インボイス制度でネットショップ事業者・経営者が知っておくべきこととは?


2023年10月1日から始まったインボイス制度。インボイス制度とは、一言で言うなら消費税の新しい仕組みです。

「インボイス制度によって何が変わるの?」
「導入後どんな対応が必要?」
「どんなことに気を付けたらいい?」 

という疑問を持つ事業者も少なくないかもしれません。

インボイス制度により、するべき作業は増加しますが、適切な控除を受けるためにも、ルールや注意点、導入のポイントをしっかりと理解しておく必要があります。特例措置や支援制度もあるので、該当する場合はうまく活用することで負担を軽減できる可能性もあります。

本日は、インボイス制度の概要やネットショップ事業者の対応などについて解説します。

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※当記事では、インボイス制度についてなるべく分かりやすく解説するよう努めていますが、制度・スケジュールの変更や、制度に対する解釈のズレ、説明不足がないとは言い切れません。必ず、国税庁や各自治体が提供する情報を確認し、当記事は参考や目安としてご確認ください。
掲載している情報の正確性に関しては万全を期しておりますが、その内容について保証するものではありません

この記事で紹介している情報は全て、2023年12月時点での以下インボイス制度のホームページの情報に基づいています。

出典:国税庁「消費税の軽減税率制度・適格請求書等保存方式(インボイス制度)」、「特集 国税庁インボイス制度特設サイト

目次

① インボイス制度とは?
② インボイス制度がネットショップ運営者に与える影響
③ インボイス制度のルールや注意点
④ インボイス制度の特例措置・支援制度
⑤ インボイス制度とIT導入補助金

インボイス制度とは?

まずは、インボイス制度が導入された背景や目的、基本的な仕組みについて解説していきます。

インボイスが導入された背景・インボイスの目的

インボイス制度導入の目的は、主に消費税額と消費税率を正しく計算するためと、益税の解消の2点が挙げられます。

まず「消費税額と消費税率を正しく計算する」とは、背景として2019年10月の軽減税率導入により、消費税が8%と10%のものが混在するようになったことが挙げられます。税額や税率の計算が複雑になったため、ミスや不正を防ぐ目的で導入されました。

益税とは、免税事業者が消費者から受け取った消費税を国に納めず手元に残すことのできる制度で、合法です。しかし、消費者が負担している消費税が国に納められず、事業者の手元に残ることには懸念の声がありました。インボイス制度の施行によって課税事業者として登録することになれば、仕入税額控除ができない免税事業者との取引を避けることができ、益税の解消が見込めます。 

ただし、免税事業者にとってインボイス制度は、登録すると納税の負担が増えることや、登録しなければ取引を避けられてしまうリスクがあるため、賛否両論ある理由の一つとなっています。

インボイスはどのようなもの?

インボイス制度は、正式には「適格請求書等保存方式」のことで、複数税率の仕組みに対応する制度です。この制度により、消費税の仕入税額控除の適用条件が変更になります

仕入税額控除とは、仕入れの際に支払った消費税額を、売上で消費者から受け取った税額から差し引けるという仕組みです。インボイス制度によって取引先から適格請求書を発行してもらうことで、税額控除が適用になります。なお、適格請求書を発行できるのは、国税庁にインボイスの登録申請をしている事業者に限られます

インボイス制度は、すでに2023年10月から施行されていますが、これから登録する場合、登録申請書の提出日から15日後以降の希望日以降に登録が可能です。その日から、課税事業者となります。

課税事業者と免税事業者で何が違う?

インボイス制度の適用に際して、課税事業者と免税事業者の違いについて知っておくこともポイントです。課税事業者は消費税を国に納めている事業者のことであり、免税事業者は消費税を納めていない事業者のことを指します。

インボイスの適格請求書を発行できるのは課税事業者のみであるため、仕入れ先が課税事業者か免税事業者かにより、仕入れの際の消費税を控除できるかどうかが変わります。インボイス制度が施行される以前は、課税売上が1,000万円に満たない事業者は免税事業者とされていました。しかしインボイス制度の施行後は、登録した事業者すべてが課税事業者となります

参考:国税庁「令和5年度税制改正関係(インボイス関連)

インボイス制度がネットショップ運営者に与える影響

次に、インボイス制度によって何が変わり、ネットショップ運営者にはどのような影響があるのかについて見ていきましょう。

インボイス制度開始で何が変わる?

インボイス制度によって大きく変わる点は、

① 請求書等の項目追加と保存方式の変更
② インボイスを発行しないと仕入税額控除が受けられない
③ 電子帳簿保存法の改正で電子保存が必須になる

の3点です。それでは、一つずつ詳しく見ていきます。

変更点① 請求書等の項目追加と保存方式の変更

インボイス制度によって請求書等の書式が変更になり、追記しなければならない項目が増えました。必ずしも新たな請求書を用意する必要はありませんが、これまでの請求書に加えて、次の3点を追記する必要があります。

・適格請求書発行事業者登録番号
・適用税率
・税率ごとの消費税額

また、以前は請求書等の保存は任意でしたが、インボイス制度の導入により、「適格請求書等保存方式」が適用になり、資料の保存が必要となりました。今後はインボイスが適用されているものといないものとで分けて経理処理をする必要があるため、より作業が複雑になるでしょう。

変更点② インボイスを発行しないと仕入税額控除が受けられない

インボイス制度が施行されることにより、インボイス(適格請求書)に記載された消費税額のみ控除できるようになりました。

免税事業者の仕入先との取引においては、インボイスが適用されないため、インボイス事業者となっていない事業者は、取引先の事業者に税額負担がかかってしまいます。そのため、契約を打ち切られたり税額分の金額を減らされたりという措置を受ける可能性も出てきます。

そもそも仕入税額控除とはどういったものでしょうか?

仕入税額控除とは、消費者に商品を売ったときに受け取った税額から、仕入れ時に売り手に支払っていた税額を差し引いた金額で納税できる制度です。そうすることによって、消費税の重複を防ぐ目的があります。

また、令和5年度の税制改正で「少額特例」が創設されました。一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置で、少額(税込10,000円未満)の課税仕入れについて、インボイスがなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます。2023年10月1日から2029年9月30日までの間に行う課税仕入れが適用対象となります。

参考:国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要

変更点③ 電子帳簿保存法の改正で電子保存が必須になる

現在は紙でのインボイス(適格請求書)の保存が認められていますが、令和5年度税制改正の影響で電子帳簿保存法が一部改正され、電子データで受け取ったインボイスの電子保存が義務付けられることになりました。2024年1月1日からは対応が必須となり、電子データがなければ仕入税額控除を受けることができなくなるため、注意が必要です。

事業者が行うべき対応

インボイス発行者側の対応

インボイス発行者(売り手)は適格請求書発行事業者の登録を行う必要があります。登録手続きの方法を以下に記載します。

① 申告書の作成
書面またはe-Taxを使って申請書を作成します。書面の場合は申請書を国税庁のホームページよりダウンロードできます。

② 税務署へ届出
申告書を作成したら、管轄地域の税務署へ届出を行います。書面を郵送、またはe-Taxにて電子申請を行います。そして審査を経て承認されると、登録番号が交付されます。書面で申請した場合は書面で、電子申請の場合はe-Tax内で通知されます。

③ 取引先への周知
取引先に対して、登録を行いインボイス事業者になったことを伝え、登録番号を通知します。その際、交付するインボイスの様式や交付方法も併せて伝える必要があります。

参考:国税庁e-Tax

インボイス受領者側の対応

インボイス受領者(買い手)は仕入税額控除を受けるため、受領したインボイスを適切に保管することが必要です。現在7年間の保管が義務付けられています。先述の通り、電子保存が今後必須となるので、早めに準備しておきましょう。

またインボイス制度は、課税事業者の急激な負担を軽減するため6年間の経過措置が設けられており、インボイスでない請求書も保管しておく必要があります。インボイスとそうでない請求書を分けて保管しておくのがおすすめです。

インボイス制度のルールや注意点

一つは取引先の見極めです。繰り返しになりますが、現在インボイスに登録している事業者とそうでない事業者が混在している状況にあります。仕入税額控除の適用のためには、インボイスを登録している適格請求書発行事業者と取引したいところです。これから取引を開始する取引先においてはそれが有効ですが、すでに契約を結んでいる取引先に対しては注意が必要です。

また、もう一つ注意すべきは下請法の違反です。下請法とは、買い手が売り手に対して不当な扱いをすることを禁止している法律です。適格請求書発行事業者でないことを理由に一方的に契約を打ち切ることや、報酬の減額を行うことがそれに当たります。

公正取引委員会および中小企業庁では、毎年調査を実施しており、違反が確認された場合には違反の取りやめと勧告が出されます。勧告が出された場合には、事業者名の公表や、最高50万円の罰金が課せられます。違反者だけでなく、企業が罰せられる場合もあります。

インボイス制度の特例措置・支援制度

インボイスを導入するにあたって、税負担や事務的な負担を軽減するため、さまざまな措置がとられています。

参考:財務省「インボイス制度、支援措置があるって本当!?

① 納税額を売上税額の2割に(小規模事業者向け)

小規模事業者向けの、売上税額の2割を納税額とすることができる特例です。

・対象:免税事業者からインボイス発行事業者になった方(2年前の課税売上が1,000万円以下等の要件を満たす方)
・対象期間:2023年10月1日~2026年9月30日を含む課税期間

② 補助金の上乗せ(小規模事業者向け)

免税事業者がインボイス発行事業者に登録することで、小規模事業者持続化補助金の補助上限額が50万円加算されます。通常枠の50万円ならば100万円に、特別枠の200万円ならば250万円となります。

・対象:小規模事業者
・補助上限:
50~200万円(補助率2/3以内)※一部の類型は3/4以内
100~250万円(インボイス発行事業者の登録で50万円加算)
・補助対象:税理士相談費用、機械装置導入、広報費、展示会出展費、開発費、委託費等

③ 会計ソフトに対する補助金(中小事業者向け)

IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の補助下限額が撤廃され、会計ソフトなど安価なITツールでも補助金の対象になりました。

・対象:中小企業・小規模事業者等
・補助額:
ITツール(会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト)
50万円まで(補助率3/4以内)※下限額を撤廃
50~350万円(補助率2/3以内)
PC・タブレット等10万円まで(補助率1/2以内)
レジ・券売機等20万円まで(補助率1/2以内)
・補助対象:ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア購入費等

④ 少額取引はインボイスが不要に(中小事業者向け)

1万円未満であれば、仕入れ時にインボイスが不要となり、帳簿の保存のみで仕入税額控除が適用可能となります。

・対象:2年前(基準期間)の課税売上が1億円以下または1年前の上半期(個人は1~6月)の課税売上が5,000万円以下
・対象期間:2023年10月1日~2029年9月30日

⑤ 少額の値引き・返品は対応不要(すべての方が対象)

通常インボイス事業者に登録すると、返品や値引きなどがあった場合「返還インボイス」を発行する必要がありますが、1万円未満の取引においてはそれが免除になります。

・対象:すべての方
・対象期間:適用期限なし

インボイス制度とIT導入補助金

インボイス制度に備え、社内システムや新しいITツールの導入を検討されている方も多いのではないでしょうか。インボイス制度への対応目的としてITツールを導入する場合、IT導入補助金の申請対象となります。

IT導入補助金とは

IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者の労働生産性向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツールの導入を支援するための補助金です。IT導入補助金は、補助額、補助率、対象経費によりいくつかの枠・類型に分かれており、「通常枠(A・B類型)」「セキュリティ対策推進枠」「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」の3種類があります。

申請する枠によって、応募条件や受け取ることができる補助金の額が異なります。ネットショップで使える補助金については以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご参照ください。

関連記事:ネットショップの開業やリニューアルで申請できる補助金とは

インボイスで使えるIT導入補助金

「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」は、インボイス制度の支援のために新たに設けられた枠です。ITツール導入に特化しており、補助対象は「会計」「受発注」「決済」「EC」のうちいずれかの機能を備えたソフトウェアとなります。

参考:IT導入補助金2023「IT導入補助金2023 公募要領 通常枠(A・B類型)

まとめ

2023年10月にインボイス制度が施行され、請求書の記載事項や保存方式が複雑化し、新たな体制を検討している企業も多いと思います。仕入税額控除の適用条件に関わるため、インボイス制度への対応は取引先との信頼関係にもつながります。

まずはインボイス制度についての基本知識を得たうえで、ネットショップ運営者に与える次の影響を理解しておきましょう。

・請求書等の項目追加と保存方式の変更
・インボイスを発行しないと仕入税額控除が受けられないこと
・電子帳簿保存法の改正で電子保存が必須になること

そして、ルールや注意点を踏まえて、本記事でご紹介した特例措置や支援制度、IT補助金について検討し、うまく活用したいものです。

なお、インボイス制度は見直し案なども検討されているので、国税庁のホームページで常に最新情報を確認するようにしましょう。

※当記事では、インボイス制度についてなるべく分かりやすく解説するよう努めていますが、制度・スケジュールの変更や、制度に対する解釈のズレ、説明不足がないとは言い切れません。必ず、国税庁や各自治体が提供する情報を確認し、当記事は参考や目安としてご確認ください。

掲載している情報の正確性に関しては万全を期しておりますが、その内容について保証するものではありません


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首藤 沙央里
2019年9月、株式会社インターファクトリーに入社。 マーケティングチームにてオウンドメディア運用を担当し、年間40本以上の記事を掲載。 社内広報、採用広報に加え、EC業界やクラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」についての情報発信も行う。