ツール導入前に「SaaS」と「クラウド」の違いをプロが徹底解説


「SaaS」と「クラウド」は、どちらもインターネット経由で利用するサービスですが、皆さんは2つの違いを説明できますか? 実装されているサービスを利用する人が両者の違いを意識する機会はほとんどありませんが、これら2つのサービスは異なります。

「SaaS」は、インターネットを経由してクラウドサーバにインストールされた特定のソフトウェアやアプリケーションそのものを提供しているサービスであるのに対し、「クラウド」は、本来は「クラウドコンピューティング」の略称で、インターネット上に置かれたデータやソフトウェアなどのコンピューター資源を利用するというサービス概念です。

そのため、広義ではSaaSもクラウドサービスの一つなのですが、本記事内では、「クラウド」はクラウドサーバを提供しているサービスとして解説しています。

例えば、ECシステムを導入したい場合、SaaSは、申し込み後にインターネットでアクセスすると、サービスが提供しているEC機能をすぐに利用して、ECサイトを開設することができます。一方クラウドは、クラウドサーバにインターネット経由でアクセスし、必要なソフトウェアやアプリケーションのインストールや設定が行える状態からのスタートとなります。

SaaS」のメリットとしては次の5つが挙げられます

◆SaaSを利用する5つのメリット

メリット① 常に最新のシステム環境を使用できる
メリット② 使用した分だけ費用を支払えば良い
メリット③ システム全体で最新のセキュリティが担保される
メリット④ スケーラビリティが高い
メリット⑤ どこからでもアクセスできる

※メリット③の一部(インフラ周り)とメリット④⑤はクラウドのメリットでもあります

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、SaaSのメリットとデメリットについてクラウドサービスとの違いを含めて解説します。

SaaSとクラウド、各サービスの特徴を比較

まず、SaaSとクラウドの各サービスの特徴と違いを理解しましょう。

◆SaaSとクラウドの各サービスの特徴を比較した表

SaaS クラウド
代表的なサービス SaaSプラットフォーム
・Wix(CMS)
・BASE(EC)
・Gmail(Webメール) など
オープンソースやパッケージなどのインストール型のソフトウェア
・WordPress(CMS)
・EC-CUBE(EC)
・Roundcube(Webメール) など
ソフトウェアの場所 SaaSベンダーが契約あるいは所有しているクラウドサーバ ユーザーが契約しているクラウドサーバ
料金体系 月額/年額で、サービスの基本料金+使用料金 月額/年額で、サーバの使用料金
(別途、ソフトウェアのライセンスあるいは利用料金が必要)
システムの最新化 SaaSベンダーが、必要に応じてバージョンアップやアップデートを行う ユーザーが、必要に応じてバージョンアップやアップデートを行う
セキュリティ対策 SaaSベンダーが、適宜、設定・更新を行う ユーザーが、適宜、設定・更新を行う

クラウドは、あくまでもインターネットに置かれたサーバを利用するためのサービスであることを理解しておきましょう。

例えば、新たにECプラットフォームを導入する場合、SaaSとクラウドでは以下のような違いがあります。

◆SaaSのECプラットフォームを利用する

SaaSのシステムにインターネット経由でアクセスして、Webブラウザや専用アプリで利用できる管理画面にログインして必要な設定を行うことで運用を開始できます。他のオンラインサービスと同じように、SaaSもユーザーがサーバの設置場所や運用について意識することなく利用でき、サービスを利用した分の料金を支払います。

※サーバの初期コストとランニングコストはSaaSプロバイダーが負担します

◆クラウドでECプラットフォームを構築する

AWSクラウド、Microsoft Azure、エックスサーバーといったクラウドサービスでは、提供されたクラウドサーバにインターネット接続(あるいはVPN接続)でアクセスして利用します。ユーザーはクラウドサーバに任意のソフトウェアをインストールしてECプラットフォームを構築します。システムを利用する人がサーバの設置場所について意識することはありませんが、サーバの運用はユーザーが行い、クラウドサーバの利用料を支払います。

※ソフトウェアのライセンス料金や購入料金、または開発・導入コストが別途発生します

例えば、「EC-CUBE」や「WordPress」などの無料で使えるオープンソースソフトウェア(OSS)をローカルPCやオンプレミスサーバにインストールして使用することもできますが、近年は、ビジネス用途の場合には特殊な事情がない限り、クラウドサーバを利用するケースが多いでしょう。

クラウドサーバで構築したシステムでは、SaaSの5つのメリットのうち、メリット①②と③の一部(ソフトウェア周り)を享受することができません

◆SaaSだけで得られるメリット

メリット① 常に最新のシステム環境を使用できる
メリット② 使用した分だけ費用を支払えば良い
メリット③ システム全体で最新のセキュリティが担保される
メリット④ スケーラビリティが高い
メリット⑤ どこからでもアクセスできる

※メリット③の一部(インフラ周り)とメリット④⑤はクラウドのメリットでもあります

SaaSの5つのメリット

企業のシステム導入やリプレースでは、SaaSとクラウドの各サービスを自社のニーズに合わせて使い分けていくと良いでしょう。

ここでは、SaaSの5つのメリットについて、クラウドで構築した場合の状況も一緒に確認しながら、詳しく解説します。

メリット① 常に最新環境のシステムを使用できる

常に最新状態のシステムを使用できることは、SaaSの最大のメリットです。

ソフトウェアは定期的にバージョンアップやアップデートが発生するため、システムを最新の状態に保つためには、専門知識を備えた要員と、適用コストが必要になります。しかし、SaaSの場合は、これらのシステム関連の更新適用はすべてSaaSプロバイダーが実施してアップデートされた状態でサービスが提供されるため、ユーザーは常に最新環境のシステムを利用することができます。

◆クラウドで構築したシステムの場合は?

SaaSプロバイダーが実施しているすべての対応をユーザーで実施しなくてはいけません。特に、パッケージソフトウェアに独自の設定やカスタマイズを組み込んでシステムを構築している場合には、配布されたアップデートがうまく適用できないケースも少なくないため、念入りな計画と専門知識が求められます

メリット② 使用した分だけ費用を支払えば良い

SaaSの料金体系は従量課金制の場合が多く、ユーザーは使用した分だけのサービス料金を支払えば良いため、初期投資を抑えられるだけでなく、必要のない機能や過剰なスペックに対する費用を負担せずに利用できます

また、イベントや繁忙期など需要のピーク時にはシステムを拡張し、オフシーズンは縮小して使用したいという場合も柔軟に対応できるので、小規模事業者やスタートアップの事業などもコストを抑えつつ、ビジネス需要に応じた柔軟なシステム運用が可能になります。

クラウドで構築したシステムの場合は?

クラウドサービスでは、使用するサーバリソースに基づいて利用料金が設定され、基本使用料が設定されているサービスでは、実際に使用していない場合にも月額料金がかかります。また、ソフトウェアのライセンス料金や開発料金を含むサーバ構築の初期コストと保守運用のランニングコストが発生します。

メリット③ システム全体で最新のセキュリティを担保できる

SaaSでは、セキュリティアップデートをはじめとするセキュリティ対策もSaaSプロバイダーが行うため、ユーザーは常に最新のセキュリティ対策が施された状態で利用できます。

セキュリティ対策のための追加コストを考慮することなく、サイバー攻撃やデータ漏えいなどの最新のセキュリティリスクを軽減できるため、ユーザーにとって大きな安心材料となります。

クラウドで構築したシステムの場合は?

セキュリティ関連の更新や修正パッチ適用は、ユーザーの責任で対応する必要があります。当然、保守運用も含まれ、オンプレミスと同様のセキュリティ対策が必要になります。

特に、特別な設定やカスタマイズを施している場合、アップデートや修正パッチの適用がシステムの思いがけない範囲にまで影響を及ぼす可能性もあるため、適用するためには専門知識と切り戻し等の計画が必要になります。そのため、セキュリティ対策に一定のランニングコストが必要となるため、予算や体制に余裕のない企業にとっては大きな負担となります。

メリット④ スケーラビリティが高い

システム全体のスケール変更が容易であることもSaaSを利用するメリットの一つです。ユーザーのビジネス用途に合わせてリソースや機能を手軽に拡張/縮小しながらサービスを利用できるため、突発的な需要の増減に柔軟に対応しながらシステムを運用していくことができます。

◆クラウドで構築したシステムの場合は?

ビジネス用途に応じてリソースや機能追加を柔軟に行うためには、ユーザー自身が計画し、実行する必要があります。例えば、一時的なトラフィックの増加に対応するために、負荷分散調整やリソース拡張などを行う場合、ユーザーが設計と設定を行わなければなりません。

また、サーバの追加が必要となる場合にはネットワークやセキュリティ関連の設定変更も必要となりますが、これらの作業を行うためには専門知識が必要な上、時間と費用がかかります。

メリット⑤ どこからでもアクセスできる

SaaSはインターネット環境さえあればどこからでもアクセスできるため、リモートワークや外出先でも普段どおりに作業することが可能です。

クラウドで構築したシステムの場合は?

SaaSと同様にインターネット環境があれば基本的にはどこからでもアクセスが可能ですが、ネットワークアクセスに関するセキュリティ設定などは、ユーザーが個別に設定する必要があります。

例えば、外出先やリモートワークなどの外部環境からのアクセスが必要な場合には、VPN(仮想プライベートネットワーク)などのセキュアなアクセス方法を確立しておく必要がありますが、これらの導入と運用には専門知識が必要となり、また、サービスにリモートアクセスできない従業員からの問い合わせやトラブルシューティングなどの対応コストも考慮しておく必要があります

SaaSの4つのデメリット

ここまで解説してきたようにSaaSならではの優れたメリットがあるにもかかわらず、SaaSの利用を避ける企業も少なくありません

ここでは、SaaSの4つのデメリットを紹介します。

デメリット① カスタマイズができない

SaaSでは提供される機能やインターフェースが決まっており、要件に応じた個別のカスタマイズが難しい場合がほとんどです。そのため、固有のビジネスプロセスを持つ企業や専門機能が必要な業界などでは、SaaSの提供機能では対応できません。

その場合には、SaaSではなく、クラウドあるいはオンプレミスのサーバを用意してパッケージやフルスクラッチで自前のシステムを構築するか、カスタマイズが可能なクラウド型のプラットフォームサービスを利用することになります。

デメリット② システムがブラックボックス化されている

SaaSでは、システム仕様やプログラムコードは公開されていません。そのため、高度なシステム連携やシステムの機密性・正確性を担保する必要がある場合には使用することができません。

例えば、「システムの挙動やパフォーマンスを完全に把握できなければ、自社のビジネス基準や要件に適合しているかどうかを評価できない」、あるいは「障害やトラブルが発生した際の原因の特定や迅速な復旧が難しい」という理由でSaaSの採用が見送られるケースがあります。また、官公庁などをはじめとする法規制やコンプライアンスが厳しい業界では、システムの機密性と透明性が低いという点で利用できない場合もあります。

デメリット③ データ保護に関する信用度に限界がある

SaaSではデータもサービス側のサーバで保管されることになりますから、データの保護とセキュリティ対策をSaaSプロバイダーに委任する形になります。

そのため、機密性の高い情報や法的に保護されるべきデータを扱うシステムの場合には、外部にデータを委ねるリスクについても慎重に考慮する必要があります。

利用サービスのセキュリティレベルによって、不正アクセスや情報漏えいのリスクが高まるため、SaaSを検討する際には、Webサイトで過去に情報流出の事故やセキュリティインシデントの有無を必ず調査するようにしましょう

参考:サイバーセキュリティ.com「個人情報漏洩事件・被害事例一覧

デメリット④ 突然サービス提供が終了する可能性がある

SaaSのプロバイダーがサービス提供を終了する可能性があります。その場合は、速やかに代替方法を検討しなければなりません。

筆者は以前、「NAVERまとめ」(運営元:LINE株式会社の子会社)というサービスを集客目的で運用していたのですが、2020年9月にサービスが終了することになり、すべてのWebコンテンツをWordPressに移行しなければいけませんでした。

筆者の場合は軽微な移行でしたが、システム規模によっては、自社の業務を中断しなければならなくなるなど、事業の継続性に影響を与える可能性もあります。また、リプレースではデータや新しいシステムへの運用の移行に時間も費用もかかるため、企業にとっては大きな負担となります。

SaaSを選ぶべきではない3つのケース

SaaSのメリットとデメリットを理解した上で、次の3つのケースのいずれかに該当する場合には、SaaSの利用は避けるべきでしょう。

ケース① 独自の機能やフローをカスタマイズで組み込みたい

決められた機能セットを低コストで提供しているSaaSは、大規模なカスタマイズには対応できません。そのため、独自の業務プロセスに合わせた特殊な機能や大規模な外部システム連携が必要な場合には、クラウドで自前のサーバを構築するほうが良いでしょう。

ただし、近年SaaSのサービスの中にはある程度のカスタマイズに対応していたり、API連携を提供していたりといった、柔軟性と拡張性を備えたサービスも登場しているため、自社に必要なカスタマイズに対応できるかどうかを事前に問い合わせてみることをおすすめします。

ケース② データの保存と管理を厳格に制御したい

データの管理や保護に関して特別な要件がある場合には、SaaSの利用は避けたほうが良いでしょう。データの保管やバックアップ運用、セキュリティポリシーなどを厳格に制御するためには、自前のシステムを構築する必要があります。

また、機密性の高い情報を取り扱う企業や法規制の厳しい業界の場合は、プライベートクラウドでシステムを構築することで安全性を高めることができます。

ケース③ 特殊な用途や高負荷環境でも安定稼働させたい

特殊用途や高負荷環境でのパフォーマンスを重視する場合も、SaaSではなくクラウドでシステムを構築したほうが良いでしょう。

例えば、一時的に大量のアクセスが集中するような状況では、一般的なSaaSでは大量のトラフィックに対応しきれずWebサーバがダウンしてしまう可能性があります。そのため、クラウドで事前にリソースを拡張しておくなど計画を立てて備えておくことで、突発的な大量アクセスにも柔軟に対応できます。

特殊な要件や高負荷環境で安定したサーバ運用を行うには、クラウドを利用してサーバを構築するほうが適しています

フルカスタマイズが可能なSaaSのECプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」

従来は大規模なカスタマイズが難しかったSaaSですが、近年は個別カスタマイズにも柔軟に対応できるサービスが登場しています。

インターファクトリーのクラウド型ECプラットフォームサービス「ebisumart(エビスマート)」もその一つで、大規模なカスタマイズと多彩なシステム連携に対応可能なサービスです

ebisumart公式サイトでは、多くの導入・運用事例も掲載しています。SaaSでECプラットフォームをご検討の方はぜひサイトをご覧の上、お気軽にお問い合わせください。

公式サイト:「ebisumart(エビスマート)


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。