バーチャルトライオンは、デジタル技術(AR、VRあるいはAI)を利用して、衣服やジュエリー、メガネ、メイクなどの商品を試着、あるいは試用時のイメージを確認できるシステムやサービスのことです。主にECサイトで提供されているサービスで、ユーザーは実際の商品に触れなくても、自分が商品を着用したときにどのように見えるかという仮想体験ができます。
ECサイトにバーチャルトライオンサービスを実装することで、EC事業者には以下のようなメリットが生まれます。
◆バーチャルトライオンの7つのメリット
メリット② ECでの購入率が高くなる
メリット③ 返品率が低くなる
メリット④ ユーザーデータを収集できる
メリット⑤ 実店舗で離脱したユーザーに再検討機会を提供できる
メリット⑥ アプリの利用率を高めることができる
メリット⑦ SNSと連携したUGC施策を推進できる
この記事では、株式会社インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、バーチャルトライオンについて詳しく解説します。
バーチャルトライオンの3つの事例
今回はバーチャルトライオンについて、3つの事例を紹介して解説していきます。
事例① JINS(ジンズ)アプリのメガネ試着
アイウェア販売のJINSは、公式アプリで購入したいメガネの装着イメージを確認できる、試着機能を提供しています。
◆JINSアプリのメガネ試着機能
出典(画像):「JINS公式アプリ」の試着機能を使用したメガネ試着時の画面を使用して筆者が作成(モデルは筆者)
JINSアプリでは、スマートフォンのカメラを使って、実店舗と同じように自分が選んだメガネを試着することができます。
またアプリに、過去にJINSの店頭で購入したメガネの保証書やレンズの度数情報を登録しておくと、同じ度数のメガネを注文することができます。
さらに、JINSで初めてメガネを購入するというユーザーのために、注文時に手元にあるメガネをJINSに送付することで、同じ度数のレンズのメガネを購入できるオンラインサービスも提供しています。
このように、JINSではバーチャルトライオンを起点に、便利なUX(ユーザーエクスペリエンス)を提供しています。
事例② 資生堂のバーチャルメイク
資生堂はWebサービスの「ワタシプラス」で「バーチャルメイク」サービスを提供しています。これは、スマートフォンやPCのカメラを使ったライブ画像やアップロードした写真、モデルの写真を使って、Webサイトでメイクの印象を確認できるバーチャルトライオンサービスです。
筆者もPCを使ってバーチャルメイクを試してみました(下図)。実店舗でメイクをお試しすることはハードルが高く感じますが、バーチャルサービスでは筆者も気兼ねなくメイク体験を楽しむことができました。
◆資生堂「ワタシプラス」のバーチャルメイク機能
出典(画像):「資生堂『ワタシプラス』のバーチャルメイク」機能を使用した商品トライアル時の画面(モデルは筆者)
「ワタシプラス」では、資生堂の複数のブランドのベースメイクやアイブロウ、アイメイク、リップなどの商品を使用した際の印象を画面で確認し、気に入ったらそのまま購入手続きに進むことができます。バーチャルメイク機能は、個人情報の入力などは不要ですぐに利用できます。
オムニチャネル施策を推進している資生堂では、実店舗、オンラインのチャネルを問わず、気になるコスメを自由に組み合わせて確認しながら買い物ができるように工夫しています。
事例③ 4℃公式オンラインのジュエリー試着
4℃のジュエリー通販サイトでは、スマートフォンやPCのカメラを使ったライブ画像、アップロードした写真やモデル写真を使って、一部のピアスやイヤリングの装着イメージを確認して購入することができます。
◆4℃公式ジュエリーオンラインショップのVIRTUAL TRY-ON機能
出典(画像):「4℃ジュエリー オンラインショップ『VIRTUAL TRY ON』サービス」を使用したジュエリー試着時の画面(モデルは筆者)
上図では小ぶりで華奢な商品を試着しているので少し分かりづらいかもしれませんが、合成精度が高いため装着時の位置や大きさの比率がおかしいといったこともなく、装着時の印象を十分に確認することができました。こちらも、試着機能を利用する際に個人情報を入力する必要はありません。
商品を試着して、そのままオンラインで購入手続きに進むこともできますし、比較的高級なイメージのあるジュエリーを自宅で試してから実店舗で購入したり、実店舗で購入を保留したユーザーが後から自宅で再検討したりすることもできます。
時間や他人の目を気にすることなく試着して検討できるため、購入に慎重なユーザーやジュエリー購入に不慣れなユーザーにとっても使い勝手のよいサービスです。
バーチャルトライオンの7つのメリット
ECサイトでバーチャルトライオンサービスを提供することで、EC事業者には以下の7つのメリットが生まれます。
◆バーチャルトライオンサービスが生み出す7つのメリット
メリット② ECでの購入率が高くなる
メリット③ 返品率が低くなる
メリット④ ユーザーデータを収集できる
メリット⑤ 実店舗で離脱したユーザーに再検討機会を提供できる
メリット⑥ アプリの利用率を高めることができる
メリット⑦ SNSと連携したUGC施策を推進できる
メリット①~⑦について、詳しく解説します。
メリット① UXを向上できる
まず、最初に挙げられるのがUXの向上です。
例えば、先ほど紹介したJINSでは、休・祝日などは店頭が混んでいることも多いようですが、わざわざ実店舗に足を運ぶことなく、自宅でゆっくりと試着して、気に入った商品が見つかったらそのまま購入することができます。
また、あらかじめバーチャルトライオンで商品を選んでおいて空き時間に店頭で購入することもでき、ユーザーの利便性を高める優れたUXを通してオムニチャネルを実現できます。
メリット② ECでの購入率が高くなる
アパレル、コスメ、ジュエリーなどのECでは、実物を手に取ったり試着したりすることができない点が購入時の障壁であると言われてきましたが、スマートフォンやPCのカメラ機能とVR/ARなどの技術が進化したことでバーチャルトライオンが可能になり、ECでの購入率向上が期待できます。
ただし、バーチャルトライオン機能の精度が低いと、逆に購入率が下がってしまう可能性もあるため、バーチャルトライオン機能を導入する際は、高精度のARとユーザーが簡単に使用できるようなUIを実装することが大切です。
メリット③ 返品率が低くなる
多くのECサイトが今までも、返品がしやすいように工夫して購入時のハードルを下げようと努めてきました。しかし返品率が高くなると、利益に影響が出ます。
バーチャルトライオンサービスは、購入前にユーザー自身に商品の装着イメージやサイズ感を確認してもらって、実物とのギャップを小さくすることができるので、返品率の低下にも効果的です。
メリット④ ユーザーデータを収集できる
バーチャルトライオン機能をECサイトに実装すると、以下のような情報を収集できるようになります。
◆バーチャルトライオン機能を実装することで収集できるようになるデータ
・バーチャルトライオンサービスを利用したユーザー属性情報
・商品ごとの試着率
上記のデータを活用することで、例えば試着率の高い商品を特定して売れ筋商品の傾向などを予測できるようになりますし、新商品の本格展開前にバーチャルトライオンの利用状況を見て仕入数を調整するといったことも可能になります。
個人情報を収集する場合にはユーザーの同意が必要です。バーチャルトライオンサービスを利用してもらう際に個人情報を集める場合には、データの利用者、利用目的、利用方法(匿名化など)を明示した上でユーザーの承諾を得る必要があります。個人情報の収集と管理、活用は十分に検討し、とりあえず集めるという状況は避けるようにしましょう。
メリット⑤ 実店舗で離脱したユーザーに再検討機会を提供できる
高額商品の購入は、店頭で興味を持ったとしてもその場で即決できない人も多いと思いますので、バーチャルトライオンサービスで自宅でも試着ができる環境を用意することで、改めてじっくり検討してもらうための機会を提供することができます。
バーチャルトライオンサービスを開始したら、店頭で購入に至らなかったユーザーの再検討を促進するために、店頭で「こちらの商品はアプリやWebサイトでも画像で試着時のイメージを確認して購入することもできますから、お時間のあるときに試してみてください」など、バーチャルトライオンサービスの存在をご案内するようなフローも用意しておくとよいでしょう。
実店舗、ECサイトのどちらでも、バーチャルトライオンサービスの存在をユーザーに気付いてもらえるように工夫しましょう。
メリット⑥ アプリの利用率を高めることができる
アプリを提供していても、利用率が低い、あるいは、そもそもクーポンやポイントの配布と管理の目的で配布している、という場合もあるかもしれません。
アプリによるポイント施策はオムニチャネル戦略として有効な方法です。しかしあらゆるEC戦略は売上の最大化をゴールとしていますから、せっかくアプリを開発したのであればアプリの利用機会を増やして、ユーザーの購入意欲を促進していくことが重要です。
スマートフォンで気軽にバーチャルトライオンサービスを利用できるようにすることで、アプリを新たな店舗として活用していきましょう。
メリット⑦ SNSと連携したUGC施策を推進できる
バーチャルトライオンサービス画面にSNSボタンを設置しておくと、ユーザーは自分が商品を試着している写真をSNSに簡単にシェアできます。バーチャルトライオンサービスの導入ではUGC(ユーザー生成コンテンツ)施策と組み合わせて検討し、SNS連携機能も一緒に実装しておくとよいでしょう。また、サービスの存在と利便性をより多くのユーザーに知ってもらうために、インフルエンサーにバーチャルトライオンサービスを利用してもらう、といったことも検討してみてもよいかもしれません。
いずれにしても、スマートフォンで利用できるバーチャルトライオンサービスは、SNSと非常に相性のよいサービスと言えます。
バーチャルトライオン機能の実装
バーチャルトライオン機能を開発する場合にも、最初に顧客体験(UX)の設計が必要になります。その上で、優れたUXをどのように実現するかを検討します。
AR開発ソフトの中にはプログラミングが不要な製品もあります。それらを利用すると開発は容易になるのですが、VR/ARの機能と精度が低くなる場合も多いため、費用はかかりますが、プログラミングによる開発を筆者はおすすめします。
インターネットで検索してみただけでも、以下のようなAR機能の開発ツールキットの情報がヒットします。バーチャルトライオンサービスやARサービスの導入を検討している場合には、ご自身で詳しく調べておくようにしましょう。
◆AR開発のためのフレームワーク(例)
・ARCore(Googleが提供しているARアプリ開発ツールキット)
・Amazon Sumerian(Amazonが提供しているVR/AR/3Dアプリの開発ツールキット)
・Spark AR Studio(Metaが提供しているFacebook、Instagram向けのAR機能の開発ツールキット)
ARアプリでは位置情報や個人情報の取得など、法規制にも注意する必要があるので、アプリの企画・設計段階から自社のコンプライアンス部門や外部の専門企業の助言と確認を受けながら進めていくようにしましょう。開発完了後にコンプライアンスチェックが通らないといったことになると、大きな損失となります。
ECサイトにバーチャルトライオン機能を実装するなら
本記事では、バーチャルトライオンについて解説しました。
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