正しく蓄積し、個別業務の省力化、部門・工程の壁を越えたデータ統合、そして全社・工場全体の最適化へと活用範囲を拡大していくロードマップが求められます。

製造業のDXには多岐にわたる推進領域が存在しますが、社内で扱う「製品情報」の一元管理と活用もその一つです。製品データが部署やExcelファイルごとに分散している企業においては、正確なデータを全社で一元管理し、関係部門でストレスなく共有・外部活用できる仕組みを構築することがDX成功の重要な第一歩となります。

インターファクトリーが提供する「EBISU PIM(エビス ピム)」は、複雑な製品情報、製品画像、仕様書PDFなどを一元的に管理し、社内の各部門が常に「同一の最新マスタデータ」をリアルタイムで参照できる環境を構築します。さらに、一つの統合システムで一元管理された商品データを、自社Webサイト、カタログ出力、各種ECチャネル、ならびに外部基幹システムへスムーズに自動データ連携させるプラットフォームとしても活用可能です。

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井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、EBISUMARTやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。