2020年度の国内のパソコン出荷台数は、政府主導の「GIGAスクール構想」とコロナ禍のテレワークという2つの特需により、前年比127.5%(1,208万3千台)※と大幅な伸長が見られました。しかし、その反動もあり2021年度は前年比59.3%(716万3千台)※、2022年度は前年比96.4%(690万3千台)と急激に落ち込んでいます。
※出典:JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)|統計資料「2020年度パーソナルコンピュータ国内出荷実績」、「2021年度パーソナルコンピュータ国内出荷実績」、「2022年度パーソナルコンピュータ国内出荷実績」
2022年度のBtoC物販市場の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」分野(以降、本記事では「家電市場」と表記します)のEC化率は42.01%※です。
※出典:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2023年8月31日)
パソコン単独のBtoC物販市場のEC化率は、家電市場の平均よりもやや高いのではないかと思われます。しかし、近年は若者のパソコン離れが進んでいると言われ、急速に普及したスマートフォンに取って代わられたパソコンの市場規模は縮小しており、企業やブランドの統廃合も進んでいます。
パソコンメーカー各社は、高スペック化と低価格化の双方に対応しながら、パソコンを利用することのないスマートフォンユーザーにも、どうしたらパソコンを購入してもらえるかを模索しています。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、パソコン市場の現状とパソコンECの主要機能について解説します。
国内のパソコン出荷実績(出荷台数・出荷金額統計)の推移(2011~2021年)
下記は、国内のパソコン出荷実績(出荷台数・出荷金額統計)の推移を示す図表です。
◆2011~2022年度のパソコン出荷実績の推移(国内)
出荷台数 | 出荷金額統計 | |
---|---|---|
2011年 | 1,127万7千台 | 8,669億円 |
2012年 | 1,115万2千台 | 7,952億円 |
2013年 | 1,210万9千台 | 9,263億円 |
2014年 | 918万7千台 | 7,336億円 |
2015年 | 711万1千台 | 6,239億円 |
2016年 | 697万4千台 | 6,181億円 |
2017年 | 676万7千台 | 6,210億円 |
2018年 | 739万8千台 | 7,031億円 |
2019年 | 947万5千台 | 8,926億円 |
2020年 | 1,208万3千台 | 8,862億円 |
2021年 | 716万3千台 | 6,976億円 |
2022年 | 690万3千台 | 7,617億円 |
出典:JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)│統計資料「パーソナルコンピュータ国内出荷実績」より、2011~2022年の「年別国内出荷実績」データをもとに筆者作成
パソコンの出荷台数が減少した2013~2018年は、スマートフォンやタブレットが普及した時期と一致していることから、スマートフォンがパソコンの利用機会を奪っており、パソコンを購入する人が減っているのではないかと推察できます。
参考:総務省「情報通信白書平成29年版|第1-1節(1)数字で見たスマホの爆発的普及(5年間の量的拡大) 」(2017年)
2019~2020年に出荷台数が再び上昇した背景には、以下2つの特需の影響があります。
背景① GIGAスクール構想
2019年12月に文部科学省が発表した「GIGAスクール構想」では、学校ICT環境整備の一環として、小中学校における1人1台のパソコン環境の実現を掲げています。当初は2023年までの5か年計画で、全国の小中学校に段階的に端末を導入していく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の急拡大に伴うリモート学習の需要により、大幅に前倒しされました。
参考:文部科学省「GIGAスクール構想について」、PC-Webzine(ダイワボウ情報システム株式会社)「GIGAスクール構想でスタートした1人1台環境をリポート!【導入初期編】」(2021年8月20日掲載)
背景② コロナ禍のテレワーク
新型コロナウイルス感染症対策で推進されたテレワークによる急速な需要も、パソコンの出荷台数の大幅な増加を後押ししました。
参考:NHK NEWS WEB「ノートパソコン出荷台数 平成5年以降最多に コロナ影響など」(2021年1月26日掲載)
これらの特需が収束した2021年度のパソコン出荷台数は、以前の低い水準に戻っています。
パソコン業界を含む家電ECのEC化率は42.01%
国内におけるBtoC物販の家電市場のEC化率から、パソコン市場のEC化率の目安を予測してみましょう(本記事では、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」分野を「家電市場」と表記しています)。
◆2014~2022年度の国内BtoC物販における家電市場の規模とEC化率の推移
[棒グラフ:市場規模(億円)/折れ線グラフ:EC化率(%)]
出典:経済産業省「電子商取引実態調査」より筆者作成
国内BtoC物販における家電市場の2022年のEC化率は42.01%でした。同年のBtoC物販全体のEC化率が9.13%であることを見ても、EC化率が極めて高い市場であることが分かります。
上記の調査報告からはパソコン市場単独の数字は分かりませんが、筆者は、家電市場の平均よりもパソコン市場のEC化率は高くなると考えています。その理由として筆者は以下のように考察します。
◆パソコン市場のEC化率が家電市場の平均より高くなる理由(考察)
・ECサイトで、メモリーや付属品オプションなどの増設・追加の指定、製品比較、製品検索などの機能が提供されており、消費者が自分で検討、購入しやすい仕組みが整っている
・店頭のスタッフもECサイトを使用するなど、店舗とECの連携が整備されている
・他分野よりも、ITやデジタル機器に詳しい、または関心のある消費者が利用する
とはいえ、パソコンは学校や仕事などで多くの人が使用しており、また、パソコンを利用していないスマートフォンユーザーを取り込むためにも、パソコン自体に詳しくなくても最適な製品を購入できる実店舗は重要な販売チャネルです。
そのため、今のところは、パソコン市場のEC化率が大幅に上昇する可能性は低いでしょう。
パソコン物販のECサイトに必要な7つの機能
ここからは、実際にパソコン物販のECサイト(以降、パソコンEC)でも実装されている主要な7つの機能を紹介します。
① レコメンド機能
さまざまな分野のECサイトで実装されている「レコメンド機能」はECの代表的な機能の一つです。
パソコンECでは、自分が求めるスペックのパソコンを、できるだけ安い価格で購入するために、多くの選択肢を検討したいというユーザーも少なくありません。
マウスコンピューターのECサイトでは、ユーザーが探しているパソコンに類似した製品を、レコメンド機能で表示しています(下図を参照)。
◆マウスコンピューターの公式通販サイトのレコメンド機能
引用(画像):BTOパソコン(PC)通販のマウスコンピューター【公式】│レコメンド画面
レコメンド機能を実装することで、ユーザーが参照した製品の価格やスペックとの類似性が高い他の製品をおすすめとして表示することができます。
② レビュー機能
パソコンを購入する際には、製品に関する情報を十分に調査したいという人も少なくありません。そのため、レビュー情報は消費者にとって重要な判断材料となります。
ECサイトで閲覧している製品にユーザーレビューが掲載されていない場合、ユーザーは他のWebサイトのレビューを探すために、一旦ECサイトを離脱して、そのまま戻らないという可能性を高めることになります。ユーザーの利便性の面からも、ECサイトの商品ページには、できるだけユーザーレビューを掲載することをおすすめします。
時には厳しいレビューが投稿されることもありますが、ありのままの声を掲載したり、否定的なレビューをフィードバックとして受け止めて真摯に対応する企業姿勢を示したりすることで、ECサイトの透明性と信頼性を高めることにもつながります。
③ 見積作成機能
パソコンを購入するユーザーが、法人や団体の場合もあるでしょう。その場合には、ECサイトに見積作成機能が必要になります。
見積書は取引履歴となるため、完成した状態で表示・出力できるようにし、また有効期限を必ず付与するようにしましょう。
④ 値引き機能
商品単価が高く、競争の激しいパソコン市場のECでは「値引き」機能は不可欠です。値引き金額はカートや見積書の金額表示と連動させる必要があり、また、キャンペーン機能と併用する場合には、有効期限やキャンペーンコードと値引き金額とのひも付けなどの対応が必要になります。
キャンペーンセールを行う際には、ECサイト上で分かりやすく伝えることも重要です。値引き(セール)商品に、より多くのユーザーが気付けるよう工夫しましょう。
◆パソコンショップSEVENの通販サイトの値引き表示
引用(画像):BTOパソコン・PC通販のパソコンショップSEVEN│製品ページ
パソコンショップSEVENのECサイトのように、値引き金額と値引き前後の価格を強調して表示することで、ユーザーの目に入りやすくなり、購入意欲の促進にもつながります。
⑤ 商品の絞り込み機能
取扱い商品が多い場合には、欲しい製品やスペックなどの条件が決まっているユーザーのために、目的の商品にすぐにたどり着けるような工夫が必要になります。
富士通のパソコン通販のECサイトでは、サイドエリアに商品の絞り込み機能を実装しています(図の赤い点線内を参照)。
◆富士通のECサイト
引用(画像):富士通 WEB MART│ラインナップ一覧画面
このように、検索条件を指定して商品検索を行うことができるナビゲーションは「ファセットナビゲーション」と呼ばれており、取り扱っている商品が多いECモールなどにも実装されている機能です。
⑥ カスタマイズ機能/オプション機能
パソコンを購入する際の最大の特徴として「カスタマイズ」が挙げられます。
例えばメモリーやハードディスクの増設や、マウスやキーボードなどの周辺機器やアプリケーションのオプション購入など、カスタマイズやオプション選択が必要なケースが多いです。
◆Dell公式サイト「Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)」のオプション選択画面
「オプション機能」は、カートに入れた商品のオプションを指定することができる機能です。オプション機能では、オプションの価格設定も必要になります。
⑦ 外部システム連携
近年、パソコン物販ではBTO(Build To Order:受注生産)が主流となっていることもあり、ECサイト上では商品の「発送予定日」「お届け予定日」の明示が不可欠です。
そのため、在庫管理、受発注、生産管理などの外部システムとのデータ連携が必要になります。ECサイトと外部システムの自動連携を実装するようにしましょう。
パソコン物販のECサイトの構築をご検討中の方は、弊社の「ebisumart(エビスマート)」がおすすめです。ebisumartは、複雑な外部システム連携にも対応可能なクラウド型のECプラットフォームです。詳しくは、公式サイトをご確認ください。
最後に
パソコン市場は、物販では早い段階からECサイトが利用されてきた市場です。そのため、パソコンのEC購入自体はある程度定着している感があります。また、熾烈な価格競争が繰り広げられてきた市場でもあるため、パソコンメーカー各社のECサイトには、「値引き」や「カスタマイズ/オプション」などの機能が充実しています。
他分野と比べるとEC化の面では有利な市場であるにもかかわらず、スマートフォンの台頭により取引量が大幅に減少し、企業やブランドの統廃合が進むなど、パソコン業界は苦戦を強いられています。
パソコンメーカー各社は、ゲーミングパソコンなどをはじめとする高機能化と価格競争の両方で成功を収めるべく努力しており、近年はハイスペックな高価格帯と、初心者が購入しやすい低価格帯のラインナップなどが充実してきています。
今後のパソコン市場の規模拡大は、現在はパソコンを利用していないユーザー層をいかに取り込めるかにかかってきます。低価格帯のパソコンであっても、スマートフォンと同レベルの直観的な操作性と、素早くサクサク動作する処理能力がますます求められることになるでしょう。
とりわけ、日本の未来を担う多くの若者がパソコンを手に取り、パソコンを使って生み出すことができるさまざまな可能性にワクワクできるよう、教育現場やご家庭などで子どもが使用するパソコンでは、起動が早く、搭載されているソフトウェアや学習ツールを快適に操作できる製品が選定できるようになってほしい、と筆者は願っています。