就職や部署異動で新規事業のEC担当者となった皆さんの中には、「ECサイトの売上達成に向けてKPIを設定して!」と上司から指示されたものの、「KPIって何? どう設定するの?」と頭を抱えている方もいるのではないでしょうか?
そんなEC初心者の方も安心してください。ECサイトのKPIは決して難しいものではありません。ECサイトにおけるKPIの考え方は以下となります。ここでは目標を「ECサイトでの売上金額1,000万円(月間)を達成すること」とした場合を想定しています。
ECサイトの「売上」を構成する要素には次の3つがあります。
②CVR(Conversion Ratio[またはRate]:コンバージョンレシオ[またはレート])
③平均購入額(1ユーザーが1回の購入で支払う平均金額)
そのため、以下の式が成り立ちます(今回の例では、達成期間=月間となります)。
売上(目標)を達成するために必要な要素である①~③をKPIとして数値指標を設定し、さまざまな施策を打ってKPIを達成することで、月間目標の売上1,000万円を目指します。目標の達成にひも付かないKPIを設定したり、KPIにひも付かない施策を打ったりしても、目標を達成するためには意味がありませんので注意しましょう。
今回は、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、Webマーケティングの視点から、ECサイトで設定すべきKPIについて解説していきます。
KPIとは、「指標」のこと
「KPI」とは「Key Performance Indicator」を略した用語で、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれます。またKPIと一緒に「KGI」という用語が使われる場合もあります。こちらは「Key Goal Indicator」を略した用語で、日本語では「重要目標達成指標」と呼ばれます。ここでは、「KPIは指標」「KGIは目標」ということを覚えましょう。
さて、先述した通りECサイトで設定される代表的なKPIは以下①~③です。
例えば、年間売上1.2億円を達成目標とした場合、1年は12か月なので単純に月で割った月間売上目標を1,000万円に設定したとしましょう。月間売上1,000万円を達成するためには、次のようなKPIを設定することができます。
◆現在の月間売上と各要素の状況
※UU:ユニークユーザー(Unique User)、訪問者数を示す
◆目標「月間売上1,000万円」を達成するためのKPI (例:①訪問者数を増やして目標を達成する)
上の例では、現状では目標を達成するためには100万円不足しているため、①訪問者数(UU)を増やして達成するというKPIを設定しています。
同様に、②CVR(%)を高める、③平均購入額(円)を上げる、のいずれかをKPIとした場合には、下記のように設定できます。
◆例:②CVR(%)を高めて目標を達成する
◆例:③平均購入額(円)を上げて目標を達成する
状況により①~③全てをKPIとして数値指標を設定する場合もあるでしょう。
このように、KPIは目標達成の成功要因に対する重要な指標であり、各指標に基づいて現状を把握し、必要な施策を検討するために設定します。
上の例では売上を目標とした場合の考え方が理解しやすいように各数字を変化させただけでしたが、実際に「①訪問者数を増やす」「②CVRを高める」「③平均購入額を上げる」ためには、ユーザーにアプローチして行動を促進する必要があるため、そう単純ではありません。自社のECサイトでKPIを達成するために、どのようにアプローチしていくべきかをじっくり検討する必要があります。
KPIを設定できたら、次はそれぞれの施策を決めていきます。先ほどの①~③をKPIとした場合の施策例をいくつか紹介していきます。
「①訪問者数を増やす」ために必要な施策とは?
「訪問者」には「新規」と「リピーター」の2種類があります。
そのため、それぞれ異なるアプローチが必要になります。
◆新規訪問者数を増やすために用いられる主なアプローチ
・SNS(中長期施策)
・SEO(中長期施策)
◆リピーター数を増やすために用いられる主なアプローチ
・SNS
・アプリ
新規訪問者数を増やすために有効だと言われている施策は広告によるアプローチです。ECサイトではWeb広告がよく利用されます。代表的なWeb広告としては次の2つが挙げられます。
・Criteo(クリテオ)などの「ディスプレイ広告」
他にも、リスティング広告やアフィリエイト広告など、さまざまな広告手法がありますが、業種や商材による効果差が比較的少ないこの2つは必ず押さえておきましょう。
広告によるアプローチは「短期間で集客が見込める」ため、効果的な短期施策と言えます。しかし、広告費用がかかるため、利益率によっても異なりますが、平均購入額が2,000~3,000円程度のユーザー数がそれほど多くない中小規模のECサイトでは採用しづらいアプローチです。そのため、ECサイトでは広告費用のかからないSNSやSEOが利用されます。
参考:「約9割がECを利用!平均購入金額は「2,000円~3,000円未満」【GMOリサーチ調べ】」(ECのミカタ)(2017年2月9日掲載)
リピーター数を増やすためのアプローチでは「メルマガ」がよく利用されます。既存顧客(購買直後の顧客や休眠顧客)向けにメルマガを送り、購買意欲を促します。また、公式SNSをフォローしてもらい、顧客接点の機会を増やすという施策も効果的です。
リピーター数を増やすための施策については、関連記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
「②CVRを高める」ために必要な施策とは?
CVRを向上させるための施策は簡単ではありませんが、訪問者数はある程度あるのにCVRが低い、という場合には「入り口ページ」を特定し、改善策を検討するとよいでしょう。
「入り口ページ」とは、ユーザーがECサイトで最初に訪れるページです。Googleアナリティクスでは「ランディングページ」と呼ばれています(この記事では「入り口ページ」で統一します)。
一般にECサイトの入り口ページは以下のページが多いでしょう。
・カテゴリページ
・商品ページ
流入数の多い入り口ページを整理し、コンテンツや導線を見直してみましょう。
CVRを高めるための施策については、関連記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
「③平均購入額を上げる」ために必要な施策とは?
平均購入額を上げるためには、単純に商品単価の見直し(値上げ)をすればよい、と考える方もいるかもしれませんが、現実的には難しいでしょう。なぜなら、EC市場は世界中にライバルがいるため、商品単価を値上げして平均購入額を上げた場合、訪問者数やCVRが下がる可能性が高く、結果として売上自体が下がってしまうことが考えられます。
そのため、訪問者数とCVRを下げることなく、平均購入額を上げるためには、高単価商品のレコメンドや複数購入キャンペーンなどのアップセル施策を通して、ユーザーに1回あたりの購入額を増やしてもらえるような工夫が必要になります。
ユーザーの中には「おすすめの商品が欲しい」と考えるユーザーもいますので、「バイヤーのおすすめ商品」や「ショップ内の人気商品」など、高単価でも付加価値の高い商品提案を行うことでも、平均購入額を上げることができるでしょう。
すぐに改善できる可能性があるのは「②CVRを高める」施策
繰り返しとなりますが、目標(この記事の例では「売上」)に関連する要素の中から自社のECサイトにとって必要なKPIを設定し、KPIを達成するための施策を導入することが重要です。この記事で取り上げた①~③は売上目標を達成するためにいずれも重要な要素です。それぞれのKPIに対して複数の施策を組み合わせて打つ必要がありますが、「最初に着手すべきKPIは何か?」と問われたら、筆者は「②CVRを高める」をおすすめします。
その理由は、ECサイト全体のデザインを変更するのは困難ですが、Webページの文章やコンテンツの配置変更などは比較的簡単にでき、訴求したいコンテンツの画像やメッセージを掲載することでCVRが大きく変わることがあるからです。また、クーポンやキャンペーン施策に合わせたコンテンツを配置するなど、さまざまな施策のアイデアに調整しやすいということもあります。
「①訪問者数を増やす」ためにSEOやSNSを活用する中長期施策は、効果が出るまでにある程度の期間を見る必要があるため、短期施策を検討する場合には十分に設計する必要があるでしょう。
「③平均購入額を上げる」ためにはユーザーの購買意欲を促進するためのアプローチを用いるため、筆者の経験からは中長期施策で取り組むことが多い印象です。
ECサイトの運営担当者は、まずKPIを設定しよう!
ECサイト担当者はサイト運営とともに、売上責任も負うことになります。自社の売上構造を把握するためにも、まずはKPIを設定し測定することから始めましょう。
可能であれば、過年度の売上データを取得し、季節やイベント時のKPIと売上の変動を分析するとよいでしょう。あくまでも一般的な所感ですが、売上目標は市場やECサイトによってさまざまですが、現状から10%増を目標とする場合が多いようです。
KPIをきちんと把握していなければ、売上につながる施策を正しく評価できません。そのため、設定したKPIは関連部門内でシェアし、目標を達成するために意識合わせをしていきましょう。