ECサイトの年商1億円を超える中・大規模のECサイトや、独自の要件を実現するためのカスタマイズECの構築手法として、一番最初に浮かぶのはECパッケージの導入であると思います。
ECパッケージの最大のメリットは、ゼロからECサイトをフルスクラッチよりも、費用とコストが安くなるという絶大なメリットがあります。なぜならパッケージであるため、最初からECに必要な機能は全て実装されており、それをベースに自社の要件に合わせてカスタマイズを行うので、開発期間が短く済むのです。
本日は、インターファクトリーでWEBマーケティングを担当する筆者がベンダー選びやコンペを行う際に、どういった観点や注意点があるのかを7つのポイントに分けて解説いたします。
「パッケージ」とは、どんなものなのか?理解を深める
5つのポイントを解説する前に「パッケージ」について解説します。パッケージはECに限った話ではなく会計システム、顧客管理システム、基幹システムあるいは銀行業務に特化したシステムなど、あらゆるシステムや業界に市販のパッケージが存在します。
ECの場合は、パッケージをカスタマイズをしなくても、そのままECシステムとして利用できて、ソフトウェアとして市販されているものをパッケージと呼びますが、パッケージを導入する場合はカスタマイズを前提としているケースがほとんどで、パッケージを改良して自社に合うECシステムを作ります。
そのため、EC業界でパッケージを利用する場合は、年商1億円以上中・大規模のECサイトの利用されることが多いのです。
ECパッケージの初期費用と月額費用の目安と比較
まずは、ECサイトのプラットフォームには5種類あります。それらと比較して、ECパッケージの一般的な、費用感や、構築にかかる期間などを、下記表で比較してみました。
◆ECサイト開発時の5つのプラットフォーム比較
ASP | オープン ソース |
EC パッケージ |
クラウド EC |
フル スクラッチ |
|
---|---|---|---|---|---|
EC年商 | 1億円以下 | 1億円程度 | 1億から 100億円 |
1億から 100億円 |
50億円以上 |
初期費用 | 0円~ | 0円~ | 300万円~ | 100万円~ | 数千万円 |
月額費用 | 数千円~ | 数千円~ | 数十万円~ | 数十万円~ | 数十万円~ |
導入期間 | 1週間~ | 1ヵ月~ | 3ヵ月~ | 3ヵ月~ | 1年~ |
システム の最新性 |
常に最新 | 古くなる | 古くなる | 常に最新 | 古くなる |
カスタマイズ性 | × | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ |
システム 連携 |
△ | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ |
デザイン | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
ECパッケージが必要なEC事業者の年商は1億円以上が目安になります。
同じく中・大規模のECサイトのプラットフォームの候補としては、クラウドECもあり、費用感や構築期間は同程度です。ECパッケージの初期費用が300万円からというのは、カスタマイズをしないで、デフォルトの機能だけで導入する場合の価格で、カスタマイズやシステム連携をすると1,000万円以上は必ず費用が発生します。
この表の表記では具体的な数字を入れておりませんので分かりにくいかもしれませんが、フルスクラッチで作る場合と比較すると、ECパッケージの方が安く早く構築できます。その差はパッケージであるため、すでにECに必要な機能が実装されており、ゼロから作るよりも格段に早く構築できることが分かります。
そのため、10年以上前までは中・大規模のECサイトを作る時は、フルスクラッチしか方法がありませんでしたが、現在は、中大規模向けのマーケットはECパッケージあるいはクラウドECが主流になっております。
ECパッケージベンダー選びの7つのポイント
では、ECパッケージを検討する場合、どの業者に依頼するのが良いのでしょうか?これからECサイトの構築やリプレイスをする企業のEC担当者向けに7つのポイントで解説いたします。
ポイント①自社が実現したいECサイトに近い事例があるか?
ポイント②ECパッケージの管理画面を事前に確認すること
ポイント③ECパッケージで実現したいデザインが本当に可能か?
ポイント④プレゼン力に騙されるな!ECパッケージ会社に必要なのは技術力!
ポイント⑤決済会社は指定した決済会社が導入可能なのか?
ポイント⑥リニューアルの場合、データ引継ぎやSEOは万全か?
ポイント⑦ECサイトリリース日から5年間のことを想定してみる
ポイント①自社が実現したいECサイトに近い事例があるか?
近い事例があると費用が安くなる
中・大規模のECサイトとなると、独自の要件が必ずあるものです。フルスクラッチより安いとはいえ、ECパッケージであっても、数千万円の開発費がかかります。そこで
EC担当者「それなりに費用がかかるのは分かるが、減価償却も考えると、なるべく費用は安くしたい。」
と思うはずです。実はECパッケージベンダーを3~5社呼んで見積りを出させると「A社とB社では費用が2倍も違う!」と言うことがあります。その理由の一つがECパッケージベンダーが過去に近い事例の開発を行った経験がある場合、過去にノウハウを基に開発を行うことができるため、工数が抑えられることです。
そうなると、自社で実現したいECサイトの要件に近い実績があるパッケージベンダーを選ぶことが重要になってきますし、逆にベンダーが提出した見積り書の金額が高すぎると感じた場合は、
EC担当者「あなたの会社は、過去に○○社のECサイトを構築しており、弊社のECと要件が近いのに、なんでこんなに費用がかかるのか?」
と、聞いてみて、見積書の正当性を確認してみてください。ただし、あまり追い詰めるような言い方だと、そのベンダーと信頼関係を作れず、プロジェクトが上手くいかなくなる恐れがあるので、事実をもとに感情的にならずに聞いてみましょう。
近い事例があると、認識のズレが起こりにくい
また、やりたいことに、近い事例があるというメリットは、それだけではありません。要件の認識のズレが起きにくいメリットがあります。ECパッケージベンダーも、多くの事例を扱っており、ECのことはプロですから、EC独自の要件は慣れています。
しかし、通常のECサイトから大きく要件が離れている場合は、ベンダー側がさまざまな要件をヒアリングし、仕様に落としていく必要があり、認識の齟齬が発生する可能性が増える傾向があります。例えば、ECサイトに”座席予約システム”や”オークションの仕組み”を取り入れたり、要件が極めて複雑なBtoBの要件であったりするケースのことです。
こういった独自の要件であっても、すでに経験しているベンダーは、理解も早いため、ECサイトのクオリティーも高くなります。
こういったことから、自社が実現したいECサイトに近い事例を経験しているパッケージベンダーを選ぶことは大切なポイントであることが分かります。
ただ、いくら自社に近い事例がベンダーの事例に存在してもパッケージの機能として「標準化」されていなければ、パッケージをカスタマイズするためのプログラムは0から作ることになりますので、開発期間や費用がそれだけかかるケースもあるので、「近い事例」=「開発費用が安い!」とは言い切れない部分があることを念頭に入れておきましょう。
ポイント②ECパッケージの管理画面を事前に確認すること
ECベンダーを選ぶ際は、見積りや機能ばかりに目が行きがちです。しかし、ECサイトが完成してからは、運用面が大切です。ECパッケージの場合は、ゼロから開発するわけではないので、すでに基本の管理画面というのが存在します。その管理画面が使いやすいかどうか?というのも重要な要素です。
管理画面のデモは、どのパッケージベンダーも提供していますが、ベンダー会社の営業の説明をただ聞いていて管理画面が良いのか、悪いのかわかりません。ベンダーに問い合わせればデモ用の管理画面を使えるはずですから、自社のEC担当者に使わせてみて、
・商品登録
・受発注処理
などを実際に行い、管理画面の使い勝手もベンダー選びのポイントに入れておくと良いでしょう。もし使い勝手が悪い面があるなら、カスタマイズが可能か?どれくらいの費用が追加でかかるのか?も確認してみてください。
現在使用中のECシステムの管理画面における全機能を洗い出す必要まではないかもしれませんが、特に重要な機能を選別し、それが新しいECシステムの管理画面でも実装されているか?だけでも確認しておくべきでしょう。
ポイント③ECパッケージで実現したいデザインが本当に可能か?
中・大規模のECサイト では、さまざまなデザインに対する要望が出てくることが多いため、デザインもしっかりしたものを作らなくてはなりません。ECパッケージであれば、どのベンダー製品であっても、デザインは自由にHTMLとCSSで自由に表現できますが、本当に実現可能なのか?を確認しなくてはなりません。
ECサイトのTOPページや、商品ページなどは、比較的どのECパッケージであっても、自由に表現できることが多いですが、ショッピングカート周りのデザインはカスタマイズされることが前提ではないため、デザインに制限があり、もしカスタマイズをするとなると費用が大きくかかることがあります。
商品ページやサイトのTOPページのデザインなどは、要件の対象になりやすいですが、カート周りのデザインは要件から落ちてしまうことがあります。そしてこのカート周りのデザインは、注文する前後の画面であり売上に影響しやすい部分でもあります。
カート周りのデザインが、どうなっているのかは、担当営業に聞いてもわかりますが、ECパッケージベンダーのホームページに事例に出ているECサイトで、購入寸前まで試してみることで、カート周りのデザインを確認することができます。
ただ、筆者の意見になりますが、もしカート周りのデザインの改修が、CVRを向上させるためのWEBマーケティングのための改修であれば問題はありませんが、それが単にデザインの徹底ということになると、かなりの費用がかかりますので、本当にその改修が必要なのか?を検討してみるべきです。
ポイント④プレゼン力に騙されるな!ECパッケージ会社に必要なのは技術力!
大規模のECサイトとなると、その開発予算も数千万円以上となることもあり、大きな取引です。各ECパッケージベンダーも、最終選考のコンペには、エース級の社員がプレゼンテーションに参加することもよくあります。そんな気合の入る最終選考のプレゼンテーションは、ベンダー選定において最も重要な場になります。
ここで気をつけないといけないのは、プレゼンテーションだけがとてもうまい会社です。何千万円の投資にもなると、当然最終選考の場には、発注元の役員や社長も参加することになります。ここでECパッケージベンダーも、プレゼンテーションが上手いエース級の社員が担当します。
そのエース級の営業が、見事なビジョンや世界観をプレゼンテーションで表現します。そうなると、最終選考だけに出席する社長や役員もすっかり、その気になり「あのプレゼンはしびれた!彼の会社にしよう!」ということになります。しかし、プレゼン上手な会社が、開発力もあるとは限りません。
ECサイトではありませんが、この手の話はよくある事で、大手広告代理店でよく使われている手法です。
最終選考のプレゼンテーションには、エース級の営業がプレゼンを行いますが、選考の結果、その会社に仕事を発注しても、エース級の営業が担当してくれることはありません。代わりに、経験の浅い研修途中のような担当がアサインされる事があり、運用開始後の大きなトラブルの原因になっています。
話を戻しますが、ECパッケージベンダーの選定で大事なのは、やはり技術力でしょう。多少プレゼンの構成がつまらなかったとしても、その会社に技術力があるかどうかが大切なのです。最終選考では、その点を比較検討するようにしましょう。プレゼンだけで、技術力を把握することができなれければ、質問をしてみたり、開発を担当する技術者を最終選考の場に同行させるように求めてみることも良いでしょう。
その他に技術力があるかないかの選定ポイントとしては、そのECパッケージを自社の技術力だけで開発したのか?という点も重要な要素です。例えばECパッケージであっても、「オープンソースを利用して作ったもの」と、「自社でゼロから作ったパッケージ」では、どちらが技術力が必要なのか?と考えてみることもベンダー選びでは重要です。
例えば、技術力を図る目安の一つですが、クラウドECであれば、クラウド環境のシステムの「柔軟性・拡張性」と「最新性」を両立させるには、高い技術力が必要となるため、クラウドECのベンダーであれば技術力がある程度高いと思っても良いでしょう。
ECシステムを検討する際は、他社とともに弊社のebisumartを検討していただければ幸いです。
クラウドコマースプラットフォーム:ebisumart(エビスマート)
ポイント⑤決済会社は指定した決済会社が導入可能なのか?
ECサイトでは、クレジットカード決済やコンビニ決済などの各種決済方法が使われますが、大手事業者となると、決済手数料は個別見積となるため決済手数料は企業規模や商品注文数により変わってきます。筆者もかつて大手英会話スクールにおりましたが、決済代行会社を選ぶ際は、個別見積を各社からとって、その中で決済手数料が最も安い会社を選定しておりました。
そのため企業からみると、付き合いもあり「この決済代行会社を利用したい」というニーズがあります。しかし、パッケージ会社によっては指定した決済代行会社にしか対応できないケースがあり、交渉して、指定した決済代行会社と連携させるカスタマイズさせる場合は、別途開発費用を請求されるケースもあります。
そのため、パッケージ会社のホームページを見て、パートナー紹介のページに決済代行会社が一つしかないようなケースは要注意です。大手事業者であれば、決済代行会社が自由に選べるECシステムの方が良いでしょう。
ポイント⑥リニューアルの場合、データ引継ぎやSEOは万全か?
もし、新規にECサイトを作るケースではなく、ASPからパッケージにシステムを載せ替える場合は、以下のようなデータを新システムに引き継がないといけません。
◆引継ぎデータ例
・商品データ
・受発注データ
・会員データ
会員のログイン情報は、ユーザーがIDとパスワードをブラウザーに記憶させている場合システムが移行された時に、ユーザーは新しいECサイトにログインしなおす手間が発生します。そのため、ECサイトのシステムをリニューアルした際は、ユーザーにログインをし直すように告知しておく必要があります。
また、SEO施策を実施しているページがあれば、新システムのページにURLにリダイレクトなどを適切に実施しないと、今まで築きあげたSEOのパワーを失うことにもなりますので、単にスキルの高いエンジニアでは対応できないので、ベンダーのECシステム移行経験がある担当者が移行に責任もって実施する必要があります。このあたりの経験も選定のポイントとなります。
ポイント⑦ECサイトリリース日から5年間のことを想定してみる
ECパッケージ選びの、最後のポイントです。それはECサイトリリースから5年間のことを想定しておくことです。それを事前に想定しておけば、中・長期的に開発費を抑えることができるからです。
具体例をあげてみましょう。
例1:2019年10月の消費税対応
例えば2018年10月にECサイトをリニューアルした場合、2019年10月に予定される消費税率引き上げへの対応を視野に入れておかなくてはなりません。このことを念頭に置くなら、事前にECパッケージ会社に「消費税対応は、カスタマイズで対応するのですか?」「その場合いくら費用はかかりますか?」と聞いておけば、将来かかる費用感もECベンダーを選ぶ基準の一つになります。
※余談ですが、弊社のenisumartであれば、消費税対応について、実は管理画面のパーセンテージの数字を8%から10%にEC担当者が変更するだけで対応可能であり、費用は一切かかりません。こういった機能がECパッケージベンダーに実装されていないのか?聞いてみましょう。
例2:リリース2年後のECパッケージの最新のモジュールの適用
ECパッケージベンダーには「システムの陳腐化」に対して、どのような対策を取るのか聞いてみましょう。通常ECパッケージは、開発する時に最新のバージョンを基にして、それをカスタマイズをして、ECシステムを構築します。
しかし、リリース後、2年も経つとパッケージのバージョンが古くなります。もちろん最新のモジュールを適用できるケースもありますが、カスタマイズを行っていると、それができないケースがほとんどです。こういった事情にパッケージベンダーがどのように、陳腐化を防ぐのか?あるいはコストが必要なのか?を事前に確認しておきましょう。
例3:3~5年後のECサイトのリニューアル
そして、リリース時には最新のシステムであっても、3~5年もたつと最新のトレンドやセキュリティー環境にECシステムが対応できなくなってきます。そうなると当然ECシステムのリニューアルが発生します。その目安が何年後なのかを各ベンダーに過去の実績から聞いてみましょう。
ECサイトのリニューアルには、とても大きなコストと負担がかかります。ECパッケージベンダーのユーザーの継続率や、平均何年でリニューアルを行っているのか?そういったことも事前にECパッケージベンダーに聞いてみることをおススメします。
また、クラウドECの場合は、常にシステムが自動更新されるため、「二度とECサイトのリニューアルが必要なくなる!」ことも知識として覚えておくと良いでしょう。
本当にパッケージが必要なのか?ASPも機能拡張している
ひと昔前とちがい、ASPも機能を拡張しております。例えば、従来のASPはシステム間の連携はできませんでしたが、ASPの上位の価格帯のサービスは、API連携を使ったシステム連携が可能になっております。
もし、ASPでも実現したいことができるのなら、パッケージよりも圧倒的に投資対効果がよくなりますし、また、システムが古くならないというメリットもあり悪い選択ではありません。
ECシステムのコンペを行うなら、この組み合わせが比較検討しやすい!
もし、ECシステムのコンペを行うのでしたら、下記のようなECシステムベンダー3社を呼ぶと、比較検討しやすいでしょう。
1社目:自社と付き合いの長いIT業者
2社目:パッケージのベンダー
3社目:クラウドECのベンダー
ここでは3社としましたが、実際には5社程度検討することも多いでしょう。その際は上記のパッケージベンダーをもう2社追加してみてください。クラウドECを追加したのは、やはりパッケージと大きく異なる以下の点が特徴だからです。
カスタマイズ可能でありながら、システムの最新性が担保される
ECシステムとは他のシステムと違い、「修正・追加機能実装」が非常に多いシステムなのです。そのため、パッケージを改修すると、システムが陳腐化しやすくなりますが、クラウドECであるため、システムが古くなりません。
クラウドECを1社入れることで、他との違いが明確になり、比較検討がしやすくなります。ECシステム選定の際は、弊社のフルカスタマイズ可能なクラウドECのebisumart(エビスマート)もご検討ください。詳しくは下記の公式サイトをご覧ください。
ECパッケージのまとめ
本日はECパッケージベンダーを選ぶための5つのポイントを解説いたしました。重要なことは、
✔やりたいことが実現できるのか?その実績があるか?
✔プレゼンにごまかされない!開発力やサポート力があるベンダーか?
✔将来のことも念頭に入れておく!
ということです。何千万円もするシステム投資のため、慎重過ぎるくらいが丁度良いでしょう。また、選定先のECパッケージベンダーを使ったことがある人が知り合いにいる場合は積極的に連絡をとって、実際はどうなのか?を聞いてみると良いでしょう。
また、フルスクラッチのECシステムも検討しているかもしれませんが、フルスクラッチは非常に開発時間とコストがかかります。まずは自社のやりたいこと可能なパッケージやクラウドECを探してみてからが良いでしょう。