中古・リユース品の販売事業を行っているECサイトを「リユースEC」と呼びます。二次流通市場で取引される商品は衣服、パソコン、家電、家具など多岐にわたり、リユースECにもさまざまな専門店サイトがあります。
成功しているリユースECでは次の3つを実現しています。
②買取チャネル
③店舗/アプリ連携
リユース市場の商品の仕入れは、個人あるいは業者から買い取るという「買取」という方法で行われます。そのため、リアル/ネットのいずれの店舗でも、商品の販売だけでなく、買取の場としてもスムーズなサービスが求められます。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、リユースEC市場とリユースEC大手4社の動向を詳しく解説します。
円安で勢いを増すリユース市場
リサイクル通信の推計によると、リユース市場規模は2023年に3兆円を超え、2009年以降14年連続で拡大しており、2030年には4兆円市場になると予測されるなど、今後も右肩上がりで成長していく市場であると予想されています。
◆リユース市場規模の推移と予測
年 | 市場規模 |
---|---|
2009年 | 1兆1,274億円 |
2010年 | 1兆1,443億円 |
2011年 | 1兆2,590億円 |
2012年 | 1兆3,594億円 |
2013年 | 1兆4,916億円 |
2014年 | 1兆5,966億円 |
2015年 | 1兆6,517億円 |
2016年 | 1兆7,743億円 |
2017年 | 1兆9,932億円 |
2018年 | 2兆1,880億円 |
2019年 | 2兆3,585億円 |
2020年 | 2兆4,169億円 |
2021年 | 2兆6,988億円 |
2022年 | 2兆8,976億円 |
2023年 | 3兆1,227億円 |
2025年(予測値) | 3兆2,500億円 |
2030年(予測値) | 4兆0,000億円 |
出典:リユース経済新聞(旧リサイクル通信)「リユース業界の市場規模推計2024(2023年版)」(2024年9月22日掲載)より筆者作成
世界規模で高まるサステナビリティへの関心や、2022年10月に1ドル150円を超えて32年来の円安水準を更新したことで国内の物価が上昇した影響などもあり、リーズナブルに欲しい物を入手できるリユース市場は勢いを増しています。
上記市場規模データの引用元であるリユース経済新聞によると、リユース市場のBtoC-EC化率は2022年で18.6%です。同年の物販系BtoC-EC化率が9.13%(2023年は9.38%)であることを考えると、EC利用率が進んでいる市場と言えます。
引用:リユース経済新聞「EC売上ランキング2023(2022年度)」(2024年6月6日掲載)
実際にリユース企業大手のECサイトを訪れると、リユース市場ならではのユニークなサービスや機能など、他業界のECサイトとは異なる仕組みと工夫が施されています。
リユースECに求められる機能やサービス
では、どのような機能がリユースECに求められるのかを解説します。
①リアル店舗との在庫連携の仕組み
同じ商品を実店舗とECサイトで販売しているケースで必要な機能です。リユース事業を展開している「ハードオフ」では、実店舗で販売しているアパレルブランドの高価格帯商品が、ヤフオク!でも販売されていることがあります。
リユースビジネスでは、同じ商品を実店舗とEC店舗で同時に販売を行うこともあるため、在庫連携の仕組みが不可欠です。リアルとネットでリアルタイムに在庫情報を連携していない場合、実店舗で売れてしまった商品でも、ECサイトでは購入手続きまで行えてしまうなどのトラブルが起きやすいため、注意しましょう。
総合リユースショップの「セカンドストリート」では、店頭で商品のハンガーやプライスタグに印をつけて、その商品がECサイトでも販売されていることが分かるようにしています。この方法は、対象商品を販売した際に店頭スタッフがECサイトから該当商品を削除する、あるいは削除されていることを確認するための仕組みとしても優れた運用方法の一つと言えるでしょう。
②同じ製品を異なる商品として管理するための商品管理機能
リユースビジネスでは、同じ製品でも製品の品質(状態)によって違う商品として管理します。もちろん、新古品や同じ品質の製品など、通常のアパレルECと同じように1つのSKU(※)で管理するケースもありますが、多くの場合は、新品であれば1つのSKUで管理される製品が、リユースECでは複数のSKUで管理することになります。これはリユースECならではの商品管理方法です。
※SKU:「Stock Keeping Unit」の略で、在庫を管理する際の最小の管理単位
◆通常のアパレルECとリユースECのSKUの採番の違い
・通常のアパレルでは……1つのSKU、在庫3枚、として管理
・リユースECでは……商品の状態に応じて最大で3つのSKU、各SKUの在庫1枚、として管理
③店舗受取サービス
チェーン店を運営している場合には、取り寄せ・店舗受取サービスを提供することで販売機会を最大化できるとともに、実店舗とECのクロスセルを狙ったOMO施策も可能になります。
リユース市場では、商品価格よりも配送料金が高額で買うのをためらうという商品もあるため、「配送料金を支払わなくていいのであれば、商品を直接受け取りたい」というユーザーニーズは少なくありません。
◆例:店舗取り寄せサービス(セカンドストリートオンラインストア)
引用(画像):店舗取り寄せカート(セカンドストリートオンラインストア)
④多彩な商品が目に留まりやすいECサイトの設計
リユース店舗を訪れる消費者には、「この商品が欲しい」という明確な目的がなく、「掘り出し物を探しに来た」という人もいます。筆者も近所のリユース店に足を運ぶときは、「面白いモノと出会えるかもしれない」というワクワク感があります。
◆例:ワクワク感を創出するECサイトのトップページ(ハードオフ公式サイト「中古通販のオフモール」)
引用(画像):中古通販のオフモール(ハードオフ公式サイト)
ハードオフのECサイト「オフモール」のトップページでは、リユース店ならではの「何があるのだろう!」というワクワク感を見事に演出しています。例えば、「入荷ホヤホヤの商品」など目を引くカテゴリで商品を掲載するなど、サイトを訪れたユーザーに対するおもてなし感がとても印象的です。
購入したい商品が決まっているユーザーであれば、通常のアパレルECと同じ導線でも問題はないのですが、掘り出し物を探しに訪れたユーザーの目に多彩な商品が留まるような、リユースECならではの工夫が必要になります。
そのため、デザインやコンテンツだけでなく、ECモールのように直観的な操作で詳細な条件を指定して商品を検索できる機能を用意することも重要です。下図はセカンドストリートの公式オンラインストアのトップページです。左側の赤色枠で囲んでいる部分が商品検索機能になります。
◆多様な切り口で絞り込めるナビゲーション(セカンドストリートオンラインストア)
引用(画像):セカンドストリートオンラインストア
⑤買取機能
中古・リユース品の場合、ユーザーがスマートフォンで撮った商品画像だけでは、状態の適正な判断が難しいため、出張による査定や買取の依頼/問い合わせ機能が必要になります。
下図はブックオフが提供している4つの買取方法の説明ページです。
◆出張買取の流れ(ブックオフ)
引用(画像):ブックオフ公式サイト「選べる4つの買取方法」
◆宅配買取の流れ(ブックオフ)
引用(画像):ブックオフ公式サイト「選べる4つの買取方法」
リユースビジネスでは、ユーザーや企業からの買取が、商品の仕入れに当たります。そのため、ユーザーに商品を安定して提供するためにも、リユース企業各社は買取にも力を入れています。
リユース店に勤務している筆者の知人も、「うちの店では販売より買取を重視している」と話していましたが、リユースビジネスにとって買取サービスは極めて重要なのです。
それでは、リユースECを展開する大手4社の動向について解説します。
リユースEC大手4社の動向
それでは、国内のリユースEC大手4社の動向を詳しく見ていきましょう。
①ブックオフ(ブックオフグループホールディングス株式会社)
「ブックオフ」を運営するブックオフグループホールディングスでは、2024年5月期の売上高(連結)が約1,116億円と、前年の約1,018億円を上回りました。
過去の決算報告書では、同社では特に以下の3つの取り組みに力を入れていくとされていましたが、これらの取り組みの成果が現れた結果と言えるでしょう。
◆ブックオフグループホールディングスの主要な3つの取り組み
・富裕層事業/海外事業の強化
・IT関連投資
ブックオフグループホールディングスではここ数年、商圏と商材の変革を進め、不採算チャネル(実店舗など)を閉鎖するなどして収益を改善してきました。また、IT投資にも前向きで、リユース市場の成長に伴い、大きく成長すると筆者は考えています。
IT関連投資では、実店舗との連携を強化するために、2023年10月にECサイトとシステムの刷新が行われました。これまでの「ブックオフオンライン」は「ブックオフ公式オンラインストア」としてリニューアルし、全国のブックオフ店舗と共通のポイントシステムを新たに導入しました。
また、同社の「ひとつのBOOKOFF」構想では、公式アプリを起点に、販売・買取におけるリアルとネットが融合された顧客接点を通じて、ユーザーの利用機会を最大化することを目指しています。
参考:ブックオフグループホールディングス株式会社「2024年5月期 決算説明資料」(2024年10月15日発表)
余談となりますが、「①ブックオフ」と「②ハードオフ」は異なる企業が運営していることをご存じでしたか? 名称やロゴのデザインが似ていたり、店舗の併設やフランチャイズ提携を行ったりしているのは、経営者同士の交流に基づいているそうです。
参考:社長名鑑「株式会社ハードオフコーポレーション 代表取締役会長 山本 善政」(2016年8月取材)
②ハードオフ(株式会社ハードオフコーポレーション)
「ハードオフ」をはじめとするリユースショップを運営する株式会社ハードオフコーポレーションの2024年3月期の売上高は、300億円を突破し(301億5百万円)過去最高を更新しました。
同社ではリアルとネットの複数チャネルの融合を目指した「“Re”NK CHANNEL(リンクチャネル)」という、独自のオムニチャネル戦略を遂行しています。
同時にECサイトの改修にも積極的に取り組んでおり、サイト内の検索機能や回遊率を改善するなどし、ECサイトの売上も伸長しています。
また、公式アプリの「オファー買取」では、ユーザーが売りたい物の写真をアップロードしてブランド情報や状態を入力すると、全国のハードオフ店舗から買取のオファーが届くサービスを提供しており、オファーを受けたユーザーは宅配買取の手続きに進むことができます。
これらの画期的なデジタル戦略が功を奏し、EC売上は2022年3月期/約32億円、2023年3月期/約37億円、2024年3月期/約46億円と右肩がりの伸長を見せています。
さらに同社では、「ハードオフ巡り」と呼ばれる、リユース品との出会いを求めて全国のハードオフ店舗を巡業するという一部のファンの間で流行している行動をキャッチアップし、すぐに公式アプリでスタンプラリー機能を提供するなど、ユーザーの「楽しさ」を後押しするようなサービスを提供することで、ファンとの良好な関係を構築しています。
参考:株式会社ハードオフコーポレーション「2024年3月期 決算説明資料」(2022年5月発表)
③トレジャーファクトリー(株式会社トレジャー・ファクトリー)
「トレジャーファクトリー」をはじめとするリユースショップを運営する、株式会社トレジャー・ファクトリーの2024年2月期の売上高(連結)は、前期比22.1%増となる約344億円で、3期連続で20%超の成長を達成しています。また、EC化率は14.1%(連結)となっています。
同社の強みは、主に以下の4つです。
◆トレジャー・ファクトリーの4つの強み
・さまざまな領域の専門店を多店舗展開している
・自社のオークションサービスで在庫回転率を高めている
・自社でのシステム開発力とデータ分析力の高さ
統合リユース企業であるトレジャー・ファクトリーでは、買取チャネルとなるさまざまな領域の専門店を運営しているため、買い取れる商品の幅が広い上、買い取った商品をすぐにキャッシュ化することができます。
◆トレジャー・ファクトリーが運営するリサイクルショップ
また、事業基盤とも言える業務システムやアプリ、ECサイトなどをグループ会社で開発・運用し、リアルタイムのデータ更新やデータ分析を実現することで、データ駆動の意思決定を経営に迅速に組み込める体制を確立しています。
参考:株式会社トレジャー・ファクトリー「2024年2月期 決算説明資料」(2024年4月10日発表)
④セカンドストリート(株式会社ゲオホールディングス)
メディアコンテンツやゲーム機器等の販売店「ゲオ」や「セカンドストリート」などのリユースショップを運営する、株式会社ゲオホールディングスの2024年3月期の連結売上高は約4,338億円と、前年の約3,773億円を超えて好調に推移しています。
内訳を見ると、リユース商材の売上が約2,440億円と全体の半分以上を占めており、統合リユース事業の業績が堅調であることを示しています。
また、2024年3月期におけるECの連結売上高は前期比119.1%の287億円です。同社は店舗売上の比率が高く、EC化率は6.6%と低水準ですが、前期6.4%、前々期6.2%と伸び率は低調ながらも増加傾向です。
また、リアルとネットを融合したシームレスなIT基盤の構築を目指しており、アプリやECサイトなどのデジタル投資に今後も力を入れていく方針です。
参考:株式会社ゲオホールディングス「2024年3月期 決算説明資料」(2024年5月10日発表)
セカンドストリートのECサイトでは、ユーザーが自身の体形情報を入力して商品のサイズ感を確認できるバーチャル試着機能、ユーザーの問い合わせに素早くレスポンスできるチャットボット機能、雑誌やSNSなどの商品画像をもとに類似商品を検索できる画像検索機能など、アパレル大手のECサイトも顔負けのサービスが提供されています。
リユース市場のライバルは「メルカリ」などのCtoC市場なのか?
堅調に伸びているリユース市場ですが、一時は「メルカリ」などのCtoCのリユースサービスが流行したことで衰退が危惧されていました。以下の参考記事には、2017年当時のリユース業界の深刻な状況が掲載されています。
参考:東洋経済オンライン「『メルカリに食われる』、リユース業界の悲鳴」(2017年5月8日掲載)
メルカリの台頭によって特に痛手を受けるのが「買取」です。テレビCMの効果で全国にメルカリユーザーが拡大したことで、従来は、不用品を処分するためにリユース店舗の買取サービスを利用していた人々が、メルカリに出品するようになりました。
そのため、リユース業界の停滞が懸念されていましたが、店舗数を増やし、宅配買取・引っ越し買取などの新しいサービスを提供するなど、リユース企業のさまざまな努力の結果、リユース業界は業績回復を遂げました。
一方、メルカリでは2021年に法人の出店を解禁しています。
参考:東洋経済オンライン「メルカリ、『事業者の出品』を突如解禁した深い理由」(2021年9月9日掲載)
高級時計やバッグ、ジュエリー、アパレルなど幅広い商品を扱うリユース企業の「コメ兵」は、2023年11月よりメルカリで販売を開始し、約6万点のリユース品を出品しました。これには、CtoC市場の参入により、自社ECや店舗販売と異なるユーザー層にもリーチし、ブランド全体のリユース価値を高める狙いがあると考えられます。
参考:メルカリ「コメ兵が「メルカリShops」でリユース品6万点の販売を開始」(2023年11月21日)
リユース店舗で購入した商品をメルカリやヤフオク!などで転売する一部のユーザーを完全に規制・排除することは難しいでしょう。逆の発想として、そういったユーザーさえも巻き込みながら、適正かつ倫理的な取引が行われる市場を構築していくという、ポジティブな姿勢も、今後のリユース業界にとって有効なのではないかと筆者は考えています。
あらゆる市場を融合したリユースエコシステムを確立することで、リユース市場のさらなる成長と持続可能な社会への貢献が可能になるでしょう。
まとめ
冒頭でも述べましたが、成功しているリユースECに共通するポイントとして、次の3つが挙げられます。
◆成功しているリユースECサイトに共通する3つのポイント
②買取チャネル
③店舗/アプリ連携
これらをシステムで実装していくことが重要で、大手リユース企業ではすでにサービス化して、ユーザーの利便性とEC利用率を高めています。
また、リユース市場では安定した仕入れが重要な課題です。買取の場としてのECサイトという観点からも、他のECサイトとは異なるユニークな仕組みと工夫が求められます。