転職や部署異動で新たにEC担当者になると、知っているようで、知らないことの多いEC業界。EC業界とはどのようなものなのでしょうか?
社内やベンダーとの会議の話についていくために、知っておいた方が良いEC業界の概要やトレンドというものがありますが、ECはインターネットの普及と共に一般的なことになってきており、新卒でない方や他業界から入ってきた方は、今さら同僚や上司にも聞きにくいかもしれませんね。
しかし、ご安心ください。この記事を上から下まで10分かけて読んでいただくだけで、EC業界の概要とトレンドを全て学ぶことができるでしょう。
本日は株式会社インターファクトリーでWEBマーケティングを担当している筆者が、これからEC業界を学ぶ人のために、EC業界の概要とトレンドの全てを解説いたします。
知っておくべきEC業界の概要とトレンド
それでは、ECにおいて必ず押さえておきたい業界の概要やトレンドについて、下記8つの項目にまとめたので一つずつ解説してまいります。
① 絶対に知っておこう!「EC化率」とは?
② EC通販の売上ランキングベスト30で、EC業界のトレンドを知る
③ EC業界で知っておくべき単語やトレンドとは?
④ ID決済の流れ
⑤ 経済産業省より「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」
⑥ 新しいECサイト構築手法のクラウドECが普及
⑦ 誰でもECサイトが作れる時代、ECを作るのはカンタンだけど、ECを成功させるのは非常に難しい!
⑧ EC業界で求められるスキルとは?
① 絶対に知っておこう!「EC化率」とは?
まず、EC業界全体を把握するために大事な指標は、EC化率です。EC化率とは、全商取引(実店舗とECを含む)の中で、ECサイトでの取引の割合を指す言葉です。それでは、最新の2022年のBtoBとBtoCのEC化率を見てみましょう。
◆最新のEC化率(BtoC)
2022年のEC化率は9.13%
◆最新のEC化率(BtoB)
2022年のEC化率は37.5%
経済産業省の最新の調査結果より引用:「令和4年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書(経済産業省)
特にBtoCに言えるのが、日本国内のEC化率はまだまだ低く、しかも、右肩上がりのため、これからも成長が見込める産業だということです。また、新型コロナウイルスの流行により、感染予防の観点からも実店舗よりもネット販売の需要が今後も伸びることが予想されます。
BtoBの方が、EC化率が高い理由には、EDI※とECの区別がなく、この指標にはEDIが入っているためです。
※EDIとは、Electronic Data Interchangeの事です。企業間の商取引において必ず発生する、注文、請求、決済などの取引をデジタルに変換し、企業間のやり取りをスムーズにするシステムのこと。
EDIについてはこちらの記事をご覧ください:7つのポイントでEDIを優しく解説!EDIの必要性と課題
社内で、自社ECサイトの今後の展望のプレゼンテーションを行うなら、EC業界全体の数字は資料に掲載する必要があります。そして、業界ごとのEC化率や考察を押さえておいた方が良いでしょう。業界ごとの考察は、下記の記事の下の方にまとめておりますので、こちらをご覧ください。
② EC通販の売上ランキングベスト40で、EC業界のトレンドを知る
EC業界を語るには、業界で売上上位を占める有力なECサイトを知ることをおすすめします。なぜなら、そこには、必ずあなたの会社のベンチマークとすべき企業があり、自社ECサイトのKPIや目標を定めるには、業界トップ企業のECサイトの売上を参考にするケースがあるからです。
では、以下、「日本ネット経済新聞」から引用した、2022年度のEC売上高ランキングを紹介いたします。
ランキングの引用元はこちらです。無料会員登録することでランキングTOP100までご覧いただけますので、ぜひ登録されることをお勧めします:【ネット通販売上高TOP520<2023年版>発表】会員限定でTOP100公開、増収率TOP10も掲載
※(*)売上高は日本ネット経済新聞推定
※(◎)は純粋な売上ではなく、サイト全体の流通総額のケースやグループ会社合計値(引用元サイト参照)
やはり、Amazonがダントツの1位です。
BtoB(アスクル)、BtoC(LOHACO)それぞれで売上を高めたアスクルが日本企業では最高位についています。アスクルは、BtoBの売上拡大、LOHACOのコスト削減、1箱あたりの単価向上にともなう物流費比率の低減といった3つの要素で増益を達成したとしています。
3位ヨドバシカメラ、6位ヤマダデンキ、7位ビックカメラと、他分野と比較してECの利用が非常に進んでいる家電企業が、10位以内に3社入っています。家電分野のEC化率は42.01%と非常に高い数値です。
注目したいのは、今回12位につけたオイシックス・ラ・大地です。本ランキングTOP40では12位ですが、唯一の食品分野のサイトです。
食品EC業界の市場規模はまだまだ小さく、EC化率はたったの4.16%です。しかしEC化が進んでいない食品業界こそ、今後国内全体のEC化率を高める鍵となってくることは間違いなく、その中で今回オイシックス・ラ・大地が、上位にランクインしていることは大きいと筆者は考えます。同社がけん引役となって、食品EC業界が活性化してくれるのを期待したいところです。
このようにEC企業のランキングから、各業種のECのトレンドと今後を読み取ることができるのです。
③ EC業界で知っておくべき単語やトレンドとは?
EC業界で、押さえておくべき単語やトレンドが存在しますので、紹介いたします。
DtoC(D2C)
DtoCとはD2Cとも表記され、Direct to Consumerの略で、カンタンに説明するとメーカーが卸や代理店、ショッピングモールを通さず、直接ECサイトで販売するビジネスモデルであり、ECサイトがShopifyなどで、誰でもカンタンに作れるようになったことで、世に出てきたトレンドワードです。
知名度が弱いブランドやメーカーでも、SNSなどを上手く使ってWEBマーケティングを行うことで、フォロワーを増やし、ユーザーと直接つながることで、売上を上げることができるのです。逆に言えばSNSなどのマーケティング施策を適切に実行できなければ、なかなか商品を売ることができません。
DtoCは、EC業界では頻繁に使われる用語の一つなので、覚えておきましょう。DtoCについては下記の記事にまとめてあるので、あわせてご覧ください。
また、D2Cビジネスで売上を伸ばしたい方に! 資料でも詳しく説明しています。
資料請求:D2Cビジネス向けお役立ち資料
オムニチャネル・O2O
EC業界を知るためには絶対に、「オムニチャネル」と「O2O」という言葉を理解しておいた方が良いでしょう。またこの2つは似ている施策で、混同している人も多いので、どのポイントが違うのかも明確に分けて解説いたします。
O2O
O2Oとは、オンライン to オフライン(逆の場合も使われます)の略語です。具体的には「スマートフォンで受けとったクーポン券を、実店舗に持っていき、店員に見せて、割引で商品を購入する」というケースが代表的でしょう。つまりWEBクーポンなどを、実店舗の集客を目的に使う手法です。効果は限定的で、短期的な施策になります。
この施策を行うためには、会員のポイントデータの統合を行う必要があります。
オムニチャネル
オムニチャネルとは、ECサイトと実店舗の会員情報、受注情報、ポイント情報など、全てのデータベースを統合して、顧客が店舗やスマートフォンなどの全ての接点から、自由に買い物や返品ができる仕組みのことです。目的は顧客満足度を追及することで、リピーターを増やして売上を向上させる長期的施策になります。
O2Oとオムニチャネルの違いは?
O2Oとオムニチャネルの違いがわからないという新人の方を多く見かけますので、この違いを説明いたします。O2Oはポイント情報の統合により、WEBクーポンを使って実店舗に集客する短期的施策です。
それに対して、オムニチャネルは全てのデータベースを統合し、実店舗とECサイトの境界をなくして、顧客は店舗でもスマートフォンでも電話でも、シームレスに買い物ができる仕組みになり、利便性が向上し、リピーターが増える施策で、長期的に利益を上げることができます。
オムニチャネルの弱点は、店舗を多く持つ企業がECサイトを積極的に展開した結果、実店舗よりECサイトの売上が向上するため、実店舗の閉鎖や、店舗スタッフのモチベーション低下が起きる可能性があります。そういう意味でも、Amazonのような、Eコマースがメインの会社が実店舗を展開する方が、メリットが大きい施策でもあります。
オムニチャネルやO2Oに関して、もっと詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
OMO
オムニチャネルよりも進んだ考え方が提唱されております。それがOMOです。OMOとは「Online Merges with Offline」の略で、オフラインでのユーザー行動をデジタル化し、オンラインに統合することで、UX(顧客体験)を向上させることが可能になるマーケティング戦略を指します。
例えば、スマホにスマホ使用率がデータとしてたまるアプリを入れて、眼科がそのアプリのデータから、生活習慣のアドバイスをするなど、オフラインをデータ化することで、顧客に素晴らしい体験を提供するのがOMOです。
OMOとオムニチャネルの違いが分からないという方もいると思いますが、広義においてオムニチャネルとの違いはありません。狭義において、オムニチャネルはデータ連携やチャネル統合という観点で語られることが多いのですが、OMOはユーザー体験という観点から語られます。
両者に明確な違いはありませんが、より顧客起点のOMOが、オムニチャネルよりもトレンドのキーワードとなっているので、オムニチャネルと一緒に覚えておきましょう。OMOについては下記記事をご覧ください。
越境EC
2015年から2016年は、業界では中国人向けの越境ECが大いに盛り上がりました。特に世間を騒がせたのは、中国人による爆買いです。多くのEC事業者は、中国人の旺盛な消費力に目をつけて、越境EC施策に興味を持ったため、業界では越境ECがトレンドになったのです。
2020年には、新型コロナウイルスの流行により中国人旅行者がいなくなったため、日本の商品を手に入れたい中国人のための需要が高まることが予想されましたが、中国向けの越境ECで成功している企業はいまだ少ないのが現状です。それには中国の事情が障壁として立ちはだかっています。
障壁② 中国ではクレジットカードが普及していない
障壁③ 日本から中国国内への配送には時間がかかる
以上のような事情があるため、現在では、自社で作るECサイトより、中国の2大モールの「天猫(T-mall)」と「京東(ジンドン)」に出店する方法が現実的です。
なぜなら中国人がインターネットで購入するときは、検索エンジンではなくモールで検索する人がほとんどであり、中国で最も普及しているAlipay(支付宝)やWeChatPay(微信支付)といった決済方法にも対応しているからです。
越境ECサイト構築や課題については、下記の記事をご覧ください。
④ ID決済の流れ
ID決済とは、クレジットカード番号の入力が不要で、IDとパスワードだけで決済が行える仕組みのことで、代表的なものは以下の2つです。
・楽天ペイ
ID決済のメリットは、例えば、認知度の低いECサイトに欲しい商品があった場合、ユーザーの心理としては「この商品は欲しいけど、信頼できるサイトなのかな?」という不安があります。しかし、決済方法に「Amazon Pay」や「楽天ペイ」のボタンがあれば、安心して、決済を行うことができるのです。
ログインしてしまえば、名前や住所の入力も不要です。ユーザーの不安と手間を省くことにより、EC事業者は、CVR(コンバージョンレシオ)を向上させ、売上を上げることができるのです。
Amazonや楽天にとっては、手数料収入がありますし、楽天は楽天ポイントの「楽天経済圏」をさらに広めることができるメリットがあるのです。
今後、EC業界で普及していくのは確実なので、「ID決済」については押さえておきましょう。詳しくは下記の記事で解説しております。
⑤ 経済産業省より「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」
多発するクレジットカード番号の流出や、ハッキング被害により、2016年4月に、経済産業省から「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」が発表されました。これにより、EC加盟店は2018年3月までに、以下のいずれかに対応しなくてはなりませんでしたが、2023年現在も対応できていない企業がいまだに多いのが現状です。
・クレジットカード番号を非通過にする
この両方の対応はEC加盟店にとって、大変なことです。まず「PCI DSSに準拠する」には、数千万円の費用がかかります。一方、「クレジットカード番号を非通過にする」は、決済画面のクレジットカード番号入力画面を、外部の決済会社のURLで持つことになり、実装はカンタンですが、外部のURLに飛ばすと、CVRや売上が下がるデメリットがあります。
PCI DSSについては、下記記事で詳しく解説しております。
⑥ 新しいECサイト構築手法のクラウドECが普及
今までは、ECサイトを構築する手段としては、以下の4つが主流でした。
◆今までのECサイト構築方法
2.ECパッケージ
3.オープンソース
4.ASP
しかし、ASP以外の構築方法では、システムが陳腐化してしまうため、導入から3年もたてばシステムリニューアルを検討する必要があるため、3年から5年ごとに莫大なシステム投資が必要になります。(ASPは陳腐化しませんが、カスタマイズやシステム連携が不可のため、中小規模のECサイト向きの構築方法です。)
そこで、生まれたのがクラウドECという「常に最新で」「カスタマイズ・システム連携が可能」なEC構築方式です。
◆新しいECサイト構築方法
そして2023年現在、フルカスタマイズできるECプラットフォームの導入数においては、弊社のebisumartがナンバー1のシェアを持っています。長期的にシステム投資が安くなる、クラウドECによるECサイト構築方法は今後普及するでしょう。
⑦ 誰でもECサイトが作れる時代、ECを作るのはカンタンだけど、ECを成功させるのは非常に難しい!
ここまで「オムニチャネル」や「越境EC」など、聞いたことのないであろう言葉について解説してきましたが、もしECについてもっと詳しくなりたい!という方は、一番良い方法があります。それはECサイトの運営者になることです。
実は、BASE (ベイス)やSTORES(ストアーズ)といった無料のASPを使えば、誰でもすぐにECサイトを作ることができます。例えば、家にいらないものがあれば、それを販売する個人のECサイトをすぐに作ることもできます。商品の写真があれば、それこそ10分で作ることも可能です。詳しい方法は以下の記事をご覧ください。
つまり、個人であっても企業であっても、現在はECサイトをすぐに作れる時代のため、ECサイトを作る難易度は下がっており、特別な機能を持たせなければ、すぐに作ることができます。
しかし、ECサイトで最も難しいのは、ECサイトに人を集めるマーケティングなのです。なぜなら、あなた自身がネットで買い物をするのも、「Amazon」や「楽天市場」などのショッピングモールではないでしょうか?あるいは「ユニクロ」や「ヨドバシカメラ」などの誰もが知っている大手小売りのECサイトではないでしょうか?
よほどの理由がないかぎり、クレジットカード番号を入力するのに抵抗のある小さいネットショップで買い物することはないでしょう。それでも「このショップで買いたい!」とユーザーに思わせるのは大変なことなのです。ここにECサイトを成功させる難しさがあるのです。
⑧ EC業界で求められるスキルとは?
それでは最後に、EC業界において求められるスキルを2つの立場から解説いたします。
ITエンジニアの場合
ITエンジニアの方であれば、他の開発と何が違うのでしょうか?ECサイトの開発において、大切な要素はトラフィック制御です。カンタンに言うと、例えばテレビで自社商品が取り上げられると、その反響はすさまじく、1秒間に数千のアクセスがECサイトにやってきます。
ECサイトでは、トラフィックを上手く制御しながらECサイトを落ちない(動きを止めない)ようにする技術が求められます。Amazonのサイトが毎日世界中から大量のアクセスがあっても、決してサイトを止めずECを運営するのは、実は大変な技術が必要になるのです。
ネットショップ担当の場合
年商が1億円未満のネットショップを担当する場合に求められるスキルは、それこそ経営者のように、全てのスキルが必要になります。ざっくりと挙げるだけでも以下のようなスキルがあります。
◆ネットショップ担当に必要なスキル
・ささげ業務(撮影・採寸・原稿)
・商品発送
・顧客対応、返品対応
・広告やWebマーケティング
・業者との交渉
大変ではありますが、逆にこれだけのスキルを身に付けることができれば、どんな会社でもEC担当者として非常に重宝されるのは間違いありません。そしてEC業界の大きな課題ですが、ECの運営を担当できる人材が非常に少ないのです。
特に、ECを成功させるために絶対に必要なWebマーケティングスキルを持っている方はごくわずかしかおらず、このスキルがあれば収入で困ることはないでしょう。どの企業であっても優れたマーケティング担当の採用を行っており、高い収入が見込めるからです。
まとめ:あらゆる産業がECに進出する!EC業界は面白い!
私の経験ですと、日本の大手の小売業では、EC部門が花形部門ではない会社が多いのが実情です。しかし、冒頭で紹介したとおり、日本国内ではEC化率は毎年右肩上がりで、今後も、さらなる成長が見込める分野であることは確実です。さらに、コロナ禍を経て実店舗に客足が戻りつつも、消費者のネットへの動きは加速しております。
今後、企業の成長のために、EC業界への参入や、店舗とECの垣根をなくすオムニチャネル戦略が増えていくでしょう。そしてEC業界は、移り変わりの激しい業界です。毎年新しいトレンドや施策が生まれる、非常に面白い業界であるということを、私は断言します!