目まぐるしく変化するECのトレンドや自社の事業の成長に合わせて、既存のECシステムに新しい機能をカスタマイズしたいという場合や、新たにECシステムを導入するにあたり個別のカスタマイズを実装したいという場合があります。
現在運用中あるいは新たに構築予定のECプラットフォームの種類によっても異なりますが、ECサイトをカスタマイズする場合には、以下の5つの方法が考えられます。
◆ECサイトをカスタマイズする5つの方法
② オープンソースのECプラットフォームをカスタマイズ
③ パッケージのECプラットフォームを利用し、カスタマイズ
④ フルスクラッチを利用し、カスタマイズされたECサイトを構築
⑤ カスタマイズ可能なクラウドECのプラットフォームを利用し、カスタマイズ
新たにECサイトを構築する場合には、目的、規模、予算を明確にして、将来的な拡張性も考慮した上で、構築方法を選択することが大切です。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ECシステムに新しい機能をカスタマイズする方法を解説します。
ECプラットフォームの種類ごとに異なるカスタマイズの特徴
以下は、ECプラットフォームの種類ごとに、カスタマイズを検討する際の特徴をまとめた表です。料金と導入機関は改修規模や追加する機能により大きく変動します(費用および各項目は筆者独自の評価値です)。
◆ECプラットフォームの種類ごとに異なるカスタマイズの特徴
ECプラットフォームの種類 | カスタマイズ費用 | 開発・導入期間 | カスタマイズの自由度 | セキュリティ対策 |
①ASP | 数十万円~ | 短期 | △ | 〇 |
②オープンソース | 数十万円~ | 短期~中長期 | 〇 | 自社対応 |
③パッケージ | 数百万円~ | 短期~中長期 | 〇 | 自社対応 |
④フルスクラッチ | 数千万円~ | 短期~中長期 | ◎ | 自社対応 |
⑤カスタマイズ可能なクラウドEC | 数百万円~ | 短期~中長期 | 〇 | 〇 |
機能拡張の自由度が最も高いのは、自社専用のシステムをゼロから開発するフルスクラッチですが、開発と運用に膨大なコストがかかります。
近年は、豊富なオプションを備えたASPサービス、パッケージ、カスタマイズ可能なクラウドECなど、ECシステムを構築する際のプラットフォームも多様化しているため、ある程度の自由度を確保しながら、予算に合った方法を選択するのがよいでしょう。
ECシステムの追加機能の中でニーズが高い機能は、以下のように外部のシステム/サービスおよびデータ等の連携機能です。
◆ECシステムで求められるカスタマイズ(例)
・コンテンツ管理システム(CMS)連携
・倉庫管理システム(WMS)連携
・ショッピングモール連携
・アプリ連携
・会員データの統合管理
・ポイントサービスの統合管理
・法人向けECシステム
企業固有の運用やシステム仕様に合わせた機能が求められる場合には、個別のカスタマイズが不可欠ですが、一般的な機能を追加したい場合には、現在運用中のECシステム(ASPサービス、パッケージ、カスタマイズ可能なクラウドEC)のオプション機能や、EC専用ツール/サービスとして提供されているものも多いです。それらの利用を前提に実装方法を検討することで、コストを抑えて機能を拡張することができます。
◆主なEC専用ツール/サービス
・アクセス解析
・Web接客
・CRM
・かご落ち対策
・レコメンド
・動画配信
・チャットボット
・ソーシャルログイン
・サイト内検索
・アプリ連携
・検索エンジン最適化(SEO)
・入力フォーム最適化(EFO)
・在庫管理
・店舗連携
・不正検知
・メール配信
・データフィード広告
・多言語化サイト
既存のあるいはASPサービスを利用したECプラットフォームとEC専用ツール/サービスを併用することで、必要な機能要件を満たせるケースもあります。
既存あるいは新たに導入予定のECプラットフォームにない機能を実装したい場合には、最初にEC専門ツール/サービスの有無とECサイトでの併用の可否についても調査しておくようにしましょう。
また、ASPの中には柔軟にカスタマイズできる「Shopify」があります。
Shopifyはアプリを追加してEC担当者がカンタンにカスタマイズできる
ASPの中でも、Shopify(ショピファイ)は非常にカンタンにカスタマイズできることで有名です。Shopifyは世界で最も利用されているECプラットフォームの一つで、アプリが9000以上あり、ECサイトのフロントエンドでもバックエンドでも比較的自由にカスタマイズすることができます。
ただし、多くのアプリが有料であるため月額費用を都度支払う必要があることと、稀にですが、Shopifyのアプリ同士でコンフリクトを起こす障害も発生しますが、このような事態にEC担当者ご自身が対応する必要があるのです。
Shopifyを利用する場合は、ITの知識やノウハウに自信がある方が良いでしょう。ITが苦手という場合は国産のASPの方がサポートが厚く受けられます。
ECサイトの規模によって最適な方法でカスタマイズしよう!
ECシステムをカスタマイズする最適な方法は、ECサイトや事業の規模により異なります。ここでは、ECサイトの規模(年商ベース)ごとに適した方法を紹介します。
小規模(年商1億円未満)のECサイトにおすすめ
小規模ECサイトでは、短期間かつ低コストでECサイトを開設できるASPサービスをプラットフォームとして利用しているケースが多いと思います。
ASPはECシステムに必要な機能を「標準機能」と「オプション機能」というサービスメニューで提供しており、ECプラットフォーム自体に個別のカスタマイズを実装することができません。その代わりに、多くのASPサービスでは、外部のシステムやデータと自動で連携するためのAPI(Application Programming Interface)を提供しています。
APIを利用することで、複数のシステムで大規模な改修をすることなく、外部のツール/サービス、システム間でのデータ連携を実現できます。まずは、既存あるいは導入予定のASPサービスでAPIが提供されているかどうかを確認してみましょう。
中規模(年商1億円以上)のECサイトにおすすめ
年商が1億円以上の中規模ECシステムでは独自の機能要件が多くなるため、カスタマイズ可能なクラウドECやパッケージを使用してECシステムを構築するケースも多いです。また、一部の企業では、オープンソースを利用してECシステムを開発しているケースもあるようです。
先述したように、追加したい機能によってはEC専用ツール/サービスを併用したほうが良い場合がありますので、機能要件を整理したら、既成のツール/サービスの有無を確認するようにしましょう。特にカスタマイズ可能なクラウドECでは、さまざまな提携サービスが用意されていることが多く、コストを抑えて拡張機能を実装することができます。
最初に、既存あるいは検討中のECプラットフォーム(ASPサービス、パッケージ、カスタマイズ可能なクラウドEC)が提供している提携サービスを確認しておくようにしましょう。
大規模(年商100億円以上)のECサイトにおすすめ
大規模ECサイトでは、フルスクラッチで独自のECシステムを構築しているケースも多いです。
あらゆる領域でデジタル化が進む近年は、EC機能の進化も加速しており、日々新しいツールやサービスが生まれています。従来では考えられないくらいパッケージやカスタマイズ可能なクラウドECのインフラと提供機能は充実してきており、もはやフルスクラッチならではの強みが失われつつあります。
とはいえ、以下のような理由からフルスクラッチでECシステムを構築・運用している企業もあります。
◆フルスクラッチでECシステムを構築する理由(例)
・既成のシステム機能と自社運用で必要な機能とのギャップが大きい
・独自の機能追加やカスタマイズを自社で任意のタイミングで実装したい
例えば、ECサイト上でECだけでなく他事業のサービスも連動させて運用したい場合や、受発注管理や契約管理などの他システムの機能を統合したい場合など、一般のECシステムでは網羅できない複合的な運用と機能が求められるケースでは、最初からフルスクラッチで開発したほうがシンプルなシステムを構築できます。いずれにしても、自社に優秀なITチームが存在する場合には、フルスクラッチも効率的な選択肢の一つになり得るでしょう。
国内EC大手のユニクロやZOZOTOWNは、独自のECシステムをフルスクラッチで構築し、マーケティング活動のPDCAサイクルを高速回転させるための機能追加やカスタマイズにも素早く対応できるようにしています。
オープンソースをベースとするシステム構築はリスクが大きい!
本記事では、機能追加の方法の一つとしてオープンソースを利用する方法も紹介していますが、手軽だからという理由だけでオープンソースを利用することはおすすめできません。
経済産業省からも、オープンソースベースのECシステムの脆弱性に関する注意喚起がなされているように、開発時のコストメリットだけでなく、セキュリティリスクについても熟考した上で、利用する場合には範囲や機能を限定して安全に実装するようにしましょう。
参考:ECのミカタ「経産省からEC-CUBEの脆弱性について注意喚起 EC事業者が行うべきセキュリティ対策とは?」(2020年3月12日掲載)
まとめ
ECサイトのカスタマイズを検討する際には、最初に、既存あるいは導入予定のECプラットフォームのオプション機能や提携サービスの有無や、APIでの連携運用の可否について確認しておきましょう。その上で、既成のシステムやサービスでは実現できない場合のみ、個別カスタマイズを検討することをおすすめします。
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