「ヘッドレスコマース」とはECのUXを追求する最新の仕組み


ヘッドレスコマースとは、ヘッド(頭)、つまりECサイトのフロントがない、フロントとバックエンドを分離させることが可能なECプラットフォームや、その考え方のことです。

※補足
「ECサイトのフロント」:ECサイトの見た目。ユーザーとの接点のこと
「ECサイトのバックエンド」:ECサイトの裏側のシステム。決済、商品、在庫、配送などのこと

具体的には、ECサイトのフロントを分離することで、バックエンドにシステム的に依存しないため、UX(顧客体験)を高めるための改善がしやすいというメリットがあります。またフロントをチャットボットやAIスピーカーに置き換えて、ユーザーはチャットや音声で商品を購入することも可能となります。

なぜなら、API連携により、受発注等のコマースに必要な情報をバックエンドに送ることで、バックエンドに依存せずフロントを自由に開発することができるからです。

本日はインターファクトリーでマーケティングを担当する筆者が、ヘッドレスコマースについて詳しく解説いたします。

ヘッドレスコマースとは?ヘッドをECのフロント部分に置き換えれば、すぐ理解できる!

まず、ECサイトの仕組みですが、一般的に以下の2つに分けられます。

・フロント(ユーザーとの接点)
・バックエンド(決済、商品、在庫、配送など普段ユーザーが触れない部分)

しかし、これは考え方であって、実際の構成は以下の図のように1つとなっており、ECサイトの構成がフロントとバックエンドに分かれているわけではありません。

◆通常のECサイトの構成

ヘッドレスのヘッドとは、このフロント部分をヘッド(頭)に見立てた表現なのです。

・フロント<==ヘッド(頭)
・バックエンド

つまりヘッドレスとは、フロントがないECサイトのことと思われますが、厳密にはそうではなく、フロントとバックエンドを切り離して考えることを指します。図解すると以下のような構成となります。

◆ヘッドレスコマースの構成

フロントとバックエンドをAPIで連携することにより、フロントは必要な情報(決済、商品、在庫、配送など)をバックエンドのシステムに渡すだけで良いので、ヘッドレスコマースでは、売上につながるUXを最大化させるためのフロントの開発に専念することができます。

なぜ、このような考え方があるのかと言うと、7つのポイントがあります。

ヘッドレスコマースが必要となる7つのポイント

それでは以下の順にヘッドレスコマースのポイントを解説いたします。

①ECサイトのUIを最適化したいが、プラットフォームに依存しており困難
②自社のエンジニアをフロント部分の開発に専念させたい
③チャットボットやAIスピーカーなど次世代のインターフェースに対応したい
④マルチチャネルを実現するため
⑤安全性が高くなる
⑥大量のトラフィックに対してもパフォーマンスが落ちづらい
⑦変化の速い時代に対応するため

①ECサイトのUIを最適化したいが、プラットフォームに依存しており困難

まず、ECサイトを作る以上、最も大切な指標がCVRとなります。アクセスの多い大手ECサイトであれば、CVRが0.01%違うだけでも、年間の売上が大きく変わりますので、EC担当者はCVRを高めることを強く意識しています。

そのためにEC担当者は、ユーザーへのヒアリングや、最新の行動分析ツールの導入など、ECサイトの課題を抽出します。しかし、いざ、ECサイトのフロント部分の改修に着手しようとすると、

システム担当者「カートの遷移画面は変更できない」
デザイナー「そのデザイン変更を行うには、システムベンダーへの依頼が必要」
システムベンダー「その改修には半年かかります。改修費用は300万円です!」

とすぐに実行できないケースも多々あります。UIを素早く徹底的に改善できるEC事業者は、体制が整っていて、予算・開発リソースも十分にあるような大企業がほとんどです。

EC担当者は、UIの改善を行いたくても、都度システム担当者やECシステムのベンダー企業に依頼が必要となるため、バックエンドに深く影響するような改修を行うことは困難なのです。実施するには予算と時間がかかりすぎてしまいます。

しかし、これがヘッドレスの構成になれば、バックエンドやプラットフォームに依存せず、UXを最大化させることに集中したフロント部分の開発に注力すれば良いため、UIを改善しやすくなるのです。

なぜなら、バックエンドに必要な情報はAPI連携を通じてバックエンド送ればよいので、バックエンドを意識せずにフロント部分の開発に注力することができるからです。

②自社のエンジニアをフロント部分の開発に専念させたい

EC事業者であれば、当然、自社のEC担当者の多くがECサイトの売上最大化に専念できている体制こそが理想と思うことでしょう。しかし、実際はなかなか難しいところがあります。

例えば、ECサイトをスクラッチやオープンソースを利用して自社開発しているEC事業者のエンジニアであれば、以下のような多くのことを考慮する必要があります。

◆ECで考慮すべき機能・要件・データベース等

・決済機能
・受発注情報
・配送情報
・顧客情報
・サーバー管理
・セキュリティ

多くの機能や要件・データベースを考えて、保守開発していく必要があるため、ECのUI改善ばかり考えるわけにはいきません。いわば、保守開発の多くはEC事業者にとってなくてはならないディフェンスの要素があるために、エンジニアはそれらの仕事に追われがちです。

経営者が、いくら「UI改善を行いたい!」と思っても、ディフェンスを疎かにすることは、EC事業者にとって死活問題となるため、自社の開発リソースの大勢をUI改善に向けられるのは、よほど体制や予算が整った事業者に限られます

また、ECシステムをベンダーに外注している場合は、改修の費用や時間がかかるために、UIの改善は難しい問題なのです。しかし、自社のECシステムをヘッドレスコマースに置き換えることで、通常のECサイトの構成では複雑につながっているフロントとバックエンドの機能を分けることができるのです。

つまり、それは自社で抱えているエンジニアの体制もフロントとバックエンドに分けて、それぞれの改修に専念させることができる体制になるため、UIを徹底的に改善しやすい体制を構築しやすくなるのです。なぜならフロントは、API連携でバックエンド側に情報を渡すだけになるため、UIの開発が行いやすくなるからです。

このように自社のエンジニアをフロントとバックエンドに分けた体制を作ることができ、しかも、それぞれの機能を開発するというアジャイル開発の手法を取り入れることにつながります。

③チャットボットやAIスピーカーなど次世代のインターフェースに対応したい

また、イノベーションにより、今までになかったUIのWEBサービスや、IoTをフロントに利用することも可能です。

例えば、チャットボット上で、ユーザーの不安をチャットで解消しながら買い物をしてもらうチャットコマースであったり、AIスピーカーに「いつもの洗剤がほしい」と話しかけて購入するボイスコマースなどです。

このように、ヘッドレスコマースであれば、従来のECサイトという形にこだわらず、フロント部分を他のインターフェースに変えることがカンタンであり、フロント部分で取得した情報(決済、商品、在庫、配送など)を、APIを通じてバックエンドに送るだけで開発が可能となります

このようにヘッドレスコマースであれば、UIを柔軟に開発することができるのです。

④マルチチャネルを実現するため

ECサイトの売上を拡大を考える時に、自社ECサイトだけでなく新しい販売チャネルも検討することもあるでしょう。例えば、販売代理店のチャネルなどもその一つです。

ヘッドレスコマースであれば、販売代理店側でECサイトのフロントだけを開発してもらえれば、バックエンドをAPIで接続することで、販売代理店はすぐにECチャネルを作ることができます。

このように、アプリを作ったり集客力の大きい他のチャネルと自社ECサイトのバックエンドを接続することはヘッドレスコマースであれば非常にカンタンです。このようにヘッドレスコマースは、新しいチャネルと容易に接続できるため、マルチチャネル施策を実行する場合にメリットが大きいのです。

⑤安全性が高くなる

フロントとバックエンドを分離することにより、ハッカーから見るとサイバー攻撃するポイントが減ることを意味します。そのため従来のモノリシックなECサイトよりも安全性が高くなります。

サイバー攻撃は、データとデザインを共同作業しているプログラムを騙して、データを抜き取る行為が多いのですが、そもそもヘッドレスコマースのフロントには、データがないので盗み出すことができないことになり、構造的に安全なECサイトとなるのです。

⑥大量のトラフィックに対してもパフォーマンスが落ちづらい

フロントとバックエンドを分離しているため、大量のアクセスがECサイトにやってきても、バックエンド、つまりデータ側(バックエンド)の負荷が和らぐため、サイトのパフォーマンスが従来のモノリシックなECサイトよりも高い特徴があります。

このため、ヘッドレスコマースは例えば、楽天市場やZOZOTOWN、Yahooショッピングなどの有名モールや、ニトリやビックカメラなどのテレビCMを実施するような大量のアクセスが前提となるECサイトにこそ向いている仕組みと言えます。

⑦変化の速い時代に対応するため

テクノロジーが進み、今年のトレンドが来年には下火になることも多く、時代の変化が非常に速くなりました。特にEC業界の変化は、あらゆる業界の中でも変化の速い業界の一つと言えます。

最新のマーケティング手法やツールを導入して、ECサイトの売上を高めるためには、企業はバックエンドと切り離して、フロント部分の改修に積極的に取り組むべきなのです。サービスを改善し、多くの競合企業の中からユーザーから選ばれるようにしていかなければなりません。

特にECサイトのフロントは、変化の多い箇所ですから、ヘッドレスコマースを導入することで、時代の変化に対応しやすいプラットフォームを利用すべきでしょう。

ヘッドレスコマースの最大のデメリットは初期開発の難しさ

ヘッドレスコマースは、理論的には非常にシンプルな考え方ですが、それを実際に開発するとなると、従来のモノリシック(単一の)なECサイトに比べると開発工数がかかるだけでなく、最初から最も合理的なフロントとバックエンドのアーキテクチャーを設計し、API間のインタフェースを設計・管理していく必要があり、並みのエンジニアには務まりません。

しかも、ヘッドレスコマースに関しては情報が少ないため、おそらくITベンダー会社に依頼しても、依頼を断られるか、やんわりモノリシックなECコマースを提案されることになります。

ですから、つきあいのあるIT会社に依頼して「ヘッドレスコマースを採用しましょう!」という気軽に開発できるわけではないのです。実現可能なエンジニアがいることが前提となるのです。

 

ヘッドレスコマースは国内で普及するか?

筆者はヘッドレスコマースの国内普及は、なかなか進まないと考えます。

なぜなら、理論としては優れているヘッドレスコマースですが、一番肝心なのは、最高のUXを実現するためのフロントの開発です。しかし、これには成功法則があるわけではなく、WEBマーケティングに長けた人材が徹底的にユーザーと向き合った企業のみが得られる、独自のノウハウです。

そして、日本企業の多くはWEBマーケティングがあまり得意ではなく、またノウハウも少ない傾向にあります。少し古いですが、2017年の下記記事によると、WEBマーケティングで成功体験がある企業はたった13.1%程度という調査結果も出ています。

参考:「デジタルマーケの成果が出ている」企業が37%って本当? 富士通総研のアンケート調査を正しく読み解くWeb担当者フォーラム

つまり、フロントのUI改善を徹底的に行うEC事業者は、一部の企業に限られるというのが筆者の考えです。そのため、多くの企業ではヘッドレスコマースを採用する意味があまりないのです。

また、チャットコマースやボイスコマースなどの概念や仕組みが生まれて、ずいぶん経ちましたが、それらが日本のEC売上の何%を占めているでしょうか?データがないので正確には分かりませんが、おそらくごくわずかなものだと筆者は考えます。

これらのことを考えると、ヘッドレスコマースはUIを突き詰めて考える一部の企業では受け入れられますが、多くの企業にとっては費用対効果が得られないのではないでしょうか?

ヘッドレスコマースを導入する前に考えよう。自社にUIを突き詰めて考えるEC担当者がいるのか?

もし、ヘッドレスコマースという言葉を調べているうちに当記事に出合ったのなら、まずは考えてほしいことがあります。UIを突き詰めて考えることのできる、WEBマーケティングに長けたEC担当者が自社にいるか?という点です。

ヘッドレスコマースを導入する際は、まずUIを突き詰められる自社の方針や人材、体制を整えてから検討しても遅くはありません。また、UIの改善は熱意だけでは身に付けられない独自のノウハウです。まずは多くのUI改善に関する講演やセミナーを聞いて、優良なパートナーやコンサルタントを見つけることから、始めてみてはいかがでしょうか?

ヘッドレスコマースを検討する方に

最後に、ここまで記事を読んでいただきありがとうございます。もし、ヘッドレスコマースを検討している場合は、弊社のECプラットフォームのebisumart(エビスマート)を他社とともにご検討ください。

ebisumartは厳密にはヘッドレスコマースではありませんが、API連携を実現しているため、本日の記事で解説したようなAPI連携による受発注処理がカスタマイズにより可能です。下記の公式ホームページから資料請求ができますので、お気軽にお申しこみください。

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。