国内の靴市場は、コロナ禍による落ち込みから徐々に回復しているものの、依然として横ばい傾向が続いています。さらに少子化により購買は減少し続けると予想されており、各ブランドは限られた市場での競争を余儀なくされるでしょう。
靴ブランドが差別化を図るためにはECの成功が不可欠です。ECサイトでも実店舗と同レベルの優れた購入体験を提供してブランドに対する顧客の信頼と満足度を高めることができれば、購入率とリピート率は向上します。
靴のECサイトの構築/運用で押さえておくべきポイントは次の5つです。
◆靴のECサイトの構築/運用時の5つのポイント
② 靴の魅力を動画で伝える
③ ユーザーの声や写真を利用して信頼を獲得する
④ 購入商品の返品/交換を前提としたUX設計
⑤ 商品の検索性を高める
これら5つのポイントを押さえてECサイトを構築/運用することで購入前後の顧客体験の質が高まり、売上とリピーターの増加やブランドの信頼性向上につながります。
この記事では、株式会社インターファクトリーでマーケティングを担当する筆者が、事例を示しながら、靴ECサイトの構築/運用における5つのポイントを紹介します。
靴のECサイトの構築/運用時の5つのポイント
国内の靴販売業界においてもECは新たな収益を生み出す重要なチャネルとなっています。靴のECサイトでは、靴の「サイズ感」や「履き心地」などがイメージしづらいため、実店舗での体験価値をECサイトでどこまで再現できるかが、ECの成功の鍵となります。
今回は大手靴ブランドのECサイトを参考にしながら、靴のECサイトの構築/運用の5つのポイントを紹介します。
ポイント① 靴の「サイズ選びの不安」を解消する工夫を取り入れる
靴をECサイトで購入するのをためらう理由の多くは、「自分の足に合うか分からない」というサイズとフィット感への不安です。そうした不安を取り除くためには、ユーザーが「自分の足」を数値で理解できるような情報の設定が重要になります。
adidas(アディダス)のECサイトでは、商品ページでサイズ選びを支援するバーチャル試着機能を提供しています。性別、足の形、持っている靴のブランドやサイズなどの情報を入力すると、最適なサイズを提案してくれます。
◆adidas(アディダス)のバーチャル試着機能
引用(画像):「adidas」公式オンラインショップ
機能の実装にはコストがかかるため予算が取れない場合には、代替策として、以下のような「サイズ感を正確に伝えるための詳細情報を掲載する」ことでもある程度の効果が見込めます。
◆サイズ感を正確に伝えるための詳細情報の例
・インチ表記にはセンチに換算したサイズも併記する
・「ナイキ エアフォースワンの27.5cmと同等のサイズ感」など他社のモデルを含めた「定番商品」との比較情報を掲載する
・革靴など特にサイズ選びが難しい商品には詳細説明ページを用意するなどして、より多くの情報を提供する
商品に関する具体的な情報提供は、ユーザーの購入前の不安の解消だけでなく、購入後の返品/交換コストの削減にも寄与します。靴のECでは特に、商品情報の「正確さ」と「丁寧な伝え方」に対する評価が購入率に直結します。
購入時の納得感が高いと商品到着後にトラブルが起こりにくくなり、満足する靴を購入できたユーザーが「ここで買えば間違いない」という確信を得ることで、リピート率も向上します。
ポイント② 靴の魅力を動画で伝える
写真だけでは「靴を履いたときの動き」や「素材の質感」が伝わらないため、多くの靴ブランドでは、写真だけでは分からない質感や軽さ、歩行時のフィット感などを、動画でさまざまな角度から確認できるようにしています。
Nike(ナイキ)のECサイトでは、商品の写真の横にモデルが実際に靴を着用している動画も掲載しています。動画を見ることで、ソールの反発性や革の質感などもイメージしやすくなります。
◆Nike(ナイキ)の商品紹介動画
引用(動画):「Nike(ナイキ)」公式オンラインストア
動画では「履いたときの動き」をイメージさせることができるため、特にランニングシューズなどでは動画の有無で商品の印象が大きく変わります。
ポイント③ ユーザーの声や写真を利用して信頼を獲得する
ブランドが発信する情報に加えて、実際に購入したユーザーの声や写真があることで、購入の意思決定を後押しできます。サイズ感や履き心地などは個人差も大きいため、リアルなユーザーの声はとても参考になります。
例えば、REGAL(リーガル)のECサイトのユーザーレビューでは、コメントだけでなく「品質」「履き心地」「サイズ感」などの詳細な項目を評価できます。総体的な評価を一目で分かる星マークで示したうえで、サイズや足幅・甲の高さなどの具体的な情報が添えられた投稿を掲載することで、検討中のユーザーは「サイズ選びの指標」として参考にすることができます。
◆REGAL(リーガル)のユーザーレビュー欄
引用(画像):「REGAL(リーガル)」公式オンラインショップ
商品の説明だけでなく、「自分と似た体型・足の形の人がどう感じたか」という情報を提供することで購入時の不安を取り除くことができます。
また、Nike(ナイキ)の公式サイトでは、Instagram連携によるスタイリング投稿を商品ページ内に組み込んでおり、ユーザーが「@Nike」をメンションして写真を投稿すると、ブランドが審査を行ったうえで、商品ページにコーディネート写真として掲載されます。
◆Nike(ナイキ)のコーディネートのユーザー投稿
引用(画像):「Nike(ナイキ)」公式オンラインストア
この機能で特に興味深いのが、ECサイトから写真を直接アップロードするための機能を提供している点です。SNSからの流入を取り込んで、「自分の写真がブランドサイトに掲載されるかもしれない」というユーザーの期待感を高めて参加意欲を促進するための工夫の1つでしょう。
こうしたUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)は、単なる「口コミ」にとどまらず、リアルな使用感・サイズ感を伝える信頼性の高い情報資産であり、購入率の向上に大きく寄与します。
ポイント④ 購入商品の返品/交換を前提としたUX設計
詳細な商品情報を掲載することが返品率の低下につながるということはすでに解説しましたが、サイズが少しでも合わないと、靴擦れなどのけがや痛みという不快感を引き起こす靴は、購入前の工夫を徹底していても、返品/交換が発生しやすい商材です。
そのため、靴のECでは「返品ゼロ」を目指すのではなく、「返品を前提とした満足度の設計」こそがUX(ユーザー体験)設計の本質となります。
商品の返品/交換ポリシーは、一般的なECサイトでは返品/交換の案内ページを用意してヘッダーやフッターのリンクで遷移させるケースが多いのですが、靴のECサイトではユーザーの目につきやすい場所に設置するようにしましょう。
PUMA(プーマ)のECサイトでは、商品ページの目が行きやすいカートの近くに返品/交換についての情報を掲載されています。
◆PUMA(プーマ)の商品ページに設置されている返品/交換ポリシー
引用(画像):「PUMA(プーマ)」公式オンラインストア
商品の返品/交換ポリシーには以下のような情報を掲載します。
◆返品/交換ポリシーに掲載する情報(例)
・未使用品に限る(試着のための着用はOK)
・カラー/サイズの交換は1回まで可能
・返送料は無料
特に、上記の「返送料無料」のサービスは、多くの靴ブランドが採用しています。
返品/交換に関する基本事項を購入前にさっと確認できるようにしておくことで、「もしサイズが合わなくても返品/交換してもらえる」ことがユーザーに伝わり、購入時の不安を軽減できます。
返品率を下げることももちろん重要ですが、それ以上に靴のECサイトでは、返品/交換が必要になったユーザーに利便性を提供してブランドに対する信頼を高めることが、次回購入のきっかけを生み出します。返品/交換を単なる損失と捉えるのではなく、「ブランドへの信頼を育てる機会」と捉えてサービスを設計することが、安定したEC運営の鍵となります。
ポイント⑤ 商品の検索性を高める
靴のECサイトでは、商品ラインナップの豊富さに加え、欲しい靴をいかに早く見つけられるかも購買体験の満足度を左右するため、商品の絞り込みや検索機能は、ECサイトの接客力の要とも言えます。
Mode et Jacomo × ing(モードエジャコモ×イング)のECサイトでは、サイドメニューに詳細な絞り込み条件が用意されています。
◆Mode et Jacomo × ing(モードエジャコモ×イング)の検索メニュー
ユーザーは、「靴の形」「ヒールの高さ」「つま先の形」「甲の高さ」「足幅」「素材」「カラー」など、靴選びの基準となる項目を細かく指定して、自分の足や好みに合った商品を絞り込むことができます。
こうした商品検索機能は、特に靴のようにサイズ・形・用途のバリエーションが多い商材では購入率を高める重要な要素になります。ユーザーは自分が望む条件を指定することで、大量の商品をむやみに確認することなく、探している靴を絞り込めるため、閲覧疲れによる離脱も防ぐことができます。
また、複数の条件を指定して検索できる機能は、在庫管理や販売分析にも役立ちます。「足幅の広いモデルがよく検索されている」「ブラックカラーが特定のサイズで不足している」などが分かれば販売戦略を立てやすくなります。
靴のECサイトでは、商品の検索性を向上させることが、顧客理解を深め、顧客体験の質を高めることにつながります。また、ユーザーが迷わず操作できるシンプルなUIと検索結果の表示スピードに配慮することも大切です。
実店舗とECサイトを連携させることが重要!
実店舗を展開している事業者がECサイトを構築する際は、オンライン(ECサイト)とオフライン(実店舗)のどちらか一方だけで完結させるのではなく、連携させることで価値を高め合うことができます。
これは、販売チャネルを横断的に統合するオムニチャネル戦略やオンラインとオフラインの体験を融合させるOMO(Online Merges with Offline)の取り組みとして注目されている考え方です。
特に競争が激化する靴市場では、実店舗とECサイトの連携は、競合との差別化を図るためにも重要な施策となります。
実店舗には実際に試着して商品を購入できるという体験価値があり、ECサイトにはアクセスの利便性の高さと購入履歴などの情報活用が可能なため継続購買しやすいという強みがあります。両者をつないでユーザーを循環させることで、ブランド全体の売上の最大化を目指すことができます。
◆実店舗とECサイトを連携させるための3つの代表的な仕組み
・BORIS(ボリス、Buy Online, Return In Store)
・試着データの連携
BOPIS(ボピス)は、ECサイトで購入した商品を実店舗で受け取れる仕組みです。配送コストを抑えつつ、在庫を効率的に回転させることができます。顧客にとっても「配送されるのを待たずに商品が手に入る」というメリットがあり、受け取りのために来店した際の「ついで購入」などによる追加売上も期待できます。
例えばABCマートでは、ECサイトと実店舗の在庫をリアルタイムで連携し、ECサイトで注文した商品の実店舗での受け取りを実現しています。受け取り時に商品の交換も可能にし、よりユーザーにとって利便性の高いサービスを提供しています。
BORIS(ボリス)は、ECサイトで購入した商品を実店舗で返品/交換できる仕組みです。靴はサイズやフィット感の個人差が大きく、返品が発生しやすい商材ですが、実店舗でも対応してもらえることで心理的なハードルが下がり、「とりあえず買ってみよう!」という気持ちを後押しします。また、実店舗にとって返品対応は、EC顧客との接点を作る絶好の機会となります。
BOPIS、BORISについては関連記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧ください。
関連記事:
・店舗受取サービス「BOPIS(ボピス)」導入の5つのメリット
・EC商品を店頭で返品・交換できる「BORIS(ボリス)」を徹底解説
また近年、実店舗で足型やサイズ情報を計測し、ECサイトで参照できるようにする仕組みの実装も普及しており、ECサイトでは、実店舗での計測データに基づいた最適なサイズの自動提案を受けることができます。これにより、初回購入は実店舗、2回目以降の購入はECサイトで、という購買サイクルが生まれやすくなります。
例えばASICS(アシックス)では、実店舗で行える3D足型計測の情報に基づいてECサイトで最適なモデルを提案する「ASICS SHOE FITTER」というサービスを提供し、実店舗での試着体験をECサイトでのリピート購入につなげています。
参考:株式会社アシックス プレスリリース「オンラインストアでもパーソナライズされた購買体験を提供 足形にあったランニングシューズ選びをサポートするデジタルサービス『ASICS SHOE FITTER』をリリース」(2022年10月11日発表)
ECサイトの運営では、ECサイトを実店舗の競合として捉えるのではなく、ブランドの販売チャネルの1つとして捉えることが重要です。顧客がどこで商品を購入しても一貫したブランド体験を提供できるようにすることで、LTV(顧客生涯価値)を高めて長期的な収益への転換を目指せるようになります。
オムニチャネルの考え方については関連記事で詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
ECサイトの4つの構築方法
ECサイトを開設する際には、構築方法の選定が重要になります。費用、体制、ECサイトの規模や事業の拡張計画などにより選択すべき方法は異なります。
ここでは、代表的な4つの構築方法とその特徴を紹介します。
方法① ASPサービスを利用する
ASP(Application Service Provider)サービスを利用して、低コストかつ短期間でECサイトを開設する方法です。代表的なサービスとして「Shopify」「BASE」「STORES」などがあります。
ほとんどのサービスが初期費用なしで月額数千〜数万円程度で利用運用できるため、1日の注文数が少ない個人経営の靴店のECサイトや、小規模ブランドのECサイトをスモールスタートで始める場合などに適しています。
標準機能で提供されるテンプレートを編集してデザインの軽微な調整などはできますが、独自機能の追加やカスタマイズの自由度は低いため、あくまで標準機能の範囲内での運用が前提となります。
本記事で紹介した機能を実装する場合は高度なカスタマイズが必要なため、方法①以外の方法を検討しましょう。
方法② パッケージをカスタマイズして構築する
パッケージをカスタマイズしてECサイトを構築する方法です。パッケージにはECで必要な機能が標準搭載されているため、比較的短期間で安定したECサイトを構築できます。テンプレートや管理画面、受注管理・在庫管理・顧客管理など、実店舗との連携を前提とした業務機能が充実しています。
パッケージには提供時点の最新仕様が搭載されていますが、導入後の陳腐化は避けられないため、導入時にバージョンアップ対応や保守契約についても明確にしておくことが重要です。
この方法は注文数が1日100件程度の中〜大規模のECサイト向けで、初期費用はカスタマイズの有無や規模により数百万〜数千万円に達する場合もあります。独自機能を実装しつつ安定運用を行いたいEC事業者に適しています。
方法③ SaaSをカスタマイズして利用する
SaaSのECプラットフォームを利用し、自社の要件に合わせて柔軟にカスタマイズしたECサイトを構築する方式です。
この方法も、方法②のパッケージと同じように、中〜大規模のECサイト向けで、初期費用はカスタマイズの有無や規模により数百万〜数千万円に達する場合もあります。
この方法は、オムニチャネル施策やOMO戦略との相性が非常に良いのも特徴です。実店舗とのデータ統合やBOPIS(店舗受取)などの仕組みを実現しやすく、ブランド全体の販売効率を高められます。
インターファクトリーの「EBISUMART(エビスマート)」は、アパレルや靴のEC業界での導入実績も豊富な国内産のSaaS型ECプラットフォームです。
高いカスタマイズ性を備え、在庫・会員・受注システムなどとのAPI連携やBOPIS、会員統合、オムニチャネル施策などの実装も柔軟に対応できるため、中長期的なEC運営基盤として最適です。サービスの詳細は下記の公式サイトをご覧ください。
方法④ フルスクラッチで構築する
ゼロから独自のシステムを構築する方法です。デザイン・機能ともに完全に自由に設計できますが、初期費用は数千万〜数億円規模となり、構築期間も1年以上かかるケースがほとんどです。
サーバのセキュリティ対策や保守運用もすべて自社で行う必要があり、専門の運用体制を整備できる企業でなければ構築後のリスクが高くなります。
とはいえ、グローバル展開や独自の会員データ基盤を活用したサービス設計など、長期的なブランド戦略を推進したい企業にとっては有力な選択肢となります。開発をベンダーに依頼する場合は、必ずECサイト構築の実績と専門知識を持つベンダーを選ぶようにしましょう。
専用ツールを活用して購入後の体験を最適化
靴のECサイトでは「サイズ感への不安」と「返品/交換対応」は避けて通れない課題です。実店舗であれば試着することができますが、ECサイトではそれができないため、多くの靴EC事業者にとってこの2つの課題は悩みの種となっています。
こうした課題はサイズなどの商品情報を分かりやすく表示し、商品の返品/交換ポリシーを明示することである程度は対処できますが、専用のツールを活用すると、購入後の体験を飛躍的に高めることも可能になります。
例えば、購入体験プラットフォーム「Recustomer(リカスタマー)」には、ECサイトでの購入後の顧客体験を設計するプラットフォームとして、靴のECサイトとの相性が非常に良い3つのサービスがあります。
◆Recustomerの3つのサービス
・Recustomer 返品/キャンセル
返品/交換/キャンセル対応を自動化し、「業務コストの削減」と「顧客体験の向上」を実現します。
・Recustomer お試し購入
購入時にお試し購入(0円)を注文し、自宅で商品を試着してから購入するか/返送するかを選択できるサービスです。
・Recustomer 配送追跡
購入者が商品の配送状況をいつでも確認できるようになります。商品追跡ページにSNSへの導線や商品レコメンドを表示させることも可能です。
これらの機能は大手靴ブランドでも実装されており、返品/交換をゼロにすることはできなくても、専用ツールを活用することで顧客離れの危機をブランドロイヤリティを高める機会に変えることが可能になります。
まとめ
ECサイトに商品画像を並べただけで商品が売れることはありません。正確で魅力のある商品情報を発信することはもちろんですが、特に靴などのように購入時にイメージしづらいフィット感などの不安要素の大きいECサイトでは、より細やかなアフターサービスを提供することで、ブランドへの信頼度や購入率、リピート率が向上します。顧客がECと店舗のどちらでも、一貫した快適な体験を得られるようにすることが大切です。
ECサイトのUIや検索性を高めて購入前の商品選択でも快適な体験を提供するとともに、BOPIS/BORISやデータを駆使して購入後も優れたサービス体験を提供していく必要があります。そのためには、柔軟にカスタマイズができる拡張性の高いECプラットフォームが不可欠です。
インターファクトリーの「EBISUMART(エビスマート)」はカスタマイズ性と拡張性に優れたECプラットフォームで、在庫連携や会員統合、オムニチャネルなどの施策にも包括的に対応できます。
アパレル/靴業界の導入実績も豊富なプラットフォームですので、ECサイトの新規構築やリニューアルのご検討の際は、ぜひ下記の公式サイトをご覧のうえ、お気軽にお問い合わせください。
























