需要予測では、過去の販売実績やアクセスデータ、季節性などの情報をもとに、将来の売れ行きの予測値を算出します。予測データは、在庫管理や仕入れ、販促計画など、事業活動における意思決定の起点となる情報です。
需要予測の重要な目的は、欠品と余剰をなくし、在庫を限りなくゼロに近づけることです。必要な量を、必要なタイミングで、過不足なく用意することが、ECの売上とコストの最適化に直結するでしょう。
需要予測の難度は、商材の特性によって異なります。出荷パターンが安定しているリピート商品は比較的予測しやすい一方、多品種少量のロングテール商品は予測が難しいため、より具体的なアプローチが求められます。
通販物流・発送代行サービスを提供しているスクロール360が採用している「8マス・システム」は、専門的な統計知識を必要とせず、現場でも取り組みやすい手法として有効な予測方法です。
参考:YouTubeチャンネル ECの羅針盤 | EBISUMART「【EC】最新版!成果と売上に繋がる在庫管理/需要予測とは?誤差が出る原因を解説!」、スクロール360
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当する筆者が、ECの需要予測の基本的な流れと実践的な手法、予測精度を高める方法について解説します。
商品特性(リピート商品とロングテール商品)によって異なる予測難度
EC商材は商品特性により「リピート商品」と「ロングテール商品」の2つに分けることができ、それぞれ需要予測の難度が異なります。
◆リピート商品とロングテール商品の需要予測の難度
出典(画像):筆者作成
リピート商品は、出荷パターンが固定化されているので予測は比較的容易です。需要の波が読みやすく、メーカーへの定常的な納品スケジュールを組んで発注を自動化することも可能です。
ロングテール商品は、数万SKUを超えるような多品種少量の商品群で、いつどれだけ売れるかの予測が難しいため、高度な予測アルゴリズムと細やかな発注コントロールが必要になります。
また、近年の気候変動が予測をさらに難しくしています。従来は「9月になれば秋物が売れ始める」といった季節の移り変わりに応じたある程度の経験則が通用してきましたが、今は夏の暑さが長く続き、秋向けの商品が求められる期間が短くなるなど、季節の変わり目が読みづらい状況です。
特にアパレルなどの季節変動が大きい分野は過去のデータだけに頼った予測では対応できなくなっており、気候データと直近のトレンドを組み合わせた需要予測が求められています。
需要予測の精度を高めるためには、自社の商材がリピート商品とロングテール商品のどちらに当てはまるのかを見極めて商品特性を正しく把握することが大切です。
ロングテール商品の予測精度を高めるアプローチ
今回は、予測が難しいロングテール商品の精度を高めるための、より具体的なアプローチを紹介します。
スクロール360が採用している「8マス・システム」とは?
通販物流・発送代行サービス事業を展開しているスクロール360が採用している「8マス・システム」は、ロングテール商品の需要予測における有効な手法の1つです。
参考:スクロール360
スクロール360の「8マス・システム」では、横軸に直前の2か月を含む計3か月、縦軸に過去2年と今期の計3年を置き、計9つのマスのうち8つに当てはめた実績値から、残りの1マスに入る数値を予測します。
◆8マス・システム
出典:YouTube動画「【EC】最新版!成果と売上に繋がる在庫管理/需要予測とは?誤差が出る原因を解説!」で紹介されたパネルを筆者が複製
上図では、2026年12月の需要を予測するために、8つのマスに2024年と2025年の10月・11月・12月、2026年の10月・11月の実績値を当てはめています。8つのマスの値から、季節性、成長トレンドの傾向、直近の売れ行きの勢いを読み取り、図右下のマスに入る数値を予測します。
このスクロール360の「8マス・システム」は、専門的な統計知識や計算式が不要なので、すぐに実践できそうですね。
最初から全量を仕入れるのではなく、パイロット発注を行う
「来月は100個売れる」と予測した場合でも、100個を一気に仕入れることは高リスクです。あくまでも予測なので、本当に売れるかどうかは分かりません。
そのため、まず予測数量の一部(例えば50個)を発注し、実際の売れ行きを確認しながら残りの注文数を調整するパイロット発注を行うようにしましょう。そうすることで、在庫リスクを最小化することができます。
仕入れ先のボリュームディスカウント提案は慎重に検討する
過剰な仕入れを避けることは、需要予測と同じように重要です。仕入れ先からボリュームディスカウントの提案を受けるケースは少なくありませんが、安易に応じてしまうと、必要数以上の商品を抱えてしまうことになります。
商品を保管するスペースと在庫管理にはコストがかかるため、基本は、需要予測の値から逸脱しない範囲での発注を心掛けるべきでしょう。
本項で紹介した内容については詳しい解説動画が、YouTubeチャンネル「ECの羅針盤 | EBISUMART」で配信されていますので、ぜひあわせてご視聴ください。
解説動画:YouTubeチャンネル ECの羅針盤 | EBISUMART「【EC】最新版!成果と売上に繋がる在庫管理/需要予測とは?誤差が出る原因を解説!」、スクロール360
ECの需要予測の基本的な流れと手順
下図は、ECの需要予測の基本的な流れを整理した図です。
◆ECサイトにおける需要予測の基本的な流れ ※クリックで拡大
出典(画像):筆者作成
需要予測はデータの収集から始まり、分析・予測から予測値の活用と実績の検証、フィードバックまでが一連の流れとなります。需要予測データは、販売計画だけでなく、在庫管理の最適化や戦略などにおけるデータ駆動の意思決定のためにも活用できます。
ステップ① データの収集
需要予測の出発点はデータの収集です。対象となるデータは社内データと社外データに大別できます。
社外データ:季節・気候・トレンドなど
収集するデータの種類と量は需要予測の切り口や精度に影響します。
ステップ② データ整備・前処理
収集したデータをそのまま使用することはできません。
欠損値や異常値を補正/除去し、時系列データとして整形して粒度をそろえたうえで、商品カテゴリやSKU単位に整理する必要があります。
ステップ③ 需要予測モデルの構築
需要予測の代表的な手法はいくつかあり、商品の特性や状況、ECサイトの規模によって異なる手法を採用します。
◆需要予測の代表的な手法
・移動平均法
・加重移動平均法
・指数平滑法
・回帰分析法
・SARIMAモデル
・機械学習モデル
小規模なECサイトの場合には、算術平均法や移動平均法から始めると良いでしょう。商品点数が多く、季節性・トレンド・販促効果など複数の要因が絡む場合には、機械学習モデルが有効です。
各手法の特徴と選び方については、後述の「需要予測の手法と選び方」を参照してください。
ステップ④ 予測の実行・精度検証
予測モデルで予測を実行して予測精度を検証します。過去の一定期間のデータを使って予測値を算出してバックテスト(過去の実績値と比較してシミュレーションする検証手法)を行いましょう。
精度検証では、MAE(平均絶対値誤差)やMAPE(平均絶対パーセント誤差)などの指標を用い、精度が不十分であればモデルをチューニングします。
ステップ⑤ 予測結果の業務活用
実際に、予測データに基づいて業務運用を行います。予測データは販売計画だけでなく、在庫の補充や発注量の最適化、サプライヤーとの仕入れ交渉、セールや広告の販促計画の立案、価格設定などでも活用できます。
データに基づいて事業や業務における意思決定を行えるようになることが大切です。
ステップ⑥ フィードバック・精度改善
予測値と実績値を比較し、モデルやパラメータを継続的に見直すことで、予測精度を高めることができるでしょう。
新商品や急なトレンド変動など、過去データだけでは判断できないときは、担当者の経験や知見を取り入れて判断すると良いでしょう。
需要予測の手法と選び方
以下は、需要予測に用いる代表的な手法の特徴と難易度をまとめた表です。
◆代表的な需要予測の手法の特徴
| 手法 | 特徴 | 適している商品/状況/規模 | 難易度 |
| 算術平均法 | 一定期間の売上データの平均を予測値とする、最もシンプルな手法。 | 需要が安定していて変動が少ない商品 | ★☆☆ |
| 移動平均法 | 直近N期間の平均を予測値とする。古いデータを自動的に除外できる。 | 需要が比較的安定している商品/小規模EC | ★☆☆ |
| 加重移動平均法 | 移動平均法に近いが、より最新のデータを重視して算出する。 | トレンドの変化をより早く捉えたい場合 | ★☆☆ |
| 指数平滑法 | 重み付けを直近のデータほど重く、古いデータほど軽くして予測値を算出する。トレンドの変化を移動平均法より素早く捉えられる。 | トレンドはあるが季節変動が小さい商品 | ★★☆ |
| 回帰分析法 | 売上と需要に影響する要因(気温・価格・広告費など)の関係を数式にして算出する。 | 需要に影響する外部要因が明確な商品 | ★★☆ |
| SARIMAモデル | 時期による需要の波(季節性)と、過去の売上パターンの繰り返し(自己相関)を考慮して予測する。 | 季節変動が明確な商品(アパレル、ギフトなど) | ★★★ |
| 機械学習モデル | 複数の変数を同時に学習できる。精度は高いが導入・運用にある程度の技術力が必要になる。 | 商品数が多く、多変量データを保有している中・大規模EC | ★★★ |
★☆☆:Excelで対応可能
★★☆:統計の基礎知識が必要
★★★:専門的な技術力が必要
これらの手法に優劣はなく、自社の状況に合った手法を選ぶことが重要です。
例えば、扱う商品点数が少なく需要が安定している場合は、算術平均法や移動平均法で十分ですし、商品点数が多く、SKUごとに需要パターンが異なる場合は、複数の変数を扱える機械学習モデルの導入を検討する必要があります。
また、アパレルやギフト商品のように季節性やトレンドの影響が強い商品の場合はSARIMAモデルや指数平滑法などが有効ですし、日用品や消耗品の場合は移動平均法や加重移動平均法を使用できます。
機械学習や回帰分析法は、ある程度の量と質のデータがそろっていることが前提となるため、データが少ない立ち上げ期や新商品の場合はシンプルな手法から始めて徐々に高度な手法をとり入れていくと良いでしょう。
事業成長や商品ラインナップの変化に合わせて、需要予測の手法を見直していくことが大切です。
需要予測に用いるデータに関する4つのポイント
ここでは、需要予測に用いるデータについて、4つのポイントを紹介します。
ポイント① データの収集期間は最低でも1〜2年
需要予測に用いるデータは、季節変動などを正確に捉えるため、最低でも1〜2年分を用意することが望ましいです。
例えば、夏物商品の需要ピークや年末のギフト需要といった季節的なパターンは、1年以上のデータがなければ把握できません。データ期間が短いと、たまたま売れた月や売れなかった月の影響を過大に受けてしまいます。
ポイント② イレギュラーデータは除外または補正する
収集したデータを確認せずに使うのはやめましょう。セール期間中の売上急増や突発的な品切れによる機会損失、あるいは、かつてのコロナ禍のような社会的な背景など、通常の需要パターンから大きく外れたデータが含まれている場合があるからです。
こうしたイレギュラーデータを予測に用いると、予測精度が低下します。そのため、理由を記録したうえで補正または除外する必要があります。また、変動の背景や根拠を説明できないデータの取り扱いについては慎重に判断するようにしましょう。
ポイント③ データはチャネルごとに分けて管理する
自社サイトとECモールなど、複数の販売チャネルを運営している場合には、どのチャネルのデータかが分かるようにデータを管理しましょう。チャネルごとに顧客の特性や購買行動が異なるため、分類せずにデータを統合してしまうと需要のパターンを捉えづらくなるからです。
例えば、自社サイトではリピーターが多く安定した需要があるのに対し、ECモールでは特定のセールイベント時に需要が集中するといったケースは珍しくありません。チャネルごとの傾向を把握し、予測に活用することが重要です。
ポイント④ データは月次で更新し、古いデータの取り扱いはルール化する
需要予測に用いるデータは、定期的に更新・見直しを行う必要があります。古いデータを使用し続けると、現在のトレンドを正確に反映できなくなります。
特に、商品のライフサイクルが短いアパレルなどでは、数年前のデータが現在の需要に悪く影響することがあります。
データの更新頻度は商品特性によっても異なりますが、少なくとも月次でデータを追加し、一定期間を超えた古いデータの取り扱いについてはルールを設けておくようにしましょう。
需要予測データをECの売上につなげる4つの活用法
需要予測データは、業務に落とし込むことで売上向上につながります。ここでは、需要予測データの4つの活用法を紹介します。
活用法① 在庫補充・発注量の最適化
在庫管理と発注管理の最適化は、需要予測の活用の基本であり本質でもあります。
欠品と余剰をなくし、在庫を限りなくゼロに近づけること、つまり必要な量を必要なタイミングで過不足なく用意することが、需要予測により目指すゴールです。
欠品は販売機会を失うとともに顧客の信頼も損ねますし、過剰在庫はコストを押し上げるだけでなく、値引き処分などによって利益を圧迫します。そのため、精度の高い需要予測で発注量を適正化することが、売上の最大化とコストの最小化につながるでしょう。
活用法② 販促計画
需要予測データは販促計画の立案にも活用できます。需要が落ち込む時期を事前に把握できれば、その時期に合わせてセールや広告施策を仕掛けることができます。
逆に、需要が高まる時期が分かれば、広告費を集中投下して売上を最大化するといった判断も可能になります。
活用法③ 仕入れ交渉
需要予測データは仕入れ交渉の際にも活用できます。
「来月はこの商品が何個売れる見込みである」というように数字を明確に示すことで、取引を自社の主導で進めやすくなります。感覚や経験だけに頼るのではなく、データに基づいて交渉することで説得力を高めることができます。
活用法④ 商品の価格設定の最適化
需要の高低に合わせて価格を動的に調整する「ダイナミックプライシング」も、需要予測と組み合わせることで効果的に実施できるでしょう。
需要が高まる時期には価格を上げて利益率を確保し、需要が落ちる時期には価格を下げて販売機会を逃さないという柔軟な価格設定は、需要予測の精度があればこそ可能になります。
ダイナミックプライシングについては関連記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
まとめ
需要予測は、最初から完璧な予測を目指す必要はありません。まずは自社の商品特性や事業規模に合った手法を選び、小さく始めて改善を積み重ねることで精度を高めていくことが重要です。
需要予測の本質は、在庫を限りなくゼロに近づけることです。欠品による販売機会の損失を防ぎ、過剰在庫によるコストの無駄を排除することで、EC事業の収益を底上げできます。
需要予測では、予測に用いるデータの品質が重要になります。販売実績・在庫・アクセスログといったデータを正確に蓄積・管理できるプラットフォームがなければ、予測精度を高めることはできないでしょう。
インターファクトリーが提供する「EBISUMART(エビスマート)」は、多くの外部システムとのAPI連携に対応した、柔軟性の高いクラウドコマースプラットフォームです。在庫管理システムや基幹システム、WMSとのデータ連携が可能で、販売実績や在庫データを一元管理し、需要予測に必要なデータ基盤を構築できます。
EBISUMARTの詳細については下記の公式サイトをご覧のうえ、お気軽にお問い合わせください。
公式サイト:EBISUMART(エビスマート)

























