ネットスーパーはECの形態の一つで、スーパーマーケットの店頭と同じように生鮮食品を含む商品を販売するオンラインショッピングサービスです。
ネットスーパーでも通常のECサイトと同じように、インターネットで商品を注文することができ、指定した日時に自宅まで配達してもらえるので、お店に足を運ぶことなく日々の買い物をすることができ、店舗に行くことが難しい人や買い物をする時間が取れない人にとって大変便利なサービスです。
ネットスーパーと通常のECサイトの最大の違いは、生鮮食品を取り扱っているかどうかです。生鮮食品の販売が必要なネットスーパーでは、商品の鮮度を維持するための配送拠点が必要になります。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、通常のECサイトとの比較から、ネットスーパーについて解説します。
ネットスーパーの3つの運用形態
通常のECサイトとは異なり、生鮮食品を販売するネットスーパーでは、冷蔵・冷凍施設がある専用の物流拠点が必要となります。ネットスーパーでは以下の3つの運用形態があります。
◆ネットスーパーの3つの運用形態
② 店舗利用型(例:楽天西友ネットスーパー、イトーヨーカドーネットスーパー)
③ ハイブリッド型(例:イオンネットスーパー)
例えば Amazonフレッシュなどの物流拠点型(①)のネットスーパーでは、専用拠点を設置して鮮度を維持しながら配送効率も高めています。新たに専用拠点を開設して物流システムを確立するための膨大な投資が必要となるので、全国規模で展開することは困難です。
西友やイトーヨーカドーのネットスーパーのように実店舗を配送拠点とする店舗利用型(②)の場合は、新たに拠点を設置する必要はありませんが、サービス提供範囲が店舗のあるエリアに限定されるという制約が生じます。
イオンネットスーパーのようなハイブリッド型(③)では、実店舗を拠点として利用するとともにネットスーパー専用拠点も設置することで②の制約を排除し、実店舗のないエリアでのサービス提供を可能にしています。
幅広いエリアを対象とするネットスーパーを目指す場合はハイブリッド型(③)で運営する必要があります。例えば米国のAmazonでは、配送拠点となる実店舗の拡大を図ろうとしています。
国内ネットスーパー大手4社の事例紹介
まずは、国内ネットスーパー大手4社の事例について、各サービスの特徴を筆者の意見とともに紹介したいと思います。
事例① Amazonフレッシュ
引用(画像):公式サイト「Amazonフレッシュ」トップページ
◆提供エリア
・神奈川県(横浜市12区・川崎市7区)
・千葉県(千葉市3区・その他5市)
・埼玉県(三郷市)
◆配送料
・最低注文額は4,000円(税込)以上
・1万円以上(税込)の注文で配送料無料
◆配送時間や時間指定
・朝8時から深夜0時まで(エリアにより朝7時から夜11時まで)注文可能
出典:公式サイト「Amazonフレッシュのサービスについて」(2024年4月時点)
Amazonフレッシュの強みは、Amazonプライム会員にネットスーパーとしてのサービスも提供している点です。日頃からAmazonを利用している会員ユーザーは、新たに会員登録をすることなく、Amazonでの他の買い物と同じ手順でネットスーパーを利用することができます。
国内のAmazonフレッシュでは川崎市と東京都江戸川区の葛西の2つの専用の物流拠点でサービスを提供しています。
参考:流通ニュース「アマゾン/東京に初のアマゾンフレッシュ専用物流センター」(2022年11月9日掲載)
Amazonフレッシュのような物流拠点型ネットスーパーの弱点は、新しい物流拠点を追加しなければ提供エリアを拡大できない点です。
事例② 楽天西友ネットスーパー
◆提供エリア
◆配送料
・一定額(※)の注文で配送費用は無料または割引
※ホームページの1つの例では3,500円(税込)。条件により変動
◆配送時間や時間指定
・朝10時から夜10時までの2時間おきの時間帯指定が可能
出典・引用(画像):公式サイト「楽天西友ネットスーパー」(2024年4月時点)
楽天西友ネットスーパーのほうが、Amazonフレッシュ(事例①)より提供エリアが広い理由は、西友の実店舗を拠点として利用しているからです。
楽天のECとポイントプログラムの基盤を利用し、楽天会員向けに西友の実店舗を拠点としたネットスーパーを運営している楽天西友ネットスーパーは、企業提携としても優れた成功事例と言えるでしょう。
楽天西友ネットスーパーでは、2時間おきの任意の時間帯で配達時間を指定することができ、空きがあれば当日配送が可能な場合もあります。
店舗利用型の楽天西友ネットスーパーの弱点は、提供エリアが西友の店舗に限定されてしまう点です。国内人口の減少に伴い、今後ますます競争が激化するであろう食品市場で、西友の店舗が今以上に増える可能性は低いため、店舗利用型でのエリア拡大には限界があります。そのため楽天西友ネットスーパーでは、まだ取り込めていない楽天会員のネットスーパーの利用を促進することで売上拡大を図っていくことになるでしょう。
事例③ イトーヨーカドーネットスーパー
◆提供エリア※イトーヨーカドーの店舗があるエリア
◆配送料
◆配送時間や時間指定
・朝10時から夜10時まで(エリアにより異なる)
出典・引用(画像):公式サイト「イトーヨーカドーネットスーパー」(2024年4月時点)
筆者も実際にイトーヨーカドーネットスーパーを利用してみました。人気のプライベートブランド商品をネットスーパーでも購入できる点は魅力的でしたが、通常のECサイトや他のネットスーパーと比較したときの使い勝手がよくないように感じました。例えば最初に配送日を指定しないと商品を選択することができないなど、通常のECサイトととは異なるフローを採用しているため、ECをよく利用するユーザーほど、最初はストレスを感じてしまうのではないかと思います。
また、7iD会員登録時の必須入力項目では、「電話番号」以外に「携帯電話・お勤め先電話番号」の入力や「個人/法人」の区分を選択する必要があり、さらに任意項目ではありますが子どもに関する情報の入力項目があるなど、情報取得が過剰で利用目的がよく分からないという印象を受けました。
ECサイトの基本であるユーザーを不安にさせないデータ収集とUI設計は、ネットスーパーでも最優先で取り組むべき課題の一つですから、イトーヨーカドーネットスーパーはシステム改善に注力することで、まだまだ成長の余地があるのではないかと筆者は考えています。
事例④ イオンネットスーパー
◆提供エリア
◆配送料
※筆者の住む千葉県千葉市の幕張エリアの基本配達料金は、
購入金額1万円以上:165円、1万円未満:330円、4,000円未満:550円(金額は全て税込)
◆配送時間や時間指定
・朝11時から夜9時までの2時間おきの時間帯指定が可能(広域エリアでは異なる)
出典・引用(画像):公式サイト「おうちでイオン イオンネットスーパー」(2024年4月時点)
イオンネットスーパーは全国に展開しているイオン店舗を拠点としており、ネットスーパーの中では最大エリアでサービスを提供しています。
またイオンでは、千葉県千葉市の誉田(ほんだ)に物流拠点を設置し、イオン店舗の少ない首都圏エリアをメインターゲットとした「Green Beans(グリーンビーンズ)」というネットスーパーも立ち上げています。
参考:公式サイト「Green Beans」
Green Beansでは、レシピの紹介コンテンツでメニューを選ぶだけで商品をカートに入れることもできるなど、忙しいユーザーが便利に使える機能が実装されています。
「イオンネットスーパー」として統一展開したほうが効率的なようにも思いますが、あえて首都圏ユーザーのためだけの新しいブランドを立ち上げた背景には、イオングループ独自のブランド戦略があるのだろうと筆者は推察しています。
ネットスーパーでオムニチャネル化を推進
ネットスーパーは実店舗の売上を脅かすのではないかという不安の声もあると思いますが、ネットスーパーが実店舗の売上に寄与する場合もあります。
例えば、ネットスーパーで「BOPIS(ボピス、店舗受取サービス)」※を提供することで、ユーザーが競合スーパーに立ち寄る機会を減らしたり、商品受取で来店した際の「ついで買い」を誘発したりすることができます。
※BOPISについては、以下の関連記事で詳しく解説していますので、興味のある方はあわせてご覧ください。
普段は実店舗を利用しているユーザーにとっても、飲料や米などの重量のある商品などの購入時に自宅まで届けてくれるネットスーパーも選択できると便利ですし、ネットスーパーしか利用しないユーザー層がネットスーパーでの買い物をきっかけに実店舗に立ち寄ってくれる可能性も生まれます。
つまり、オムニチャネル戦略の一環として、利便性の高いネットスーパーのサービスを提供することで、顧客の囲い込みにつながる可能性が高まるということです。
ネットスーパーの普及が食料品小売市場のEC化率向上のカギとなる
コロナ禍には関心が高まったネットスーパーですが、国内ではまだそれほど多く利用されているとは言えません。下図は、2014~2022年の国内の食品小売分野のEC市場規模とEC化率の推移を示したグラフです。
◆国内の食料品小売のEC市場規模とEC化率 の推移(2014~2022年)
出典(データ):経済産業省「電子商取引実態調査」の2014~2022年度報告書にある物販系分野のBtoC-EC市場規模:①食品、飲料、酒類の値より筆者作成
2022年度の国内の食料品小売のEC化率は4.16%でした。物販全体のEC化率は9.13%なので、食料品小売のEC化は遅れていることが分かります。
出典:経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)
日本の食料品小売のEC化が進まない理由には、日本は同一エリア内にスーパーやコンビニなどの複数の店舗がありユーザーは実店舗を不便なく利用できるため、ネットスーパーの必要性をあまり感じていないという点があると思います。
しかし、食料品小売は巨大市場であり、Amazonや楽天市場といった大手EC企業も投資していますから、ネットスーパーの利用が進めばEC化率は大幅に向上するでしょう。
ネットスーパーはデータ連携可能なECプラットフォームで運用しよう
ネットスーパーのECサイトでは店舗や物流拠点との連携が不可欠ですから、外部のシステムやデータと柔軟に連携できるプラットフォームを選定すべきです。
例えば、外部システムの仕様によってはAPI連携だけでなく、データベース連携やファイル連携などの複数の連携方法を実装する必要があります。
インターファクトリーが提供しているクラウドECプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」では、さまざまなシステムとの連携にも柔軟に対応することができ、BOPIS(店舗受取)などのネットスーパー機能の実装も可能です。サービスの詳細については下記の公式サイトをご覧ください。