現在運用中のECプラットフォームをリプレースするためには、新しいプラットフォームを用意する必要があります。
新しいプラットフォームは以下の3つのいずれかの方法で構築します。
◆ECプラットフォームの3つの構築方法
② 現行ECプラットフォームパッケージの最新/後継バージョンに更新する
③ 新しいECプラットフォームをフルスクラッチで開発する
上記のいずれの方法を選んだとしても、ECプラットフォームのリプレースにはそれなりの工数と費用がかかりますが、近年は多種多様なクラウド型のサービスが登場していることもあり、ほとんどのEC事業者は、方法①の「新しいECプラットフォームサービスに乗り換える」を選択することになるでしょう。
新しいECプラットフォームを検討する際は、現行システムの「課題」はもちろんですが、意識しているかどうかにかかわらず、現在享受している利益に影響している「長所」についても、細部まで洗い出すことが大切です。
リプレースしたことで売上や生産性を損ねることのないよう、現行システムの課題を克服し、長所を踏襲できるECプラットフォームを選定するようにしましょう。
この記事ではインターファクトリーでマーケティングを実施している筆者が、ECプラットフォームのリプレースについて解説します。
ECサイトをリプレースする3つの方法を解説
まずは、新たにECプラットフォームを構築してECサイトをリプレースするための3つの方法を順に解説します。
◆ECプラットフォームの3つの構築方法
② 現行ECプラットフォームパッケージの最新/後継バージョンに更新する
③ 新しいECプラットフォームをフルスクラッチで開発する
以下は、3つの構築方法ごとの主なメリットとデメリットを簡単にまとめた表です。
◆新しいECプラットフォームの3つの構築方法とそれぞれのメリット/デメリット
メリット | デメリット | |
① 新しいECプラットフォームサービスに乗り換える | ・新しい機能が使える ・処理速度が早くなる |
・現在使用している機能が搭載されていない場合もある ・画面操作に慣れるまでに時間がかかる ・データの完全移行が必要になる |
② 現行ECプラットフォームパッケージの最新/後継バージョンに更新する | ・使い慣れた操作/運用で利用できる ・新しい機能が使える ・データ移行が最小限で済む |
・定期的に新しいバージョンに更新し続ける必要がある |
③ 新しいECプラットフォームをフルスクラッチで開発する | ・必要な機能をすべて実装できる ・自社の運用を変更しなくて済む |
・膨大な開発期間と費用が必要になる ・定期的な更新とリプレースが必要になる ・ECや業界標準の最新技術を組み込めない場合もある(開発者のスキルに依存する) |
出典:筆者の経験に基づき独自に作成
いずれの方法にも「デメリット」がありますから、リプレースの検討時は現状分析と要件定義をしっかりと実施してから新しいプラットフォームを選択しなければ、「前のシステムのほうが使いやすかった」という結果を招きかねません。
ECプラットフォームのリプレースも通常のシステムリプレースと同じように、以下の2つの要素の洗い出しを十分に行ったうえで、要件を定義していく必要があります。
◆システムリプレースで洗い出しが必要な2つの要素
・現行システムの長所
ほとんどの方が、現在使っているシステムの足りない部分、すなわち「課題」はすぐに挙げることができるでしょう。しかし、現在の利益に寄与している機能や運用などの「長所」について、日頃から意識しているという方は少ないのではないでしょうか。
今起こっていない問題は気付きにくいものです。例えば、ECシステムを使用して、日常的にCSVファイルでデータを一括登録する運用を行っていたとします。そこで、リプレースの機能要件を「CSV形式ファイルでデータをインポートできる機能」と定義し、該当する機能を備えたECシステムにリプレースしたにもかかわらず、「今までのように簡単な操作でインポートができなくなった」「インポート処理が遅くて業務ができなくなった」というような事態を招く可能性もあります。
リプレース後に、このような問題に対処するのは非常に困難ですから、リプレース前には現行システムの長所を漏らさず洗い出しておくことが大切なのです。
また、現行システムがパッケージをカスタマイズして構築されている場合は、最新または後継バージョンにアップデートする時に、再度カスタマイズが必要となるケースもあります。そうしたケースでは、バージョンアップのたびに数千万円規模の開発コストが発生することになります。
フルスクラッチ開発の場合には、自社の業務や運用に最適な仕様で新しいシステムを構築することができますが、開発者のスキルによって、開発コストが膨れ上がるだけでなく、ECや業界の最新技術を導入することができないというケースも起こり得ます。そのため、フルスクラッチ開発ではECや業界の知識と実績を有した人材や企業をアサインするようにしましょう。
筆者としては、特別な理由がなければ、クラウド型のECプラットフォームサービスの採用を強くおすすめします。
ECプラットフォームリプレースの5つの手順
ECプラットフォームのリプレースは、以下の5つの手順で行います。
◆ECプラットフォームリプレースの5つの手順
手順② 課題の解決と長所の踏襲が可能なECプラットフォームの選定
手順③ 新しいECプラットフォームの構築
手順④ 受け入れテストの実施
手順⑤ ECプラットフォームの切り替え/リリース
それでは、各手順を順番に見ていきましょう。
手順① 現行システムの「課題」「長所」の洗い出しと要件定義
最初に現行システムの「課題」と「長所」を洗い出し、要件を定義していきます。何かしらの問題を解決するためにリプレースを検討しているはずですから、課題はすぐに定義できるでしょう。
しかし、長所の洗い出しには時間がかかる可能性があります。先ほどもお話ししたように、無意識に使っている機能が実は最大の長所である可能性もあるからです。
◆現行システムの長所となる機能の例
・多くの商品を短時間で登録できる(商品登録機能)
・商品詳細画面の画像表示が見やすい(商品画面機能)
・ブログ運用がしやすく効果が高い(ブログ機能)
・分析とレポーティングが簡単にできる(分析機能/レポート機能)
特に、商品登録はECで頻繁に使用する機能の一つですから、商品登録関連の機能についても慎重に定義する必要があります。万一、現行システムで一括登録できていたものがリプレース後にできなくなってしまったとしたら、業務効率が大幅に低下するだけでなく、作業担当者の心理的負担も増すことは容易に想像できますね。
このように、今は当たり前に行っている業務に支障が出てしまう可能性もあるので、長所の洗い出しを行う際は、「当たり前にできていること」を漏れなく抽出するようにしましょう。
手順② 課題の解決と長所の踏襲が可能なECプラットフォームの選定
システムリプレースでは、業界のトレンドや業務を効率化するための機能などにより現行システムの問題を解決し、事業を活性化して利益向上につながるようなプラットフォームを選定しましょう。
◆現行ECプラットフォームにおける課題の例
・POSシステムと自動連携できない
・WordPressと自動連携できない
・店舗や在庫システムと自動連携できない
・楽天市場やAmazonなどのECモール店舗の在庫を連携できない
・システムが老朽化してセキュリティ対策が後手に回っている
システムリプレースでは、新しいプラットフォームにおける柔軟性と拡張性、セキュリティ効果などへの期待が高くなります。
パッケージやスクラッチでプラットフォームを構築する場合は、システムの柔軟性、拡張性、自由度は高いのですが、保守運用でセキュリティなどの最新状態を維持し続けることが困難で、脆弱性が生まれやすくなります。
その点、クラウド型のECプラットフォームサービスでは、必要な更新は自動適用されるので、常に最新のセキュリティ環境でシステムを利用することができます。
現行システムの課題と長所を明確にして、自社に最適なプラットフォームを選定するようにしましょう。
手順③ 新しいECプラットフォームの構築
開発工数は、システム規模によって異なります。
◆開発工数の目安(筆者の経験に基づく)
開発期間 | 開発費用 | |
ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー) | 1~3か月 | 数十万~数百万円 |
オープンソース、パッケージ、カスタマイズ可能なクラウド | 半年~1年 | 数百万~数千万円 |
フルスクラッチ | 1年以上 | 数千万~数億円 |
出典:筆者の経験に基づき独自に作成
「makeshop」や「Eストアーショップサーブ」などのASPサービスの場合には、短期間でECサイトを開設できます。ほとんどのサービスが、カスタマイズやシステム連携等には対応しておらず、基本的なECサイトの設定とWebページの作成のみの提供となります。
オープンソースやパッケージ、カスタマイズ可能なクラウドサービスなどの場合には、カスタマイズ規模にもよりますが、半年から1年の開発期間が必要になります。カスタマイズ規模が大きかったり、複数システムと連携が必要だったり、API連携ができない場合はさらに時間と費用が増加します。
ゼロからシステム開発を行うフルスクラッチは時間も費用も莫大にかかるため、例えばZOZOTOWNやビックカメラなどのように、自社開発が可能で十分な予算を確保できる大規模事業者が採用するシステム構築方法です。
そのため中規模以下の事業者にとっては、ASPサービスかパッケージまたはカスタマイズ可能なクラウドサービスが現実的な選択肢となるでしょう。
手順④ 受け入れテストの実施
プラットフォームが構築できたら、実際にシステムを使用してEC業務の一連のフローを実行していきます。
ユーザー機能のテストでは、ユーザーになったつもりで、商品検索から注文完了までの一連の手続きを実行し、システム機能の観点ではなくユーザビリティの観点でECサイトの導線や操作性、見栄えなどを念入りに確認していきます。ユーザー機能のテストは、必ずスマートフォンとPCの両画面で実施するようにしましょう。
また、繁忙期やイベントなどでアクセスが集中する可能性がある場合には、負荷テストも行うようにしましょう。
手順⑤ ECプラットフォームの切り替え/リリース
新しいECサイトのリリース直後に障害が起こってECサイトが利用できなくなってしまうという事態を回避するために、リリース後に新システムで問題が生じた際は、現行システムに速やかに切り戻せるように準備しておきましょう。
家具・インテリア販売大手の「ニトリ」では、2015年に行ったECサイトリニューアルで、新サイトのリリース直後に不具合が発生し、復旧するまでの6日もの間ECサイトは閉鎖せざるを得ませんでした。この間、ECサイトを訪れたユーザーに対して同社では「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」などのECモール店舗に誘導することで、売上ゼロは何とか回避することができました。
参考:ITmedia NEWS「ニトリ通販サイト、リニューアルで不具合 5日経っても再開できず」(2015年6月22日掲載)
システムリプレースでは切り替え時、切り替え直後のトラブルも想定したうえで、あらかじめ切り替え/切り戻しの手順を作成しておくようにしましょう。
また、ECサイトのリプレースでは、ユーザー端末の自動ログイン設定が解除されてしまう点にも注意が必要です。リプレース後は、速やかにポイント付与やクーポン配布などのキャンペーンを展開して、ユーザーに新しいECサイトへのログインを促しましょう。
ECプラットフォームリプレースにおける3つの留意点
最後に、ECプラットフォームのリプレースにおける主な留意点を3つ紹介します。
留意点① 開発を行う場合にはベンダーの「技術力」が重要になる
カスタマイズやフルスクラッチなどの場合は開発費用も大きくなるため、複数のベンダーからパートナーとなる企業を選定することになります。ベンダー選定では、ECの専門知識と導入実績に基づいた「技術力」を有しているかを見極めることが大切です。
大規模なコンペのプレゼンでは、ベンダー各社が自社の強みを生かした提案を行います。「ビジョン」や「顧客視点」といったトレンドのパワーワードを並べた提案も受けると思いますが、システム開発で最も重視すべきポイントは「技術力」です。
そのため、「プレゼンのスマートさ」や「資料の出来栄え」などの印象だけでベンダーを選ぶことのないように、「技術力」と「提案の実現性」についても判断できるだけの指標をあらかじめ検討しておくようにしましょう。
例えば、コンペ前には以下のような質問を用意しておくとよいでしょう。
◆技術力を問う質問例
・類似事例ではどのような点で苦労しましたか?
・今回のシステム開発で、最も難しいと思われるプロセスは何ですか?
・システム開発の品質を高めるために、行っている工夫や取り組みを教えてください
・開発メンバーは外注ではなく、全員が自社のスタッフですか?
上例の質問は、スキルと実績のあるベンダーにとっては即答できるものばかりです。このような質問を通じて、ベンダーの技術力と提案の実現性についても正しく評価するようにしましょう。
留意点② 開発をベンダー任せにしない
たとえ小中規模のシステム開発だったとしても、必ず社内で専任の担当者をアサインし、「ベンダーと一緒に開発する」という意識を持つようにしましょう。お金を払っているからといってベンダーに丸投げでは、システム開発を成功させることはできません。
また、ベンダーに任せていたものの、リリース直前に仕様変更が必要なことが判明したりすると、手戻りが発生し、いつまでもリリースできない、ということにもなりかねません。開発中も主体的に情報と意識の共有に努めてリスクヘッジできる体制を構築するようにしましょう。
留意点③ リプレース後に売上が一気に落ちる可能性を考慮する
ECサイトをリプレースした途端に売上が一気に下がった、というケースもあります。筆者が知っているケースでは、SEOが失敗要因でした。
多くのECサイトではすでにSEO対策が組み込まれており、例えば以下のような効果を得ている可能性があります。
◆現行ECサイトにおけるSEO効果(例)
・カテゴリキーワード検索で上位表示されるWebページがある
しかし、新しいECサイトをリプレースする際はドメインも新しくなるため、旧サイトに新サイトへのリダイレクト処理の設定をしていなかったり、キーワード検索で上位に表示されていたWebページを削除したりしてしまうと、SEO効果で獲得していたコンバージョンを失ってしまう可能性があります。
繰り返しとなりますが、システムリプレースは、現状システムの課題と長所を十分に洗い出していないと、大失敗に終わる可能性があるということを覚えておきましょう。
まとめ
ECプラットフォームのリプレースは労力と費用がかかりますが、カスタマイズやシステム連携にも柔軟に対応できるクラウド型のECプラットフォームサービスを選定すると、機能追加やバージョンアップなどはサービス側が自動で行ってくれるため、以降のリプレースや保守・運用にかかるコストを抑えることができます。
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公式ページ:「ebisumart│既存ECサイトのリニューアル・リプレース」