イーコマースとは、Electronic Commerce(EC)の略で、電子商取引と訳されます。具体的には、Webサイト上で商品を売買する取引を総称する言葉です。多くの場合は「eコマース」と表記されます。
深刻な少子高齢社会の日本における未来の労働力の減少と社会様式の変化を考えたとき、オンラインショップ、ネットショップなどとも呼ばれるイーコマース(EC)が、ライフラインとして不可欠なサービスになっていくのではないか、と筆者は考えています。
この記事では、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、イーコマースの概要について解説します。
日本のEC化率は9.38%で、世界平均と比べていまだ低水準にある
「EC化率」とは、ある市場における全ての商取引のうち、イーコマース(EC)市場での取引の割合を示すための指標です。まずは、経済産業省から毎年報告される調査結果に基づき、日本のイーコマースの市場規模とEC化率の現状を理解しましょう。
◆物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移
引用(図表):経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)
2020年以降は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により、世界中でイーコマースの需要が急激に高まりました。上図が示すように、2019年には6.76%だった国内のEC化率も、2020年に急増し、2023年には9.38%まで増加しています。
しかし、2023年の平均EC化率が19.4%と推計される世界のイーコマース市場と比べると、日本のEC化率は低い水準にとどまっていることは明らかです。
◆世界のBtoC-EC市場規模(単位:兆USドル)
引用(図表):経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)
イーコマースと実店舗の違いとは?
イーコマースの特性を知るために、イーコマースと実店舗の主な違いを見ていきましょう。
◆商圏
イーコマース | インターネット(国内・国外)が利用できるすべてのエリア |
実店舗 | 店舗がある場所の近隣地域 |
◆主な競合
イーコマース | 多数の競合が存在する |
実店舗 | 近隣の競合店(実店舗)及びイーコマース |
◆ユーザーが来店するまでの行動
イーコマース | Web広告を見たり、インターネット検索やSNSに設定されたリンクなどから来店する |
実店舗 | 生活圏内に出店している店舗の存在をユーザーが認知し、来店する |
◆商品選択時におけるユーザーの行動
イーコマース | ユーザーは実物の商品に触れることができないため、画像や商品情報から判断する |
実店舗 | 実物の商品を手に取ったり、試したりすることで判断する |
◆商品購入判断におけるユーザーの傾向
イーコマース | 複数のイーコマースや比較サイトで商品比較を行い、価格やサービスなどでより優れていると感じたイーコマースで購入する |
実店舗 | 近隣に競合店舗がある場合には、価格やサービスを比較しながら、より利用しやすい店舗で購入する |
◆広告の費用対効果
イーコマース | イーコマースの商品単価の平均は2,000円~4,000円程度で、広告費を捻出しづらい |
実店舗 | 店舗近隣へのアプローチが中心であり、チラシなどは効果が期待できる |
◆接客方法
イーコマース | メールや電話、SNS、チャット |
実店舗 | 対面 |
◆ブランドイメージ
イーコマース | サイトのWebデザインによって影響されやすい |
実店舗 | 店舗の設計、棚割り、スタッフの対応などによって影響されやすい |
近年、イーコマースの市場規模が拡大した3つの背景
2020年はコロナ禍の影響によって、多くの消費者や企業がデジタルシフトしたことでイーコマースの市場は急拡大しましたが、そもそもコロナ禍以前までも、日本のイーコマース市場は堅調に市場を拡大させてきました。その背景には以下の3つが考えられます。
① スマートフォンの普及
下図は、直近8年間の国内のスマートフォン経由のイーコマースの市場規模の推移を示したグラフです。2020年に特に大きく伸長し、物販全体のBtoC-EC市場規模の5割を占めるに至りました。
◆スマートフォン経由の物販のBtoC-EC市場規模の直近8年間の推移
引用(図表):経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)
スマートフォン経由の市場規模が拡大している理由は、直接的にはスマートフォンを利用する人が急増したためであると考えられますが、その背景にはスマートフォンの普及率を後押しする5つの変化があります。
◆スマートフォン経由のBtoC-EC市場規模の拡大を促進した5つの変化
②定額制の大容量通信プランの普及※2
③スマートフォン(端末)の大型化による操作性の向上※3
④シニア層のスマートフォン利用率の増加※4
⑤2018年にGoogleがモバイルファーストインデックスを表明したことで、スマートフォンに対応したWebサイトが増加※5
参考:
※1:KDDI株式会社「プラチナバンド 800MHz 『4G LTE』の実人口カバー率が99%に!」(2014年3月20日発表)
※2:+Digital「密かにMVNOの大容量・使い放題プランが増えている理由」(2022年2月28日掲載)
※3:日経クロステック「スマートフォンはなぜどんどん大きくなる?」(2017年2月3日掲載)
※4:Web担当者フォーラム「50代のスマホ利用者が初めて90%台を突破、70代も40%を超え過去最高に【LINE調べ・2021年下期】」(2022年5月2日掲載)
※5:Google 検索セントラル ブログ「モバイルファースト インデックスの展開 」(2018年3月26日掲載)
スマートフォン経由でイーコマースを利用する人が増えた背景には、これらの複合要因があると考えられます。人々が日常的にスマートフォンを利用するようになったことで、スマートフォン経由の市場規模は急激に拡大しています。
② 関連技術が進化したことで、ECサイトの開設が容易になった
日本でイーコマースが普及しはじめた2000年当初は、Amazonや楽天市場などのショッピングモールに参加するか、フルスクラッチで自社サイトを構築するかの手段しか考えられませんでした。しかし今日では、クラウド型ECプラットフォームサービスを利用して、誰でも、手軽に、短期間で、ECサイトを開設できるようになりました。
例えばBASE、STORESといったECカートサービスや、EC-CUBEやMagento(Adobe Commerce)といったオープンソースソフトウェアなどを利用することで、小規模から大規模まで多様なECサイトを手軽に構築することが可能です。
参考:各サービスの公式サイト「BASE」「STORES」「EC-CUBE」「Magento|Adobe Commerce)」
クラウド型ECプラットフォームでは、予算を抑えて利用できるASPサービスから、フルカスタマイズが可能なサービス、業種に特化した機能を備えたサービスなどが提供されています。
◆ECシステムの構築方法
・ASP(Application Service Provider)
・パッケージシステム
・柔軟なカスタマイズが可能なECプラットフォーム
・フルスクラッチ
◆業務や業界に特化したECシステムの例
・デジタルコンテンツ専用
・マーケットプレイス型ECモール
・BtoB向け
現在、ECプラットフォーム市場では多種多様なサービスが次々と登場しており、個人でも手軽にECサイトを開設することができます。
③ SNSの普及
SNSの普及もまた、イーコマースの市場拡大に大きく寄与していると考えられます。
◆SNSがイーコマースの市場拡大に与えている5つの影響
②SNSを利用してブランドや商品に関する情報を直接発信できるようになった。
③イーコマースのノウハウを紹介するコンテンツやメディアが増えたことで、事業者のスキルが格段に上がった。
④イーコマースとSNSの連携が容易になった。※1
⑤若い世代を中心に、インターネット検索よりも、SNS検索で情報を探すユーザーが増えた。※2
参考:
※1:Instagram Business ブログ「Instagramで商品をタグ付けして、より多くの顧客を惹きつける」(2021年10月6日掲載)
※2:MarkeZine「『ググる』『タグる』の次は、〇〇る!?若年女性のSNS検索スタイルとは」(2021年7月6日掲載)
SNSの中で、特にイーコマースと相性が良いといわれるのが「Instagram」です。現在は、テキストで情報を発信するXなどよりも、写真や動画などの視覚情報で手軽に情報を得ることができるInstagramなどのSNSのほうが、世界中の若い世代に支持されています。
Instagramでは、投稿、ストーリー、リールに外部サイトのリンクを設定することができます。そのため、事業者はInstagramをイーコマースへの主要な流入チャネルとして利活用することで、従来のWeb広告やSEO施策に比べて、手軽に宣伝を打つことも可能になります。
◆SHISEIDOのInstagramアカウント
引用(画像):SHISEIDO(@shiseido)
これら3つの背景を見ると、イーコマースがどんどん手軽で日常的なものになってきていることが、市場拡大の要因となっていることがわかります。
フリマやオークションアプリなども含めると、消費者には多くの選択肢が用意されており、スマートフォンでいつでもどこでもアクセスできます。販売者側にとっても、コストをかけずに簡単にECサイトを開設することができるようになりました。
このように、イーコマースに対する双方のハードルが大きく下がったことが市場拡大につながったと考えられます。
Amazonと楽天市場などのプラットフォーマーが高いシェアを持つ
イーコマースを簡単に開設できるとは言っても、自社でゼロからイーコマースを開設し、新しい事業を軌道に乗せるまでの道のりは極めて困難です。国内のユーザーのほとんどは、Amazonや楽天市場などのECモールを利用しています。下記は、2024年5月における国内のECモール利用者数です。
◆国内ECモール利用者数ランキング(2024年5月)
引用(図表):ネットショップ担当者フォーラム「アマゾンvs楽天vsLINEヤフー。EC利用者はどこが多い? Temuも上位に浮上【ニールセン調査】」(2024年7月26日発表)
日本では、Amazon、楽天市場が、圧倒的な国内市場シェアを占めています。残りのシェアをその他の大手企業で奪い合っている状態であると考えただけでも、これから新たにイーコマースの市場に参入して成功することが容易ではないことが分かるでしょう。
イーコマースが少子高齢社会の日本の労働力不足を補完する
少子高齢社会となった日本が社会活動を維持していくために、労働力不足を補完する社会的なソリューションの確立は喫緊の課題です。
◆日本の人口推移
引用(図表):総務省「令和4年版 情報通信白書 │ 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」
総務省の報告では、今後、日本の生産年齢人口である15~64歳の人口はますます減少していくと予測されており、すでに過疎化が進んでいる地方を筆頭に日本全国で慢性的に働き手が不足する社会が訪れることになるでしょう。
産学官民が一体となって、いち早く、法律・インフラ・物流を整備し、人々が生きていくために必要な食料品、衣料品、日用品などの販売にイーコマースを普及させ、自動化を推進することで、労働力の効率化と人々のライフラインの維持に貢献し、未来の危機に備えることができるのではないかと、筆者は考えています。