「ラストワンマイル」問題を軽減する5つの取り組みとは?


ラストワンマイルとは消費者が商品を手にするまでの最後の配送区間、つまり、「配送の最終拠点から消費者の自宅までの区間」を指し、ラストワンマイル問題は、この区間で生じるさまざまな問題を指します

EC市場の拡大に伴い小口配送の増加と多頻度化、配送ニーズの多様化が進んでいるのに対して、労働力不足や燃料費などの車両コストの上昇、低賃金での過酷な労働環境などの課題が深刻化しています。

これらは物流業界全体の喫緊の課題であり、Amazonや楽天などの大手企業も、企業の枠を超えた協業やデジタル技術の活用などを通じた解決のための取り組みに注力しています。

ラストワンマイル問題を軽減するための5つの取り組み

① デリバリーパートナーの募集 【事例:Amazon】
② 「置き配」サービスの促進 【事例:Amazon】
③ ドローン配送 【事例:千葉市】
④ ロボット配送 【事例:楽天市場】
⑤ 店頭受取サービスの提供(オムニチャネル戦略)

ラストワンマイル問題を解決するための万能な一手は存在しないため、複数の取り組みを同時に進めることで効率的で持続可能な配送ネットワークとサービスを再構築していくことが重要です。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、企業や自治体などがラストワンマイル問題を軽減するために進めている5つの取り組みを紹介します。

ラストワンマイルとは「配送」のこと

物流では、大量の荷物を物流拠点から別の物流拠点に移動させることを「輸送」、それらの荷物を最終的な届け先へと運ぶことを「配送」と呼びます(下図参照)。

物流における輸送と配送

出典(画像):筆者作成

物流における「配送」の区間は「ラストワンマイル」と呼ばれており、現在この区間で、さまざまな課題が生じています。「輸送」区間にも課題はありますが、トラックで大量の荷物を一気に運ぶことができるため、「配送」区間に比べると、効率的かつ一定コストで荷物を移動させることができます。ところが、「配送」区間では「お客様」に荷物を届けるため、効率性が低く、輸送コストが上昇しやすくなります

また、「配送」区間は企業やブランドの顧客満足度に直結する重要な顧客接点であることが、さらに問題を複雑にしています。ラストワンマイル(配送区間)問題の解消は、企業やブランドの信頼とロイヤリティを高める上でも重要な課題なのです。

ラストワンマイルの3つの課題

現在、物流業界はラストワンマイルにおいて3つの課題に直面しています。

引用(図表):本項で掲載しているすべての図表は、国土交通省「自動物流道路に関する検討会 第1回」(2024年2月21日開催)の配布資料「検討の背景②物流を取り巻く現状と課題」から引用

課題① EC市場の拡大に伴う荷物の増加

近年のEC市場の拡大に伴い、宅配貨物の取扱量が急増しています。

◆EC市場規模の推移(左)と宅配貨物数の推移(右)

EC市場規模と宅配貨物量の推移

EC市場は年々拡大し続けており、2022年のEC化率は9.13%にまでに成長しました。EC化の伸長に比例して宅配便の取扱実績も激増しており2022年度には約50億個に達しています(右図)。

さらに、再配達率が11%で横ばいの状態が続いていることも、宅配業者の大きな負担となっています。ラストワンマイルの効率化と労働力の確保を実現するためには、技術革新と業務の最適化が喫緊の課題となり、物流業界には持続可能な配送ネットワークの再構築が求められています。

課題② 宅配事業における低賃金と過酷な労働環境

宅配業者の労働力不足の問題は深刻さを増していますが、その要因の一つとして、トラックドライバーの低所得と過酷な労働環境が指摘されています

トラックドライバーの労働時間と所得額推移

上図のとおり、トラックドライバーの年間労働時間は全産業と比べて約2割も長い(左図)のにもかかわらず、年間所得は約1割も低い(右図)という厳しい現実があり、こうした過酷な労働環境が、宅配ドライバー不足に拍車をかけています。

◆ドライバー数の推移予測および有効求人倍率の推移

また、現在のトラックドライバーの平均年齢は高く、未来の担い手は急速に減少することが予測されています(左図)。トラックドライバーの有効求人倍率の数値の高さ(右図)を見ても、物流業界がドライバーを確保できないでいることが分かります。

宅配業者がサービスを提供し続けるためには、賃金と労働環境の改善と、不足する労働力をカバーするためのIT活用が不可欠です。

課題③ 燃料価格や車両関連コストの高騰

燃料価格や車両関連コストの高騰も、物流業界の逆風となっています。

燃料価格(軽油・スタンド価格)の推移

上図を見ると、軽油のスタンド価格は、2020(R2)~2023(R4)年度で著しく高騰しており、物流コストを圧迫する要因となっています。

自動車関連経費用の動向

また、自動車関連の経費の2019年と2023年の7月時点の上昇率を見ても、タイヤが104%、バッテリーが111%、オイル交換が115%と、いずれも高騰しています。

これらのコスト高騰が大打撃となり、最悪の場合には現在の物流サービスを維持することすら困難な状態に陥る可能性もあります。

ラストワンマイル問題を軽減するための5つの取り組み

今回は、ラストワンマイル問題を軽減するための5つの取り組みについて、企業や自治体の取り組み事例とともに紹介します。

デリバリーパートナーの募集 【事例:Amazon】

Amazonでは、各エリアの中小企業に商品の配達を委託して報酬を支払うという、新しいラストワンマイルの配送モデル「Amazon Hubデリバリーパートナープログラム」を開始しています。雑貨店、写真館、レストランといった地域の中小企業が参加しており、各社は空き時間などを利用して1日約30~50個の配達を行っています。

2022年時点のプログラムの募集対象エリアは、東京、千葉、埼玉などの9つのエリアで、将来的には日本全国の中小企業が参加できるようエリアを拡大することを目指しています。

参考:ネットショップ担当者フォーラム「Amazonが地域の中小企業に商品配送を委託する『Amazon Hub デリバリーパートナープログラム』とは」(2022年12月20日掲載)

Amazonはラストワンマイルの労働力不足の問題を軽減でき、地域の中小企業は効率的に副収入を得ることができる、両者にとって有益なプログラムと言えるでしょう。

② 「置き配」利用の促進 【事例:Amazon】

Amazonは2024年8月に開催した「第10回 Amazon Academy」で日本へのさらなる投資計画として、ラストワンマイル配送とドライバーの働き方に関わる施策を拡大し、ラストワンマイル配送ネットワークの構築を強化するために、2024年は従来の投資額にさらに250億円以上を追加投資することを発表しました。

Amazonは、デリバリーステーションを新設したり、既存拠点を拡張したりすることで、配送ネットワークを全国に広げ、翌日配送の対応範囲を拡大して顧客の利便性を向上させるとともに、ドライバーの負担軽減を図っています。また、負荷の高い再配達を減らすために「置き配」サービスや「Amazonロッカー」の設置も進めています。

こうした取り組みによって、ドライバーや配送パートナーのウェルビーイングの向上と安全性の確保を最優先に掲げつつ、持続可能な配送ネットワークの確立を目指しています。

参考:Amazonニュース「第10回Amazon Academy内で日本への投資について発表。物流・配送ネットワークの構築にここ数年間で毎年、数千億円以上の投資を継続」(2024年8月8日掲載)

③ ドローン配送 【事例:千葉市】

2023年12月、千葉市は複数の企業、団体と協力し、都市部でのドローンを活用した宅配サービスの実証実験を実施しました。

実証実験では、手動操作でドローンを数百メートル飛ばしてマンション付近に設置したドローンポートに着地させ、医薬品を想定した荷物を地上配送ロボットに受け渡してた後、配送ロボットがマンションの個宅の玄関前まで配送するという、一連のプロセスの実証が行われました。

ドローンや自動走行ロボットの国家戦略特区に指定されている千葉市では、国土交通省の支援のもと2016年からドローン宅配の実証実験を行っており、10回目となった今回の実証実験で、ラストワンマイルの最後の課題をクリアできたことで、ドローン宅配の商用化の実現に一歩近づきました。千葉市は、引き続きドローン配送の社会実装を目指し、事業者の取り組みを支援していく方針を表明しています。

 

参考:物流ニュースLnews「千葉市/ドローン宅配構想の最終課題『ラストマイル配送』実証」(2023年12月20日掲載)

④ ロボット配送 【事例:楽天】

楽天は、4年間にわたる実証実験と期間限定サービスの提供を通してロボットデリバリーのノウハウを蓄積し、2023年に茨城県つくば市で、ロボット配送サービスを展開しました(現在はつくば市でのサービス提供は終了しています)。

◆楽天の配送ロボット

楽天の配送ロボット

引用(画像):EMIRA「改正道交法が物流のラストワンマイルを変える!楽天がロボット配送を手掛ける理由」(2023年10月23日掲載)

このサービスでは、駅周辺の飲食店や小売店から自宅近くまで、食料品などの配送が行われ、特に15分刻みで正確な配送時間を指定できる点や重い荷物を運んでもらえる利便性についてユーザーから高い評価を獲得しています。

つくば市のサービスでは、夜間や雨の日の配送など、日常的に利用されるサービスとして必要な信頼性を確保するために、海外での実績が豊富なCartken社(米国)のロボットが採用されましたが、楽天では、ロボットについてはエリアの特性に応じて最適なロボットを柔軟に選択していく方針を示しています。

楽天では、アプリのユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)の領域へのこだわりを徹底しており、専用アプリでも受け取り時の利便性を向上させるための工夫が施されています。

参考:EMIRA「改正道交法が物流のラストワンマイルを変える!楽天がロボット配送を手掛ける理由」(2023年10月23日掲載)

物流の人的課題を解決できるロボットデリバリーサービスは、楽天のノウハウの集大成としてさらなる技術革新とサービスの普及が期待されます。

「店頭受取」サービスの提供(オムニチャネル戦略)

多くの人が集まるショッピングモールや百貨店や、消費者が日常的に足を運ぶスーパーやドラッグストアなどで、店頭受取サービスやクリック&コレクトサービスを積極的に提供していくことで、ラストワンマイルの配送負荷を軽減することができます。

また、これらのサービスを利用することで、私たち消費者も積極的にラストワンマイル問題を解消するための取り組みに関与していくことが可能です。

まとめ

物流のラストワンマイル問題を解消するためには、荷物の増加、宅配ドライバーの不足、燃料価格と車両関連コストの高騰などの複数の課題に対する多角的かつ同時進行の取り組みが求められます

企業や自治体の取り組み事例は、いずれも配送の最適化と技術革新が鍵となっており、さまざまな取り組みを同時に進めながら、物流業界全体で持続可能な配送ネットワークを構築することが重要です。

ラストワンマイル問題を軽減するためには、ECプラットフォーム側での柔軟なデータ連携も不可欠になります。インターファクトリーのECプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」は、物流関連のさまざまなシステム連携の実績も豊富で、ビジネスニーズに応じた柔軟なカスタマイズも可能なサービスです。

ぜひ公式サイトで詳細をご覧の上、お気軽にご相談ください。

公式サイト:「ebisumart(エビスマート)


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。