BTOは「Build to Order」の頭文字を取った略称で日本語では「受注生産」と呼ばれており、顧客の注文を受けてから製品の製造・組み立てを行う生産方式を指します。
特にPC販売などで多く採用されているこの生産方式では、例えば顧客がPCメーカーのECサイトでCPU、メモリ、ストレージ容量、筐体のカラーなどを指定して注文すると、メーカーは指定された部品で製品を組み立て、完成品をユーザーに届けます。
BTOのメリットは、完成品の在庫管理が不要となり、顧客ごとに異なるニーズに柔軟に応じてカスタマイズ製品を提供できる点です。
BtoB取引のECサイト(以下、BtoB-EC)でBTO製品を販売する場合、BtoBに必要なEC機能と基幹システムなどとの複雑なデータ連携に加えて、BTO向けの EC機能が必要になります。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ECでのBTO製品の販売について詳しく解説します。
BTO(受注生産)とMTS(見込み生産)の違い
MTSは「Make to Stock」の頭文字を取った略称で日本語では「見込み生産」と呼ばれており、需要予測に基づいてあらかじめ製品を生産し、完成品を在庫として保持する生産方式を指します。
まずは、一般的な生産方式である「MTS(見込み生産)」との比較から、「BTO(受注生産)」の特徴を理解していきましょう。
◆BTO(受注生産)とMTS(見込み生産)の特徴
項目 | BTO(Build to Order:受注生産) | MTS(Make to Stock:見込み生産) |
生産開始のタイミング | 顧客の注文を受けてから製造を開始する | 需要予測に基づき注文の有無にかかわらず製造を開始する |
在庫 | 最小限の完成品在庫を保持 (基本は部品や素材等を在庫として保持) |
常に一定数の完成品在庫を保持 |
資金効率 | 注文後に製造するため、資金繰りに余裕を持てる | 注文前に持ち出しで製造するため、資金を回収するまでに時間がかかる |
メリット | ・売れ残りや廃棄などの在庫リスクが低い ・顧客ニーズに柔軟に対応できる |
・生産計画が立てやすい ・大量生産なので生産の効率化と品質の安定化を図りやすい ・短納期で供給できる |
デメリット | ・生産計画が立てにくい ・注文殺到時に機会損失が生じやすい ・少量生産なので生産の効率化と品質の安定化を図りづらい |
・需要予測が外れた場合の損失が大きい ・売れ残りや廃棄などの在庫リスクが高い |
出典:筆者が独自に作成
BTOの最大のメリットは、顧客ニーズに応じてカスタマイズした商品をスムーズに提供できることです。また、完成品の在庫を抱えなくて良いため在庫管理における無駄やリスクがほとんどなく、余裕のある資金繰りが可能です。
ECサイトとBTOは相性が良い
前述の表からも分かるように、BTOはECサイトとの相性が良い生産方式と言えます。なぜなら、ECサイトでは、画面で各パーツや完成イメージの画像を確認しながら顧客が自分で複数のパーツを指定し、手軽に受注生産品を注文できるからです。
ECサイトでBTO製品を販売するメリットとして、以下が挙げられます。
◆ECサイトでBTO製品を販売するメリット
・在庫リスクを低減できる
・顧客データを利活用しやすい
BTO製品は顧客が「自分好みの製品」を簡単に注文できるため、顧客満足度の向上が期待できます。また、メーカーは注文が確定してから製品の生産/組み立てをすれば良いため、在庫リスクを最小限に抑えて在庫管理のコストを大幅に低減できます。さらに、ECではすべての情報がデジタル管理されるので、BTO製品の注文データを顧客ニーズ分析などに利活用して、製品/サービスの改善・開発に分析結果をスピーディーに生かしていくことができます。
一方で、BTOのデメリットとしては、MTSと比べると製品が顧客の手元に届くまでのリードタイムが長くなる点が挙げられます。また、BTO製品の人気が急激に高まるなどして注文が殺到した場合は生産のキャパシティを超えて、納期が大幅に遅れてしまう可能性も考えられます。多くの人は「購入した商品はすぐに使いたい」と思っているはずですから、BTO製品の販売では、商品が到着するまで顧客を不安にさせないためのコミュニケーションの仕組みを検討しておく必要があるでしょう。
また、カスタマイズ製品では返品された製品を再販売に回すことは難しいため、あらかじめ返品ポリシーを策定して、ECサイトに明示し、製品の購入前に顧客の合意を得るといった配慮も求められます。
BTOと相性の良い業界
以下は、BTOのECとの相性が良いと思われる業界(または取引形態)とその理由をまとめた一覧です。
◆BTOと相性の良い業界の一覧
業界(または取引形態) | 理由 |
---|---|
PC | 顧客は自分の予算と好みに応じてCPU、メモリ、ストレージ容量、ボディカラーなどの複数のパーツを指定して購入できるため顧客満足度が高まりやすい |
家具・インテリア | 実店舗での購入でも大型の家具やインテリアなどの場合には後日配送となるため、BTOのリードタイムが長いというデメリットが薄れる |
アパレル | スーツや靴などのように、サイズやデザインを指定したい製品で特に高い需要がある。ECサイトでバーチャルトライオン(オンライン試着)サービスを導入している企業も多い |
アクセサリー/ギフト商品 | 名入れやカラー指定など複数の選択肢を提供することで「特別感」を演出しやすい。また、店頭では手書きで記入しなければいけない要望も、PC等で手軽に入力できるECサイトでは注文時に詳細な要望を伝えやすい |
自動車関連(カー用品) | 自分好みのカラーや装備を指定して注文できる。また店頭販売と比べると販売コストが抑えられるECサイトでは、売価を少し下げて販売することもできる |
BtoB-EC | 取引先企業ごとのニーズに個別で対応できる。また完成品の在庫リスクも最小限に抑えられ、資源を無駄にしないエコフレンドリーの取り組みを実践できる |
出典:筆者が独自に作成
上表からも分かるように、日用品や食品のようにすぐに必要な生活必需品ではなく、比較的高価で、顧客がカスタマイズ性に価値を見いだしやすい製品との相性が良いようです。また、取引先ごとに個別のカスタマイズが求められることの多いBtoB-ECも、BTOとの相性が良いビジネスモデルと言えるでしょう。
BtoB-ECでBTO製品が求められる4つの背景
BtoB-ECでBTO製品が求められる背景として以下の4つが考えられます。
背景① 顧客ごとの個別ニーズへの対応が求められている
BtoB取引では、取引先企業ごとに製品仕様や取引条件が異なることが多く、MTS製品だけでは十分に対応できない場合があります。BTO製品を販売するにあたっては、電話/FAXや対面でのアナログ注文ではなく、BtoB-ECサイトからのデジタル注文のほうが適しています。
また注文時にサイズ、材質、数量などの詳細な条件を指定したいという顧客ニーズに柔軟に応えていくためには、BtoB-ECサイトにBTO向けのEC機能を実装する必要があります。
背景② 在庫リスクの低減と資金効率の改善を実現する必要がある
顧客ニーズが多様化している現在は、BtoB取引においても多品種少量生産が求められ、従来の需要予測に基づくMTS製品販売における在庫のリスクとコストは大きな問題となっています。
そのため、BTOは在庫リスクを低減し、資金効率を改善するための選択肢の1つとなっています。
背景③ サステナビリティに対する企業姿勢が求められている
環境負荷の低減と持続可能な事業運営が重視される中、必要な分だけ調達・生産するBTOはエコフレンドリーな仕組みとして注目されています。
資源の無駄遣いを減らすためのサステナビリティ施策の一環として、BTO製品販売を検討してみるのも良いでしょう。
背景④ 顧客との関係性を強化し、長期的な競争力を持つ必要がある
BTOで取引先企業ごとに最適な商品を提供することで、長期的な信頼関係が築きやすくなります。BTOは競合との差別化や顧客ロイヤリティの向上にも寄与するとともに、メーカーの技術力をアピールできる機会にもなります。
このようにBtoB-ECでは、BTOで個社ごとのニーズだけでなく社会的なニーズにも対応していくことが求められているのです。
ECサイトにBTO機能を実装する3つの方法
自社ECサイトにBTO機能を実装する方法としては、以下の3つが考えられます。
◆ECサイトにBTO機能を実装するための3つの方法
方法② BtoB専用機能とBTO機能を備えたパッケージやクラウドサービスを使用して実装する
方法③ フルスクラッチ開発で実装する
1つずつ見ていきましょう。
方法① EC専用のASPサービスを利用する
小規模でシンプルなBtoC-ECサイトであれば、BASEやSTORESあるいはShopifyなどのASPサービスでもBTOに対応できます。BTOとMTSの一番の違いは、「完成品を顧客に届けるまでのリードタイム」なので、ECサイトの商品ページや自動返信メールに、以下のような文言を明示しておくことで対処できるからです。
◆ECサイトで必ず明示すべきBTOに関するメッセージ
✓注文受付完了後に生産を開始する旨を明記する
✓完成品の発送までにかかる日数を明記する
また、通常は注文が完了したタイミングで決済されますが、BTO製品の販売では顧客に完成品が届くまでのリードタイムが長くなるため、ユーザーを不安にさせない仕組みが求められます。例えば、商品発送直後のタイミングや後払いなどの決済方法を導入するといったことが考えられます。
方式② BtoB専用機能とBTO機能を備えたパッケージやクラウドサービスを使用して実装する
自社固有のBTO機能が必要な場合や要件が複雑なBtoB-ECサイトの場合には、以下のようなBtoB向けの機能を備えたカスタマイズが可能なECプラットフォームが必要になります。
◆BtoB-ECに必要な機能(例)
・取引先(法人)ごとの商品表示制御
・商品の販売単位管理
・親会員・子会員でのアドレス帳共有機能
・基幹システムなどの複雑な外部データ連携機能
BTO機能を実装した複雑なBtoB-ECサイトを構築する場合、カスタマイズが可能なECパッケージやクラウドサービスのECプラットフォームを利用する必要があります。
例えばインターファクトリーが提供しているBtoB専用ECプラットフォーム「EBISUMART BtoB(エビスマート ビートゥービー)」は、BTO機能を実装したBtoB-ECの構築にも対応しています。興味のある方はぜひ、以下の公式サイトをご覧ください。
方式③ フルスクラッチ開発で実装する
新しくBtoB-ECサイトとBTO機能を開発する方法で、自社の要件に合ったシステムを構築できることは最大のメリットですが、この方法には以下のようなデメリットがあります。
◆フルスクラッチ開発のデメリット
・独自システムなので定期的に陳腐化への対応が必要になる
・セキュリティ環境を自社だけで維持し続けなくてはいけない
現在、フルスクラッチ開発は、ZOZOやビックカメラといった大手ECサイトや一部の要件が複雑で個別開発が必要な企業だけが採用する手法で、一般的なECサイトであれば、企業の規模にかかわらずパッケージやSaaS型のECプラットフォームに追加機能をカスタマイズすることでも十分に対応できるため、フルスクラッチ開発は以下のように、よほどの理由がある場合に限られます。
◆フルスクラッチ開発でECサイトを構築する理由
・ゼロから開発しなければ実現できないような複雑な必須要件がある
新たにBTO機能を備えたECサイトを構築する場合、まずは「方法①」か「方法②」を検討すべきでしょう。
ECでBTOを始める際の3つの注意点
最後に、ECサイトでBTO製品を販売する際の注意点を3つ紹介します。
注意点① リードタイムが長いため、顧客が不安になりやすい
BTOは完成品が顧客の手元に届くまでに時間がかかるため、受注受付後に以下のようなメールを送るなど、コミュニケーションを取りながら、待機期間中の顧客の不安を和らげるための工夫が必要です。
◆ユーザーに送るメールの例
件名
●●商品の発送までの進捗をご案内します
本文
■■様
この度はご注文いただき、誠にありがとうございます。
現在、ご注文の商品は生産準備に入っております。受注生産のため、発送までにお時間をいただいておりますが、進捗状況は随時メールにてご案内いたしますのでご安心ください。
商品がお手元に届くまで、今しばらくお待ちいただけますようお願いいたします。
生産開始、生産完了、発送日の確定といったタイミングで、進捗報告メールを送ることで、顧客は安心して完成品の到着を待つことができます。
注意点② リードタイムが長いため、生産期間中にキャンセルや仕様変更が発生しやすい
BTOはリードタイムが長いため、生産期間中に顧客の気持ちが変わってしまう可能性があります。キャンセルや仕様変更に対応できない場合には、あらかじめ以下のようなメッセージを注文画面に明示したり、メールで送信したりしておくことが重要になります。
◆注文画面やメールで明示すべきメッセージの例
恐れ入りますが、あらかじめご了承くださいますようお願いいたします。
購入前にキャンセルや仕様変更ができないことに顧客が明確に合意していれば、もし気持ちに変化が生じたときも顧客自身も納得しやすくなります。
注意点③ 決済方法の選択肢を増やしておく(後払い決済を導入しよう)
繰り返しとなりますが、BTOは製品が顧客の手元に届くまでのリードタイムが長いため、注文時ではなく、完成品を発送したタイミングや製品到着後に決済を行うようにしたほうが良いでしょう。商品を受け取れるという確信が持てた時点で支払いを行えるようにすることで、顧客の不安感を和らげる効果があります。
代表的な後払い決済サービスには、以下のようなものがあります。
◆後払い決済サービス(例)
・Paidy(ペイディ)
・後払いドットコム
いずれのサービスも、主要なECプラットフォームであれば対応しているケースがほとんどなので、BTOを開始する場合には、利用しているECプラットフォームが対応している後払い決済サービスを確認してみると良いでしょう。
まとめ
ECでBTO(受注生産)の製品販売を成功させるためには、優れた顧客体験の提供が求められます。MTS(見込み生産)の製品に比べ、ユーザーが注文してから手元に届くまでに少し時間がかかるため、特に以下の点に注意しましょう。
◆ECでBTO製品を販売する際に注意すべきこと
・注文前に注意事項を丁寧に説明する
・注文後にコミュニケーションを取る
・支払い方法の選択肢として後払い決済を導入する
BtoB-ECでBTO製品を販売する場合には、BtoB向け機能を備えたECサイトが必要です。
インターファクトリーが提供しているBtoB専用ECプラットフォーム「EBISUMART BtoB(エビスマート ビートゥービー)」では、BtoB専用のEC機能や基幹システムなどとの複雑なデータ連携機能はもちろん、BTO機能の実装も可能です。
以下の公式サイトではBtoB-ECサイトの導入に役立つ資料をダウンロード(無料)できますので、興味のある方はぜひご覧ください。