ECサイトを「SaaSサービス」で構築すべき5つのメリット


ECサイトを開設またはリプレースする際、プラットフォームにSaaSサービスを利用したほうがいいのか、オンプレミス(パッケージやフルスクラッチ)で構築・運用したほうがいいのか、悩んでいるのではないでしょうか?

ASPや一部のSaaSサービスでは、独自機能のカスタマイズやシステム連携ができないサービスもありますが、トータルコストを抑えつつ短期間でECサイトを開設できます。そのため、個人・小規模事業者だけでなく、ECサイトの目的や用途によっては大規模事業者にも、有力な選択肢となります。

ただし、ECサイトの注文件数が1日あたり100件を超える規模となる場合には、柔軟なカスタマイズに対応しているSaaSやオンプレミスへのリプレースが必要になる可能性があります。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ECサイトをSaaSサービスで構築・運用する5つのメリットを解説します。

ECプラットフォームごとの特徴

以下は、ECサイトをASPサービス(またはSaaSの標準機能)、パッケージ、フルスクラッチで構築する場合のそれぞれの特徴をまとめた比較表です。

◆ECサイト構築における比較表

ASPサービス
(SaaSの標準機能)
パッケージ フルスクラッチ
EC売上規模 年間売上1億円未満 年間売上1億円以上 年間売上30億円以上
初期費用 数万円~ 数百万円~ 数千万円~
月額費用 数千円~ 10万円~ 10万円~
リリースまでの期間 数日~ 3か月~ 半年以上
システム環境の保守運用 サービスに含まれる 自社で実施 自社で実施
システムの最新性 常に最新 3~5年で陳腐化 3~5年で陳腐化
機能追加や
高度なカスタマイズ
不可
(または個別対応)
高度な他システム連携 不可
(または個別対応)

比較表からも分かるとおり、ASPサービス(またはSaaSの標準機能)の特徴は以下となります。

◆ASPサービス(SaaS)の特徴

・導入、運用の費用が安い
・短期間で導入できる
・最新のインフラ、セキュリティ、システムを利用できる
・他システムとの高度な連携ができない(または個別対応)
・独自機能の追加など高度なカスタマイズができない(または個別対応)

最近では「BASE(ベース)」「STORES(ストアーズ)」「カラーミーショップ」など、月額料金が無料のプランを提供しているASPサービスも登場し、個人でも手軽にECサイトを開設することができます。しかし、このような手頃な料金のASPサービスやSaaSでは、企業ごとに異なる他システム連携や機能追加等のカスタマイズには対応できない場合が多く、独自のシステム要件が必須となる場合には適しません。

とはいえ、クラウドサービス(ASPサービス/SaaS)の標準機能は年々拡充傾向にあるため、個人・小規模事業者や用途が限定されている場合には、標準機能に沿った運用で事足りるでしょう。

筆者も、以前在籍していた企業で新たにオンライン事業を立ち上げることになり、ECサイトを導入・運用していました。年間売上100億円規模の英会話スクールでしたが、導入当初は月額数万円のASPサービスを採用し、ECシステムとして不便はありませんでした

選定段階で不足するシステム要件がある場合や、システム実装以外の代替方法がない(または代替コストのほうが高い)という場合以外は、1日の注文件数が100件未満であれば、ASPサービスやSaaSの標準機能に合わせた運用プランを検討することをおすすめします。

クラウドサービス(ASPサービス/SaaS)を利用する5つのメリット

ECプラットフォームとしてクラウドサービス(ASPサービス/SaaS)を利用する5つのメリットを詳しく見ていきましょう。

メリット①短期間でECサイトを開設できる

コロナ禍の巣ごもり需要の高まりなどをきっかけに、ネット通販を開始したいと考える企業は急増しています。これまで実店舗を中心に事業を展開していた企業もネット通販のチャネルを完全に無視することは難しくなりつつあります。

ひと昔前のシステム導入とは異なり、「来年度中にECサイトを開設しよう」というスピード感では、市場で優位なポジションを掴むことはできません。最初からすべての要件を完璧に満たそうとするのではなく、「小さく、早く」始めることは、システム導入だけではなく、新しい事業を推進するための秘訣でもあります。

特に、サービス自体の進化も早く、素早い対応が求められるECサイトは、SaaSなどのクラウドサービスで構築・運用すべきでしょう。

先ほども述べましたが、筆者が新規のオンライン事業を立ち上げた際には、ASPサービスを生かした業務フローを策定するために従来の業務運用を見直すなど工夫することで、短期間でECサイトのリリースと効率的な業務運用を実現しました。

今、あらゆる企業に求められているデジタル化やDX推進の観点からも、クラウドサービスの活用は極めて重要になります。

メリット②最新機能を活用できる

ASPサービスやSaaSでは、定期的に提供機能の更新や拡張が行われます。ECではありませんが、皆さんもなじみのある次のサービスもSaaSです。

◆SaaSのサービス例

・Gmail
・Googleドライブ
・DropBox
・freee

Gmailでは機能の追加や変更が頻繁にリリースされていることは、皆さん実感していると思います。このように、SaaSの最大の特徴は、常に機能や仕様が拡張・改善され続ける点です。

特にUIの自動更新は運用側にとって非常に重要です。Webシステムが動作するGoogle ChromeやMicrosoft EdgeなどのWebブラウザはセキュリティ対策や仕様変更が適宜行われます。そのためWebアプリケーションでは、各Webブラウザの最新バージョンがリリースされるたびに画面表示や機能が正常に使えるように対処し、動作検証を行う必要があります。

都度対応が必要となるため、かなりの手間がかかる作業となりますが、クラウドサービスであれば、それらはプロバイダー側が実施することになります。対応時期には多少のずれが生じるかもしれませんが、手間をかけずに最新サービスを利用できることは大きなメリットと言えます。

メリット③時流に適したシステムを使うことができる

分かりやすい例では、スマートフォン対応があります。現在では当たり前の仕様となりつつありますが、ECサイトへのモバイル対応のニーズが高まったのはスマートフォンが普及し始めた頃からで、それ以前はPCのWebブラウザでの利用を想定して設計されていました。そのため、早くからモバイル対応を取り入れていた一部の企業や、パッケージやスクラッチで構築していた企業は、膨大なコストをかけて開発・実装していました。

しかし、モバイル対応が主流になると、ECシステムの専門家であるプロバイダーがさまざまなノウハウを駆使して開発した機能が標準サービスとして提供されるようになり、ユーザー企業は自分たちで開発することなく、スマートフォンで利用できる自社サービスを顧客に提供できるようになりました。

もちろん、時流に合うサービスがすべて無料で提供されるとは限りません。例えば、近年人気のAmazon Payや楽天ペイなどのID決済などのように、現行サービスに追加できるオプションとして追加の利用料が発生するケースも多いでしょう。

しかし、自社で新しい機能を開発するためには大きなコストがかかる上、必ずしも成功するとは限りません。開発コストが不要で、最新機能を試用することができるという点も、クラウドサービスの最大のメリットの1つと言えるでしょう。

メリット④システム環境の保守運用、セキュリティ対策が不要

システム環境(サーバやネットワーク機器など)の保守運用とセキュリティ対策は、企業の重要課題の1つです。自社開発の場合、専門スキルを備えた要員を配置する必要があり、都度の対応コストもそれなりに大きくなります

クラウドサービスでは、システム環境の保守運用はサービスプロバイダー側が担うため、ユーザー企業はECサイトの運営に注力できます

もちろん、どんなシステムであってもセキュリティ対策には「完璧」という言葉は存在しません。人為的なミスや悪意のある攻撃者などがもたらすセキュリティリスクをゼロにすることは不可能です。ECサイト運営でもリスクを想定したセキュリティ対策を施した上で、万が一の事態が生じた際の対応方法を策定しておくことも重要です。

メリット⑤コストを抑えた運用が可能

SaaSなどのクラウドサービスを利用することで、以下のコストを抑えることができます。

◆SaaSで抑えられるコストの例

・サービス機能の改修や新規開発
・システム運用保守
・システムセキュリティ対策

これらは平時でも一定のコストが発生し、障害や緊急時には格段に跳ね上がります。その部分をプロバイダーに任せられることで、オンプレミスの場合と比べて大幅にコストダウンできるのです。

事業全体で費用を抑えるという考え方はとても重要です。

ECサイトの売上を増やすことは簡単ではありません。そのため、利益率を高めるためにはコスト削減策も同時に実施する必要があります。筆者のクライアントの中には、なかなかECサイトを黒字転換できずにいる企業もあります。特に新たにECサイトを開設する場合には、月額費用をいかに抑えて運用できるか、という点も素早く成果を上げるために不可欠です。

クラウドサービス(ASPサービス/SaaS)を選定する際に確認すべき3つのポイント

メリットの多いクラウドサービスですが、ECサイトのプラットフォームとして選定する際には、確認しておくべきポイントが3つあります。それぞれについて解説します。

①リニューアル時に、現在のドメインを新しいECシステムで利用できるか?

ECサイトの注文件数が1日あたり100件以上の規模になると、標準機能だけではバックエンド業務との連携が追いつかず、ヒューマンエラーが多発するなど、生産性と品質が低下する可能性が高くなります

そのため、売上が伸長したタイミングで、カスタマイズが可能なSaaSやオンプレミスへのECシステムの移行が必要になります。しかし、一部のサービスでは、これまでの「ドメイン」を継続利用できない場合もあります

その場合には新たなドメインでECサイトを開設することになり、これまで築き上げてきたサイトの評価や外部リンクによるSEOの効果がリセットされ、ゼロから始めなければならなくなります。検索エンジンによる評価には一定の期間が必要となり、また外部リンクがアクセスエラーとなってしまうことは集客機会を逃すことにもなりかねず、EC事業の収益に直結する問題です

ドメインの継続利用が難しい場合にはリダイレクトなどの対策を施す必要も生じるため、SaaSを選定する際には、ECサイトのリプレースは生じるものと想定した上で、リニューアル時のコストダウンや、リプレース時の選択の幅という観点からも、比較検討を行うようにしましょう。

②サービスプロバイダーの運営基盤は信用できるか?

外部のサービスを利用する際に共通するデメリットですが、プロバイダーの閉業や事業変更等で、サービス提供が終了してしまう可能性があります

ECではありませんが、大規模に展開していたキュレーションプラットフォームの「NAVERまとめ」が、グループ会社の事業再編のためにサービスを終了したという事例もあります。

運営元企業の事情によるサービス終了を完全に予期することはできませんが、運営企業の規模や事業計画や、運営企業でのSaaS事業の位置づけなどから予見できる場合もあるため、十分に調査することをおすすめします

③サービスで、過去に情報漏えい事件など起きていないか?

ASPサービスやSaaSのメリットとして、システム運用に関するセキュリティ対策をプロバイダーに任せることができる点を挙げましたが、残念ながら情報漏えいはたびたび発生していることも事実です。以下のように、個人情報漏えいに関する事例がまとめられているWebサイトや、過去の報道記事などを確認しておくとよいでしょう。

参考:サイバーセキュリティ.com|個人情報漏洩事件・被害事例一覧

事故や事件をきっかけにセキュリティをより強固にしているサービスもあるため、ASPサービスやSaaSを検討する際の調査項目として、プロバイダーに、以前の情報漏えいの有無や、情報漏えいがあった場合の対策や対応などについても確認するようにしましょう。

カスタマイズが可能なSaaSサービスでECサイト構築

本記事では、主にASPサービスのSaaSについて解説してきましたが、SaaSには、フルスクラッチに匹敵するカスタマイズやシステム連携ができるサービスも多くあります。

例えば弊社の「ebisumart(エビスマート)」も、カスタマイズやシステム連携が必要な中大規模のECシステムや、BtoB向けの複雑なECサイトの構築を得意とするクラウドのECプラットフォームです。ECサイトの構築やリプレースをご検討中の方は、ぜひ公式ホームページをご覧ください。

ebisumart(エビスマート)


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。