2024年9月に経済産業省によって、2023年の国内EC市場とインターネットおよびスマートフォンの利用動向などに関する報告書(電子商取引に関する市場調査報告書)が公開されました。
2024年9月発表の報告書によると、2019年末から続いている新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響で、それ以降EC化率が大きく伸長しておりましたが、2022年以降は鈍化傾向がみられ、2023年のBtoC物販系分野のEC化率は「9.38%」にとどまりました。
EC化率とは、すべての商取引においてEC(電子商取引)が占める割合を示す数値で、産業(または事業)全体のEC事業の動向を把握するための指標となります。
2023年のBtoC-EC物販系分野の食品産業(食品・飲料・酒類業界)のデータを使用して、もう少し詳しく見てみましょう。
■2023年のBtoC-EC食品産業(食品、飲料、酒類業界)のEC化率
2兆9,299億円(EC市場規模) ÷ 68兆2,960億円(全商取引の市場規模)= 4.29%(EC化率)
引用:「EC市場規模」「EC化率」は経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)より引用、「全商取引の市場規模」は筆者が算出
上記より、EC化率は「EC市場規模÷全商取引の市場規模」の式で求められます。
報告書によると、食品産業を含むBtoC物販系分野全体のEC化率は9.38%なので、EC化率が4.29%の食品産業は物販系分野の中でもEC化が進んでいない産業であることが分かります。
例えばEC事業者が新たな市場に参入する場合、産業全体のEC化率が高ければより練り上げたEC戦略が必要となり、低い場合には競合が少なく開拓者となるチャンスと捉えることもできます。ただし、ECが適していない産業という場合もあるので、事業計画を立てる際には、産業の特性とEC化の背景も考慮する必要があります。
この記事では、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、経済産業省の2024年9月発表の報告書を読み解きながらEC化率について解説します。
国内BtoB市場のEC化率は、記事の後半で解説しています。最初に読みたいという方はこちらをクリックして、ページ下に移動してください。
以降の当記事内で出典または引用を明記していない数値および図表等は、経済産業省の2024年9月発表の報告書より引用しています。
引用:経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)
国内BtoCのEC化率は9.38%(物販系)
◆物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移[図表 1-2]
経済産業省の報告書によると、2023年の世界のBtoC市場のEC化率は推計19.4%で、同年の国内のEC化率は9.38%なので、日本はBtoC-ECの普及があまり進んでいない印象を受けますが、EC市場の規模ランキングで見ると、日本は世界で4位であり決してECの利用が特別遅れているというわけではありません。
2022年の物販系分野のBtoC-EC市場規模の伸び率は前年比5.37%であり、2023年の伸び率は前年比4.83%だったことと比べると、堅調にEC化率は伸びているものの急激にEC化率が伸びた「コロナ禍」を過ぎたため、2022年以降はECへの急激な需要は落ち着いてきた印象です。
経済産業省の資料をもとに、2023年のEC化率に影響を与えた出来事やGDP、消費動向、小売業状況、EC市場を総括します。
◆2023年の出来事やGDP、消費動向、小売業状況、EC市場を総括
・5月に新型コロナウイルス感染症が「5類」に移行されて隔離措置が終了
・エネルギーコスト増による物価上昇が消費に影響
・小売業全体の商業販売額はコロナ禍前の2019年比で6.8%増加。飲食料品、自動車、医薬品・化粧品、無店舗小売業が成長
・ 外食や旅行は増加しつつあるが、コロナ前の水準には届かず
・ EC市場は拡大し、特に食品のEC市場が拡大
EC化率の伸び率は2020年をピークにして、その後は勢いが落ち着いてきた印象です。しかし、コロナ禍をキッカケに人々のライフスタイルが変わり、特に食品分野のEC市場が伸びております。それでは、次に各分野について解説します。
国内BtoC-ECの「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野の市場規模の合計は24兆8,435億円
国内BtoC-ECの「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野の2023年の市場規模の合計は24兆8,435億円となり、対前年比で9.23%の伸び率であり、特にサービス系が大きく伸びた印象です。
◆BtoC-EC 市場規模の経年推移(単位:億円)[図表 1-5]
2020年以降、新型コロナウイルスの影響により、特に飲食サービス、旅行サービス、チケット販売などのサービス系分野は急激に落ち込みましたが、2022年にはサービス系も急激に復活し、2023年もその勢いは継続する形でEC市場規模が伸びています。
それでは次に物販系、サービス系、デジタル系の各分野のEC市場規模を見てみます。
国内BtoC-ECの3つの分野(物販系、サービス系、デジタル系)の動向
「物販系」「サービス系」「デジタル系」の各分野の内訳は以下のとおりです。
◆サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模[図表 1-3]
◆各分野の2023年のEC市場規模と伸長率(カッコ内は前年度の2022年の伸長率)
・「サービス系分野」:7兆5,169億円、伸長率22.27%(前年度:32.43%)
・「デジタル系分野」:2兆6,506億円、伸長率2.05%(前年度:▲6.10%)
BtoC-EC全体の伸び率は、9.23%であり昨年と同程度伸びました。物販系分野および、サービス系分野、デジタル系分野の全ての分野が成長する結果となりました。
2020年に新型コロナウイルス感染症拡大の影響でマイナス成長に転じた「サービス系分野」ですが、2021年以降はチケット販売やフードデリバリーの市場規模が拡大し、2022年は前年比で+32.43%と大きく伸ばし、2023年度も+22.27%と引き続き伸びております。
2023年はデジタル系分野の市場規模は昨年のマイナス成長から2.05%の成長となりました。オンラインゲーム業界がマイナス成長ですが、NetflixやSpotifyなどの配信サービスが順調であり、デジタル系分野の市場規模は微増という結果になりました。
ここからは、「物販系」「サービス系」「デジタル系」の各分野の動向を詳しく見ていきましょう。
A.物販系分野
物販系分野においては、以下の3つの切り口で、それぞれ解説します。
A-1:物販系分野の伸長率上位3つの業界
A-2:物販系分野のEC化率上位3つの業界
A-3:物販系分野のEC市場規模上位3つの業界
A-1:物販系分野の伸長率上位3つの業界
出典(データ):経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)、「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)、「令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)より筆者作成
物販系分野のEC市場規模の伸長率は前年比4.83%で、2022年(前年比5.37%)と比べると伸び率が鈍化することとなりました。物販系分野における2023年のEC市場規模伸長率の上位3位の業界は以下のとおりです。
◆物販系分野の2023年EC市場規模伸長率トップ3
2位:「化粧品、医薬品」 5.64%
3位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 5.13%
1位の「食品、飲料、酒類」業界では、コロナ禍での外出自粛などにより、オンラインサービスを利用する消費者が増えたことでEC化が促進されました。2022年の伸び率9.15%と比較すると鈍化したものの、ネット注文で食品や飲料を買うライフスタイルが一般的になりつつあるのはEC業界にとっては良い流れと言えるでしょう。
しかし、この業界は国内においてはスーパーやコンビニなどの実店舗の利便性が圧倒的に高いため、家電やアパレル分野のような20%を超える高いEC化率を望むことはできないと筆者は考えます。
2位の「化粧品、医薬品」業界では、特に医薬品業界のEC市場が活性化しています。2014年6月12日に薬事法の一部改正法が施行されたことで医薬品のインターネット販売範囲が拡大したところに、2020年以降のパンデミックによりECを利用する人が一気に増えたことが要因として挙げられます。
さらに2023年5月には新型コロナウイルス感染症が5類に移行されたことや、マスクの着用ルールが緩和されたこともあり、メイクアップ需要が回復し、化粧品業界の市場規模が伸長※する要因となりました。
※参考:週刊粧業
しかし、2023年には景品表示法の改正、いわゆる「ステマ規制」が始まりました。これにより、企業は商品の口コミ(SNSを含む)に関して、口コミに対する指示やインセンティブを支払う行為に関して「PR表記」や「企業と口コミをした人の関係性の明示」が求められるようになり、ECでの販売に多大な影響を及ぼすことが予想されました。
しかし、ステマ規制の開始から約1年が経過しましたが、「PR表記」を明示することで、売上が下がったという明確な話は聞いたことがないので、この件による影響は限定的ではないかと筆者は推察します。
参考:消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」
A-2:物販系分野のEC化率上位3つの業界
◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別EC化率
出典(データ):経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)、「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)、「令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)より筆者作成
◆物販系分野の2023年EC化率トップ3
2位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 42.88%
3位:「生活雑貨、家具、インテリア」 31.54%
上記の3つの業界は、6年連続でトップ3にランクインし続けています。いずれも、もともとECとの相性が良い業界でしたが、2020年以降のコロナ禍の巣ごもり需要でさらに利用者を増やしています。
1位の「書籍、映像・音楽ソフト」、2位の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の2つの業界は、消費者はあらかじめ欲しい商品を決めていることが多く、実店舗とEC店舗のどちらで購入しても商品自体の価値は変わらないという特徴があります。
そのため、型番(あるいは品番)さえ分かれば、インターネットで複数店舗のサービスや価格を比較し、消費者は最も気に入った店舗で購入できるため、ECと非常に相性が良い業界です。特に、家電業界は企業、消費者ともにEC利用指向が高い傾向があり、EC化率は4割(42.88%)に達しています。
3位の「生活雑貨、家具、インテリア」業界については、ニトリや無印良品などの動向だけを見ても、まだまだ成長の余地がある業界だと筆者は考えています。
「生活雑貨、家具、インテリア」業界では各企業が積極的にECアプリを開発するなどしてインターネット販売を促進していますが、企業の先進的なデジタル化に消費者のマインドがまだ追いついていない面もあってか、実店舗での購買比率が依然として高い状況です。
A-3:物販系分野のEC市場規模上位3つの業界
◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別EC市場規模
出典(データ):経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)、「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)、「令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)より筆者作成
◆物販系分野における2023年EC市場規模トップ3
2位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 2兆6,838億円
3位:「衣類・服装雑貨等」 2兆6,712億円
「EC市場規模」の順位は昨年と変わりがありません。
「食品、飲料、酒類」は市場規模が大きい産業のため、EC化率は低くてもEC市場規模は大きくなります。コロナ禍以降、食品・飲料をECサイトで購入する新しいライフスタイルが浸透しつつあります。この分野は毎日の生活に欠かせない分野のため、ECの利用が広がることで食品・飲料以外の「ついで買い」によって他の分野の利用も期待されます。
3位の「衣類・服装雑貨等」(アパレル)業界は、Instagramとの相性が良いため、多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーが立ち上げたブランドや話題となった企業への関心が集まりやすく、消費者のレスポンスも比較的早い段階で表れやすい傾向があります。
ユニクロ、ZOZOTOWNなどのファッション通販大手がしのぎを削っている市場のため、デジタルを駆使した新しい仕組みやサービスが次々に打ち出されています。常に最先端の取り組みに挑戦し続けているアパレル業界は、国内BtoC-EC市場全体のデジタル技術の向上にも一役買っていると言っても過言ではないでしょう。
B.サービス系分野
サービス系分野には、「旅行サービス」「飲食サービス」「宿泊サービス」などが含まれます。
◆サービス系分野のBtoC-ECの市場規模[図表 4-19]
「旅行サービス」「飲食サービス」「チケット販売」の3つのサービスでは、コロナ禍のネガティブな影響を大きく受けた2020年の市場規模がかつてないほどのマイナス成長となりましたが、パンデミックが収束したことで、経済活動と消費者行動が活性化したことにより2022年には急激な回復が見られ、2023年の伸び率においても勢いが続いています。
「旅行サービス」はEC化にいち早く取り組んできた業界の一つです。いつでも手軽に航空券や宿泊先を予約できるインターネット予約やチケットレスサービスなど、消費者の利便性が高いサービスを提供しています。
さらに「エクスペディア」や「じゃらんnet」などのインターネット旅行代理店(OTA:Online Travel Agent)の台頭が、BtoC-ECの利用率を押し上げました。
とはいえ、対面予約の需要も根強くあり、消費者ニーズはECと実店舗の二極化が進んでいましたが、コロナ禍を機にEC利用へ移行した消費者も少なくないと思われるため、今後はEC利用率が増加していくのではないでしょうか。
しかし、旅行サービスにおいては、業界の成長率に歯止めをかけかねない大きなニュースが2023年にありました。世界最大手の旅行予約サイトのブッキングドットコムにおいて、ブッキングドットコム経由で予約した宿泊代金の入金が遅延するという事態が発生しました。
参考:東洋経済オンライン「旅行予約サイト最大手でまさかの『入金遅延』騒動」(2023年8月31日掲載)
このため、資金力が弱い小さな宿泊施設には多大な影響があったのではないかと考えられます。地方の宿泊施設は都心のサービス業とは異なり、一度廃業になってしまうと、人手不足のため新しい宿泊施設が誕生しにくい面があります。そのためブッキングドットコムの一過性のシステムトラブルであっても、地方観光に大きな影響を及ぼすことにつながるのです。
「飲食サービス」では、コロナ禍の前からインターネット予約の利用率が増加していました。「食べログ」や「一休.com」などのレストラン予約サービスサイトでは掲載店舗も充実しており、予約も簡単に行えます。また、外食産業はコロナ禍の影響を最も大きく受けている業界の一つでしたが、パンデミック後に急激に市場が拡大しております。
しかし、飲食サービスにおいても社会問題が発生しております。口コミサイトの評価基準に対する疑念についてです。
参考:ダイヤモンド・オンライン「食べログ『高評価はカネ次第』疑惑勃発、騒動の原因はどこに?」(2020年2月18日掲載)
このようなこともあり、特に若い世代には口コミサイトよりも、SNSの投稿の方が信ぴょう性があるとされており、俗に言う「食べログ離れ」が進んでいる印象です。
参考:プレジデントオンライン「若者の『食べログ離れ』が止まらない…信用をどんどん失いつつある”口コミビジネス”の正念場」(2022年2月1日掲載)
「チケット販売」はBtoC-ECとの相性が極めて良いサービスの一つで、2022年に急激に伸び、2023年も伸び率が下がったものの引き続き市場は成長しております。近年は、チケットの転売を防ぐために本人認証の仕組みを備えた電子チケットの採用も増えつつあり、電子チケットをスマートフォンと組み合わせて使用することで、他人への譲渡を制限できます。今後も「チケット販売」のEC化はますます進化していくでしょう。
「金融サービス」では2020年以降のコロナ禍で投資を始める人が増えたことに加え、ビットコインなどの仮想通貨取引が再び過熱したことで急激に伸びました。金融業界はEC化にもいち早く取り組んできました。新たな電子サービスを提供することも、もちろん効果的ですが、この業界では投資家や市場の動きの方が、市場規模に大きく影響することとなります。
2023年に大きく伸びたことも、2023年に1ドル150円を超える円安が進んだことなど、為替に影響されているのではないかと筆者は推測します。
C.デジタル系分野
デジタル系分野には、「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」「有料音楽配信」「有料動画配信」「オンラインゲーム」サービスなどが含まれます。
◆デジタル系分野のBtoC-EC市場規模[図表 4-21]
デジタル系分野の市場規模の拡大には、データ通信サービスの定額プランが充実したことなども影響していると考えられます。通信キャリアやMVNO各社から定額で大容量データ通信が可能なプランや格安SIMなどが提供されるようになったことで、データ通信料を気にすることなく、リッチコンテンツを視聴できる環境が整いました。
「有料動画配信」サービスでは、AmazonプライムやNetflixなどの大手各社が魅力的なオリジナルコンテンツを製作して会員向けに配信しており、従来であれば人々がテレビ視聴に使っていた多くの時間が、動画視聴によって奪われつつあります。例えばNetflixでは、以下のようなドラマを配信しています。
◆主なNetflixオリジナル国内ドラマ
・THE DAYS(2023年~)
・サンクチュアリ -聖域-(2023年~)
・地面師たち(2024年~)
・極悪女王(2024年~)
これらのドラマは、日本だけでなく世界中でも配信されており、アニメ以外にも日本のコンテンツが注目されるキッカケとなりつつあります。
しかし、「オンラインゲーム」は前年に引き続きマイナス成長となり、デジタル系分野全体の足を引っ張る形となりました。パンデミックで流行った「巣ごもり需要」が落ち着きを見せ、人々の消費行動に変化が出たことが、ゲームの市場にも強く影響したことが考えられます。
ただ、オンラインゲームをはじめとするコンテンツサービス市場においては、メガヒット作品を生み出せるか否かで市場規模が激変する分野であり、ヒット作が世に生まれれば、劇的に市場規模は伸びてくるはずでしょう。
国内CtoC-EC(フリマアプリ、ネットオークションなど)の市場規模
◆CtoC-EC推定市場規模[図表 5-1]
メルカリなどのサービスに代表されるCtoC-EC市場は、フリマアプリの画面操作性が向上したことでスマートフォンを使用して誰でも簡単に出品できるようになり、テレビコマーシャルなどを通じて多くの人々に認知されたことで一気に普及しました。
コロナ禍の影響で伸長率が2020年は12.5%、2021年は12.9%となり一気に活性化していましたが、パンデミックが落ち着きを見せた2023年になると5.0%と伸び率が鈍化してきました。
急激に世に普及したフリマアプリサービスの新たな市場では法整備が追いついておらず、現金や入金済みICカードが出品されるなどの不当な行為が過去に発生したこともあります。また、フリマアプリが転売屋の高額転売のための場となっていることが問題視されております。
各業界では個別に転売屋対策が実施されており、例えば家電量販店「ノジマ」では、プレイステーション5の箱に、購入時にマジックペンで名前を書いてもらうなどの徹底した対策が話題となりました。
参考:ねとらぼ「『PS5購入者は箱に名前を書いてもらう』ノジマはなぜ転売ヤーを許さないのか? 苛烈な転売対策の背景を担当者に聞いた」(2021年10月26日掲載)
筆者の個人的な経験ですが、人気のスニーカーの復刻販売があった際、ネットの抽選販売に申し込んだり、店舗に朝早くから並んだりなどしましたが、一度も購入できたことはありませんでした。そんなときフリマアプリを見ると、売り切れたばかりの商品が高値で販売されていました。このことをきっかけに、筆者はスニーカー収集という趣味自体やめてしまいました。このような方は少なくないのではないでしょうか。
ほとんどの転売行為自体は法令に違反するわけでもなく、また「定価を上回る費用を出してでも絶対に購入したい!」という方の役に立っている面もありますが、転売行為が広まると、一般の方が入手困難なことから、買い求めるのを諦める人が増えるのではないかと筆者は考えます。
フリマアプリ側でも、メーカーと連携して転売屋対策が実施されつつあり、このような努力が引き続きプラットフォーマーには求められるのではないでしょうか。
参考:インサイド「『ポケカ』転売を巡って公式が対策を強化―メルカリと連携協定を締結、最新パックは異例の“発売前から受注生産”へ」(2023年6月13日掲載)
スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模
◆スマートフォン経由の物販のBtoC-EC市場規模の直近8年間の推移[図表 4-14]
ひと昔前までは、パソコンと比べスマートフォンでは文字を入力しづらかったり、場所によって通信が不安定になったりする点が、スマートフォンを利用したEC購入の障壁となっていました。
しかし、現在は通信環境が整備され、大画面サイズの端末もそろっており、さらにスマートフォンが普及したことで“操作慣れ”も進んだことで、スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は拡大しています。
消費者の日常にスマートフォンが浸透したことで、電子マネーやクレジットカードによる決済への抵抗感よりも利便性を求めるニーズのほうが高まっている点も、スマートフォン経由の市場規模拡大を後押ししています。
スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は、2023年に58.7%になり6割に迫る勢いです。今後、スマートフォン経由の消費行動が減ることは考えづらいですが、高額商品の物販購入や入力項目の多い旅行サービスなどはパソコン経由で購入したいというニーズも一定数あります。
しかし、2024年9月に発売された「iPhone16」にはAIが搭載されるなど、AIによってスマートフォンの利便性が高まっており、買い物においてもソリューションが生まれれば、スマートフォンでの買い物がさらに普及する可能性があります。
EC市場規模拡大がもたらした“物流”における課題
コロナ禍の在宅勤務や巣ごもり需要により、オンラインサービスの利用機会が増えたことでネットショッピングの利用が急増しましたが、令和4年までの宅配便取扱個数の推移(下図)を見ると、コロナ禍の前から宅配便取扱個数が増加し続けていることが分かります。
◆年度別宅配便取扱個数の推移(単位:億個)[図表 4-8]
ネットショッピングの普及とともに宅配便取扱個数が増加したことで、宅配事業者の人手不足や過重労働が社会問題化し、受取人不在による再配達コストなども注目されるようになりました。
そのような状況の中、2020年以降は再配達率が改善しつつあります。
◆宅配便の再配達率の過去5年の推移(2019年より国土交通省が実施しているサンプル調査)
・2020年10月調査時点:都市部11.7% 都市部近郊11.2% 地方11.0%
・2021年10月調査時点:都市部13.0% 都市部近郊11.3% 地方10.4%
・2022年10月調査時点:都市部13.0% 都市部近郊11.2% 地方9.9%
・2023年10月調査時点:都市部12.1% 都市部近郊10.7% 地方9.2%
2019年と比べると、都市部、都市部近郊、地方ともに減少していることが分かります。再配達率が減少傾向を示している要因として以下の要因が挙げられます。
◆再配達率の減少に影響したと見られる要因
✓店舗受け取りや宅配ロッカーの利用などの「クリック・アンド・コレクト」の浸透
✓置き配の一般化
再配達による負荷の削減については改善傾向が見られるものの、配送ドライバーの人手不足や高齢化など物流の問題は残されており、今後のEC市場規模拡大におけるボトルネックとなる可能性があります。
参考:LogisticsToday「幹線輸送ドライバー不足の深刻化不可避」(2021年7月20日掲載)
インターネット取引ではクレジットカード決済が主流
◆インターネットを使って商品を購入する際の決済手段(時系列)
出典(画像):総務省「令和5年通信利用動向調査報告者(世帯編)(図表5-14)」
最も利用されている決済方法は「クレジットカード払い」で利用率は前年を上回る76.7%でした。
また「電子マネーによる支払い」が「コンビニエンスストアでの支払い」を上回って2位となり、急激に伸びております。これは単に消費者の利用が進んでいるだけでなく、EC事業者も「ID決済」(Amazon Payや楽天ペイなど)の導入が進んだためではないかと、筆者は推測しています。
しかし、深刻な社会問題となっているのが、クレジットカード決済の不正利用の増加です。次に解説します。
クレジットカード決済の不正利用
◆クレジットカード不正利用被害の発生状況[図表 4-12]
以前からクレジットカード利用者の個人情報の漏えいは社会問題化していましたが、クレジットカード決済の利用率が高まるにつれ、個人情報の漏えいリスクはますます高まっています。
経済産業省の指導のもとで、クレジット取引セキュリティ対策協議会が取りまとめた「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」(現行の「クレジットカード・セキュリティガイドライン」の前身文書)により、EC事業者に対しては2018年3月までに、原則として「クレジットカード情報の非保持化」を推進し、保持する場合は「PCI DSS準拠」に対応するよう求められました。
2018年6月に施行された改正割賦販売法では、ECでの不正使用対策とカード情報漏えい対策が義務化されています。ECシステムのクレジットカード決済システムの変更が必要となり、EC事業者の責任ある対応が求められています。
広告費のメインが「テレビ」から「インターネット」に移行
◆広告費全体とインターネット広告費(単位:億円)[図表 3-8]
近年、テレビ広告費が緩やかに減り続ける一方で、インターネット広告費は飛躍的に増加しています。そして2019年には、インターネット広告費がテレビ広告費を初めて上回りました。
参考:朝日新聞デジタル「ネット広告費、初めてテレビ抜く 2019年2兆円超え」(2020年3月11日掲載)
インターネット広告費が増えることでインターネット通販の市場規模が拡大し、EC化率の伸長にもつながります。
上のグラフでは、コロナ禍の影響で2020年の広告費総額は落ち込んでいますが、そのような中で、インターネット広告費は増加していることが分かります。
インターネット広告では「何人のユーザーが広告を見て、その内の何人が購入したか」という具体的な効果を測定できます。効果が分かりづらいオフライン広告よりも、費用対効果が明確に示されるインターネット広告のほうが事業者にとっても有益です。これからの広告はインターネット広告を中心に構成されていくことは間違いありません。
しかし、課題もあります。インターネット広告を利用する事業者が一気に増えたため、広告単価が高くなり、インターネット広告の効果が出にくくなっている現状があります。特に物販であれば、平均単価は3,000円程度であるため、インターネット広告と相性が良くありません。
そのため、EC事業者はインターネット広告だけではなく、SNS運用や、コンテンツマーケティングによるSEO対策など広告費用がかからないマーケティング施策も実施する必要があります。
国内BtoB市場のEC化率は40.0%
2020年は新型コロナウイルス感染症の流行拡大の影響を受けて国内のBtoB-EC市場規模も縮小しました。しかし、EC化率を見ると2021年には35.6%、2022年には37.5%、2023年には40.0%と堅調に伸び続けています。
ここ数年EC化率が伸長した背景としては、コロナ禍からの世界経済の正常化が進む中で、2023年は日経平均株価が好調に推移し、バブル期以来の最高値を更新したことが挙げられます。この経済回復の流れに伴い、特にBtoB分野においてもEC化が急速に進展しました。
従来、FAXや電話による受発注が主流であった企業間取引において、DX推進により、企業はオンラインでの取引基盤を整備する動きを加速させています。
さらに、受発注プロセスの自動化やAI技術を取り入れたBtoB-ECサイトの構築が進んでいることも、BtoB-ECの成長に寄与しています。
2023年の市場規模は465兆円と非常に大きく、業種別の内訳を見てもEC化率は上昇しています(業種別の内訳は後ほど詳しく解説します)。その背景には、ECシステムを提供する企業の多様化や、BtoBに特化したASPサービスの登場などにより、EC事業者がECサイトをより効率的に運用できるようになったこともあるでしょう。
また、AI技術の利用も進んでいます。例えばFAXや紙の発注書などは、スマートフォンで読み取った人間の手書き文字をAIが瞬時に識別し、EDIや受発注システムに取り込むなど活用されています。
こうしたデジタル化の流れに対応するため、BtoB-ECサイトの構築・リニューアルでは、従来のレガシーシステムからの移行が重要です。BtoB-ECサイトにおいては柔軟なカスタマイズやシステム連携が可能なクラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」もぜひご検討ください。
続いて、国内BtoB-EC市場規模の業種別の内訳を見ていきましょう。
それでは、部門ごとに解説します。
「建設・不動産業」部門では、資材の高騰が続き、多くの建設会社では、すでに請け負った工事の採算が悪化しております。また熟練技術者が高齢化により減少することもあり、人手不足による工期の長期化が続いているため、遅れているDXを推進し、ECの利用を促進することも求められます。
「食品」部門は、2023年に消費者の外出機会が前年に増して増加し、外食やホテル需要が拡大した結果、業務用食品市場規模等が拡大し、この市場をけん引していると考察され、準じてEC化率も75.0%と伸長しております。
「情報通信」部門では、コロナ禍の影響による開発遅延等はあったものの、リモートワーク環境構築やDX関連の需要が増加しています。しかし、多くの現場ではスキルを備えたエンジニアが不足しており、需要に対して供給が追い付かない状況が続いています。
「卸売」部門では、2020年に市場規模が大幅に縮小しましたが、2021年以降は経済活動が動き始めたことに伴い市場規模が回復し、2022年にはその動きが落ち着きました。今後はEDIの2024年問題(ISDN回線の廃止)により、流通BMS標準化が進み、インターネット回線が普及するため、この分野のEC化率は2024年に大きな動きを見せるのではないかと予想します。
参考:三井住友銀行「2023年の回顧と2024年の展望」(2023年12月発表)
最後に
2023年は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行されたこともあり、人々のライフスタイルがコロナ禍前に戻ってきた印象を受ける年であり、特に食品分野においてECの利用が一般化してきました。
しかし、ECの成長を支えるサプライチェーンにおいては、トラックドライバーや配達員の人手不足が深刻化しており、これがECの拡大を阻むボトルネックになりつつあります。これを解決するために、私たち消費者ができることもあります。
例えば、再配達が必要のない時間帯や受け取り場所の選択、置き配の利用など、小さな工夫で配送現場の負荷を軽減することができます。
このような社会的課題に対して、個々の行動が大きな違いを生むと筆者は考えます。EC化が進むことで、少子高齢化が進行する日本社会の効率化や活性化に貢献できる可能性が広がります。政府、企業、そして消費者が一体となって、デジタル化を前向きに進めていくことが、より良い未来を築くために重要ではないでしょうか。