「ユニファイドコマース」とは、「unified(統合された)」「commerce(商取引)」を実現するための概念で、近年、ユーザー(顧客)に実店舗、ECサイト、アプリなどのあらゆるチャネルで統一された顧客体験を提供するための有効な施策として注目されています。「従来のオムニチャネルやOMOと何が違うの?」と戸惑ってしまう方も多いのではないでしょうか。
オムニチャネルも、すべてのチャネルでユーザーにシームレスな購入体験を提供するための施策です。しかし、あくまでも在庫データと顧客データを統合してチャネルの垣根を取り除くための仕組みを構築するもので、顧客の行動を理解して素早くエクスペリエンス(体験)につなげるという観点は含まれていません。そのため、それらを含むオムニチャネルの進化形として登場したのが、顧客の行動履歴に基づいて、統合された顧客体験を提供するユニファイドコマースです。
オムニチャネル、O2O(Online to Offline)、OMO(Online Merges with Offline)と、ユニファイドコマースとの明確な違いは「目的」です。オムニチャネル、O2O、OMOはUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上による売上増を目的としているのに対し、ユニファイドコマースはCX(カスタマーエクスペリエンス)の追求と向上を目的としています。
UXではECサイトにすでに訪問しているユーザーの利便性と快適な購入体験を重視しますが、CXではユーザーがECサイトを離れた後もアフターサービスや行動予測に基づく情報発信など、広範にわたる顧客体験を追求します。
本日はインターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、Webマーケティングの視点から、小売業界でユニファイドコマースが求められる5つの背景を解説します。
ユニファイドコマースが求められる5つの背景
ユニファイドコマースは小売業界における今後のスタンダードになるでしょう。それには、小売業界を取り巻く5つの背景が影響しています。
◆小売業界を取り巻く5つの背景
背景②オンラインとオフラインを意識させない購入体験ニーズ
背景③EC事業の重要度の高まり
背景④広告費の増加
背景⑤生産性向上と効率化の必要性
背景①複雑化するカスタマージャーニー
SNSが普及した現在、マスマーケティングが主流だった頃と比べて、カスタマージャーニーは細分化・複雑化しています。
例えば、かつてはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌(4マス媒体)に広告(4マス広告)を出せば、企業はターゲットユーザーの大半にリーチすることができました。しかし、インターネットが発達しモバイル社会となった今日、人々が利用する媒体は多岐にわたります。
◆カスタマージャーニー比較
企業がユーザー(消費者)にリーチするためには、さまざまな媒体を網羅する必要があります。また、細分化しているユーザーニーズに応え続ける企業姿勢と実現力に対する評価が年々高まっており、従来のマスマーケティング手法では効果が出にくくなっています。
ユニファイドコマースを実現すると、オンライン/オフラインを問わず、さまざまなチャネルからアクセスしてくるユーザーに対して、パーソナライズ(最適化)した情報やサービスをいつでも提供することができます。
例えば、EC会員がある商品広告をクリックすると、瞬時に詳細な商品情報のDMを送信したり、実店舗を訪れたユーザーに、ECサイトやアプリでの行動と連動した最適な応対を行ったりすることも可能になります。
統合されたデータに基づく顧客行動を追跡・分析して最適なCXを提供することで、複雑化するカスタマージャーニーに適切に対応していくことが求められているのです。
背景②オンラインとオフラインを意識させない購入体験ニーズ
ユニファイドコマースは、実店舗やECサイトなどのチャネル間の垣根を越えて顧客行動を追跡することで、ユーザーの利便性と快適な顧客体験を提供します。
具体的には、次のようなオペレーションやサービスを実現できます。
◆ユニファイドコマースで実現できるオペレーションやサービスの例
・ユーザーは実店舗で店頭スタッフから高価な商品を詳しく説明してもらい、DMに送られてきた商品情報などを基に検討した上で、後日、ECサイトでも購入できる。
・ユーザーがECサイトで見つけた商品の実物を確認するために実店舗に来店し、店頭スタッフにさらに詳しく説明してもらった上で、当日、店頭でも購入できる。
・ユーザーが実店舗に来店した際にアプリなどの会員情報を提示すると、ユーザーのすべての顧客接点における行動履歴を確認した店頭スタッフから最適な応対を受けることができる。ユーザーにとって相談しやすい雰囲気が醸成されるため、実店舗の来店率アップや購入機会の創出につながる。
・ユーザーはアプリやECサイト上で実店舗での購入履歴も確認することができ、実店舗で購入した商品であっても、購入履歴からECサイトで再購入できる。
ユーザーはオンライン/オフラインを意識することなく、都合に合わせて店舗を選び、問い合わせや買い物ができるようになります。購入のしやすさも、こまやかな接客も、ユーザーの購入意欲と満足度に直接影響するものなので、それらを提供することができるユニファイドコマースは、最高のリピーター戦略であると言えるでしょう。
背景③EC事業の重要度の高まり
ユニクロなどの衣料品ブランドを世界中で展開する、株式会社ファーストリテイリングが公表した2019年8月期の報告数値を基に作成したのが以下の表です。これを見ると、ユニクロ(国内)では平均年間購入単価、平均年間購入回数のいずれも、「EC・店舗併用」が「ECのみ」「店舗のみ」を大幅に上回っています。
◆ユニクロ(国内)の購入チャネル別の平均購入単価と平均購入回数(年間、2019年8月期報告)
平均年間 購入金額 |
平均年間 購入回数 |
|
---|---|---|
ECのみ | 14,109円 | 2.2回 |
店舗のみ | 17198円 | 3.9回 |
併用 | 44,034円 | 9.8回 |
引用:2019年8月期 期末決算説明会資料「ECを本業に。」(株式会社ファーストリテイリング)より筆者作成
同様に、ネットショップ担当者フォーラムの記事(※)によると、ユニファイドコマースを推進している株式会社ベイクルーズでも、実店舗とECの2つのチャネルを併用しているユーザーの購入金額は、実店舗だけを利用しているユーザーの約3倍に上るといいます。
小売事業のEC事業の重要度は高くなっており、実店舗とECを統合するユニファイドコマースの実現に期待が寄せられています。
※参考:「しまむらや大手小売のEC事業に見る実店舗とネット通販のシナジー、店舗受け取りの効果」(ネットショップ担当者フォーラム)(2021年6月8日掲載)
背景④広告費の増加
企業がWeb広告に投じる広告費は年々増えています。筆者の経験では、複数の要因があるものの、2015年頃には1万円前後だった英会話スクールのCPA(顧客獲得単価)の相場が、2018年以降は3万円前後と3倍近くになっています。
また、電通が公開した日本の純広告費の推移ですが、コロナ禍に下がったものの、再び2022年頃から高騰しております。
データ引用先:2022年 日本の広告費
E新規顧客の獲得より既存顧客を囲い込むほうが低コストであるという「1:5の法則」(※)が提唱されてきましたが、近年の広告費の増加を受け、既存顧客のLTVを高める施策を重視する企業はますます増えていくでしょう。
※「1:5の法則」については、Webで公開されている用語集などを参考にしてみてください。
参考:マーケティング用語集「1:5の法則 とは?(新規顧客獲得には、既存顧客維持の5倍のコストがかかるという法則)」(MarkeZine)
背景⑤生産性向上と効率化の必要性
小売業界では在庫管理システム、POSシステム、顧客管理システムなどさまざまなシステムが運用されていますが、それぞれ独立したシステムが使用されている現場が多く、スタッフに負担がかかっています。ユニファイドコマースで統合されたシステムを実装することで、その負担を低減することができます。
実際にユニファイドコマースによって店頭スタッフ研修を簡素化し、人的エラーを削減している事例もあります。
参考:「ユニファイドコマースで結局何ができるのか? 成功企業に学ぶ“顧客体験の劇的な改善”」(ITmedia ビジネスオンライン)(2021年10月8日掲載)
企業にとって労働力不足は重要な課題であり、不便なシステムオペレーションが原因で新たな人材を失うことは大きな損失です。また優秀な人材が持つ知識やノウハウを継承していく方法を整備しないままでいることもリスクになります。
事業継続に不可欠な人材の観点からもユニファイドコマースの必要性は明らかです。
ユニファイドコマースを実現するまでの3つのステップ
ユニファイドコマースを実現するまでには3つのステップが必要です。
◆ユニファイドコマースを実現するまでの3つのステップ
ステップ②ユーザーの行動履歴の取得と追跡(戦略的なデータ整備)
ステップ③パーソナライゼーション施策の策定(ユニファイドコマースの運用)
3つのステップの中で最も困難なのが「ステップ①オムニチャネルの実装」です。
アパレル業界ではオムニチャネルを実現した企業と実現していない企業が二極化しています。多くの企業がオムニチャネルを課題として認識しているものの、その最大の障壁となっているのがシステム統合の困難さです。
アパレル業界の課題については、関連記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
オムニチャネルの実装を無事乗り切ったら、オンラインとオフラインのあらゆるチャネルで、ユーザーの行動履歴を追跡してデータを収集し、分析できるよう整備します。
ステップ①とステップ②でユニファイドコマースの基盤を構築したら、ユーザーの行動履歴に基づく継続的な「ステップ③パーソナライゼーション施策の策定」と実行によるユニファイドコマースの運用を開始します。
パーソナライゼーション施策には、以下のように、チャネルを横断した施策が求められます。
◆パーソナライゼーション施策
パーソナライゼーション施策例 | |
①ECサイト | ユーザーの閲覧履歴や店舗での購入履歴にもとづいて、おススメ商品をリコメンド表示する |
②実店舗 | 店舗だけでなく、ECサイトの購買履歴や閲覧履歴を考慮した上で、店員が接客を実施する |
③アプリ | ECサイトの閲覧履歴や店舗の購買履歴にもとづいて、アプリのバナーを表示。ユーザーが良く行く店舗情報の案内、ユーザーにあわせた商品案内 |
④広告 | サイト訪問ユーザーの商品閲覧履歴にあわせた広告を出稿する |
⑤メルマガ | ユーザーの閲覧履歴や店舗での購入履歴にもとづいて、おススメ商品や情報を配信する |
そして、ユニファイドコマースでは、店舗スタッフが能動的にECサイトとの併用をおすすめできるように、チャネルに帰属している売上の考え方についても再構築する必要があります。
実店舗での誘導で発生したECサイトの売上については、実店舗の評価に加点するなどの今までにないスタッフへのインセンティブが必要となります。CXを優先するというユニファイドコマースの運用が現場の犠牲を強いるばかりにならないよう、公正な評価システムを構築しましょう。
商品中心のマーケティングから「顧客中心」のマーケティングへ
多くの業界では、以下のような理由で市場のレッドオーシャンと化が進んでいます。
◆あらゆる業界で市場のレッドオーシャン化が進んでいる理由
・外資系企業の国内市場参入
・他業種からの市場参入
・スタートアップ企業の市場参入
このような状況下で起きていることは「商品で差別化を図ることが非常に困難」になってきたということです。そのため大手小売企業は顧客の利便性を高めて、ヒト・モノ・コトの「ヒト」や「コト」で「ワオ!」というような体験をユーザーに感じてもらう仕掛けが必要になります。
そのような仕掛けの運用基盤を作るために、ユニファイドコマースを構築して、顧客中心のマーケティングの実践を競合に先駆けて実施する必要があるのです。
まとめ
オンラインとオフラインのチャネル統合が前提となるユニファイドコマースの実現は容易ではありません。しかし、ユニファイドコマースの実現は、小売業界にとって避けては通れない課題です。
そしてユニファイドコマースを実現するためには、オムニチャネルの実装が不可欠です。弊社のクラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」は、柔軟なシステム連携機能を提供しているECプラットフォームです。オムニチャネルを検討されている方はご相談ください。
また、公式サイトにはオムニチャネルに関する資料のダウンロードや、導入事例紹介などもご用意していますので、こちらもぜひ一度ご覧ください。
ebisumart公式ホームページ:実店舗・アプリ連携、O2O・オムニチャネル