経済産業省が2023年8月に発表したデータによると、スポーツ用品を含む「衣類・服装雑貨等」のEC市場規模は2兆5,499億円、EC化率は21.56%であり、BtoC-EC市場全体のEC化率9.13%を上回る数値でした。
しかし、上記の数値はアパレル業界によるところが大きく、スポーツ用品のEC化は他の業界と比べて遅れていると筆者は考えます。
スポーツ・アウトドア業界では、ブランドや競技ごとに事業部が分かれていたり、ブランドサイトが分かれていたりするため、統合したECサイトを構築するのに時間がかかる点や、ゴルフクラブの試し打ちなど実店舗のニーズが強いこともあり、ECサイトの利用が進んでいないのです。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングの部署に所属する筆者が、スポーツECについて詳しく解説します。
国内のスポーツEC市場規模とEC化率の推移(2014~2022年)
まずは下のグラフをご覧ください。この記事ではスポーツ用品のECについて解説しますが、下のグラフは経済産業省の調査結果をもとに作成しているため、「衣類・服装雑貨等」の数値となります。
◆「衣類・服装雑貨等」のEC市場規模及びEC化率の経年推移
出典:「電子商取引実態調査」、「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(経済産業省)より筆者作成
※「衣類・服装雑貨等」のカテゴリーは、衣類(インナーウエア・アウターウエア)、服装雑貨(靴、鞄、宝飾品、アクセサリー)、子供服(ベビー服含む)、スポーツ用品といった製品群で構成
グラフの通り、「衣類・服装雑貨等」の市場規模は右肩上がりで、EC化率も21.56%とBtoC-EC市場全体のEC化率9.13%を大きく上回っています。
しかし、その中でもスポーツ用品の分野は、以下の3つの課題からEC化が進んでいないと筆者は考えます。
◆スポーツ業界でEC化が進まない3つの課題
課題② 店舗との連携が必要
課題③ 店舗の利便性にECが勝てない
それでは、それぞれについて詳しく解説します。
課題① DX化が難しい
同じ「衣類・服装雑貨等」に含まれるアパレル業界と比べて、スポーツ業界はDX化が遅れている印象があります。その背景には、競技ごとに事業部が分かれていたり、ブランドごとにサイトが存在していたりする、スポーツ業界ならではの社内体制があります。
DX化のためには部署の垣根を越えた協力が不可欠ですが、例えばすでにブランドごとに乱立しているホームページを一つのECサイトに集約するだけでも大変な作業量になるため、なかなかEC化に踏み切れないのではないかと筆者は考えます。
すでにユーザーに認知されているブランドの特設ページがあっても、そこから自社ECサイトへの導線が弱いこともあるため、ユーザーが購入までスムーズに進めるよう、統合を進めることが重要です。
また、自社ECサイトを立ち上げる場合、集客も課題の一つとなりますが、特にアパレル業界で集客に活用されているSNSに関しても、後発の企業が多いのが現状です。小規模事業者であればユーザーの声が集まりやすいSNSに力を入れることで、大手サイトとの差別化も図ることができるため、SNS戦略は有効と言えます。
課題② 店舗との連携が必要
ユニクロなどの大手アパレルでは、実店舗とECサイトの連携に力を入れていますが、これはスポーツ業界でも重要な視点です。ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ることができたり、返品対応ができたりすると、ユーザーの利便性は向上します。
また、実店舗とECサイトだけではなく、ユーザーが望むものがまとまっているサイトは今後も伸びていくと予想できます。例えば、ゴルフの最先端であるGDOではゴルフ用品の販売だけでなく、ゴルフ場の予約もできるなど、ゴルフをしたいユーザーにとって必要なものが一通りそろうサイトとなっています。
課題③ 店舗の利便性にECが勝てない
スポーツ用品では、オーダーメイドのニーズも多くあります。店舗でスタッフと細かい打ち合わせをしながら注文していたものを、同じようにECサイトでも受付できるようなシステムを作るのは簡単ではありません。
また、ゴルフクラブやスパイクシューズなど、実際に店頭で試してから購入したいというニーズも強いため、店舗と比べてECサイトの利便性が弱くなってしまうのです。このように店舗でできることがECサイトでもできるようにする必要があることも、ECの利用が進んでいない理由の一つだと筆者は考えます。
前述したように、ECサイトと実店舗の連携を強くすることも、課題解決につながるでしょう。
スポーツECの大手3社の動向
スポーツ用品各社のECサイトやデジタルマーケティングの動きを、昨今のニュースやプレスリリースを元にまとめてみました。参考にしたリンク先の記事とあわせてご覧ください。
①ミズノ
総合スポーツメーカーのミズノは、ECサイトをリニューアルし、総合ポータルサイト「ミズノ公式オンライン」をオープンしました。新しいサイトはECサイトとブランドサイトを統合したものとなっています。
参考:ミズノ公式オンライン
また、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用していることも特徴です。課題として前述した、ECサイトへの導線が工夫されており、ブランドサイトやUGC、公式Instagramなどさまざまなチャネルからユーザーが商品を購入しやすいように設計されています。
参考記事:ネットショップ担当者フォーラム「ミズノがECサイトとブランドサイトを統合した『ミズノ公式オンライン』の特徴とは?」(2022年4月12日)
②ヒマラヤ
スポーツ用品専門店のヒマラヤは、2023年3月にスマートフォンアプリ「ヒマラヤアプリ」をリリースしました。
参考:ヒマラヤアプリ誕生!
このアプリは実店舗とECの連携が目的で、店舗とECの両方で使えるポイントや、店舗の在庫をリアルタイムで確認できる機能、店舗受取で送料が無料になるサービスなどが特徴として挙げられています。
このアプリ施策をはじめ、EC限定の商品を展開、またSNSを強化するなどのデジタルマーケティングへの注力により、2022年9月〜2023年5月期の第3四半期のEC売上高は、前期比13.3%増となりました。
実店舗とECそれぞれの利点を生かし、ユーザーの利便性を高める施策として参考になる取り組みです。
参考記事:日本ネット経済新聞「ヒマラヤ、第3四半期のEC売上13.3%増 デジタルマーケの強化が寄与」(2023年7月27日)
③アシックス
スポーツ用品メーカーのアシックスでは、オンラインでランニングシューズを選ぶことができるサービス「ASICS SHOE FITTER(アシックスシューフィッター)」を始めました。
店舗で測定した足形のデータを連携し、おすすめのシューズを提案するサービスで、オンラインストアとも連携しているためすぐに購入ページに遷移することができるようになっています。
店舗で専門知識を持ったスタッフに接客してもらうのと同じように、オンラインでも自分に合ったシューズを購入することができるサービスとして、今後のサービス拡大にも注目です。
参考記事:ネットショップ担当者フォーラム「アシックスが挑むオンラインでパーソナライズしたシューズ選びを提供する購買体験『ASICS SHOE FITTER』とは」(2022年10月14日)
スポーツECのまとめ
本日は、スポーツ業界のEC市場や、大手各社のECサイトの動向について解説しました。
スポーツ用品は、ミリ単位でのフィッティングが重要な商材です。そのため、アパレル以上に実店舗での試着・試用のニーズが高く、決してECと相性の良い業界とは言えません。
しかし、コロナ禍により、今まで実店舗での販売がメインだった業界でもEC化の動きが加速しました。スポーツ業界もその一つでしょう。今後も業界にかかわらずEC化は進んでいくと考えられます。この記事で紹介した事例なども参考にしながら、EC化を検討してみてはいかがでしょうか。
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